湖のほとりで
一気に話を進めたいような、じっくり書きたいような、どっちつかずの筆運びになっちゃったかなぁ。
7人での移動は、順調そのものだった。
魔獣と出くわしてたら別だったろうけど、相手が魔物なら、少々成長したものでも一瞬で倒せてしまう。
戦力が増大しただけでなく、コウテイという治療を得意とする者がいるのも心強い。
オレやカルラ、ヴィカも治癒魔法は使えるが、コウテイほど繊細に無駄のない治療は行えない。些細な怪我に大量の魔法力を注ぎ込んで、怪我は治せても気脈の流れを崩してしまうような荒っぽい真似しか出来ないのだ。
魔獣と戦ったときとかに、魔法結晶を使って大怪我を一瞬で治したりもしたけど、後の反動は馬鹿に出来ないものがあった。
その点、コウテイは必要な魔法力だけを効果的に使って、綺麗に怪我を治した上で、副作用も起こさせない。非常にありがたい存在だ。
「それで、ヴィシュたちの目的の場所までは、どれぐらいかかりそう?」
「ヴィカ、どう?」
「そうですね。この進行速度だと2~3日かかるかも知れません」
「魔物は避けるようにして、急いだ方がいいのかな?」
「出来れば、少しでも早くたどり着きたい。でも、無理に避けて背後から襲われるのもイヤだし、必要最低限の戦闘だけで抑えたいってとこかな」
「なるほど。じゃあ、魔法結晶を稼ぐのは、帰り道でってことにしようか。ザビーシュたちも、それでいい?」
「ああ、問題ない。奥に進んだ方が、大物もいそうだしな」
ザビーシュが、ニヤリと笑う。数ヶ月前に感じた貴族の少年らしい甘さが抜けて、戦士の風格が漂っている。そうとう、ガイナークさんにシゴかれたのだろうか。
「みんな、わずかな間にたくましい雰囲気になったね」
「そりゃあ、兄貴たちに死ぬような目に合わされたからなぁ」
ザビーシュが遠い目をして言う。タイザンとコウテイも、同じ表情になっている。
「た、大変だったんだね・・・」
「そういうヴィシュだって、なんか雰囲気が変わってるよ。また、とんでもない敵を相手にしたんじゃないの?」
「え、そうかな?まあ確かに、とんでもない敵には出くわしたけど」
シヴァたちが聞きたがったので、カルベス・ダンジョンでの戦闘を語って聞かせた。
「人型の魔物かぁ。それって、魔人が生まれた可能性もあるんだよね?」
「そうだね。魔人が生まれる条件がはっきりしてないけど、あの魔物があのまま成長するかどうかしたら、中から魔人が出て来たのかも知れないね」
「魔人が誕生してたら、どうなったんだろう?敵になるとは限らないとしても・・・」
「私たちの先祖も魔人と謂われています。伝承でも魔人が人を滅ぼそうとしたという話はありませんし、魔物でいられるよりは魔人にまでなってもらった方が、いいのかも知れませんわ」
「だったら、オレとカルラは、よけいなことをしちゃったのか・・・」
ヴィカの言葉に、さすがに傷つくオレ。どんな目に合ったと思ってるんだ。
「いえ。人型の魔物が必ずしも魔人を生むとは限りませんし、生むとしても、どれだけ時間がかかるか分かりません。その間、多くの人間が犠牲になるのは確かですから、ヴィシュヌさんたちのやったことは賞賛されこそすれ、非難されるべきではありません」
「ヴィカは、魔物よりは魔人の方がマシと言ってるだけで、魔人が生まれることを望んでいる訳ではありませんわ」
オレが機嫌を損ねてるのを感じたのか、カルラが囁いてきた。
ムカムカしかかっていた気持ちが、スッと楽になる。我ながら、現金なものだ。
「うん。カルラ、分かってる。ありがとう」
オレの気持ちが静まったと見るや、優しく微笑んで、またいつもの物静かなカルラに戻る。大人な女性だよね。まだまだオレは、ガキみたいだ。
シヴァたちと合流して2日目、ちょっとした湖にたどり着いた。
1周するのに数時間はかかりそうな広さだ。
その周囲には大きな木も生えておらず、青い空が見えている。鬱蒼とした森の中を、魔物と戦いながら進んできた身としては、ホッとするような空間だ。
湖畔には魔物の白い影も見えてはいたけど、誰が言うでもなく、そこで休憩を取ることになった。
料理の得意なコウテイが、早速、食事の準備を始める。
ある程度の食材は、みんなで手分けして持ち込んでいたし、途中でウサギを狩ったり、食べられる草を集めたりもしていた。
目の前の湖で魚も調達したいところだけど、さすがにそこまで悠長にしてはいられない。それに、この顔ぶれで釣りをやっていると、魔獣に殺されかけた記憶が蘇ってくる。魚は、我慢だ。
ちなみに、カルラもヴィカも、料理は出来ない。
コウテイの作ったシチューを堪能しながら、わずかな時間とはいえ、のんびりした空気を楽しめた。
同時に、シヴァたちを連れて行けるのも、ここいら辺りまでかなと思い始める。
最初は魔法で眠らせて置いていこうと思っていたけど、考えてみたら、こんな魔物がウロついてる場所で眠らせておけないことに気づく。なんで、そんな当たり前のことを見落としていたんだろう。
うまいウソで別行動に持って行ければいいんだけど、あいにく口が回る方ではないし、いいウソも思い浮かばない。
ここは、素直に「帰ってくれ」と頼むべきだろうか。でも、絶対に帰ってはれないだろうな。
「ヴィシュ・・・」
「え?」
「何を考えてるかバレバレだから先に言うけど、ぼくら、最後まで付き合うつもりだからね」
「あ・・・」
先手を打たれました。
カルラとヴィカが、なんとも言えない表情でこちらを見ていた。




