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幕間①『マナスダの黒き龍』





まず、マナスダ合衆国という国について話をしておこう。


現在マナスダ合衆国は、紛れもなく西大陸最大の国家である。

その領土は、西大陸南部のアフメド大陸の北部を丸々囲む。

そして経済・人口は共に正朝に継ぐ規模であり、近年もなお成長を続けている超大国なのだ。




そんなマナスダ合衆国の歴史の始まりは、約500年前。

……つまり、2000年代にまで遡る。



当時は北側、つまりロムラナ大陸方面が猛威を振るっていた時代である。古くからの魔術の伝統と、徐々に進みつつある技術の進歩によって各国が凌ぎを削っていた。


一方、まだアフメド大陸には大きくまとまった国民国家は存在しなかった。北側の多くはロムラナ帝国などの国家の影響や支配下に置かれており、東海岸側もアルディス連邦王国の拠点や傀儡国が点在していたのだ。

──つまりアフメド大陸には小国が乱雑しており、それが周辺国が徐々に進出しつつある原因となっていた。




挿絵(By みてみん)

▲21世期の西大陸

(緑の囲みは2135年にマナスダ連合国として分離)





そこで2053年、 マナスダ大陸の数ある小国の1つであったナンゴサ王国に住んでいたとある青年、“クレビオ=ドゥク”が立ち上がることとなる。


彼は貧困に苦しむ人々を啓蒙しながら勢力を強めていき、2054年には自国を治める王に直談判を行った。南下してくる敵の排除、つまり周辺小国との団結を求めたのである。


そして、既にディノマ帝国の影響下に置かれつつあったナンゴサの王は、なんと彼を登用することに決める判断を下す。

その後その風潮は瞬く間に広まっていき、2058年にはマナスダ大陸に偏在する50の国と地方の代表が集まり、会議を開くにまで至ったのだ。



そして2062年には、北マナスダ連盟が結成された。

その内容は10年内の通貨などの統一、そして将来的な国家としての統合などで、憲法の制定もここで取り決められた。



そして2067年、北マナスダ同盟は南部の国家とも連合を決め、正式に統合国家しての独立の宣言を行った。

それはマナスダ大陸全土を点在する70以上の諸国が連合した“一国”としての統一であった。


またその統一の際中心に立ち、新技術・制度導入といった面でも前に立ち続けたナンゴサ王国の言語は、諸国の会議でも用いられており、このときその統一にあたっての功績もあって、マナスダ第一統一言語として取り決めが為された。


こうして、マナスダ合衆国が成立したのだ。




──しかし。この独立を、彼らを支配せんと目論んでいたロムラナ大陸の諸国はそれを許さなかった。アフメド大陸へ出兵を開始したのだ。


ただ、彼らは個別にこの宣言に対して対処を行うこととなる。

本土でもそれらの国家は、互いに激しい対立をしていた為だ。


このことはマナスダの民にとっての神からの祝福だった。

技術の差はあるとはいえ、連合した大陸国家の自由を求める民の動員数と士気には敵わず、ロムルナ帝国を除き撤退することとなった。


アルディス連邦王国も、将来的な西方面との対立を考え、敵の敵となるマナスダとの対立を回避する方策を取ることを当時の宰相が判断。数カ所の拠点を除き、将来的なマナスダ大陸からの撤退を約束した。

……よって、ここでも武力衝突は起きなかった。



こうした幸運も重なり、2076年。

古くからずっとロムラナ領であり、彼らの民族が住む一部とアルディス拠点を除き、全てと土地から外敵を追い出すことに彼らは成功したのだ。


──こうして、マナスダ合衆国の歴史は始まったのである。





その後彼らは急激な成長を遂げた。

小国の連合という形が、国内での革新的な競争を誘発し経済成長していったのだ。大陸間戦争期には、一時中立を取るも最終的に西側で参戦。主力として戦った。




──そして、この2500年代。



彼らは、“真の意味での”覇権国家の樹立を目論んでいた。










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中央海、コルソ諸島付近。


コルソ諸島(別名:中央諸島)は、8世紀にアルディス人のモセトルらの船団が入植して以来、アルディス領として発展をしてきた中央海の自然要塞だ。


熱帯に属するその島々では豊富な果物などの特産品も取れ、観光地としても有名である。

因みに大陸間戦争以降には、東西対立に対する妥協案として、その南部をマナスダ合衆国が領有することになったのだ。



そして、そこを一隻の船が進んでいた。

その船の甲板にはプールなどのレジャー施設が見られる。

どうやら客船のようだ。そこには何人の人かが戯れていた。



そんな中、ある男がパラソルの下の椅子で、船にゆっくりと揺られながら1人呟く。


「こんな呑気にのんびりしてていいんかねぇ」


この船は先ほども言ったが客船である。

基本的に人を運ぶ機能というよりは、金持ちの観光目的で運用されている訳だが、今回は訳が違った。


乗っているのは、どこもかしこも“訳あり”な奴だらけなのだ。



「こっちはもう人生軽く5周は出来るくらいの金は蓄えてんだから、もうキナ臭いことは引退したって言ってんのにさぁ」


彼はそう言いながら、プールサイドチェアに寄りかかって腕を頭の後ろに組む。あまり気は進んでいなさそうだ。

……しかし、彼には“どうしても断れない理由”もあった。



「──ま、今回に関してわざわざ“奴”が直々に命じてきたってんだし、相当なことなんだろうかね」



すると、船内にアナウンスが流れた。

それによれば、“最初の停泊地”であるアルディス連邦王国への到着の予定が諸々の理由で少し遅れているらしい。


彼はその情報に呆れた顔をするも、すぐにまた目を瞑った。


「……どうせ後で嫌ってほど働く羽目になるんだ。今くらいゆっくりしてくのも悪くないか」




先ほどからプールサイドでくつろいでいるこの青年。


彼は、“セレン=コルストフ”。



数年前までマナスダ合衆国政府に直々に裏で雇われていた、“元”殺しのプロだ。






「──魔術博覧会か、どんなことになるのやら」



そう言って軽く笑うと、彼はまた目をつぶった。











【プチ用語紹介】

・ディノマ帝国

西大陸に位置する帝国。

その歴史は古く、1325年にロムラナ帝国に変わる真の帝国としてなら主張をした有力貴族のディノマ家が建国した。

軍事的には陸軍が強く、西大陸の中では1番と言っても差し支えなく、大陸間戦争の時代にはアルディス軍らの攻勢を防ぎ切った立役者とされている。


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