マックス様の事情
「…すごいね、シャルルの服ってこうやって作ってるんだ」
「ありがとうございます。見様見真似なのでちゃんとした職人さんの服のようには出来ませんけどね…」
王子様…もとい、マックス様とはお互いの部屋で会うようになった。愛称呼びも許されたし、一緒にいる時は仮面も外している。
植物やお互いの話から発展して、今日は私の部屋で裁縫をすることになった。
今縫っているのはレオの新しい騎士服。お父様との交渉がうまく行って、夏場はタイトなスタイルの騎士服を着用しても良いという話になったのだ。基本的なデザインは現行の騎士服に寄せつつも、レオのスタイルの良さを活かすシルエットに仕立てていく。
「本当に綿詰めないんだね?」
「うん、なくても型崩れはしないし。ジェレミーは綿入りで暑くないの?」
「暑いけどファッションってそういうものでしょ。そのデザイン……だと、僕の良さが活かしきれないだろうし」
一瞬マックス様の方をちらっとみたジェレミーが言葉を選びなおす。いつもの様子から推測するに見窄らしいとか言おうとしたんだろう。
ジェレミーはもともと今の騎士服でいいと言っていた。
けれど、どうやって服を作るのか興味を持っている様子だったので、マックス様の許可をもらって招待した。
マックス様は意外にもジェレミーには好感情を持っていたようで、理由を聞いてみたら初めて会った時に顔を顰めていなかったからだそうな。
うーん、ハードルが低い。
王宮の環境本当どうなってるんだろ。
お母様に王宮で働く人はどんな人なのか聞いてみたけど、基本は前任者からの推薦を受けた人か雇用主と縁がある貴族の次男三男らしい。
つまりガチガチのコネだ。前任者の推薦という形で能力のある平民がたまに入ってくることもあるが、雇用主から特別目をかけられないと基本は入ってすぐ辞めていく。
うちの家は実力主義を謳っているが騎士団長は分家の人らしいし、上の方のポジションはそうやって埋まっていくものなんだそうだ。
だからこそ謎な部分がある。アンリエット様繋がりで雇われた人ってうちの家とも繋がってるだろうし、実の息子(しかも王位継承権アリ)にあんな態度取る人を雇うかなぁ…?
「うーん…」
「…シャルル、どうした…の?」
「ええと…その。マックス様の侍従とか護衛の人ってどんな人なんですか?ただ、興味本位で!」
アンリエット様に言うためじゃないよ!!とアピールしておく。
「……いい人、だよ」
「いい人???????…ちなみにそれはどうして?」
アレが??なんで??大人としてかなり最低の部類じゃない??
「…私の侍従になってくれた、から」
「王子様の侍従とか人気職じゃないんですか?」
偏見だけど高給取りっぽいし。
マックス様にそう尋ねると彼は俯いて自嘲するような笑みを浮かべた。
「…ちゃんとした、王子様…ならね」
「ちゃんとした…?」
「…私はこんな顔、だろう。…生まれた時から、国を滅ぼす、と…言われていた」
マックス様は視線を落としたままとつとつと語り出す。
それは、授業では習わなかった先先代の王の話だった。
リュシアン・ルミエール、ルミエール王国の第12代国王。
彼は正妃の長男として生まれてきたが、父親にも母親にも似つかない醜い容姿をしていた。そのため幼い頃からその存在を隠されて育ち、表向きには弟が王太子として扱われた。
しかし彼は莫大な魔力と王家の属性魔法である金属性と母親の実家の属性魔法の火属性のそれぞれに高い適性を有していた。金属性魔法は防御に秀でており、王都、引いては王国全土を魔物や他国の侵攻から防ぐ魔法障壁を張ることができる。一方の火属性魔法は攻撃に特化しており、リュシアンの魔力量ももってすれば敵の軍隊を焼き払うことすら可能だった。
圧倒的な武力を持った彼は弟を殺し、父王を廃して王位についた。その後、隣国に侵略して軍隊を虐殺しただとか、王国全土の改革と称して美男美女を捕え火に焚べただとか…ここはちょっと眉唾だけど。
王家の恥ずべき歴史として貴族家の中でも私たちの世代には教えられていないが、王宮周辺で働く人たちには周知の事実らしい。
「……私の容姿は、リュシアンに瓜二つなんだ」
「…それで侍従になることを希望する人が少なかったんですね」
「…リュシアンは、使用人も虐げられていたと言われているから」
マックス様は黙って目を瞑る。
「……私がこんな見た目じゃなければ、アンリエット様も王宮で遠巻きにされることもなかった。」
「…」
「…彼らは恐れているんだよ。私の容姿を、私が彼らを虐げる可能性を。」
「マックス様はそんなことなさらないでしょう」
マックス様はリュシアンではない。身分に分け隔てなく関わるし、友達なって欲しいと言った私に恐ろしかっただろうに素顔を見せてくれた。植物が好きで優しい性格の素直な少年だ。
「…どうだろうね。
私は…彼らのことを憎いと思ったことがある。彼らの口を閉じさせて、私の視界から遠ざけて。2度と寄ってくるなと思った。彼らはいい人だよ。こんな私の世話をしてくれている。
…けれど無性に、あの人たちに消えてほしいと思う。私はリュシアンの気持ちがわかってしまうんだ」
マックス様の言葉は表しきれない激情が滲んでいた。彼が味わってきたのはどれほどの苦しみだったのだろうか。あまりに大きな怒りを、それ以上の自己嫌悪で押し潰すように平静を保ち続けてきたのだろう。
「…恐ろしくなった?」
悲しげな笑顔で尋ねるマックス様に首を振って見せる。
「いいえ。恐ろしくはありません。ただ、マックス様は優しい人なのだろうと思いました。」
「優しい…?」
優しい人だ。だってあんな目に遭ってもこうして怒ることを後ろめたく思っているのだから。
「マックス様は怒っていいと思います。
目の前であんな言葉を言われたら誰だって傷つきます。彼らを嫌うのも当然のことです。
だけどマックス様は彼らに対して不幸になってほしいと言わずに、遠ざけたい、消えてほしいと言いました。」
憎い相手に対して彼が求めたのはいなくなることだけ。同じ苦しみを味わえだとか殺してやりたいとかじゃない。マックス様がしたいと言っていることは究極自衛でしかないのだ。
ちょっと心配になるくらい優しい。
「…そう、…だけど。でも、本当は…心の中では…」
「どう思っていても口にしなかったでしょう。行動にもしたことがないのでしょう。」
「…うん」
「すごく優しいですよ。それにすごく強くてかっこいいことだと思います。思っててもやらない、は思ったこともないより難しいことだと僕は思うので。」
「…」
マックス様は呆然とした表情のまま私をみている。
私も言ったことが本心なのだと伝えたくてまっすぐ見つめ返した。銀色の瞳が揺らぎ、キラキラと光る粒が真っ白な頬を滑り落ちる。
一瞬置いて、それがマックス様の涙だと気がついた。
「…ありがとう…、あり、っありがとう…!!」
「マックス様…?!」
なっ泣いちゃった!!!
「っふ、う、…ありがとう…っ」
どどどどうしよう!!!私のせいだよね?!
さっき遮っちゃったから?!でもお礼言われてる!!
慌ててハンカチを差し出すとマックス様は私の手をがしっと掴んだ。
「…っシャルル、ありがとう。…私は、シャルルに会えてよかったよ。」
「え、あ、こっ…え、光栄です…?」
「ありがとう…」
わっかんない!!!けどなんかめっちゃ綺麗な笑顔を向けられたので悲しいわけじゃなさそう!!よかった!!!!!
手を握ったまま泣くマックス様を慰めながら私は安堵の息をついた。




