第028話 『Dr.ユーキの実用新案』
「でさ、さっきの孤児院の運営の話だけど、自分たちで稼いで賄う、てのは無しなのか?」
窓から川を見ていた祐樹に、あるアイデアが浮かぶ。
「いえ、運営費が捻出できないって話だけで、自分達で賄えるのであれば存続するのに問題はないのですが」
ウィルの顔には『それが出来れば苦労はない』と書いてあるようだった。
「今現在も、大人になってこの院を出て、街で働いている方に援助を頂いてる次第なんです」
祐樹はあらためて窓から川を眺める。
「俺にアイデアがある。今日獲った分くらいの魚が毎日獲れたら、それを売った金で院を存続させる事は可能か?」
それを聞いたウィル、身を乗り出してくる。
「それはもちろん可能ですが、まさかその道具、譲っていただけるのですか!?」
乗り気になったウィルには悪いが、それを断る祐樹。
「この道具は、いわば遊び道具でおもちゃだ。それに壊れてしまったら俺かエイがいなければ再び使えない。それじゃあダメなんだ」
そしてまた川を眺める祐樹。
「この孤児院の立地と環境、そして川幅と岩と水流。ここには凄く良い条件が整っている。俺にアイデアがある。その為にもウィル、商店へ魚を買い取って貰いに行くのなら、俺もついて行くよ」
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「あら、ウィルにミカじゃない。いらっしゃい。今日はどうしたの?」
「こんにちは、アリアさん。今日はこの魚を買い取って欲しいんだ」
街の商店へ来た祐樹達。店主は見た目には子供のような女性だった。
祐樹は前にエイに聞いたことがあった、ドワーフの女性は小柄で子供のように見えると。だからと言って子供のように扱うと物凄く怒られると注意を受けていた。
それはさておき、ウィルは例の魚を女店主に渡す。
「あら、キレイな川魚じゃない。どうしたの?網でも買ったの?」
「いや、この人達と院の横の川で獲ったんだ」
と、祐樹達をアリアと呼ばれた女店主に紹介するウィル。
しかしアリアの瞳は猜疑心の濃い色をしている。
「あなた達、この辺りじゃ見ない顔ね。旅人かしら?何のつもりでこんな事してるのかは知らないけれど、あの院に何かするつもりなら私は許さないわよ」
アリアの思いがけない言葉に焦るウィルとミカ。
だが疑いを向けられた祐樹は、そのアリアの辛辣な言葉とは裏腹に安心をした。彼女は心の底から孤児院を、そこに住まう子供たちを心配しているのだ。
これで祐樹の確認事項の1つは解決した。
祐樹はもう1つの事を、一応確認しておく。
「はじめましてアリアさん。俺が確認したい事は1つだけだ。これから彼らが毎日この魚を持ち込んでも、適正価格で買い取って貰えるか?」
聞くまでもないと思った祐樹だったが、万が一の事もある。クギを刺す為にも言質を取る祐樹。
「そんなの当たり前だよ!風来坊のアンタに言われるまでもないよ!商売の邪魔だ!とっとと帰っとくれ!」
と、祐樹は追い出されてしまった。
そんな祐樹に駆け寄るウィル。
「ごめんなさい、ユーキさん。悪い人じゃないんです、アリアさん」
「わかってるよ。彼女だろ?院を出て資金援助してくれてる大人って」
ウィルは驚きの表情で祐樹を見る。
「俺が言うことじゃないけどさ、彼女は信用できる。魚を買い取ってくれる人が彼女で良かった。それを確認したかったんだよ」
そう言うと祐樹は踵を返し
「じゃあ俺はアイデアを形にできるようにして、また明後日にウィルの所へお邪魔するよ」
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「エイ、今日1日、街や孤児院を通してなにか感じなかったか?」
宿へ戻った祐樹達。ルークは外出中のようだ。
「うむ。儂は教会が怪しいと見たんじゃが」
やはり。祐樹の勘違いではなかったようだ。
「エイ、俺たちに何か出来ないかな。明後日でいいから教会の関係者の所へ潜入して様子を探って貰っていい?」
「そうじゃな。儂も少々気になることがある。調べておこう」
そこへ部屋へ戻ってきたルークが加わる。
「ん、なんだよ、何の話をしてんだ?ユーキ」
今日あった事を掻い摘んで話す祐樹。
「ふ〜ん。で、ユーキはその孤児院の窮状を救いたいと。なんでだ?そんなの偽善だとは思わねぇのか?」
そのルークの言葉に、祐樹は迷わず答える。
「あの子供たちの笑顔を、その場所を守りたいと思ったんだよ。それが偽善かどうかは知らないし、どうでもいい。俺にある知識と技術で何とかなりそうだから力を貸す、ただそれだけさ」
祐樹がそう答えると、ルークは大きく頷き
「よし、そうか、わかった。俺も手伝うぜ。何でも言ってくれ」
ルークの言葉に目が点になる祐樹。
「なんだよ、俺が手伝ったら変か?」
「いや、意外だなって思って。どういう風の吹き回しだ?」
「なんだよユーキ、俺も両親がいねぇの知ってんだろ?」
そうだった。祐樹は少し忘れていたがルークの両親は既に死去しているのだ。
「ギム伯父さんがいなかったら、あそこにいるのは俺なんだよ。だから他人事でもねぇんだ」
「そうか。そういう事ならルーク、頼む。手を貸してくれ」
「おうよ!任せとけ!」
男手が足りないと思っていた祐樹にとって、ルークの助力は本当にありがたかった。
「ユーキよ、実際に動くのは明後日からじゃな?」
「そうなんだけど、その前にエイにはやってほしい事があるんだ。明日の夜明け前くらいに例の川まで俺に付き合ってくれないか」
「うむ。心得た」
明日は月陰だ。祐樹が精力的に動いているところを人に見られたくないが故のその時間だったのだが。
「おいユーキ、なんか忘れてねぇか?明日は月陰だぞ」
ルークの言葉に一瞬黙る祐樹とエイ。
だが、ルークを伴って旅を続けると決めた時点で2人はある程度の秘密と事情をルークに話そうと決めていたのだ。
無論、ルークの人柄を見てからの話だが。
「ルークよ、儂らはあの月の影響を受けんのじゃ」
ルークはさほど驚いた様子でもない。
「エイ先生はわかるんですが、ユーキ、あんたもそうなのか?」
「ああ、そうだ。原因は俺も知らないけどな」
ふ〜ん。と納得のルーク。
「あまり驚かんのじゃな」
「ええ。そういう人達がいるってギム伯父さんから聞いてました。エイ先生達もそうじゃないかって」
祐樹はあらためてギムの眼力に驚かされた。
人を見誤ると死に直結しかねない、冒険者という職業を20年以上続けてきただけのことはある。その眼力は伊達ではないようだ。
「そんな訳で、明日は俺とエイでアイデアを具現化する為の下準備をする。明後日からは俺とルークでそのアイデアを実行に移すぞ」
「え、じゃあエイ先生は明後日からどうするんですか?」
「ん、儂か?儂はユーキの指示である事を調べに行くのじゃ。こんな感じでな」
と言うと、エイはその姿をギムに変えた。
「だからルーク、お前ぇもユーキの言うこと聞いてしっかりやるんだぜ」
ルークは唖然とした顔でギムになったエイを眺める。そして笑う。
「そうでしたね。それで俺はやられたんですよね、あの路地裏で」
ちなみにエイの変身するイメージは、某・半壊した塔に住んでいる某二世の僕からいただきました。
地を駆ける黒い豹のアレです。
でも祐樹は超能力少年ではありません。もちろん魔王も違いますよ。




