魔獣の猛威
この物語のために作った設定を、全て語ることが出来るんだろうか?
昼夜を問わぬ強行軍の末、2日目の午後になってオレたちは目的の湖に到着した。
そこでのんびりと釣りをしているザビーシュたちを発見して、がっくりと膝をつくシヴァ。
オレも、おんなじ気持ちだ。
シヴァがどれだけ心配したと思ってるんだ。
「あれ?シヴァも来たのか~?」
釣竿を片手に、白金色の髪の美少年がのん気そうに近づいてきた。
髪の色からして、貴族の血が濃いようだ。彼がザビーシュ・トルクか。
3人のうち、名字持ちは彼だけのハズだ。
「ザビー、すぐに引き上げるぞ!」
「えぇ~、なに言ってるの?まだ大して魔物を狩ってないよ~」
残りの2人、タイザンとコウティも腰を上げる様子はない。
「ダメだ!ヤバいんだ。この辺りに魔獣がいるんだ!!」
「魔獣~?すっげぇ~。いきなり、大物じゃん!」
「バカか!オレたちが束になったって勝てるような相手じゃないんだ!
すぐに荷物まとめろよ!!」
シヴァが頭に血を昇らせていた。
ずいぶん珍しい光景だ。
そんなことを思っていると・・・視界の隅に、漆黒の女が立っていた。
スレーンドラジット。
カルラの影に潜み、常に彼女を護っている分身。
「!!」
オレとカルラが、同時に声なき声をあげた。
大鎌を振りかざして黒い風と化すスレーンドラジット。
オレも背中の盾をかざしながら、彼女のあとを追う。
スレーンドラジットの向かう方向から、強い魔力の塊が飛んでくるのが分かる。
炎だ。
スレーンドラジットが炎の塊に向けて、大鎌を振りぬいた。
大爆発が起きた。
スレーンドラジットの漆黒の身体が吹っ飛ぶ。
耳を聾する轟音と熱風に耐えながら、オレは盾をかざした。
背後には、ザビーシュたちがいる。
盾ごと吹き飛ばされそうになる圧力を、熱を、必死に防ぐ。
盾でカバーし切れない足が熱い。多分、燃えている。
「ヴィシューーーっ!!」
シヴァの心配そうな声が響いた。
良かった。無事みたいだ。
炎を防ぎ切ったオレは、がっくりと膝をつこうとして、誰かに抱きとめられた。
「ここはダメだよ!地面が燃えてる!」
そのまま、腰を下ろして大丈夫な場所まで引きずって行かれた。
湖からタイザンとコウティが走ってくるのが見えた。良かった。彼らも無事か。
「コウティ、治癒を頼む!!」
「分かった!任せて」
コウティがオレの身体に治癒魔法を使う。
どうやら、太ももから下が炎にあぶられて大変なことになっているらしい。
「・・シヴァ、ヤツが来る・・・ぞ」
治癒魔法のおかげで痛みがやわらぎ、やっとそれだけ伝えられた。
「そうか。今のは魔獣が・・・!」
シヴァが背中の大剣を抜いた。
その隣に銀色の影が並ぶ。ラサーヤナか。
カルラは、後方でラサーヤナの召喚を行っていたのだ。
オレに駆け寄ってくる前に、自分のすべきことをする。いい女だ。
湖の向こう側の木々を押し分け、白い巨体が姿を現した。
印象としてはトカゲだ。
ただし、その頭は、人間の胸の高さぐらいの位置にある。
体色は、白一色ではなかった。白をベースに、血管のように赤い線が走っている。
純粋な魔獣ではないのだ。
魔獣の血を引く獣。
しかし、ここまで特異な外見と特殊な能力を持っていれば、やはり魔獣と呼称される。
ラサーヤナが銀色の風と化して、湖面を走った。
「ザビーたちは、ヴィシュを頼む!!」
シヴァも走り出す。
「お、おう!」
ザビーシュがへっぴり腰で長剣を抜く。
タイザンも、大斧を構えた。
コウティは、治癒魔法を使い続けてくれている。だいぶ楽になってきた。
オレは、腰のポーチからポーションのビンを取り出すと、一息に飲んだ。
コウティの魔法は外部からオレの身体を癒してくれているが、今度はポーションが体内から治癒を開始する。
内臓も傷んでいたのか、ぐっと呼吸が楽になった。
ポーションの空きビンは、きちんとポーチに戻す。空きビンがあるのと無いのとじゃ、新しくポーションを買うときの値段が、ずいぶん違うのだ。
「ありがとう。もう、いいよ。
キミたちは下がってて」
オレは、自分の足で立ち上がった。
焼け焦げてボロボロになったズボンとブーツの生地の下に、再生されたばかりのピンクの肌が見えている。
コウティの治癒魔法の腕は、なかなかの様だ。
オレは魔法結晶を1つ右手に握ると、リボルバーを起動した。
最初から、出し惜しみはしてられない。
なんとか魔獣にダメージを与えて、逃げる時間を作らねばならない。
スレーンドラジットを吹き飛ばした一撃を見ても、オレたちが倒せる相手じゃないことは分かり切っている。
湖に前足を踏み込んだ体勢で、魔獣はラサーヤナを迎え撃っていた。
位置取りがうまい。
半身を水に浸したせいで動きの鈍い魔獣に対し、ラサーヤナは水面に立ったまま攻撃を繰り出せるのだ。
そこに、湖を半周したシヴァがたどり着く。
完全にラサーヤナに意識を向けていた魔獣の首元に、シヴァの大剣が振り下ろされた。
ちょうど自分の胸ぐらいの高さだ。一番、威力が乗るハズ。
案外、やれてしまったのか?
が、大剣は切っ先を魔獣の首元に潜り込ませただけで、その威力を受け止められた。
「な!?」
魔獣が全身を振るわせると、あっさりと抜け落ちた大剣とともにシヴァが吹き飛ばされる。
同時に、尻尾が鞭のようにラサーヤナに襲いかかった。
双刀で受け切ることが出来ず、ラサーヤナまでもが吹っ飛ばされていく。
「ああっ、コウティ、今度はこっちだ!」
背後で聞こえた悲痛な声に振り向くと、カルラが激しく血を噴きながら倒れていた。
慌ててコウティが駆け寄っていく。
そうか。自分の分身のラサーヤナがダメージを受けると、カルラもただでは済まないのか。
じゃあ、最初にスレーンドラジットが吹き飛ばされた時は?
あの時だって、同等のダメージを受けてたってことじゃないか。
そのダメージに耐えて、更にラサーヤナを召喚したっていうのか。
オレの鳩尾に冷たいものが走る。
なんとかしなきゃ。
なんとかしないといけない。
オレが、なんとかしないといけない。
魔獣がこちらに向けて、大きく口を開く。
その口腔から、何かの塊が撃ち出された。オレたちに向かって。
黒い石のように見えた塊は、飛来しながら激しく発火した。
さっきの炎の塊は、これか!
オレは右手に起動させていたリボルバーを、続けざまに炎の塊に撃ち込んだ。
「バンっ!バンっ!バンっ!・・」
炎の塊が爆発する。
最初の一撃の再現だ。
またも、盾の陰に隠れて耐えるしかできない。
ビリビリと盾が振動する。
治してもらったばかりの足が、また炎に包まれる。
髪だって燃えてるハズだ。
カルラたちは、無事か?
オレは、ちゃんと炎を防げてるのか?
朦朧とするオレの視界の中を、魔獣はゆっくりと湖を渡ってきた。
頭の中でガンガンと轟音が鳴り続けている。
自分の足で立ち続けることが出来ない。
もう、盾を持ち上げる力もない。
オレは右手をゆっくり持ち上げると、魔獣に狙いを定めた。
「・・・バンっ!」
人差し指の指先に魔法で生成された弾丸は、魔獣の額に吸い込まれるように命中し。
弾かれた。




