第022話 『ダイエットは明日から』
ガイルの店へ着いた祐樹達だったが、ギムはまだ見当たらない。エイダもまだのようだった。
祐樹はスタンとは面識がないのでガイルに聞くと、今日はまだ来ていないとのことだったので、来たら声を掛けてくれと頼んで祐樹達は席に着いた。
「まあ渡りに船じゃったな」
「向こうもそう思ってくれているといいんだけどな。ちなみにここからカンドの街までだとどんな道程になるんだ?」
「そうじゃなぁ…ちょうど中間地点に『イン』と言う小さな街があるんじゃが」
「『イン』?」
エイ曰く、ナワからもカンドからも月出の日に馬車で出発すると、そこで月陰をやり過ごすことになるから『イン』と呼ばれるようになった、との事だ。
「ふーん。そのまんまなんだな。で、どんな街なんだ、インって?」
「補給地点として要所の街じゃ。ここほど奥地でもないので魔獣もあまり出んし、小さな割には栄えとる街じゃぞ」
「そっか。そりゃ安心だな。という事は明日が月斜だから出発は明々後日になるのか?」
「じゃろうな」
それは何とも都合のいい、祐樹達が予約して先払いした宿の日数とぴったりだ。
祐樹達がそんな話をしていると、身なりの綺麗な男性に声を掛けられた。
「こんばんは。スタンと申します。あなた方がユーキさんとエイさんですね」
この人がスタンのようだ。傍に緑髪の少年を連れている。
「あ、はい。私が祐樹でこちらがエイです」
「エイじゃ。よろしくな」
丁寧な相手に思わずサラリーマン口調の祐樹。
2人に簡単な自己紹介をし、席を勧める。
じゃあちょっと失礼しますね、と言ってテーブルにつくスタン。少年は側に立ってる。
「ユーキさんも楽な口調で話して下さい。私も商人とは言え元は冒険者です。硬い口調で話されると仕事しているみたいで何だか疲れます」
と笑うスタン。
「ええ。それじゃあ楽に話させてもらいます。俺の事は祐樹と呼び捨てで構わないよ」
祐樹がそう言うとスタンは表情を柔らかくし、話し始めた。
「そうですか、ユーキ。ではまずこの少年を紹介しておきますね。彼はマール。私たちを護衛してくれるメンバーの一人です」
祐樹はその言葉に驚く。少年はどう見ても15歳くらいだ。その歳で護衛の仕事を請け負っているところを見るに、相当強いのだろうか?
祐樹がそう思って少年を見ていると
「初めましてユーキさん。マールと申します。お久しぶりですね、エイさん」
それは祐樹をさらに驚かせる衝撃の言葉だった。
エイは冒険者という事になっているが、その実態は魔王の側近だ。そんなエイの知り合いだというのだ。
何者なのだ?彼は。
「久しいな、マール。なればもう一人の護衛というのは…」
「はい。マキ姉です」
「そうじゃろな。まあカンドまで一緒じゃ。よろしく頼むぞ」
「エイさんが一緒なら僕達も安心です」
エイとは旧知だと知り少々警戒する祐樹だったが、マール少年の受け答えの丁寧さにとりあえずは一安心する。
「もう一人の護衛のマキは家内と娘と一緒に買い物に出てます。また後日に紹介しますね」
祐樹はマールにも席に着くように勧め、料理を頼んだ。
「あれ、お酒は頼まれないのですか?ギムからはイケる口だときいてますが」
そのスタンの言葉に心が揺らぐ祐樹。
今朝、今夜は呑まないと決意したばかりだ。
だがこの状況で勧められた酒を呑まないというのは失礼にあたるのでは?
と、自分の都合のいいように心に言い訳をし、祐樹は酒を注文する。
「スタン、出発の日取りとカンドまでも日程を聞いてもかまわないか?」
酒を飲むその前に、祐樹は確認しておくべき事を確認する。
「そうですね。次の月陰開け、明々後日ですね。その日に出発して3日後の月斜の昼にはインの街に入ります。そこで私は少し商談のようなものがありますので月陰から次の月陰までインに滞在します。翌日、インの街を出てその次の月斜にはカンド入り、の予定です」
要約すると、3日移動、5日インに滞在、3日移動、全行程11日という事になる。
「護衛対象は?」
「私の家族と馬車が3台。1台は荷馬車、もう1台は私達家族の馬車、あと1台は空車なので護衛組で使って下さい。そちらには食料品等も積んでもらいます」
「3台の馬車を4人で護衛か。実際の脅威が何かを聞いても?」
祐樹には戦闘の経験というものはほぼ無い。護衛をかって出たのはいいが実は不安なのだ。脅威が何なのかは知っておきたかった。だが
「え?4人も護衛が付いている馬車を襲う野盗も魔獣もいませんよ。いわば保険のようなものです」
祐樹は気付く。そうだ、こういう事はエイに聞かなきゃいけないという事をさっきエイダは教えてくれたんだ。
幸い、スタンは祐樹の無知ぶりを怪しむ気配は無い。
「報酬は2人で20万d。無いとは思いますが有事の際にはその都度報酬を加算します」
さほど驚異のない護衛をして馬車移動、さらに報酬付き。至れり尽くせりだな、とそんな折ある事を1つ思い出す。
「ギムからルークの事は聞いてる?」
そうだった。祐樹の旅にはルークも同行するのだ。
「ええ。旅に出すそうですね。随分と過保護だった彼がルークを預けると言ってたのでどんな相手かと思ってましたが、あなた方のような信頼を置ける人物で安心しました」
信頼?その言葉に祐樹は違和感を覚える。
「俺、スタンと会ってまだ何分かしか経ってないけど、その信頼に根拠ってあるのか?」
「私は商人です。目を見て話をすれば大体の人柄はわかりますよ。たまに間違えることもありますがユーキに関しては大丈夫そうです」
と笑うスタン。
そうか。スタンは『信頼』という言葉の使い方が上手いのだ。祐樹がそう言われたら裏切れないのをわかった上で使っているのだろう。うまいな、商人とは。
ともあれ仕事の概要は把握した。
護衛対象は
スタン
ミラ
娘
馬車3台
おまけにルーク
護衛隊は
祐樹
エイ
マール
マキ
日程は11日。
仕事の話が纏まったところでエイがマールに話しかける。
「ところでマールよ。ご母堂は健勝か?」
そのエイの言葉もまた祐樹を驚かせた。エイはマールの母親とも知り合いのようだ。
「はい。最後に会ったのは去年ですが、あの人は相変わらずです」
マールは少年らしくはにかんだ。
そうだ。エイだって空を飛んだり転移して旅をするわけでは無い。どこかの街に滞在したりすれば、自ずと知り合いも出来るだろう、エイダのように。
祐樹はその事に思い至った。
そんな時だった。
「はいよっ!料理、お待ちだぜっ!」
野太い声で料理が来た。
祐樹が『誰だ?』と思って見たらギムだ。
「こいつを忘れちゃだめよねっ!」
と酒を持って来たのはエイダだった。
祐樹は思う。ホントあんたら仲いいな、もう結婚しちまえよ。
「スタン、あんたから仕入れた魚、あれ美味かったんだよ〜!ユーキが買ってくれて昨日この店でみんなで食べたんだ」
いつものように『にししし』と笑うエイダ。
「そうですか、1日出遅れました。あの魚もガイルが料理したらさぞ美味しかったでしょうね」
「で、この魚は今日ユーキが獲ってきたと。お前ぇさんはホント何でも出来んだな」
一気に慌ただしくなるテーブル。
「そういえば私がギムに頼んでいた『ホーン・ラビットの角(白)』、あれはユーキが持ち込んだそうですね。あのように大量なのは見た事なかったので本当に驚きでした」
テーブルのあちこちから会話が交錯する。
時折、祐樹はマールからの熱い視線を感じる。
エイとコンビで護衛の仕事に就く祐樹だ、エイのような強者だと思われてるのであろう。
そんなマールの勘違いに祐樹は心の中で詫びる。
しばらくするとガイルも加わり、結局は昨夜と同じような事になってしまう。
だが祐樹、今夜は自力で帰れるように酒の量は控えようと心に決めていた。
が、気がつくと祐樹はなぜか宿で寝ていたそうな。
エイは、マールとマキの姉弟と彼らの両親とも知り合いです。
姉弟にとって母親は頭の上がらない最強の存在です。
父親も母親もこの物語に登場します。




