第027話 『やめられない止まらない』
「すみません、自己紹介が遅れました。私、ミカと申します。この子たちの姉のようなものです」
エルフの少女はそう自己紹介した。祐樹達も簡単に自己紹介する。
「俺は祐樹、こっちがエイ、旅の者だよ」
「エイじゃ。よろしくな。じゃが儂らのような素性の知れぬ者を招いても良いのか?」
「大丈夫ですよ。この子たちもユーキさんには懐いてますし。それに私達にはもう失う物なんてありませんから」
そう言って寂しく笑うミカに、祐樹とエイは思わず顔を見合わせる。
何か含みがありそうだったが、祐樹はとりあえず子供たちに魚のまとめ方を教え、それを持ってみんなで施設へ向かった。
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「おかえり。いっぱい魚が獲れたみたいだね。上から見ていたよ」
施設にいた男性は子供たちにそう言うと、祐樹の元へ来て
「すみません、ウチの子たちがお邪魔をしたみたいで。私はウィルと申します。この子たちの兄がわりをしています」
そう自己紹介した男性は、また顔にあどけなさの残る青年だった。祐樹達も自己紹介する。
「ウィル、この魚、全部いただいちゃっていいんだって。さっそく料理してユーキさん達とお昼にしましょう」
「えっ!?本当に全部いただいてしまってもいいのですか?これだけの魚、街で売ってもそこそこの額にはなるとおもいますが?」
「いや、この魚を獲ったのはほとんどこの子達のだよ。それを売って金を貰う権利は俺にはないし、そのつもりもない。一緒に食べよう」
「そうですか。正直なところ助かります。大助かりです」
ウィルはそう言うと、大きな子たちに指示して魚を台所へ運ばせる。
「大量だな。俺も捌くの手伝うよ」
「え、いや、いいですよ!こんなにいただいておいて手伝わせるなんて」
「遠慮はいらないよ。俺自身が料理が好きなんだ」
それに祐樹にはこの世界で食材がどんな風に調理されているかにも興味があった。
「そういう事でしたら…お願いしてもよろしいですか」
ウィルと連れ立って台所へ行く祐樹。
ふと祐樹がエイの方を見ると、小さな子たちとチャンバラごっこのような事をしていたので放置することにした。
さっそく調理場に立つ2人。
だがウィルはナイフも何も持っていない。どうするのだろう?と祐樹が見ていると。
シュッ!
と風切り音が聞こえたかと思うと、ウィルの持っていた魚は一瞬でキレイな三枚おろしになった。
思わず『何それ!』と言いそうになった祐樹だったが、多分これが普通なんだろうと判断した祐樹は
「見事なものだね」
「まだまだですよ。本当はウインドカッターよりユーキさんのようにナイフで捌いたほうが味が染みやすいんですけどね」
今度は違和感のない受け答えができたようだ。
だが魔法の方はイメージで切れるのか、早い。祐樹もナイフで切るのを手伝ったのだが、断然魔法の方が早かった。
「手伝っているのか何なのか、これじゃわからないな」
「いえいえ、見てくださいよ、これ」
と言ってウィルが見せたのは、魔法で切った方の中骨だ。
真っ直ぐ平行に両面を切り落とされた中骨は、骨にまだ多くの身を残している。
対して祐樹がナイフで切ったほうの中骨は、骨に沿ってナイフを入れた為、ペラッペラの身が残っている程度だ。
「早いのはいいんですが、これじゃあ勿体無いですよね」
その中骨を見た祐樹はピンと来た。
「種油、あるよね?」
「ええ、ありますが。どうするんです?」
「ま、見てなって」
祐樹はそう言うと、キッチンから香草と塩を拝借し、中骨に下味をつけて油で揚げ、一度揚げて油を切った物をもう一度揚げていく。
「それは…どうなるんですか?」
「これは『二度揚げ』といってね、こうする事で硬い中骨も柔らかくなって食べられるようになるんだよ」
と言って祐樹は出来上がった一つをウィルに差し出す。
それを口にしたウィル、目を見開き、祐樹を見ると
「お、美味しい…!」
と言い、そのまま絶句してしまった。
「お〜い、ウィル君?」
「あ、すみません。遠くへ行ってました」
と笑うウィル。つられて祐樹も笑ってしまう。
およそ食べる分の魚を捌き、それでも余った10匹以上の魚は、ウィルが凍結の魔法をかけ、食後に街の食料品店へ売りにいくのだそうだ。
捌いた身には香草と塩で下味を付け、先ほど中骨を揚げた油で同じ様に揚げてゆく。
ナワの街が近いせいなのか、これがこの世界の定番の調理法なのか、ガイルの店で食べた物と同じ様な料理が出来上がった。
付け合わせは、インドのナンのような無発酵のパン。
出来上がった物は順次男の子たちによって広間へと運ばれ、ミカ達女の子が配膳をし、全ての準備か整ったところで皆が集まった。
さあ昼食だ。
「さあ、ユーキさんとエイさんに感謝して、いただきましょう」
ミカの言葉で子供たちが次々と料理に手を出す。
その中の1人が、見た目に骨な二度揚げした中骨に恐る恐る手を出す。
そしてそれを口にした瞬間
「うまーーーい!何これ!?骨なのにサクサクして美味しいよ!」
それを聞いた他の子たちも一斉に骨せんべいに手を伸ばす。
みんな一心不乱に笑顔で頬張るその姿は、祐樹に幼い頃の結月の姿を思い出させた。
どんな世界でも子供たちの笑顔は祐樹に元気を与えてくれる。寂しいような嬉しいような、そんな祐樹だった。
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食事が終わると、男の子達は小さな子達を昼寝させる為に別室へ連れて行った。
ミカ達女の子は後片付けをしている。
ウィルに入れてもらったお茶を飲みながら、川を見下ろす窓から外を眺める祐樹。
なるほど、その窓からだと祐樹が釣りをしていた所もよく見える。
広間にはエイと祐樹とウィルの3人だけだ。
ミカもいないので祐樹は少し気になっていた事をウィルに聞いてみる事にした。
「さっきさ、ミカさんが少し投げやりな気配をしてたんだけど、何かあったのか?」
その言葉に少し考え込むウィル。
「実は…この孤児院、近々取り壊されるかもしれないんです」
「それは新設して移転、という事じゃなさそうだね」
「ええ。こちらに回す予算が無い、という事で。今は何とか担当の方のご厚意に甘えて存続している次第です」
その言葉に祐樹は疑問を持つ。
孤児院とは教会の福祉事業の一環として運営されている、との話を先日スタンから聞いていた。
非営利であれ何であれ、存在しないわけにはいかない施設のはずだ。
特にこんないつ命を落とすかわからないな世界からなおさら必要不可欠だ。
予算がないから取り壊すなどあるのだろうか?
と同時に、街に入った時の違和感を思い出す祐樹。
人も多い。物の売り買いも盛ん。なのに覇気を感じない街の空気。
何かがおかしい。
その根は…おそらく教会だ。
ともあれ、そんな話をここでする訳にもいかないな、と思っていた祐樹に
「しかしユーキさん、あの『骨せんべい』というのは凄いですね!今まで捨てていた部分があんなに美味しく食べられるだなんて。私も虜になってしまいました」
作り方もシンプルだ。次からはウィルも作れるだろう。
「俺の故郷では、食べ物を無駄にしない習慣があるんだ。生き物を殺して食べる以上は一切無駄にせず、奪った命に敬意を払って『いただきます』と言って食べるんだ。だからこそ命を奪う事を赦されるんだよ、人は」
と、少々熱く語ってしまった祐樹だったが、それ以上に真剣な眼差しでウィルは祐樹を見つめていた。
「その話、昼食前にみんなの前でして欲しかったですね」
「ダメだって。子供たちからすれば『そんなのいいから早く食べようよ』だろ」
「まあそれもそうですね」
「ユーキの説教は年寄りくさいからのぉ」
と笑う3人だった。
命に対する感謝、大事ですよね。
そこを究極に突き詰めるとベジタリアンになってしまいそうです。
そしてベジタリアンを究極に突き詰めると、ジャガイモやナスなどの、種やそこから命が芽吹くモノもNGになるそうです。
じゃあ後は何を食べるのでしょうか…葉物のみ?小麦粉とかも小麦の種ですもんね。




