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現れたのは、3年前に事故で失ったはずの恋人…?  作者: ネロ
ハッピーエンド

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12/12

目覚めの朝

詩乃が意識を取り戻したのは、事故からちょうど二週間目の朝だった。

蒼はいつものように、病室の椅子で詩乃の手を握り、うつらうつらしていた。

モニターの音が、いつも通り規則正しく響く。

看護師の足音が近づき、「詩乃さんの……!」という小さな驚きの声。

蒼は飛び起きた。

詩乃の目が、ゆっくりと開いていた。

焦点の合わない瞳が部屋をさまよい、やがて蒼の顔に止まった。

「……蒼、さん……?」

弱々しい、

かすれた声。

でも、確かに詩乃の声だった。

蒼は言葉を失った。

涙が溢れた。

手が震えた。

「詩乃……詩乃!」

詩乃は力なく、でも確かに微笑んだ。

蒼は看護師が駆けつけるのも構わず、詩乃の手を両手で包み、額を押し当てた。

「よかった……本当に、よかった……」


医師の診察後、詩乃は少しずつ話せるようになった。

まだ声は弱く、体はほとんど動かない。

でも、意識ははっきりしていた。

蒼がベッドサイドに座り、詩乃の手を握ったまま何も言えずにいるのを見て、詩乃が先に口を開いた。「……ごめんね、心配、かけたね」

蒼は首を激しく振った。

「謝るな……俺がもっと早く、君を……」

詩乃は弱々しく、でも優しく蒼の言葉を遮った。

「あの夜の話、ちゃんと覚えてるよ。

蒼さんが、凛さんのこと私に話してくれたの。

忘れたくないって、怖がってるって、全部。

……あんな話を聞いた後に、私があなたを置いていく訳が無いでしょ」

蒼の目から、また涙がこぼれた。

詩乃は力を振り絞って、蒼の手をぎゅっと握り返した。

「……私はずっと、あなたのそばにいるから。凛さんのことも忘れなくていい。

私、蒼さんが凛さんを愛してたこと、ちゃんと受け止める。

だから、一緒に新しいページ作ろう?」


蒼は声を上げて泣いた。

長い間抑え込んでいた、喪失の恐怖、忘却の不安、愛したいのに愛せない苦しみ。

すべてが詩乃の言葉に優しく溶かされていった。

「詩乃……ありがとう。俺、もう逃げない。君をちゃんと愛する。凛の分まで幸せにする」

詩乃は涙を浮かべて微笑んだ。

「あいしてる、蒼さん」

蒼は詩乃の手にそっとキスをした。

「俺も、愛してる。ずっとそばにいる」


病室の窓から、春の陽射しが二人を優しく包んだ。

蒼のトラウマは完全に消えたわけじゃない。

時々、不安がよぎるかもしれない。

でも、詩乃がいる。

詩乃が、「そばにいる」と言ってくれた。

それが蒼にとっての、最大の救いだった。


凛の記憶は、優しく胸に残ったまま。

新しい愛がその隣に、静かに、温かく灯った。

蒼はもう、失うことを怖がらない。

愛することを選んだ。

詩乃は、蒼のそばでゆっくりと回復していく。

二人はありふれた、でも誰よりも温かな日常を、これから一緒に紡いでいく。


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