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先進世界の魔術聖典 〜転移先は近未来な世界、軍最悪の問題部隊にて毎日が命の危機な件〜  作者: あるでぃす
第5章『ユトソル諸島争奪戦』編

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2話『家族のように愛おしく』





これは、少し前の話。




「──あぁ〜、今日も疲れたぁ〜!」


入り口のドアが少々乱雑に開かれると同時に、そんな心の底からの叫びが部屋中にこだました。

その声の情けなさといったら、世界を代表する映画監督さえも、それを即座に演技のお手本として取り上げる位だろう。


そして──。

そんな声の出し主は何を隠そう、今日も今日とで勤務を終え、ようやく愛する我が家に帰還した男、高崎佑也である。


彼基準の金銭感覚としてはそれなりに値の張った腕時計へとふと目を向けると、針は丁度6時半時を指していた。

一応軍人も公務員。特に平時には色々条件付きとはいえ自宅勤務も許可されちゃう程度にはゆるゆるなアルディス軍は、基本午後6時頃には終業するのである。

……まぁ、最近は世の中が“きな臭く”なってきたのだが。



しかし、それでも男の一人暮らしというのは大変である。特に、まだ齢20ほどのクソガキである高崎にとってはその負担はかなり大きいと言っていいだろう。


普段なら真っ先に風呂に入って、帰り際に買ってきた弁当を貪って、洗濯や皿洗い等の家事を終わらせて……などとやっているうちに寝る時間になっていたりすることも珍しくはない。



だが、最近はそうでもなかったりする。



何故なら───。





「──あ、おかえり佑也。今日もお疲れさまー。ちょうどもうすぐご飯の用意終わるとこだけど、先お風呂でも入る?」


「いや、先にメシが食いてぇ。今日は色々あってあんま昼食えなかったんだよ」



改めて感じる空腹感に腹を抑えながらそう返答すると、そんな仕草がおかしく思えたのか軽く微笑みながら、お疲れ様。と彼女が口を開いた。

そして、茶色いショートカットをの毛先をわずかに揺らしながら台所へと向かっていく。


そんな何気ない言葉が、妙に心に染み渡るのを感じた。

やはり、家に帰っても1人じゃないというのはそれだけでだいぶ精神衛生上大切なことなのだと、彼は久しぶりの体験を通して身をもって体感していた。


特にそれが古くから慣れ親しんだ相手なら、その効果は遥か高みへと増大するといって良い。

うん。これこそが、家庭の暖かさというやつなのだろうか。



そんなことを思いながら和やかな表情で、彼は席へとつく。






「──ふぅ、ごちそうさまでした。うまかったよ」


「はい、どーもね」


用意されたもの全て味わって食べてしっかりとそう伝えると、彼女もさりげなく、それでいて慈愛のある声でそう応える。


「じゃあ、お風呂入ってきたら? 今日も疲れたんでしょ?」


「あぁ、そうするよ」



あぁ。これまでずっと、家に帰っても1人で寂しく飯を食ってゲームをしてたというのに。

今ではこんな暖かい毎日を過ごせている。



なんと、幸せな日々なのだろうか──。




「……………って、ちょっと待て」


高崎が素直に風呂へと行こうとしていた足を止めて振り返る。

そこには彼を見送った後、テキパキと食事の後片付けを行おうとしていた彩奈の姿があった。



「どうしたの? ……あっもしかしてお味噌汁(仮)の味変えてみたのに気がついた? 最近いつも作ってた味に近づけられるように研究中なんだ〜」


「あー、どうりでいつもより懐かしい感じがしたのか……ってそうじゃない!! なんかここ最近フツーに受け入れてたけど、この現状はなんなんだ!?」


高崎が思わず叫ぶようにしてそう言った。


そう、かつての幼馴染である稲星彩奈がこの世界に同じくやって来てからそれなりの時間が経っていたが、いつの間にかこんな生活に慣れ切ってしまっていたのだった!!



「えー、何か料理の出来にご不満でも? 今日のはけっこう自信あったんだけどなぁ」


「いやそこに文句はない! うまい飯をありがとうッ!!

……だがそれはそれとして、ほんとこの状況は何なんだ!? 彩奈に行くあてがないから仕方ないとはいえ色々麻痺してるぞ!! 俺らは新婚かッ!? お前は専業主婦かっ!!」


「ちょっと何よ佑也急に。新婚だなんて、まだ早いでしょ///」


「わざとらしく照れたフリをするなッ!! 男ってのはな、そういうちょっとした態度で簡単に勘違いしちゃうんだぞ!!」


両手で頬に触れ、テンプレのような照れたふりをする彩奈にそうツッコむと、彼女は皿を洗い始めながら話し始める。



「まぁまぁいいじゃない。おかげで佑也も仕事帰りの後の生活が楽になったでしょ?」


「いや、それはそうなんだけどな……」


実際、彼女のおかげで生活が相当楽になったのは確かだ。

強いて言うと彼女の来訪で出費は増えたのだが、それもこれまでの功績でなんだかんだそれなりには上がってくれた収入と、彩奈のあまりモノを欲しがらない性格のおかげ気にする必要はない程度に留まっている。



ただ、この状況に流されなぁなぁでいってしまうのも良くないのではないか。高崎が腕を組みながら問いかける。


「つーか彩奈、おのれはいつ自分の仕事と住居を見つけるつもりなんだ。もうあれからだいぶ経つぞ」


「えー、このままで良くない? ほらぁ佑也は苦手な家事やらなくて良くなるし、私も慣れないこの世界で生きていけるし役に立てる。お互いwinwinなんだもん」


露骨に不満、というような表情で彼女がそう言う。

成長した彼女が、そんな風に人の言葉を受け入れずわがままのような事を言うのは珍しいことのように思えた。……いや、昔から“オフ”のときはこんなもんだったか。



「ったく、状況が状況とはいえ、そんなに収入あるやつのお世話になりたいもんなんかね」


頭を掻きながら彼が呟くと、そんな様子を見た彩奈がさらに不満そうにしてそっぽを向いた。


「……この鈍感」


「おい聞こえてんぞこら。俺は軍の身体検査でも聴力に関しては係の人に驚かれるレベルで良いんだ。小さい声でいえば聞き逃してくれると思うなよ」


指をさしてそう言い放つと、彼女は「そういうとこがね……」なんて言いながらため息を吐いた。

いや、俺だって分かってるつもりだ。つまり、両親にすら2度と会うことが出来なくなってしまった今の彩奈にとって、俺は唯一の知り合い……いや家族ともいえる存在だ。だから、そこに依存しようとしてしまう。

まぁ、そういうことだろうか。


いや、ただの自惚れなのかもしれないけどね。




──けれども。


「あのな、確かに俺たちは家族と言っていいくらいに付き合いは長い訳だが、それ以前に男と女でもあるんだ。お互い信頼があるとはいえ、そんなほいほい同居していいって訳じゃ──」


高崎がそう一丁前に御高説垂れていると。

それを聞いていた彩奈の手が止まり、こっちへと振り返った。



「そんなに、私と一緒……嫌、なの……?」


「えっ」


突然の彼女の変化に狼狽える。

なんと、その目にはうっすら涙が浮かんでいた。



「そう……佑也は、そんなに私に出てってほしいんだ。こんな知らない世界にいきなり飛ばされて、寂しいのに……」


「い、いや。あのな……そうじゃなくて……」  



思わぬ事態に、高崎がどうすればいいのか躊躇ってる中、彼女はさらに声を震わせて吐き出すように言葉を繋ぐ。


「──私、佑也が急ににいなくなって、ほんとに悲しかったのに……。またどっか居なくなるつもりなんだ……」


もう今にも声を上げて泣くんじゃないかという表情をして、彼女は再びそっぽを向いた。

流石の高崎も両手をあげて降参……と、言わざるを得ない状況なのだった。女の子の涙ってずるい。



「あぁ……もう、ごめんって俺が悪かった。 分かったから、居ていいから……、もう2度と勝手にいなくなったりしないからさ、落ち着けって。な?」


そうゆっくり近寄りながら言うと、彼女が振り返る。



「──ふーん、言質とったよ?」


その表情は、先ほどの悲痛そうな所はどこへやら。

すっごい愉快そうにニヤリと笑った。



………………つまり。



「やっぱ嘘泣きかよ!? いつも俺が下手に出ればからかいやがって! 俺だって男なんだぞ誘ってんなら襲うぞコラ!!」


にじり寄るようにして彼女にそう叫んで言い放つ。

我ながらとんでもねぇ発言だが、どうやら彼女にはこうでもしないと伝わらないのではないか。


彩奈は男女が同居することの危うさを理解してない。元々一人暮らし用に借りたこの家には、ベッドが“1つ”しかない。

こんなの、健康な男子としては正直“きっつい”のだ。

だというのに、彼女はいつもすぐにすやすやと横で寝ている。

どうも危機感というものが欠如しているのではないか。


まぁ確実に「きっも」だの「最低」だのしっかりじっくり蔑まれるだろうが、彼女もこれでようやく自覚してくれるだろう……と思っていたのだが。



「ふーん、じゃあやってもいいよ。

 ほら、どうぞ。……私は一向に構わないから」



なんて平然とした様子で言うと、彼女は手を広げ目を閉じた。

まるで、ハグと……キスでも求めるかのように。




…………………こ、これは。


………あの。



「……い、いや。冗談だろ? 本気にするなって……そうだよな、俺ら幼馴染だもんな、今更間違いが起こる筈ないよな?

──あっそうだ俺風呂入ってくるわ! たぶん汗臭いだろうしなーあははははははは」


そうして、高崎が逃げるようにして慌てて出て行く。


彩奈はそんな彼を見送ると、彼を無事説き伏せたというのにあまり浮かない表情のまま、はぁとゆっくりため息をついた。



(ほんと、いつもすぐ日和って引いちゃうんだから……)



そう、昔からそうなのだ。


中学3年のとき。

両親が不在の中、思春期真っ只中の2人が夜、ふと興味本位でいろいろ“やりかけた”あのときのように───。




(…………佑也の、いぐしなし……ばか)



そんな消えるように小さな声は、誰にも届かず消えていくのだった──。







────────────────────────────







「──えっ、出張!?」


そんなこんなで暫し後。

2人でなんとなくテレビを見ているとき、高崎がふと伝えた言葉に彩奈が大声をあげた。


テレビでは、マナスダ合衆国とのいざこざによる経済への影響を専門家たちが話し合っていた。どうやら、特に輸出業界の利益低減と食料品関連の値上がりが懸念されているらしい。

まぁ食糧についてはアルディス連邦王国は世界有数の穀倉地帯であるカドナ半島も有しており、想像以上に自給率も高い資源大国なので最悪の事態になることはないだろう。

 


「出張って言い方はどうかと思うんだが、まそんな感じだな」


「ぶー。佑也、前にも……きょーいくとっく?って所に行ってきたばっかじゃん」


頬を膨らませるようにして彼女がぶーたれる。

やめてねすげぇかわいいから。


「いやそれはそうなんだが……。ここの軍人ってのは仕事柄、そういうのか往々にしてあるもんなんだよ」


そう言うと、彼女はだらんと体を脱力しソファーにそのまま全身を預けた。そしてそのまま手足をばたばたし始める。



「やだやだ1人寂しい!! 私も一緒に行く!!」


「いや子供か!!」


思わぬ奇行に、高崎が呆れたように突っ込む。

まぁ、環境的に1人が不安なのは理解できるが。

こいつ、こんな寂しがり屋だったか……?



「すまんが断れるもんじゃなくてな、まぁいい機会だしお前も仕事探してみろよ。なに、彩奈ならどこでもやってけるさ」


「そ、それは勿論考えてるけど。いつもお金だして貰ってるのは悪いと思ってるし……。でもなによそのぶっきらぼうな言い方、そんなにさっさと私に自立してほしいの??」


また彩奈が頬を膨らませるようにして呟く。

そんな言い方されると、もし仮にそう思ってたとしても否定したくなってしまっていたことだろう。

なんて思ってしまうのだから、高崎は彼女のそんなわがままにめちゃくちゃ甘いのかもしれない。……今更な話だが。



「いやだからそうじゃないって。ほら、そうでもしないとお前この世界に全く馴染むことないままになっちまうだろ。それは流石にまずいんだよ」


そう、それが高崎の心からの本音だった。

元の世界に帰る手立てなどない。最悪の場合、一生このまま……ということだって十分にあるかもしれないのだ。


だからこそ、ここに馴染んでおくこと必要なことだと言える。

高崎は状況的に否応なくこの世界に適応していく必要があった訳が、彼女は違う。自発的に動かなければ、このまま機会を得ないままだ。


そしてこのことは、彩奈も分かっているだろう。



「だから心配すんな。俺もまた彩奈と会えなくなるのは寂しいけど、お前はまず自分のことを考えればいいんだ。さっき約束しただろ、もう2度といなくなったりしないって」


「………うん」


そう言い放つと、彼はそのまま彩奈の頭をやさしく、そしてゆっくりそっと撫でた。

彩奈は、目をつぶって少し嬉しそうにしてそんな手を受け入れている。まるで、その様子は子供か小動物のようだ。




(……昔、よくこうしていたのを思い出すな)


高崎が過去を思い返す。

彼女は泣いたりするような娘ではなかったが、なにかあればどっかで不貞腐れるように1人でよく黙こんでいた。そんなときはこうして頭を撫でて何かあったのか、と尋ねる……というのがパターンだったのだ。


流石に中学生になった辺りからはあまりしなくなったが、それでもその記憶は高崎の頭にしっかりと残っていた。



でも、なんだか髪は昔よりもっとさらさらで、綺麗に感じる。

これがお互い成長した証なのだろうか。


それに、とても懐かしくも感じるようないい匂いがする。

普通こんなに女の子に近づいたら緊張でもするものなのだが、今はむしろ落ち着いている。もはや安心感まで感じていた。



そして気がつけば、ずっとこうしてたい、まだ手放したくない……とまで思っている自分がいたのだ。




(なんだかんだ俺も、彩奈のことバカに出来ないのかもなぁ)



 


そうしてしばらくの間、2人はそのままでいたのだった──。








「──じゃ、帰ってくるときはちゃんといい感じのお土産とか買ってきてね。私が見たことないようなすごいやつ! それと美味しいお菓子とかもね!」


「お前、やっぱ旅行か何かだと思ってるだろ」



あれから少し経ってからのこと。

先ほどの少し萎れた姿はどこへやら、彩奈が遠くに行くなら……と、胸を張って元気にそんなことを彼に要求していた。


高崎の職業は軍の仕事だと知ってる筈なのに、幼馴染なるものはこの頭お花畑っぷりであった。



いや、実際のところ。これは出張などではなく一種のバカンスなのだから、彼女は間違ってないんだが……。


まぁ随分家を空けてしまう訳だし、ちゃんと買ってこよう。





「じゃ、その間、“()()()”の家のことは頼んだ」


「……うん、任された! だよ!!」



そんな風に彩奈が元気な声で返答した。

突如変な口調になっているのは何故なのか分からないが……、とても嬉しそうにしていることはよく分かった。





──こうして、数日後。



高崎はルヴァン達と共に、“出張”することになったのだった。







まぁご存知の通り。


この後、彼はとんでもない所に飛ばされることになるのだが。










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