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俺の理想(白ギャル)になった幼馴染を、俺の傲慢が汚していく。  作者: ラズベリーパイ大好きおじさん


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10/10

IF 原宿に行かなかった原宿凛

これは、起こらなかった話だ。


原宿凛が、原宿へ行かなかった世界。


白ギャルにもならず。

 アイドルにもならず。

 レオンの隣にも立たず。


ただ、地味で、声が小さくて、でも岡野貴之のことがずっと好きだった女の子が、


「私は、私のまま勝負したい」


そう言って、貴之に告白した世界の話。



中学二年の放課後。


凛は教室の外で、貴之の声を聞いた。


「俺? ギャルが好き。白ギャル。明るくて、派手で、髪巻いてて、メイクばっちりでさ」


男子たちが笑う。


貴之も笑う。


凛は、廊下で立ち止まった。


自分とは正反対だった。


黒髪。

 眼鏡。

 長い前髪。

 声も小さい。

 友達も少ない。


貴之くんの好きな女の子とは、全然違う。


その日の帰り道、飛鳥が言った。


「凛、原宿行こ」


「原宿?」


「うん。服とかメイクとか見に行こ。貴之、白ギャル好きなんでしょ」


飛鳥は軽く言ったつもりだった。


けれど凛は、長い間黙っていた。


そして、小さく首を振った。


「行かない」


「え?」


「私、ギャルにはならない」


飛鳥は驚いた。


凛はいつも、貴之に合わせようとしていた。

 貴之が好きなものを覚えて、貴之の後ろを歩いて、貴之に置いていかれないようにしていた。


だからきっと、変わると言うと思っていた。


でも凛は言った。


「貴之くんの好きな女の子になりたい。でも、私じゃなくなって好きになってもらっても、たぶん意味ない」


「凛……」


「だから、私は私のまま勝負したい」


その時、飛鳥は初めて思った。


凛は弱いだけの子じゃない。


小さな声で、ずっと下を向いているけれど、心の奥にはちゃんと芯がある。


飛鳥は苦笑した。


「そっか」


「変かな」


「変じゃない」


飛鳥は凛の手を握った。


「それでいいと思う」


本当は、少しだけ嬉しかった。


凛が貴之のために自分を変えないことが。

 貴之の理想に飲み込まれないことが。


でも同時に、少し怖かった。


凛が凛のまま告白して、それでも貴之が凛を選んだら。


自分の恋は、本当にどこにも行けなくなるから。



凛はギャルにはならなかった。


でも、何も変わらなかったわけではない。


前髪を少し切った。

 眼鏡はそのままだけど、顔が見えるようにした。

 休み時間に、少しだけ人と話すようになった。

 図書委員に入った。

 体育祭では、飛鳥に引っ張られて応援係もやった。


派手にはならない。


けれど、少しずつ顔を上げるようになった。


貴之は、その変化に気づいていた。


凛は相変わらず地味だった。

 でも、笑うと可愛い。


それは小学生の頃から知っていた。


ただ、その可愛さを誰かに言うのは、なんとなく嫌だった。


自分だけが知っているものみたいで、手放したくなかった。


その時点で、もう最低の芽は出ていた。



告白は、高校一年の春だった。


場所は、地元の川沿い。


桜が散り始めていて、川面に薄い花びらが浮かんでいた。


凛は制服のスカートをぎゅっと握っていた。


「貴之くん」


「何?」


「私、貴之くんの好きな白ギャルじゃない」


突然の言葉に、貴之は固まった。


「え、何の話?」


「でも、私は私のままで、貴之くんが好き」


凛は顔を上げた。


前髪の隙間からではなく、まっすぐに。


「付き合ってください」


貴之は何も言えなかった。


白ギャルが好き。


それは本当だった。


派手で、明るくて、自信があって、自分だけに甘えてくれる女の子。


でも、目の前にいる凛は違う。


黒髪で、眼鏡で、声が震えていて、全然派手じゃない。


なのに、胸が変に鳴った。


凛はずっと、自分だけを見ていた。


小さい頃から。


貴之の後ろを歩いて、貴之の言葉で泣いたり笑ったりしていた。


それが嬉しかった。


それが当たり前だと思っていた。


貴之は言った。


「俺、ギャルが好きなんだけど」


「うん」


「凛、ギャルじゃないけど」


「うん」


「でも……」


貴之は困ったように頭をかいた。


「お前のこと、可愛いって思ってる」


凛の目が大きくなった。


「ほんと?」


「ほんと」


「じゃあ……」


「付き合おう」


その瞬間、凛は泣いた。


大声ではなく、ぽろぽろと静かに。


貴之は慌てた。


「え、泣くなよ」


「だって、嬉しい」


凛は笑った。


泣きながら。


貴之はその顔を見て、思った。


悪くない。


いや、かなりいい。


白ギャルではない。


でも、これはこれで。


その考えがどれほど失礼か、当時の貴之は分かっていなかった。



二人が付き合い始めたことを、飛鳥はすぐに知った。


「付き合うことになった」


凛が報告すると、飛鳥は少しだけ目を閉じた。


そして笑った。


「よかったじゃん」


「うん」


「ちゃんと、凛のままで言えた?」


「言えた」


「なら、偉い」


飛鳥は凛の頭を撫でた。


胸の奥は痛かった。


でも、これは自分が応援すると決めた恋だった。


凛が自分のまま勝負して、選ばれた。


それなら祝福するしかない。


その夜、飛鳥は一人で泣いた。


凛には言わなかった。


貴之にも言わなかった。


この世界の飛鳥は、レオンと共犯にはならない。


塾で桐生レオンに出会い、


「岡野って知ってる?」


と聞かれても、


「知ってるけど、あいつの話はしたくない」


とだけ答えて終わった。


凛を使う計画は生まれなかった。


凛は原宿へ行かなかった。


だからスカウトもされなかった。


だから、国民的アイドル原宿凛はこの世界には存在しない。


ただ、岡野貴之の彼女になった原宿凛がいるだけだった。



付き合い始めたばかりの二人は、ぎこちなかった。


手を繋ぐだけで凛は赤くなる。


貴之も、どう扱えばいいのか分からない。


凛は彼女なのに、幼なじみでもある。

 ずっと後ろを歩いていた子が、急に隣に来た。


それは嬉しくもあり、少し落ち着かなかった。


「貴之くん」


「何」


「手、繋いでもいい?」


「もう繋いでるだろ」


「確認したかったの」


「いいよ」


「ありがとう」


「いちいち礼言うなよ」


「嬉しいから」


凛はそう言って笑う。


そのたびに、貴之は自分が特別になった気がした。


俺だけを見ている。

 俺だけに笑う。

 俺だけを好きでいる。


それは、貴之がずっと欲しかったものだった。


だからしばらく、二人はうまくいった。


少なくとも、表面上は。



最初に歪みが見えたのは、高校二年の文化祭前だった。


凛はクラスの実行委員を任された。


理由は、以前より人と話せるようになったから。


凛は最初戸惑ったけれど、少し嬉しそうだった。


「私、ちゃんとできるかな」


「できるんじゃね」


貴之は適当に答えた。


その時は、本当にそう思っていた。


でも、放課後に凛がクラスの男子と一緒に段ボールを運んでいるのを見た瞬間、胸の奥がざわついた。


その男子は普通に優しかった。


「原宿さん、そっち重くない?」


「大丈夫」


「無理しないで」


「ありがとう」


それだけ。


ただそれだけだった。


なのに、貴之は嫌だった。


自分以外の男に、凛が笑っている。


自分以外の男が、凛を気遣っている。


自分だけのものだったはずの凛が、少しずつ外の世界へ出ていく。


その日の帰り道、貴之は言ってしまった。


「実行委員、やめれば?」


凛は驚いた顔をした。


「どうして?」


「大変そうだし」


「大変だけど、楽しいよ」


「でも男と一緒に準備とかしてるじゃん」


「クラスの仕事だよ」


「俺だけでよくない?」


言った瞬間、凛の顔が変わった。


「貴之くん」


「何」


「私は貴之くんだけが好きだよ」


「なら」


「でも、私の世界が貴之くんだけってことじゃない」


貴之は黙った。


凛は震える声で続けた。


「私、私のまま勝負したいって言ったでしょ。貴之くんの後ろを歩くだけじゃなくて、ちゃんと自分で歩きたい」


「俺は、別に」


「貴之くんは、私がずっと後ろにいた方が安心する?」


貴之は答えられなかった。


答えられなかったことが、答えだった。


凛は小さく笑った。


悲しそうに。


「そっか」


その笑顔を、貴之は後になって何度も思い出すことになる。



翌日、飛鳥に呼び出された。


場所はいつもの公園。


飛鳥は腕を組んで待っていた。


「凛、泣いてた」


第一声がそれだった。


貴之は顔をしかめる。


「お前に関係ないだろ」


「あるよ」


「彼氏は俺だ」


「だから何?」


飛鳥の声は冷たかった。


「あんたが彼氏なら、凛を傷つけていいわけ?」


「そういうつもりじゃ」


「あんたが欲しかったのは、凛じゃなくて、あんたの後ろを歩く凛でしょ」


貴之は言い返そうとした。


でもできなかった。


飛鳥は続けた。


「凛は変わろうとしてる。ギャルになるとか、そういう話じゃない。自分のままで前を向こうとしてる」


「……」


「あんたはそれが嫌なんだよ。凛の世界が広がるのが怖い。自分だけを見てくれなくなる気がして」


「うるせえ」


「うるさいよ。私はずっと見てきたから」


飛鳥の目が少し濡れていた。


「あんたより、ずっと凛を見てきた」


貴之は初めて、飛鳥の声の中にある感情に気づいた。


怒りだけじゃない。


悔しさ。

 嫉妬。

 悲しさ。


「お前……」


「何」


「凛のこと」


「好きだよ」


飛鳥はあっさり言った。


貴之は固まる。


「小さい頃からずっと好きだった。でも凛があんたを好きだから、応援してた」


「……」


「だから、ちゃんとしろよ」


飛鳥は貴之を睨んだ。


「凛が自分のままであんたを選んだんだから、あんたも凛をちゃんと見ろ」


それだけ言って、飛鳥は去っていった。


貴之は公園に一人残された。


そして、初めて思った。


俺は凛を好きなんだろうか。


それとも、俺を好きでいてくれる凛が好きなんだろうか。



その夜、貴之はスキー家に行った。


まだ注文は今ほど狂っていない。


「ネギたま牛丼メガ、つゆだく、明太マヨトッピング、温玉変更で」


当時の貴之にしては、かなり攻めた注文だった。


丼が来る。


温玉を崩す。


つゆと明太マヨが混ざる。


食べる。


「うま……」


うまかった。


世界が終わっても、牛丼はうまい。


その事実が、貴之の心を少しだけ冷静にした。


凛はギャルにならなかった。


アイドルにもならなかった。


誰かのものになったわけでもない。


それなのに、自分は不安になっている。


ただ凛の世界が少し広がっただけで。


つまり問題は、凛が変わったことではない。


俺だ。


俺が、凛を狭い場所に閉じ込めたかっただけだ。


貴之は箸を止めた。


飛鳥の言葉が刺さっていた。


凛をちゃんと見ろ。


ちゃんと見る。


それは、都合のいいところだけを見ることではない。


自分だけを好きでいてくれる凛。

 静かで、地味で、後ろを歩いてくれる凛。


それだけじゃない。


人と話そうと頑張る凛。

 実行委員を楽しいと言う凛。

 自分の世界を持とうとする凛。


その全部を見て、それでも好きかどうか。


貴之は牛丼を食べ終えた。


答えはまだ出なかった。


でも、謝らなきゃいけないことだけは分かった。



翌日の放課後。


貴之は凛を川沿いに呼び出した。


告白された場所と同じ場所だった。


凛は少し緊張していた。


「別れ話?」


「違う」


「じゃあ何?」


「謝りたい」


貴之は頭を下げた。


「ごめん」


凛は何も言わなかった。


「俺、凛が俺だけを好きなら、それでいいと思ってた。凛の世界が俺だけなら安心できるって思ってた」


「うん」


「でも、それは違うなって」


貴之は顔を上げた。


「凛は俺だけのものじゃない。俺の彼女でも、凛は凛だ」


凛の目が揺れた。


「実行委員、やめなくていい。むしろ頑張れ。俺はたぶん嫉妬するけど、それは俺の問題だから」


「貴之くん」


「あと」


貴之は少しだけ照れた。


「後ろじゃなくて、隣歩いてほしい」


凛は泣きそうな顔になった。


「ほんとに?」


「ほんと」


「私、貴之くんだけが好きだけど、貴之くんだけのためには生きたくない」


「うん」


「それでもいい?」


「それがいい」


貴之は言った。


「たぶん俺は、そういう凛を好きにならなきゃいけない」


「ならなきゃ?」


「違うな」


貴之は言い直した。


「そういう凛を、好きになりたい」


凛は少し笑った。


「じゃあ、練習しよ」


「何を」


「隣を歩く練習」


その日から、凛は貴之の三歩後ろを歩くのをやめた。



飛鳥が凛に告白したのは、それから少し後だった。


文化祭が終わった夜。


教室の片づけを終えた帰り道。


飛鳥は凛を公園に呼び出した。


「凛」


「うん」


「私、凛が好き」


凛は驚かなかった。


少しだけ目を伏せて、それから飛鳥を見た。


「うん」


「知ってた?」


「少しだけ」


「そっか」


飛鳥は笑った。


泣きそうな笑顔だった。


「別に、今すぐ何かしてほしいわけじゃない。貴之と別れて私を選べとか、そういうことは言わない」


「飛鳥」


「でも、言わないままだと、私が凛をちゃんと応援できなくなると思った」


凛は飛鳥の手を握った。


「言ってくれてありがとう」


「困るでしょ」


「困る」


「だよね」


「でも、嬉しい」


凛は正直に言った。


「飛鳥が私を好きでいてくれたこと、嬉しい」


飛鳥は顔を歪めた。


「そういうところ、ずるい」


「ごめん」


「謝らないで」


二人はしばらく手を繋いでいた。


凛は飛鳥を選ばなかった。


でも、飛鳥を拒絶もしなかった。


この世界の三人は、そこで一度、ちゃんと言葉にした。


だから後の世界ほど、ぐちゃぐちゃにはならなかった。


傷はあった。


でも、隠して腐らせる前に、少しだけ空気に触れた。



それから数年が経った。


凛は地元の大学に進み、教育関係の勉強を始めた。


人前に立つのはまだ苦手だけれど、子どもと話すのは好きだった。


貴之も大学生になった。


サッカーは部活ではなく、たまに社会人チームで蹴る程度。

 アニメや漫画も相変わらず好き。

 スキー家の注文だけは年々長くなっていった。


飛鳥はカフェバーで働きながら、凛とは相変わらず近い距離にいた。


三人の関係は、綺麗ではなかった。


貴之と凛は付き合っている。

 飛鳥は凛をまだ好き。

 凛は飛鳥を大切に思っている。

 貴之は飛鳥に対して、少しだけ頭が上がらない。


でも、それで崩壊はしなかった。


なぜなら、みんなが少しずつ言うようになったからだ。


嫌なことは嫌。

 寂しい時は寂しい。

 嫉妬した時は嫉妬した。


格好悪くても、言う。


それだけで、人間関係は少しだけ壊れにくくなる。



ある夜、三人はスキー家のテイクアウトを持って、例の公園にいた。


貴之の注文はこうだった。


「ネギたま牛丼メガつゆだくだくだくだく明太マヨトッピング温玉変更」


凛は普通盛り。


飛鳥はおろしポン酢。


「ねえ」


凛が牛丼を食べながら言った。


「もし私が、あの時原宿に行ってたらどうなってたかな」


飛鳥がすぐに顔をしかめた。


「ギャルになってたかもね」


「貴之くん、白ギャル好きだったもんね」


凛が貴之を見る。


貴之は気まずそうに咳払いした。


「まあ、好きだったな」


「今は?」


「今?」


「今も白ギャルが好き?」


貴之は少し考えた。


昔なら、照れて誤魔化したかもしれない。


でも今は言えた。


「凛が好き」


凛の顔が赤くなる。


飛鳥が即座に割り込んだ。


「公園でそういうこと言うな」


「聞かれたから」


「聞かれても言い方あるでしょ」


「じゃあ、凛のことを好きです」


「もっと悪い」


凛は笑った。


昔よりずっと自然に。


「私、原宿に行かなくてよかったのかな」


凛がぽつりと言う。


飛鳥は少し考えてから答えた。


「よかったかどうかは分からない」


「うん」


「でも、凛が凛のまま勝負したことは、間違いじゃなかったと思う」


貴之も頷いた。


「俺もそう思う」


「ほんと?」


「ああ」


貴之は牛丼を一口食べた。


「たぶん、凛がギャルになってても俺は何かしら拗らせてた」


「自覚あるんだ」


飛鳥が呆れる。


「ある。俺は面倒くさい男だからな」


「威張るな」


「でも、凛が凛のまま来てくれたから、俺は早めに自分の面倒くささに気づけた」


凛は静かに聞いていた。


「だから、ありがとう」


貴之は言った。


「私のまま好きになってくれて?」


「違う」


貴之は首を振った。


「凛のまま、俺の前に立ってくれて」


凛は目を細めた。


泣きそうだった。


でも泣かなかった。


代わりに、貴之の牛丼から肉を一枚奪った。


「あっ」


「ありがとう代」


「俺のメガが」


「メガなんだから一枚くらいいいでしょ」


飛鳥も便乗して、ネギを少し取った。


「じゃあ私は迷惑料」


「何の?」


「存在」


「ひどくない?」


三人は笑った。


この世界には、国民的アイドル原宿凛はいない。


白ギャルになった凛もいない。

 レオンに利用される凛もいない。

 ラウンジで笑う凛もいない。


その代わりに、地味だった自分を抱えたまま、少しずつ顔を上げた凛がいる。


そして、そんな凛に置いていかれないよう、少しずつ変わった貴之がいる。


飛鳥は今も、凛を好きだ。


その恋は報われたとは言いにくい。


けれど、飛鳥は凛の隣にいる。


友達として。

 たぶん、それ以上の何かとして。


名前のつかない場所で。



もし凛が原宿に行かなかったら。


貴之は、凛を選んだかもしれない。


でもそれは、何もかもがうまくいく魔法ではなかった。


貴之はやっぱり拗らせていた。

 凛はやっぱり傷ついた。

 飛鳥はやっぱり苦しかった。


ただ、壊れ方が少しだけ違った。


凛が「私のまま勝負したい」と言ったことで、三人は少し早く、自分たちの歪みに気づけた。


派手な悲劇は起きなかった。


アイドルにもならなかった。

 復讐劇もなかった。

 ダーツの決戦もなかった。


でも、これはこれで戦いだった。


誰かの理想にならずに、自分のまま好きな人の前に立つ。


それは、白ギャルになるよりずっと怖いことだったのかもしれない。


凛は牛丼を食べ終えて、空を見上げた。


「ねえ、貴之くん」


「何」


「私、可愛い?」


貴之は即答した。


「可愛い」


飛鳥が横から言う。


「世界一可愛い」


「飛鳥の方が早かった」


「負けた」


「そこで競うな」


凛は笑った。


黒髪で、眼鏡で、少し地味で。


でも、ちゃんと可愛い原宿凛が笑っていた。


それが、この世界の答えだった。

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