剣術大会(その後)
「優勝、スュド孤児院出身レオ・スュド」
「素晴らしい剣技だったわ」
「ありがとうございます」
表彰台に立つレオに花の妖精として称賛の言葉をかけ、大会優勝者に毎年贈られる薔薇の花冠を頭に乗せる。
レオは準々決勝、準決勝で順当に勝利を収め、決勝では遥かに年上の実力者に苦戦したものの、言葉の通りに優勝してみせた。
レオの番狂せな勝利に対する観客の反応はまちまちで、惜しみない拍手と称賛を贈るものもいれば憎々しげに舌打ちをするものもいる。
勝敗を賭け事にしていたらしい観客の口汚いヤジには思わず眉を顰めたくなったが、レオは気にしない様子で堂々と立っていた。
それから3日後。レオを護衛騎士にする話は想定外に難航していた。元々大会で実力を見せた同年代の剣士を私の護衛騎士にすると言われていて、私自身は当人が望むならというスタンスだった。
レオは大会優勝者で実力は申し分ないし、年も同い年。当然護衛騎士になるのもOKだよね!って思ってお父様とお母様に話を持って行ったんだけど…なぜか急に難色を示されるようになって。
「どうして護衛騎士が彼ではいけないのですか?実力は十分ですし、スュド孤児院でしたら身元も確かでしょう」
「それはそうなんだけどね…」
「…」
理由を聞いてもなかなか答えてくれない。
困ったように視線を逸らす2人。それを見ていた騎士団長が取りなすように口を開いた。
「お嬢様、容姿の問題がありますから…」
は??????
「…容姿の?」
あっぶない、令嬢らしからぬ声が出るとこだった。
「彼ほど醜くなければ、容姿は不問ですし問題はなかったのですが…」
おいコラ1秒で矛盾するな!!容姿不問は容姿不問で通しなよ!
さらに騎士団長はとんでも発言を続ける。
「私の経験上、このように容姿に恵まれない者は犯罪を起こす傾向が強くてですね…お嬢様の身の安全のためにも、やはり…」
開いた口が塞がらない。え、これ、この人が騎士団長でいいんですか…?
助けを求めてお父様とお母様をみる。
「…言いにくいのだけれど、アルバン先生のこともあったでしょう?」
「恵まれない人ほど自分の中の悪意に漬け込まれやすいのだよ、悲しいことにね」
アルバン先生…私の最初の家庭教師。
彼がおかしくなってしまったのは容姿のせいじゃない。だって他の先生もおかしくなってしまったのだから。
「ですから、シャルロット様のような美しい方の護衛騎士としては不適格かと」
騎士団長が眉を下げて諭すように言う。なんだ、結局こうなのか。
「…じゃあシャルルの護衛騎士にすればいいじゃない」
「ああ、それは良い考えですね!」
「ロティ?!」
「ごめんなさい、少し部屋に下がらせてください」
最悪な気分だ。恵まれない人ってなんなの。そもそも頑張っても報われなくしてるのはこっちじゃないか。
美人不美人っていって全部見た目のせいにする。もううんざりだ。
何よりお父様とお母様も騎士団長と同じ意見っぽかったのが辛い。
「う…」
アルバン先生のことでそう思うようになったのかな。
ダメだ、考えすぎるとすぐ私も見た目の話に引き摺られそうになる。
そう、私だってレオにシャルロットの姿を見せた時疑ってしまった。私の見た目のせいでレオがおかしくなっちゃったらどうしようって。
悔しいけど、それは認めなきゃいけない。
でもレオが変わらない態度でいてくれたから、大丈夫だって思えたんだ。
「…お父様とお母様にレオのこと、話に行こう」
レオは友達で何度も助けてくれた、信用できる人なんだってちゃんと言おう。
お父様もお母様もレオを知らない。誰だって知らない相手には先入観とか経験則で判断しようとする。
だから、レオがどんな人かわかったら考えも変わるかも。
「街に降りてた話もしなきゃだよね」
言ったらもう1人で街にはいけなくなるだろうけど…。それだけちょっと寂しい。