王子様と友達(前編)
我が家は伯爵邸なだけあってめちゃくちゃ広いし色々な施設がある。本館、図書館、庭園、客観、そして温室。特にこの温室というのが植物園にありそうなくらい大きくて、国内外問わず各地から集めた樹木や花、薬草等が植っている。植物が好きな王子様を誘うにはぴったりな場所だ。
何よりこの温室は厳重に管理されており、お父様とお母様がまだ婚約者同士だったころには逢瀬の場としても使われていた。そのため暗黙の了解的に温室の中にさえいれば侍従や護衛とは多少距離を置いて話すことができる。
「…昨日はすまなかった」
「いいえ、僕が出過ぎたことをしてしまいました。マクシミリアン様が謝罪されることは何もありません」
「……。…昨日の件は見逃してくれ」
見逃す…??どういうこと??
「…アンリエット様には言わないで」
「わ、わかりました。」
なんか誤解がある気がする。それか前提条件に食い違いとか…。
ううん、わからん。
少し離れたところからこちらを見ている護衛達に目を向ける。昨日あんなことがあったというのに素知らぬ顔だ。もしかしてあれが日常とかじゃないよね…?モヤモヤしながら見ているとレオが近寄ってくる。
「何かありましたか?」
「あ、ごめん。ただ見てただけ…」
「左様でしたか。御用の際はいつでもお声がけください」
「うん、ありがとう」
「あっちでなんかあったら後で教えるから」
護衛モードで様子を見にきてくれたレオは戻る前にそう耳打ちしていった。
助かる…!!
「…シャルルは」
「はい!」
「…護衛と、仲がいいんだね」
羨むような声色でぽつりと王子様がいう。
「レオは僕の友達なんです。」
「…友達…」
「マクシミリアン様、友達はいますか?」
「…」
ふるふる。
「マクシミリアン様がよろしければ、僕と友達になってくださいませんか」
王子様は、なんだかんだずっと私の話に耳を傾けていてくれるし、話す言葉はいつも柔らかい。それになんとなく波長が合う気がする。
今は話し相手という立場だけどそれを抜きにして、もっと王子様のことを知りたいと思えた。
「…ともだち」
「はい」
「…私と?」
「はい、マクシミリアン様がよろしければ」
「…」
王子様は黙ってしまった。
だめかぁ…。まだ会って間もないしね。
「…すまない」
「いえ!お気になさらないでください。もっとお互いのことがわかってからの方がいいでしょうし」
「…うん」
私は相手に興味がある≒友達派だが、相手のことを知って性格があうってなってから友達になるタイプの人もいる。多分王子様は後者なのだろう。……ただ友達になりたくないだけっていう可能性には目を瞑らせてほしい。話しかけてくれるし、嫌そうじゃないし…!
そんなふうに悶々としつつ温室を周り、中央の東屋に着いた時。
「…シャルル…、見せたいものが、ある」
「見せたいものですか?人払いした方がいいでしょうか?」
「…うん、…君の護衛は、…いいよ」
見せたいものってなんだろ?
不思議に思いながらもレオだけ東屋に呼んで人払いをする。
レオも一瞬怪訝そうな顔をしていたが、すぐに来てくれた。
石造りの東屋には南国の蔓植物が巻き付いており、外からの視線を遮っている。
「…シャルル」
王子様は東屋の周縁部に据えられたベンチに座り私を待っていた。
「…怖かったら、逃げてくれて構わない」
えっなに、虫とか…?
身構えていると王子様が仮面に手をかけて。
「…」
一つ深呼吸をしたかと思うと仮面を外し、私の前にその素顔を晒した。