表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現れたのは、3年前に事故で失ったはずの恋人…?  作者: ネロ
ビターエンド

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/12

想いを胸に

詩乃は、事故から四十二日目の朝、静かに息を引き取った。

蒼は、病室で詩乃の手を握ったまま、その瞬間を、すべて見届けた。

モニターの音が、長く平らな音に変わる。

医師が静かに、時間を告げた。

蒼は声を上げず、ただ詩乃の手に額を押し当て、涙を流し続けた。

「詩乃……ごめん……守れなかった……」

詩乃の両親が、蒼を抱きしめて一緒に泣いた。


葬儀の日。

蒼は、詩乃の遺影をぼんやりと見つめた。

白いカスミソウの花が、棺を優しく包む。

詩乃の母親が蒼に、詩乃の最後の言葉を伝えた。

「詩乃は、意識が朦朧とする中で、

『蒼さんに、ありがとうって伝えて』って、言ってました。

『蒼さんが、少しずつ笑ってくれるようになったのが、嬉しかった』って」

蒼は、ただ頭を下げ、涙をこぼした。


詩乃は逝ってしまった。

蒼の胸に二つの喪失が重く、深く、刻まれた。

凛と、詩乃。

二人の女性を愛した罪で、蒼は自分を永遠に責め続けた。


葬儀の後、蒼はアパートに戻り、部屋に閉じこもった。

酒を飲み、写真を眺め、後を追う衝動に何度も駆られた。

薬を手に取り、刃物を握り、高い場所に立つ。


でもそのたび、二つの記憶が蒼を止めた。

詩乃の言葉。

そして、あのバーで出会った柊と理央の言葉。

「失う恐怖は、完全に消えないかもしれない。

でも、それでも愛することを選べば、失った人も、きっと喜んでくれる」


蒼は、自らの手で命を絶つことを、できなかった。

詩乃が「そばにいる」と言ってくれたのに、自分だけが逃げるのは裏切りだと感じた。

柊と理央が「自分のペースでいい」と教えてくれたのにすべてを投げ出すのは、許されないと思った。


蒼は、生き続けることを選んだ。

でもそれは、幸せではなかった。

仕事には復帰したが、誰とも深く関わらない。

家族とも、距離を置く。

新しい恋は、作らない。

いや、作れない。

詩乃の写真と凛の写真を胸に抱き、静かに歳を重ねる。


時々、詩乃の好きだったカフェに行き、一人でコーヒーを飲む。

詩乃のグイグイを懐かしく、苦しく思い出す。

失うのは、本当に辛い。

それを恐れて、前に進むことを完全にやめた。


でも、詩乃の言葉と柊・理央との出会いが、蒼を完全な闇から救い出した。

自らの手で命を絶つことは、しなかった。

ただ、生き続ける。

想いを胸に、二人の記憶を優しく、痛みを伴いながら抱き続ける。

蒼は一人で穏やかに、でも孤独に、人生を歩む。

新しい愛は、ない。

新しい光は遠く、ぼんやりとしか見えない。

でも、後を追う衝動は抑えられた。

詩乃が「そばにいる」と言ってくれたから。

蒼は自分のペースでいつか、少しだけ、前へ歩き出すかもしれない。

でも、今はまだ、想いを胸に、静かに立ち止まったまま。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ