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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
53/205

第053話 『修練場』



「おい、なんか凄ぇのが始まるみたいだぜ」


修練場にいた人達が対戦場に集まってくる。

修練場の登録者の中でも上位に入る数値を叩き出したルーク。そしてその対戦相手は修練場歴代2位の数値を持つマキ。


対戦場は、言うなれば格闘技の大きな大会の会場のような、コロッセオの中に区切られた8面ある対戦エリアの一つ。各対戦エリアには審判員が1名ずつ就いている。


他の対戦場でも試合は行われていたが、祐樹の目から見てもレベルは低い。まだ高校生の剣道や柔道、空手のインターハイとかのほうが技が光って見える、そんな感じだった。

なるほどそれはルークのレベルの高さを知らしめていた。


マキは細身のレイピアのような片手持ちの木剣を選択。対するルークはバスターソードのような両手持ちの木剣。


2人とも両手首には魔法威力減少のアミュレットを装着。

審判員がルールを説明する。


「まず私が『ストップ』と言ったら必ず止まって下さい。『そこまで』と言えば試合終了です。相手を罵倒するような言葉は禁止されてはおりませんが、度を越したさげすみや侮蔑ぶべつは自粛願います。それでは両コーナーへ下がって下さい。私が合図したら試合開始です」


2人は対戦エリアの対角に移動し、互いに構える。


マキはその片手持ちの木剣を両手で持ち、正眼に構える。

祐樹はそれを見て『そうだよな』とひとり微笑む。


「始めっ!」


審判員が合図を出した瞬間、マキが…消えた!?


と思ったらルークの横で突きを出した姿勢でいる。どうやら開始早々に神速の突きを出したようだ。

だがそれを紙一重でかわしたルークは、マキの背中側から袈裟斬けさぎりに木剣で薙ぐ。


マキはそれを地にってかわすと、そのままルークへ足払いを繰り出す。がバック転でかわしたルークは着地するや否やアイスブリットをマキに見舞う。


ルーク側のコーナーで体勢を入れ替えられ、逃げ場を失ったマキは仕方なく上へ跳ぶが、そこに待ち受けていたのは本命のフロストスピア。


だがマキは飛んできたそれを木剣で難なく打ち落とし、着地する。

すかさず距離を取り、仕切り直すルーク。


「ルーク。あんたエイとの修行の時もそうだけど連撃の組み立てがワンパターンなのよ。もうちょっと考えなさいよ」


肩に剣をトントンとあて、ルークを挑発するマキ。


「うるせぇよ。こんなの小手調べだぜ、次からは本気だ。覚悟しろよ」


ニヤリと笑う2人。


途端、周囲のギャラリーから歓声が上がる。

どうやら2人の『小手調べ』が相当に凄かったようだ。

まあ確かに凄い、と言うか速い。スキルを使わない祐樹では目が追いつかない。


そしてそこから繰り出される2人の攻防は見事なものだった。


剣と魔法のコンビネーションで攻めるルーク、対して速さとちから、そして体術でそれらをじ伏せるマキ。

一進一退の攻防、誰もが目を奪われる剣舞のような闘いだった。

だが最終的にはマキに軍配が上がった。


審判員の『そこまでっ!』の合図の瞬間、マキの剣は尻餅をついたルークの心臓の上たあたりで止まっていた。

よくそれを寸止めできたな、という鋭い突きだった。


その闘いに、そしてその結末に、ギャラリーの誰もが言葉を忘れ静まり返った修練場に響き渡る笑い声。


「ふっ、うふふっ、あははははっ!」


「ははっ、はははは!」


笑い出した2人。そしてそれをきっかけにして堰を切ったように一斉に上がるギャラリーの歓声。


「凄いな、2人共。ルークも強くなったもんだな」


「うむ。元より才能はあったのじゃ。ちょっと無駄遣いしておったようじゃがな。まあしかし儂に言わせると2人共まだまだじゃなぁ」


と言うエイだが、顔を見るに満更でもないようだ。

闘いが終わり、笑って、いやもはや爆笑している2人。彼らも彼らなりに得るものがあったのだろう。


「あはは、あ〜楽しかった。ほらルーク、立ちなさいよ」


尻餅をついたルークに手を出して助け起すマキ。


「ははっ、マキ。お前ぇスゲェな」


とまだ話したそうなルークだったが


「ほら、次にここを使う人が待ってるわよ。あっちに水浴び場があるわ、汗いっぱいかいちゃったし早く行きましょ」


と、2人は対戦場を後にした。


一方、祐樹は


「エイ、どうする?」


「うむ、どこかで待つかの」


「でしたらあっちに食事を摂れるところがあります。たぶんマキ姉も汗を流したらそっちに行くと思います」


とマールの案内で修練場内の食堂へ。


飲み物を注文し、3人で歓談かんだんしていると、ほどなくしてルークとマキが一緒に食堂へ来た。


「ほら、みんなここにいるでしょ?」


そういやルークには何も言ってなかった。マキにも言ってなかったが、マールが姉はここへ来ると言っていたので祐樹は気にしなかった。

だが水浴びなんて男女一緒なわけがない。ルークは女性水浴び場の前でマキが出て来るのを待っていたのだ。

その姿を想像し、祐樹が一言。


「ルーク、ごめん」


「あ、何だ?」


ルークは気にしていないようだ。


「ルーク、何で笑ってたんだ?負けたのに」


ルークの性格からすれば、マキに負けて笑うなんてありえない。


「いや、なんだろなぁ、単純に楽しかったんだよ」


あたしも面白かったわよ。てか聞いてよ、ルークってば吸収が速いの!エイが弟子にして育ててる気持ち、良くわかるわ〜」


「なんでぇマキ、お前ぇこそイヤらしい誘い方しやがって。わざと隙を作って罠をはるなんざ聞いたことねぇぜ」


「あらルーク。そのイヤらしい誘い方、真似して使ってたのは誰かしら?」


楽しそうな2人。何にせよ何かしら得たのだろう、2人共。

と、そんな2人を微笑ましく見ていた祐樹にルークが話をふる。


「なあユーキ、あんたは対戦しねぇのか?」


「いや、俺はいい。前にも言ったけど俺はあまり強さとかには興味がないんだ。それにもう今の俺じゃルークには太刀打ちできそうにないよ」


実際、祐樹にあるアドバンテージは速さと跳躍力だけだが、もうそれだけではルークには敵わないだろう。


「そっか。じゃあ次は『魔王』だな!」


と冗談で言うルーク。だが


「本当に闘いたいのならたぶんお願いすれば闘ってくれると思うよ。でもあたしとマールの二人掛かりでも手も足も出ないし、エイよりも強いよ。どうする?」


とマキはニヤリと笑う。


「決まってんだろ!相手が強けりゃ強いほど燃えるのが『おとこ』ってもんだぜ!」


絶好調のルーク。また古風な言い回しだが、祐樹としてもこういう若者は嫌いではない。


「じゃあ頼んだげる。もうすぐ会うんだし。殺されることはないと思うけどあたしを恨まないでね。ルークが言ったんだからね」


と、ルークの魔王挑戦が決定した。

そんなルークの眼には、ほんの少しの『やっちゃった?』感が見て取れる。


「今ならまだ撤回できるんじゃないのか?」


祐樹が助け舟を出すが


「ならぬな。『おとこ』なんじゃろ?一度決めたことは曲げぬのがそれではないのか?」


とエイが笑顔でトドメを刺す。


「…なあ、俺、やっちまった?」


とルークは祐樹に振るが


「殺されることはないんだって。何事も経験だよ。まだ日もあるだろうし、エイに特訓してもらって打たれ強さを身につければ死なないって。たぶん」



とルークに言った祐樹だったが、案外、日数は然程さほどなかった。

翌日には教会から連絡があり、挑戦中のパーティが全員強制帰還したので、2日後の月出の日から迷宮へ挑戦して下さい。との事だった。





実はここでルークが『魔王と対決する!』と言わなくても後々に魔王とは対決する羽目に遭います。

対決…というかなぶられるというか。

エイとマキとマール、3人がかりでも敵わない『魔王』

その強さの秘密は、技術もさることながら強靭な不屈のメンタルにあるのかもしれません。


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