王子様の来訪
構成を間違えて書いてしまった閑話を2話分、一章の終わりに挿入しました。そちらを読んでからの方が読みやすいかと思います。
真っ白なサマードレスに身を包み、髪を緑色のリボンでまとめて、鏡越しに自分の姿を確認する。
いかにも深窓の令嬢らしい新雪のような肌。長い手足がいつもより丈の短い純白のスカートによく映えて。
夏の日差しを浴びてキラキラと輝く金髪はさながらひまわりのようだ。
私の姿に手を合わせて拝み始めてしまった着替え担当の侍女は後光が見える…と呟いている。
うん、今日もパーフェクト美少女だ。
「レオ、ジェレミー。行きましょう」
部屋の外で待っていた二人に声をかけると、レオは軽く頷き隣で真っ赤になって固まっているジェレミーを小突いた。二人も我が家の騎士服に身を包んで正装モードにばっちりきめてる。
布地も飾りも精巧だけど分厚いジャケットはレオのスタイルの良さを殺してしまっていて少し残念。ある程度風通しは工夫されているようだけど熱中症になりそうで心配だ。二人がOKしてくれたら、私製の薄手でタイトな制服に変えられないかお父様に相談してみることにしよう。
何はともあれ、今日はいよいよ第一王子殿下が我が家にいらっしゃる日だ。朝から家は歓迎の準備にてんやわんやで、屋敷には緊張感が漂っていた。
程なくして小型だが豪奢な飾りのつけられた馬車が到着する。失礼がないように頭を下げてお迎えしなくては。
「アンリエット第二夫人、マクシミリアン第一王子殿下にご挨拶申し上げます。ロベール伯爵家当主、ダミアン・ロベールでございます」
「久しぶりね、お兄様。楽にして頂戴な。皆さんも顔を上げて。」
アンリエット様の声で顔をあげる。栗色の巻毛に鮮やかな翠の瞳。どことなく(顔の作りが違いすぎてどことなくとしか言いようがないが)お父様と似た雰囲気を纏う優しげな女性だ。
アンリエット様の後ろにいるのがマクシミリアン様かな?護衛の騎士とアンリエット様の影でよく見えない。
「貴女がシャルロットね」
あんまりジロジロ見るのも良くないかな…と思っているとアンリエット様に声をかけられた。
ひぃ、高貴なオーラがすごい…!
「初めまして。シャルロット・ロベールと申します。アンリエット様、マクシミリアン様にお会いできて光栄です。」
緊張しながらもなんとか覚えた通りに挨拶をする。
アンリエット様は初めましてと微笑み、衝撃の発言をした。
「花祭りの時はありがとう。マックスの花を受け取ってくれたのは貴女でしょう?」
「花…」
花????マックスってマクシミリアン様のことだよね…?
混乱しているとアンリエット様の後ろからマクシミリアン様が歩み出てくる。
身長はレオより少し上くらいだろうか。身につけている紺色の正装はふんだんに綿が使われて風船のように膨らみ、繊細な金の飾りが施されている。
一方で白い手袋をつけた手や首元は華奢でしなやかだ。大きな仮面は口元だけが空いていて、艶ぼくろがのぞいている。
「もしかして…」
あの時お菓子をあげた子?!
「…」
マクシミリアン様が何も言わずに少し頷く。
口元のほくろが記憶の位置と同じな気がする。そういえば身分の高い人が祭りにお忍びくるって言ってたっけ…。
「マックスは体が弱くてあまり同年代の子と関われたことがないのよ。シャルロットもシャルルも話し相手になってくれたら嬉しいわ」
呆然としているうちに大役を任されてしまった。マクシミリアン様の方をチラリと見ると相変わらず読めない表情で黙っている。
お母様が普段と変わらない様子で微笑んでいるのをみるに、どうやらこれは既定事項だったらしい。
この短時間の会話ですら失礼がないかド緊張だったんだけど…私、この夏を無事に乗り切れるかしら…