第054話 『魔王の迷宮』
教会の横にある『魔王の迷宮』
小さな岩山に扉が付いており、扉の中は小さな踊り場があるだけですぐ闇へと続く階段。1階は無くいきなり地下へ入っていく感じだ。
岩山の周りには幾つもの金属の筒が立っており、それらから時折『シュコーシュコー』と音が聞こえてくる。
その音も相まって、魔王の迷宮というよりは『トンデモ博士の不思議研究所』と称したほうがしっくりくる。
「これが魔王の迷宮か…」
だがいざ前に立つと、流石に幾多の冒険者を返り討ちにし続けた『魔王の迷宮』、その開け放たれている扉から見えている地下へと続く階段の暗闇に、祐樹は少しばかりの恐怖を覚える。
「じゃあ行こうか」
迷宮へ入る5人。中の空気は冷たくひんやりとしている。
皆が入ると同時に扉は堅く閉ざされた。
この扉が開くのはリタイアする時か魔王を討伐した時だけだ。
そこでエイが提案をする。
「さてと。遊びがてら迷宮を攻略しても良いのじゃが、どうするかの?」
マールとマキは反対のようだ。
「嫌よ。今更こんな迷宮なんて面倒だわ。服も汚れちゃうし」
ルークは
「俺は個人的には挑戦してみてぇんだけどよ。ユーキ、あんた魔王に用事があんだろ?万が一にも途中で死ぬような事になってまた挑戦の予約の取り直しってのはマズいだろ」
と祐樹を気遣うルーク。
祐樹としてもここは確実に『魔王の元』へ行っておきたい。
「エイ、ショートカット出来るんだよな?」
以前、エイは『儂らにはあの迷宮も番人も関係ない』と言っていたのだ。そういう事なのだろう。
「うむ。こっちじゃ」
と階段を降りていくエイ。
とても長い階段だ。真っ直ぐ伸びた階段だが、ビルの5階分相当の高さを階段で降りて行く。
階段の終わったそこはT字路の突き当たりだった。
その壁に手を当てるエイ。すると石造りの壁はパックリとひらき、中にまた別の通路が出てくる。
だが、こちら側はランプに照らされた石造りの薄暗いダンジョン。
対してあちら側は街の地下街のように非常に明るい。磨き上げられた壁に床、そして天井。
さらにその天井にはなんと照明がついている。
「はぁ〜!スゲェな。教皇様んトコでも思ったけどよ、誰か石職人が磨き上げて作ってんだよな?」
その近代的な景色に圧倒されているのは…ルークだけだった。
エイも、そしてマールもマキも、その景色を何とも思っていないようだ。
「照明…て事は電気、だよな?なら表のアレは…そうか、そういう事か」
祐樹の中で何か合点がいったようだ。
その明るい通路の先には、金属で出来た、両側にスライドして開くドアが。横にはボタンがある。
それを見た祐樹、思わず笑ってしまう。
「はははっ!エレベーターとはな。ますます訳がわからないな」
祐樹はツカツカと歩いて行くと、迷わずボタンを押す。すると暫くの後に『ちーん』と音がしてドアが開く。
「ふふっ、そんなトコだけアナログなんだな」
何のためらいもなくエレベーターに乗る祐樹。それに続きマキとマール、そしてエイ。
ルークだけエレベーターに乗らない。
「…なあ、それって入ったら扉が閉まって閉じ込められる罠なんじゃねぇのか?」
まだ警戒しているようだ。
「ルークよ、心配はいらぬ。ここはもう『魔王の迷宮』ではない。これは上下移動する乗り物じゃ」
エイの言葉に納得がいったのか、エレベーターに乗り込んでくるルーク。
祐樹はボタンを押してドアを閉め、『B2』のボタンを押す。
するとエレベーターはゆっくりと下降しだした。
ゆっくりと降りて行くエレベーター。
マキとエイは壁にもたれて目を瞑り、腕組みをしている。
ルークはひとり落ち着かずそわそわ。
マールは…迷宮に入る前から、と言うか今朝会った時から何やら思い詰めたような顔をしている。
そんなマールが口を開いた。
「ユーキさん。マキ姉の正体には気付かれたのですよね?」
唐突な質問。マキは一瞬片目を開けてこちらを一瞥したが、意に介しない様子。
祐樹はこの質問が来る事は予想していた。いつ来るかと待っていたのだ。
「ああ。理由まではわからないけど察しはついてるよ。君の事もね」
その言葉を聞いたマール、とたんに大粒の涙を流し始める。
「うっ、うう…ゆ、ユーキさん…僕は…僕は、あなたに会いたくて…」
泣き出してしまった。
そんなマールの頭を優しく撫でる祐樹。
「君は『はじめまして』だな。俺も会えてうれしいよ。君の存在は…」
と祐樹がそこまで言ったところで『ちーん』と音が鳴り、エレベーターはB2『魔王の迷宮・最深部』に到着する。
「っと、着いたみたいだな。話の続きは『魔王』と会った後だ」
祐樹はもう一度マールの頭を優しく撫でて笑うと、エレベーターを降りて行った。
迷宮入口の周りにあった無数の金属の筒。これは後述する予定ですが、かなり先になりそうなので先にココで書いておきます。
あれは『スターリングエンジン』というモノの一部分で、外気温と地下内の温度差を利用して電気を起こし、照明やエレベーターの動力にしています。
その程度の温度差で発電するのは、重量や摩擦係数のロスもあり『机上の空論』的なものなんですが、そこはフィクションなのでご容赦願います。




