第三十二話 赤き神狼と海
エルフェリア聖王国の王城と、大聖堂は並んで立っている。
二つの建物の中間には庭園があるのだが、一般人は立ち入ることが出来ない。
ただ、遠目には見ることは出来る。そんな場所で待ち合わせた相手はコニーだ。
「バンクル!こっちだよ~」
「ピュイ!」
「アハハハ。可愛いな~」
そんな庭園で、笑いながら無邪気に走り回る青年と、幼いカーバンクルを、冷めた目で見るのは俺だ。
「それで俺に何の用なんだ?」
「あ、はい。実はスラムにも、新しく教会を作ることになったんです」
「ふ~ん」
「その興味無さそうなの止めてくださいよ。それで、その教会は精霊や聖獣の保護を掲げようかという話になりまして、ギルド支部の二階とか、庭とかに作らせて欲しいそうです」
「冒険者ギルド食料支部スラム店教会に、なるけど良いのか?」
「もうちょっと名前は何とかなりません?」
「事実を並べたんだから、分かりやすくて良いじゃないか」
「名前は変えてくださいね」
「ギルドに教会を置くのは良いが、敷地内かギルド内かは決めてくれ。それと、名前を変えたいのなら候補を出せ」
「分かりました。名前の件は、セラフィエル様に相談しますね」
「俺は当分、聖都を離れるからな」
「え?どこに行かれるんですか?」
「ここからもっと西に行くと、飯の美味い島国があるみたいだから、ちょっと行ってくる!」
「気を付けてくださいね。あっ!イグニスさんの心配じゃなくて、島国さんを気遣ってます!」
「さすコニ!」
バンクルはよく分からず聞いていた様だが、別れは感じ取ったのか、元気よく手を振ってくれた。
そして俺が辿り着いたのは、断崖絶壁だった……。
そこにいるのは楽しそうに笑う男女二人と、遥か下方に白く波打つ荒れた海を見詰める神狼……いや違う!赤髪の少年!
「なんてこった!どうやって島国に行くんだよ!」
ここまでは本当に順調なものだった。
偶然見かけた巡回中のリブラに手を振り、西方面へまっすぐやってこれた。
人化が解けないようにお弁当もちゃんと食った……なのに……。
「島国ってグラナリア王国のことだよね?半刻ほど南に行けば、港町ヴェンラールがあるよ」
まるで神の啓示のように、言葉が降りてきた。
「……!?南に行けば良いのか!」
「そう。だからそんなに落ち込まないで?悲しそうな姿に声を掛けてしまったよ」
「下を見ても荒れる海しかないしな!南に行って船に乗る!」
「そうね……俯いているだけじゃ、前には進めないものね」
そう言った女には薄く瘴気の靄が付いていたから、通りすがりに消しておいた。神狼の本能!
(いやあ、親切な二人に感謝だな!待ってろグラ……なんとか王国!)
***
「い、行ってしまわれた……」
――俺の名前はライナー。ここから少し南にある、港町ヴェンラールにある商会の次男だ。
隣で微笑む彼女はジュリナ。港町の町長が溺愛する末娘になる。
そんな俺たちは、沈んだら二度と浮き上がれないと、言われている断崖に来ている……。
ジュリナに誘われて来たが、来るんじゃなかった……。
「やっぱり、身投げなんてよくないよ。ジュリナ……考え直さないか?」
「……なに?怖気づいたのかしら?」
「なにも死ぬ必要はないだろ?」
「でも、父に交際を反対されたのよ!それなら、こうするしかないじゃないの!?」
「いやいや、飛躍しすぎだろ!?俺は君と付き合ってもいないじゃないか?」
「それが何なのよ!嫌いじゃないなら、好きになっていけば良いじゃない!あの娘ね……マリーの事が好きなんでしょ!あいつに盗られるくらいなら此処で……」
「なんてこった!どうやって島国に行くんだよ!」
突然嘆く声が耳朶に響く……。
見ると、赤髪の少年が両手を地面につき嘆いている……しかも大声で。
どうやら、隣国のグラナリア王国へ行きたいみたいだ。
グラナリアなら、港町から行けると教えてやろう。
「南に行って船に乗る!」と言って、少年は爽やかな風と共に、勢いよく駆けて行った。
「帰るわよライナー!あの頑固親父を、殴ってでも交際を認めさせるわ!」
彼女は肩を怒らせ、力強く帰路についた……。
「だから~、俺は君と付き合う気はないんだって!」
相変わらず、俺の声は彼女には届かないみたいだ……。
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