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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
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第044話 『闇夜の森の襲撃者』



「いたぞ!こっちだ!」


教会騎士達は森を駆け、追いかける。相手は中央教会から手配書の回ってきた三人。


だが追われる三人も『要注意人物』と記されているだけの事はあり、騎士達も一筋縄ではいかないようだ。


追われる三人は騎士達を振り切るべく森を駆け抜ける。


「なぁ、ユーキ、もう倒しちまったほうが、早ぇんじゃねえか?」


息も切れ切れに走り続ける。


「ダメだ。彼らも職務で俺たちを追っているんだ、怪我はさせたくない。それに倒したところでまた新たな騎士達が来るだけだ。とりあえずは逃げるんだ」


こちらはまだ余裕があるようだ。


「そういう事じゃな。また気配の察知されぬ距離まで駆けるぞ」


若干、楽しそうなエイ。

祐樹はルークにそうは言ったものの、何故自分達が追われているのかわからない。


事の発端は昨日到着した街での事だった。


---


幾つかの街を経由しマイルの街を出て四十と幾日目、また次の街へ入った祐樹達。

いつもの様に次の乗り合い馬車の情報を調べ、旅の準備をすべく商店へ。

消耗品を補充し支払おうとした際、何故だかカードが使用不可となる。

カードには購入金額を払っても余りある金額が表示されている。店主とともに『なぜだろう?』と首を傾げている間に、気がつくと店の出入り口を教会騎士達が固めていた。


「そこの三名!『エイ』、『祐樹ユーキ』、『ルーク』だな!中央教会より捕縛の命令が出ている!おとなしくしろ!」


隊長らしき騎士が大きな声で投降を呼びかけてきた。


「ああ?なんだテメーら?」


と表に出たルーク。そのルークに騎士は有無を言わさずいきなり斬りつけてきた!


だがさすが毎晩エイに鍛えられているルーク、即座にかわして拳を入れ、後ろに下がり身構える。


「…テメぇら、正気か?」


教会騎士達は皆、既に抜刀していた。


「…すべては教義の為に。すべては世界の為に。恐れるな!魔を討ち滅ぼせ!異端者に鉄槌を!」


剣を振りかざし一斉に斬りかかってくる教会騎士達。『捕縛』と言っていたはずだが、そのつもりは全く無いようだ。


「ヤバい!ルーク、ちょっとガマンしろっ!エイ、逃げるぞ!」


祐樹はスキルを発動するとルークを担ぎ、騎士達の間をすり抜け、路地裏を駆け抜け、街外れの森の中まで逃げた。


「ここまでくれば大丈夫…か?」


「うむ。今のところ近くに気配はないようじゃ」


担がれて運ばれてきたルークは目を白黒させている。


「あれがユーキの速さから見た世界か…本気で死ぬかと思ったぜ…」


まあ超速で騎士や人々の間をすり抜け路地を駆け抜け屋根を跳び、だ。ちょっとした絶叫マシンみたいなものだ。


「いやしかしユーキ、あんた一体何しでかしたんだ?」


そう言われても祐樹には全く身に覚えがない。


「いやルーク、君じゃないのか?どこかでケンカとかしなかったか?」


ルークも頭を捻るが思い当たる節はなさそうだ。


「いや、儂が見る限りじゃとルークにもユーキにも追われるような行動をしていた気配はない。じゃが…」


エイには何か思い当たる節でもあるのか、少し逡巡している。


「騎士供は『中央教会』より捕縛の命令が出ている、と言うておったな。なぜ中央教会が儂らの事を知っておるのじゃ?」


中央教会、その関係者で祐樹達の情報を知り、それを流す人物…


「…まさか」


「うむ。彼奴をおいて他におるまい」


まさか。祐樹も彼には世話になった。信じたくない話だ。


「なあ、そりゃ勘違いじゃねぇのか?俺は小さい頃からあの人にゃ世話になってんけどよ、そんな事する人じゃねぇぞ?」


ルークが擁護する気持ちもわかる、祐樹も彼が背景にいるとは思いたくないのだ。


「…スタン、君なのか」


思わぬところ、思わぬカタチで祐樹はスタンと再会の兆しを見つけてしまうのだった。


---


教会騎士達の追跡を逃れ、森の中を通りカブールを目指す祐樹達。

討伐隊でも組んだのか、ある程度逃げてもまた気がつくと追いつかれたり囲まれていたりする。

おそらくは祐樹達の行き先がカブールだという事も騎士達は知っているのだろう。

祐樹達の向かう先を知る人物なんて数が知れている。それはますますスタンが関係している事が濃厚だという事だ。


「なあ、明日は月陰だけど移動にあてさせてもらうよ」


祐樹のそれはルークに対しての言葉だ。

エイも祐樹も月は関係ない、この三人の中ではルークだけが月の影響を受けてしまうのだ。


「だ、大丈夫だぜ!任せてくれ」


強がるルークだが、目には弱気な気配が見て取れる。そこをエイがフォローする。


「心配するな。いざとなったら儂が担いでやる。ぬしを旅の同行に誘ったのは儂じゃ、それくらいの面倒は見させよ」


ルークのような強がる若者でさえ月陰の行動に対しては尻込みする。祐樹には無い感覚でわからないのだが、それだけ月の影響とは大きいモノなのだろう。


つまりそれは教会騎士とて同じだという事だ。月陰の日に乗じて移動してしまえば距離も取れる。騎士達の追跡も容易にはいかないだろう。


翌日。月陰の日。


日の出ている時間はルークも頑張った。辛そうな顔を見せつつもエイに肩を借り、辛うじて歩みを進めた。

だが日が傾く頃には意識も朦朧もうろうとなり、日が落ちてしまうともうダメだった。


「ユーキ…先に…明日…追いつく…」


昼間に頑張りすぎたのだろう、ルークの顔には死相にも近いものが浮かんでいる。本当に限界なのだ。


「そういうワケにはいかないよ。エイ、頼むね」


「うむ。承知した」


背負われたルークは心底辛く悔しそうな表情で呟く


「すみません…」


「気に病むな。こればかりはどうしようもなかろう」


月陰の森はほぼ真っ暗で、何の気配も感じない。

だがこの暗闇は祐樹の味方だ。

星明かりしかない闇夜の森を祐樹とエイは歩き続ける。追っ手も来ないだろうし獣も出ないだろう。だが気を抜かず感知の感覚を広げ、歩みを進める。


と、祐樹は突如、全身に鳥肌が立つような嫌な感覚を捉える。魔力ではない、気配でもない、『嫌な予感』というヤツだ。


祐樹は咄嗟にスキルを発動しエイの歩く後方まで飛び退く。すると先ほどまで祐樹のいた場所の横に立っていた樹が轟音とともに砕け散る!


そしてそこには黒装束に黒い覆面を被った二人組が立っていた。一人は剣を構えている。


まさか月陰だというのに?しかも祐樹にも、エイにさえ魔力を感知されずに接近を許すとは!?

漏れる魔力を遮断する服でもあるというのか?そんなの聞いてないぞ!と祐樹は心の中で独り言ちる。


その刹那、黒装束の一人、剣を持った方が祐樹めがけて襲いかかってくる!

咄嗟に剣をナイフで受ける祐樹。スキルを発動しているというのに有り得ない速さで剣劇を繰り出してくる!


黒装束は覆面をしているので目線も見えないし呼吸も読めない。何よりそんな事をする余裕すら与えてもらえない剣の連撃。

全て後手後手でナイフで受けるのが精一杯、何回かヒットしているが服の性能が良いのか祐樹は何とか無傷だ。だがこのままだとジリ貧だ。そう判断した祐樹は


「エイ!追っ手だ!逃げるぞ!」


そう言うや否や祐樹とエイは走り出し、暗闇の森を駆け抜ける。

だがエイはルークを背負っている。遅くはないものの追っ手に追いつかれるのも時間の問題だった。やはり駄目か。


そこで祐樹は腹を決めた。


程よくひらけた草原で祐樹はエイ達を背にして立ち止まり、追っ手の黒装束二人組を相手にするべく待ち構える。

程なくして追いついてくる黒装束二人組。

互いに言葉もなく、動くこともなく、真正面で身構えて向き合う。


闇夜の草原に流れる沈黙。


先にその沈黙を破り、言葉を発したのは祐樹の方だった。


「…なあ。俺はこんなカタチで君達と再会する事は望んでなかったんだけどな」


祐樹がそう言うと、黒装束の二人は静かに覆面を取った。


「あら?私は一度あなたと闘ってみたいと思ってたんだけど。片想いだったみたいね」


「そうじゃないよマキ姉…。ユーキさん、ちょっと話を聞いてもらえますか?」



覆面を取り、星明かりに照らされるマールとマキ。予期せぬ再会だった。






この二人も月の影響を受けない者です。

この世界には月の影響を受けない者が七人います。



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