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幕間①『ある島の監視役の結末』





──高崎たちが、ユトソル諸島に連れてこられる前。


その島々のおよそ中央部に位置する『デリス島』。通称三島で1人の男が灯台の上で警戒任務に就いていた。


ユトソル諸島には大小100を超える島が存在するが、その中に大きく7つの代表的な島がある。

広大な地獄海の南西から北東へ並ぶそれらはユトソル七島と呼ばれ、綺麗な海と自然を求め毎年多くの観光客が訪れている。


そしてこのユトソル諸島は、他のどことも違う“特性”を持つ。

──それは、どの国家にも属さないということ。


東西両大陸から遥か離れた場所に位置するこの島々は、長きに渡り人々の預かり知らぬ存在であり続け、初めて人類がこの地に降り立ったのは、1500年代に至ってからだという。


その後は、航海技術に優れたアルディス連邦王国、東西大陸から最も近いといえる大耀帝国とマナスダ合衆国などのいわゆる“三大国”が軽い衝突を起こしながらも領有権を主張し合う『火種の生産場』の地となり、その後の24世紀の大陸間戦争後には、その反省から、この地は既存のどこの国家にも属さない中立地帯となったのである。


まぁただし、「はいこれで万事解決。その後ここで紛争は起こることなく、平和な時代が続いたのでした」……なんてことにこの世界の人々がなる筈もなく。非公式、もとい暗黙の了解のもと、日々その土地への影響力の奪い合いの衝突が起きている、文字通り『世界の裏側』となっているのだ。


その結果今では、中心となる四島は真の中立地帯とされ、一から三は東大陸勢力。五から七は西大陸の勢力という構造にだいたい落ち着いていた。



そして、話は戻るが男が今いるのは「三島」。

古くからアルディス連邦王国の強く受けている島であり、住んでいる人から街並みまで、だいたいアルディス本島と変わらないと言ってもいい様相だ。


そう、何度も言うが。

ここはアルディス側の勢力下の地域なのである。




なのに───。


「……すでにこの海の向こうでは、マナスダの野郎共との戦争が始まってるのか」


監視兵が、まるで実感が湧かないと言わんばかりに呟いた。


そう、この海の向こう。すなわち四島では中立地帯であるにもかかわらず、戦闘が発生しているのだ。

彼らによる非公式の奇襲を受けたアルディス駐留軍は壊滅打撃を受けているという。


何故そのような事態が発生したのか。

その理由としてあるのは、勿論ついこの間起きた「魔術博覧会」における爆発事件なのだろう。


アルディス王国は、その一連の出来事の首謀者をマナスダ合衆国と発表。それに反発したマナスダ側が反発…までは分かるのだが、なんと国交断絶通知までしでかしたのである。

だからこそ、この両国の因縁が1番深いこの地でいざこざが起きるのは時間の問題と言ってよかった。


それに、今アルディス王国は爆発事件とそれが起こった魔術博覧会に対しての処理に追われている真っ最中だ。しかも、大陸領土においては、正朝内戦における戦後処理も続いている。また、カドナ半島の新領土の統治は勿論の事、比較的快勝だったといえ軍の消耗はそれなりにあったのだ。

だからこそ、マナスダ側はこの即座に侵攻作戦を行うという判断に出たのだろう。


そして案の定、四島における武力衝突が起きて数日経つが、アルディス側の主戦力が到着するのはまだ先だという。

だから、ここに以前から駐留している彼等の任務は、その主力部隊が到着するまでこれらの島を死守することなのだ。



──“奴ら”がいつここにまで攻めてくるのか。それはもう時間の問題だと司令部の人は言っていた。既に、それに対応するためにも、三島には四島五島方面からの攻撃に対する防衛戦が平常時より緊急的に少なからず築かれている。


また、今昼における航空機などからの報告によれば、奴らの戦力は兵器人員ともにこちらを凌駕しているという。

──まるで、前々からの考えられていた計画的侵攻であるかのように。



そして、それはつまり。


“いつ攻めてきても可笑しくはない”。ということだ。






──男がそう考えていた、その瞬間。


ドガアアアアアアアアア!!!!!


男がこれまで聞いたことのない程の凄まじい爆発音がした。思わず耳を塞いだが、それでも頭を揺らさんばかりの衝撃に顔が歪み、キーーンという耳鳴りが起きていた。


それは、一発で止まなかった。一発目以降も、断続的にその爆発は彼の耳を叩き続ける。

揺れる大地に足を取られながら外へと目を向けると、そこには爆発によって途轍もなく大きい爆風が起きていた。それによって土やコンクリートの破片などが巻き上げられている。

よく見れば、それはアルディス軍の敵軍上陸を防ぐための重要な拠点を悉く潰しているようであった。



つまり。


「──これは……艦砲射撃かッ!!」


監視役の音が苦い顔をしながらそう叫んだ。

その間にも、艦砲射撃が次々と島の土地を荒らしに荒らしていく。海岸線付近に築かれたトーチカや拠点が吹き飛ばされていってるのが見えた、


奴らは、何のために真夜中にこんな攻撃に打って出たのか。

……普通に考えれば、“今そうする必要があったから”だろう。


──ということは。



男が壁に寄り添うようにして立ち上がり、無線機へのパネルのボタンを迷うことなく押した。

それは言わずもな、緊急時代発生の合図だ。


そのまま手を伸ばし、窓際に置かれた望遠鏡へと目を向ける。

その先は、おおよそ四島の位置する方向。艦砲射撃らしき攻撃が来ていると考えられる方角だ。



「──あった……! あれが打ちまくってるのか……!!」


男が顔を少し青くしながらそう吐き捨てた。


その視線の先には、遠くにうっすらであるが、大きな船舶があるのが見えた。そして、その周辺には他の艦が続いているのも確認できる。


それを確認したら否や、男は即座に電子パネルの方へと再び向かい、ささっと操作して無線を繋ぐ。



「──こちら三島防衛戦第4灯台、北東方向に只今こちらに艦砲射撃をしたであろう船舶を確認。その周辺に別のものも見られ、まもなく上陸作戦が行われる可能性高し。即座にこの危機に対する本部の対応を願います。繰り返します──」


そう彼が繰り返していると、その方角から今度は砲撃とは異なる音が徐々に大きくなっていることが確認できた。

それは複数の何かが波を切るような音である。



「早速、そのままお出ましってことかよ……!」


その視線の先にあったのは案の定、この四島と制圧せんと迫ってくる数々の上陸用舟艇だった。その数は正確には測れないが、少なくとも簡単に撃退できるものではないということだけは理解できる。

奴らがじきにここへ攻めてくる、ということは覚悟していたが、まさかここまで急にそして大規模に行動を起こすとは思ってもいなかったことだろう。

……何故、彼らは“ここまで”本気なのだろうか。



「──こちら三島防衛戦第4灯台! こちらへと向かってきている上陸用舟艇を確認!! 数は少なくとも50以上!」



そう彼が無線で報告し終えたと思えば、その瞬間。


今度は、彼の後方から大きな爆発音が響いた。

それは、三島における基地からの貴重な砲撃だろう。


そしてそれらが、上陸部隊たちを容赦なく襲った。


外れた弾が10メートルを超すのではないかというほどの波の衝撃を作り上げ、目の前の海全体が大きく揺れるようだった。

勿論、その砲撃はそう簡単に舟艇に直撃する訳ではないが、1つ。また1つと爆炎が上がっているのが確認できた。

……あの1つ1つの爆炎の中だけで、恐らくそれぞれ何十人もの人間が死んでいるのだ。


だが。これが、戦争だ。

お互い、まるでゴミのように命が弾けていく。



彼はそれを横目に、灯台に備え付けられた物騒な機関銃に手をつけた。まさに、こんな時のために用意されていたモノだ。

こんなもの、あの軍勢の前には焼石に水かもしれないが、やらないよりはマシだろう。


そのまま彼は照準に目を向けると、思い切り引き金を引く。そうすれば、けたたましい音を立てながら、毎秒数千発というレベルの超高速レートで弾丸が射出された。 


それは、既に艦砲射撃によって前線基地が壊滅的打撃を受けていた所から上陸に成功し、そのまま目の前に築かれた拠点やらを制圧せんと向かってきていた敵兵へと襲い掛かる。


彼らとしてはなんとか上陸できたと思えば、それも束の間。

機関銃の高火力の前に、反動を抑え狙われた敵兵たちが無惨にも体を弾かれ倒れ伏していく。

そんな奴らを、男は無情にも打ち下ろし続ける。



「──悪く思うなよ。これが殺し合いだ」


そう誰に伝える訳でもなく彼が呟くと、その視線の端に、なにやら特殊な兵がいるのが見えた。その肩には自動小銃ではない、大きな筒のようなモノが担がれている。


──あれは。


「ロケットランチャー!!?」


彼がそう叫んだ途端、その砲口からミサイルが放たれた。

距離はかなり離れているが、その砲口が示す先は、ここ。

そう。灯台、である。



「──ッッ!!!?」


男はほぼ反射的にその場に伏せた。

直後に起こるであろう、激しい衝撃に備える。


その瞬間、彼が今までいた機関銃の取り付けれていた灯台の壁の部分が弾け飛んだ。ガラガラと破片が飛び散る音がして、彼の周りにもそれらが転がってくる。




──しかし。


「……これで、終わり……か?」


男が、ゆっくりと顔を上げて現状を確認した。

見れば、外壁は部分的に崩れてはいるものの、それだけであり、その他の危惧すべき状況は見当たらなかった。



──自分は、生きている。


そう。確かに、こちらへと向かってミサイルは飛んできていたのだが、彼は五体満足のままであった、いや、考えてみれば当たり前だ。灯台だってそんな簡単に崩れないように頑丈に作られているだろう。


そう考えていると、心も落ち着いてきた。

彼はゆっくりと息を吐く。


……にしても、何故奴はロケットランチャーなんてもんを持っていたのか。どう考えても、あんなのは上陸作戦一発目に担いでくるものではないだろうに。

まぁ、あの距離から正確に当てる射撃の正確さは凄いのだが。



そんなことを思いながら、彼はゆっくりと立ち上がる。


ずっとこんな所で倒れているわけにはいかない。

まずはそこの機関銃がもう使い物にならないのか見ておく必要がある。もしダメならダメで他の対策を探さなくては。





──しかし、その時だった


ドガアアアアアアアアア!!!


先程聞こえた、凄まじい爆発がまた響き渡った。


恐らく、いや……間違いなく。

再び遠くから艦砲射撃が飛ばされてきたのだろう。


しかし今度は上陸後だからか、その数は少ないように思えた。

まぁ下手に打ちまくれば、フレンドリファイアどころではない損害が出かねないし当然といえば当然なのか。



──ならば、その狙いはどこか。


その疑問が自然と彼の中に生まれた瞬間、その頭が凄まじく高速回転して“ある可能性”を浮かべた。



先程の攻撃においては、ここの灯台は狙われなかった。

──ならば、その理由は何故か。


それは、考えてみれば分かるのではないか。

そう。灯台とは一般的に、海を照らすことによって船舶が海岸付近で事故を起こさないようにするための施設である。


つまり、灯台というものは、船舶にとっては上陸時においてはある意味必要不可欠もいえる、“欲しいモノ”な筈だ。


──しかし、今はどうか。

上陸に成功した今、もはや“必要はない”のではないか。



そしてその上、でだ。ここには、今。自分という敵兵がいる。

そしてソイツは相手からすれば、安全地帯から機関銃を打ち下ろすとても“厄介な敵”……という認識で間違い無いだろう。




ということは、まさか───。



と彼が結論づけようとした、その瞬間。





彼の頭上から、急激に“何か”が近づく音が聞こえ。



その巨大な“何か”の着弾によって起きた、大爆発とも違わない凄まじい衝撃と共に、彼の意識はそこで潰えた。




──その後の彼がどうなったかは、伝えるまでもない。










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