魔物と魔獣
主人公の休養期間、早くも終了しました。
学校に行ってるハズの時間に、シヴァが血相変えて駆け込んで来たのは、それから3日後のことだった。
オレは、宿屋で朝寝を決め込んでいた。
この3日で、オレはすっかり自堕落になっていた。
ちなみに、カルラも同様だ。放っておくと、昼まで平気で寝ていたりする。
「ヴィシュ、大変なんだ!」
「ほえ?どうした?」
つか、部屋の鍵、誰が開けたんだ?
「ザビーたちが、自分たちだけで行っちゃったんだ!」
「ザビー??」
「ザビーシュ・トルク!この間、一緒に魔物狩りに行きたがってるって言った友だちだよ!!」
「ゼダーシュ・トルクみたいな名前の友だちだなぁ」
「ゼターシュの子孫なんだよ!
それより、手伝って。お願い!」
そんな超有名人の子孫がいるとは、さすがナラガ。
いや、そんなこと思ってる場合じゃないな。
オレは、やっと目覚めてきた。
「連れ戻しに行くの?
剣の腕も立つって話だし、治癒魔法の使える仲間もいるんなら、そんなに慌てる必要ないんじゃないの?」
「普通ならそうなんだけど、近くで魔獣が目撃されたらしいんだ。
ギルドでも、討伐クエストが出てるって話で・・・」
「魔獣だって!?確かなの??」
「ぼくも学校で聞いただけだけど、実際に討伐狙いのパーティーが何組か出発したって」
「それは、ヤバいね。
すぐに準備するから、シヴァも準備してきて。
すぐにでも出発したいんだろ?」
「もちろん!あっと言う間に準備すませてくるよ!!」
シヴァがすっ飛んで行く。
オレはベッドから出ると、この宿屋備え付けの寝巻きのままカルラを起こしに向かった。
「カルラー」
何度か扉をノックすると、クールな美少女が台無しの寝癖ボサボサ姿でカルラが顔を出した。
「緊急事態。出来るだけ早く狩りに出る準備をして」
「分かりました」
寝ぼけてるクセに、なんの質問も返さずに部屋に引っ込む。
尊敬すべき腹の据わり方だ。
さて、オレも急いで準備しなきゃ。
しかし、魔獣とはなぁ。
ため息が出るよ。
魔法結晶化した人間が魔人なら、魔法結晶化した獣が魔獣と呼ばれるものだ。
もちろん、一口に魔獣と言っても、大型の獣が元になったものから昆虫が元になったものまで様々なわけだけど、その戦闘力は同サイズの魔物の比ではない。
魔物が意思も思考力も持たないただの捕食用マシーンなのに対し、魔獣はきちんと意思と思考力を持っている。
そして、魔法結晶の身体を持つヤツらが意思を持つということは、魔法が使えるということなのだ。
伝説に出てくるドラゴンのように火炎を吐く魔獣もいるらしい。
はっきり言って、下級冒険者程度がなんとかできる相手じゃない。
今回は、シヴァの友だちを無事に連れ戻すことだけに専念せねばなるまい。
1時間ほどでシヴァは戻ってきた。
久しぶりに見る大剣を背負い、1年前とは違う高級そうな革のジャケットを着ていた。
動きを妨げる防具は、付けない主義らしい。
かく言うオレも、ナラガで手に入れた革のジャケットを着ている。
このジャケットだけで、剣の攻撃が防げるという優れものだ。
その上に軽い部分鎧を着けたいところだけど、どんな物にするかまだ思案中だった。
カルラは相変わらずの真っ黒なローブ姿だ。
「魔獣ですか?」
「そう。宿の主人にも確かめたけど、本当らしい。ギルドから注意喚起が回ってるって言ってた」
「魔獣を狙うのですか?」
「いや、さすがにそれは自信ないよ。カルラなら、どう?」
「私も魔獣には出会ったこともありませんが、旅に出る前の評価では、私ではまるで歯が立たないそうです」
そう言うカルラの表情が悔しげだ。
クールに見えて、負けず嫌いなのだ。
だからこそ、貴族の生活を捨てて冒険者になった訳だけど。
「じゃあ、今回はシヴァの友だちの救助を最優先にしよう。
魔獣に出っくわしたら、なんとか逃げ切ろう」
「簡単に逃げ切れるとは思えませんが、分かりました」
やっぱり、腹が据わっている。
まだしばらく居座るつもりだった宿を引き払い、オレたちはナラガを後にした。
シヴァの母親にこの話が伝わってるかは知らないが、今は気にしないようにしよう。
「ザビーくんたちがどっちに向かったのかは、分かってるの?」
「北の方にある小さな湖を目指すって言ってたよ」
「了解。案内頼むね」
ザビーシュ・トルクくんは16歳。伝説の勇者ゼターシュ・トルクの血を引いてるがために、英雄願望が強いらしい。
今回の首謀者も、当然のように彼だそうだ。
しかし、言うだけあって剣の腕は立ち、すでに魔物も何体か倒したことがあるという。
そんなザビーシュが急に無謀な真似に走ったのは、16歳という普通なら生涯の職業が決定されてしまうトシを迎えて、彼なりに思うことがあったということか。
ただ、学生の間は、16歳だろうと職業決定は待ってもらえることになっている。
そんな彼と行動をともにしているのは、タイザンとコウティの2人。
タイザンは16歳ながら2メートルもあろうかという巨漢。コウティも同じ16歳で、魔法医の父親からの教育で治癒魔法が使えるという。
将来は、名の知れたパーティーにもなり得る取り合わせだ。
こんな段階でつまずかせるには、惜し過ぎる。
オレたちは、出来るだけ魔物との戦闘を避け、ひたすら北に向かった。
結界を張ったり、魔法の強化用に使う程度の魔法結晶は、売らずに残しておいたから、心配ない。
避けるのがロスになる魔物だけ相手にしたが、カルラとシヴァがいれば、一瞬で片が付いた。
食料も2~3日分は買ってきてるから、ウサギや鳥を狩る必要もない。
エラそうに2人に指図しながら出てきたけど、オレが一番必要なさそうじゃないか。
スネークソードがあれば、まだ活躍できたんだろうに。
また、軽く鬱になりそうだ。




