お忍び
久しぶりの!!!!!!!!領都!!!!!!
わーい!!
街に降りるのは花祭り以来なんじゃないだろうか。あれから一月程経って、祭りの名残は欠片もない。
普段なら日常の予定に忙しそうな街の人に追い払われているうちに迷子になるところだが、今日はぞろぞろと護衛がついているので邪険な態度は取られない。フードで顔を隠してるのもあって微妙に目を逸らされてしまうけど。
ともあれ道に迷うことなく無事に手芸屋さんに着くことができた。
店内にはカラフルな糸や布地、綿、おしゃれな裁縫道具が所狭しと並んでいる。そういえばあんまり他の店入ったことないけど、この品揃えはすごいんじゃないだろうか。
「…シャルル、これ、どう使うの?」
「指抜き?こうやってはめて…縫う時に針の頭を当てられる様にするんだよ。針が指に刺さらなくなって力入れやすいから」
「…あ、シャルルも前、使ってた…」
マックス様は裁縫道具に興味がある様でいろいろ手に取っては質問してくれる。
お忍びで敬語はNGと言われたので今日はマックス様相手にもタメ口だ。なんとなく新鮮な気分。
「マックスも裁縫してみる?」
「…うん…したい。シャルルが、楽しそうだから」
マックス様が少し頬を染めて微笑む。天使か????思わず撫でたくなってしまう。
最近の彼は表情がふわふわしていて大層かわいい。当初の無表情は緊張していたのだろうか。
今でも侍従達に囲まれてる時は能面の様な顔をしている。
やっぱり彼ら悪影響だよなぁ…
「…マックスはどうしてあのことアンリエット様に言って欲しくないの?」
マックス様の目の前で堂々と誹謗をする従者達をこのままにはして置けない。直接の雇い主であるアンリエット様に伝えるべきだと思うんだけど。
「…アンリエット様に、心配かけたくない…から」
「そっか…」
心配かけたくないと言われると伝えるわけにはいかない。でもアンリエット様はマックス様に頼って欲しいんじゃないだろうか。
「…それに、…」
マックス様は意を決した様に顔を上げた。
「自分で解決したい。…怒ってもいいって、言ってくれたから」
まっすぐな視線は力強くて、圧倒される様なオーラがあった。
「わかった、マックスがそうしたいなら応援させて。僕が役に立てることがあったら手伝いたいし」
「…ありがとう、シャルル」
ふわふわ笑ってたり固まってたりする時の印象に引っ張られちゃうけど、マックス様は芯が強い人だ。彼が自分で解決すると言うのならきっとやり遂げるのだろう。友達としてできることはしたいけどね。
そんなこんなで買い物を終えて、時刻はお昼前。
せっかく街に降りたのにすぐ帰るのも惜しいし、少し早いが食事でも取ろうと言う話になった。
「ジェレミー、おすすめのご飯屋さん知らない?レオも僕もあんまり知らないんだよね」
「外食の機会なんかないからな…」
「僕?あんまりこっちの方来ないから詳しくないけど。…うーん、ニコルの食堂とか?」
「!!!」
ニコル!花の妖精の子だ!
あっぶない…知ってるって口滑らすところだった。ニコルは桃色のふわふわした髪と笑顔がすごく可愛い子で、母親がやってる食堂の看板娘だ。パレードの隙間時間に少し話したから覚えている。
ジェレミー曰く、ニコルの食堂は看板娘のニコルと物珍しくて美味しい料理が有名でお昼時にはお客さんが絶えないそうだ。元々宿屋さんだったから2階に個室もあるらしい。
ピークの時間には被らなそうだし、個室を借りられたら昼食にはぴったりかな。
ジェレミーが先に行ってお店の人と話をつけてきてくれたので、早速食堂に向かうことになった。この世界で外食するのは初めてだから正直ワクワクする。