第025話 『旅立ちの日』
月陰明けの早朝。
商店主達が朝の仕入れに走り回る時間、祐樹とエイも宿を出て守衛門を目指す。
旅立ちの日だ。
祐樹が実際に滞在したのは数日だったが、この世界に来て初めての『街』。ギム達と出会い酒を酌み交わした夜。長くも感じ、名残惜しくもあった。
「やあエイにユーキ。今日出発か?」
例によって守衛の騎士に声をかけられる祐樹達。
「ああ。商人の護衛しながらカンドまで行くんだ」
「スタンだな。あいつも強いが何が起こるかわからないのが旅だ。しっかり守ってやってくれよ。あと見送りが来てるぜ」
一昨日のガイルの店で別れの挨拶は済ませていた祐樹達。見送りは不要と言ってあったのだが。
「あははは、ごめんね。来ちゃったよ」
エイダだった。
「エイダか。名残惜しいの」
「エイ。貴女があたしより先に死ぬ事はなさそうよね。あたしの生きてる間はあの店にいるわ。またこの街を訪れたら寄ってね」
「ああ。必ず寄らせてもらおう」
2人は抱擁を交わす。
暫くの後、ルークが1人で来た。
「ああ、だりぃ…」
言葉とは裏腹に、服装と目には気合が漲っている。
そしてスタン一家と護衛姉弟が来た。
「おはようございます。皆さん早いですね」
スタンの妻、ミラと娘のニースとは一昨日のガイルの店で顔合わせは済ませてある。
「なによその猿」
案の定、マキの一言目はルークへの毒舌だった。
「んだぁこのアマ!」
マキの毒舌もさることながら、祐樹もこのルークを見た時に猿の獣人だと思ったものだ。さてどうして宥めようかと祐樹が考えていると
「マキよ。この小童は儂の弟子じゃ。仲良くしろとは言わぬがカンドまではよろしくな」
「エ、エイが弟子!?しかもこんなのを?信じらんない…」
絶句するマキに、ルークは誇らしげな顔だ。
「まあ俺に負けるくらいだから、まだまだだけどな」
祐樹はそんなルークに忘れず釘を刺す。
「皆さん揃いましたね。それでは早速ですが出発しましょう」
スタンの言葉で皆それぞれ馬車に分乗する。
祐樹は守衛小屋の裏手に向けて目配せをする。そこには1人、隠れている。
魔力を極力絞って気配を消しているが、祐樹には感知できない魔力などない。ギムが見送りに来ているのだ。
なんだかんだ言いながらもやっぱりギムはルークが可愛くて仕方がないようだ。
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当然、祐樹が馬車の手綱をさばけるわけもなく、先頭の荷馬車はスタンとマール、真ん中はマキとミラとニース、最後尾がエイと祐樹とルーク、という乗り合わせになる。
祐樹はマキとルークが離れてくれた事に安堵した。
彼としては山賊や魔獣よりそっちの方が心配だった。
斬って解決というワケにもいかないのだ。
馬車の護衛の仕事については、一昨日のガイルの店で祐樹がマールに聞いたところ、スタンの言ってたとおり魔獣も山賊も護衛が付いている馬車は殆ど襲わないようだった。
だからと言って気を抜くわけにはいかないのだが、そんな緊張も持って数時間。
その日の夕方には手綱を引くエイの横で、祐樹は居眠りしていた。
「ユーキよ、そろそろ起きよ。野営地に着くようじゃ」
んあっ、と言って起きる祐樹。
着いたその場所は、他にも商隊が野営準備している小広い草原だった。
皆がテキパキと準備を進める中、手持ち無沙汰だった祐樹は『水を汲んでくる』と言って街道脇の川へ。
ナワの街から少し下流に位置する川は、少しだけ川幅が広くなっていた。
水中を覗き込むと、魚の影も見える。
すると祐樹はバッグから糸と金属の小さなプレートのようなモノを取り出した。
糸は、昨日の月陰の日に宿で極細針金とタコ糸をチマチマと三つ編みに編んだモノだ。
プレートは、スプーンの皿の部分に釣り針が付いた、釣り用語でそのまま『スプーン』と言う疑似餌だ。
糸の先にスプーンを付け、そのスプーンを川の淀みに落としては上げ、上げては落とす…
繰り返すこと数回、ググッと引っ張られる感触!来たっ!
今度は針金の入った糸という事もあり、遠慮なく引っこ抜く祐樹。
上がって来たのは40cmほどの鱒っぽい魚だった。
様子見だけで釣るつもりのなかった祐樹は少し困ってしまう。
とりあえず水汲みといって出て来たのだ、祐樹は皮袋に水を汲み、片手に魚を持って皆の元へ戻る。
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「なんだそりゃユーキ。誰かから貰ったのか?」
怪訝そうな目で見るルーク。
「いや、水汲みに行ったらいたから捕まえたんだ」
それに対してキラキラした目で魚を見るマールとニース。
「ユーキ、あんたが獲ったんだからあんたが捌きなさいよね」
面倒くさそうに言うマキ。
「言われなくても自分でやるよ。スタン、これって食べても大丈夫なヤツだよな?」
一応、行商人であるスタンの判断を仰いでおく祐樹。
「ええ、問題ありませんよ。この辺りでもよく流通している川魚です。ただ、大きいですね」
スタンの確認も取れたので、さっそく捌く祐樹。
と言ってもワタを出してウロコを取るだけだ。
四つ足動物に比べると作業的にも精神的にも何と楽なことか。
祐樹はついでにギムの店で買った香草と香辛料で下味を付け、木にさして焚き火で焼く。
ミラとニースが用意した晩御飯と一緒に皆で食べたその魚は、思いのほか美味く、好評だった。
「ユーキお兄ちゃん美味しかったよ!ありがとう。また獲ってきてね」
ニースの言葉に破顔一笑の祐樹。
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食事も終わり皆が就寝準備に入る頃、商隊の護衛を姉弟に任せた祐樹とエイは、ルークを連れて隊を離れ、夜の森へと入っていった。
「さてルークよ、儂が手合わせをしてやろう」
スタンとミラの娘、ニース。
年齢は12歳の女の子ですが、物心つく前から行商の旅をしていたので、両親に鍛えられて魔法を使いこなす、そこそこ強い子です。
ホントこの家族に護衛なんて必要なのか?てくらい強い一家です。
まあ護衛なんて海外旅行の保険みたいなものなんですけどね。




