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僕と私に鎖と手錠を  作者: 成浅 シナ
第1章
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2(コイ)

嫌われている、ということに気づいたのは小学校のときだ。

私はクラスで特に目立たない存在で暇があれば読書をし時間を潰すようなキャラだった。

だが、昔から特にトレーニングやスポーツをしているわけでもないのに運動神経は良かった。スポーツテストでは学年上位の常連だった。特に足の速さはずば抜けていて陸上を習っている人を抜いて学年トップ。

なんでこんな奴が?と誰もが思っていたと思う。普段1人で行動し、休み時間は読書に費やし、体育の授業ではペアやチームに馴染まず端に突っ立っているような奴がと。


私自身、この運動神経は疑問だ。恐らく両親が幼少時からどちらもスポーツをしていて有名体育大の出だからその遺伝子を受け継いだんだろうが、それを説明したら嫌味だと思われる事は目に見える。

クラスメイトに「なんでそんなに足速いの?」と聞かれても正解の答えが分からず曖昧に笑って答えていた。それがますますの反感を買ったようでイジメに合うこともしばしば。

一番辛かったのは幼稚園からの大親友がいつの間にか私の事をよく思わない人と意気投合し『向こう側』になってしまった事だが...まあ、この話は今はいい。


とにかく私は嫌われ者で、イジメの的だった。

方法は直接的なことより影でコソコソやられることが多い。

呪いの手紙、授業中に周りで行う手紙交換、毎週放課後に表彰される『忘れ物ゼロで賞』にはクーピーでカラフルにイラストが書かれていた。悪口と共に。

そのときのメンバーは今でも私の恐怖の対象で、イジメがなくなった今でもすれ違う度に緊張してしまう。


特にリーダー格だった女子...


「あ、千尋ちゃーん?アンケート出したぁ?」

ニコニコ笑いながら近づいてくるショートカットの女子。バレー部に所属していてスタイル抜群。勉強も出来て、明るくノリがいいと男女共に評判だ。噂によると中学入学から2年間で5人の彼氏を取っかえ引っ変えしてるとか。


「あ...ごめん」

そういえば朝配られてそのまま机の中に放置していた。今読んでいる本がすごくいい所だったからそっちを優先して忘れていた。

この人ーー坂町(さかまち)(りん)はクラス委員長を務めている。かつてのいじめっ子の顔はどこへやら、普段から1人でいる私を気遣って声を変えてくれるが、ちっとも信用ならない。この間も他のクラスメイトと私の方をちらちら見ながら笑って話していた所を目撃したばかりだ。

中学になり小学校時代のように分かりやすいいじめはなくなったが私の知らないところで隠密に行われているようで気が気でならない。

まあ、私としては私に危害がなければ勝手にどうぞというドライな考えで、もうとっくに周りとの人間関係を諦めているが、自分一番、不要な物は容赦なく排除という思考の人にこの考えは分かるまい。だから思っても口には出さない。

平穏、平和それだけで十分だ。


「ありがと♪」

プリントを渡すと坂町さんは自分の机に帰っていった。

敵が去り、無意識に肩に入れていた力が抜ける。


そろそろ部活に行かねば。

机の中の教科書やノートを鞄に詰め込みながら自然と頬が緩む。



自他ともに認めるひとりぼっち。

あの人は1人が好き、邪魔してはいけない。そんな風に思われているのだろう。私も去年まで自分の事をそう認識していた。

だが、1人の人と出会った事で私の運命は変わった。大袈裟な表現かもしれないけど。


...まあ、7年後の私が聞いたら「なに厨二とぼっち(こじ)らせてんの?バカなの?」と罵倒するだろうがこの時の私は本当に頭が沸いていた。それが人生の全てだとも思っていた。


ウキウキと階段を駆け登りたどり着いたのは教室棟3階の突き当たり美術室だ。

私の学校は文化系の部活が美術部と吹奏楽部しかなく、土日祝日休みで平日も活動時間が短いという理由で入部した。せっかくだから部活動というものをしてみたいと思ったのもある。


そんなこんなで入部したこの部活で私は彼と出会う。

いつも使う教室の倍の広さがあり版が動く特殊な机が並んだ空間。中は絵の具の独特な匂いがする。まだホームルームが終わってすぐだからか人は少ない。

彼の定位置は教室の最後方、端から2番目。私の席はその前だ。

「お、お疲れ〜」

ぎこちなくその席に収まった彼に笑顔を作る。

大丈夫かな?変じゃなかったかな?


そう思ったのも杞憂だったようで

「お疲れ様。今日も早いな」

「う、うん。コンクールの絵、早めに取り組みたくて...」

「そっかぁ。倉木さんの絵下書き時点ですごく綺麗だし、完成版楽しみ、かも」

き、綺麗!?

私自身ではなく絵に向けられた感想だということは百も承知だが普段褒められることがほとんどないだけに嬉しさがヤバい。それに彼に褒められたという事がなによりも私の心をぽわぽわと舞い上がらせる。


次第に教室の人数が増えても私は椅子を彼に向けて談笑していた。

うちの部活はユルい...というか自由な部活なので活動内容も進め方も個人に任される。

コンクールも出したい人が出せばいい。ガチ勢とそれ以外を分けるためか教室の後ろがコンクール組、前が出さない組というように暗黙の了解で別れていた。

私はガチ勢というわけではないが(そもそも楽をしたいがためにこの部活に入ったのだが)、彼の近くで過ごせるという超個人的な理由でコンクールに出す事を決めた。





コンクールが終わった後も自然の流れで席はそのまま。私は彼の前の席だ。

部活中は彼の席の方を向き同じ机で絵を描く。

それがとてつもなく楽しかった。


こんな優しくて、話が合ってずっと一緒にいたいと思える...この感情は恋だと気づいたのは去年の2月頃だ。もう1年も片思いしている。


最近は休み時間の度に教室に来てくれるし、この間は家まで送ってくれた。


脈アリなのでは...?と思ってしまい、同じ部活の友人に恋愛相談をしてーー


中学3年の6月下旬。部活動の引退を期に(もしここで断られても気まずさが軽減されるという後ろ向きな理由で)告白を決行。


そして私は1週間後。彼ーー志藤(しどう)陽翔(あきと)と恋人となったのである。

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