まちにおりたい…
「まちにおりたい…」
ベッドに身を投げ虚しく呟く。お父様とお母様との交渉はうまく行って家庭教師による授業を再び受けることになった。
ただしシャルロットの双子の弟、シャルルとして。
あの後、二人を連れて部屋に戻り目の前で無事に男装に着替えて見せることができた。私の後ろ髪が付け毛だとわかった時にお母様は悲鳴をあげていたけれど。お母様ごめんなさい。
お陰でシャルルの姿を他人ではなくシャーロットとして認識してもらい、屋敷で過ごす間だけ男装することを許してもらえた。
そんなわけなので、淑女としてのマナーなどをお母様直々に教えてもらうのに加え、歴史や語学、刺繍、楽器、絵画、男女両方のパートのダンス、男装したことで先生がついた法律と領地経営、政治等々…通常の令嬢の何倍もの授業が科された。でも前世高校生だった私からしたら割と見慣れたスケジュールだ。
ただちょっと土日がないだけで。
うん、致命的だわ…土日がないのは。まとまった時間がないからレオに会いに行けない。あれからもう2週間も経ってしまった。
「心配してるかなぁ…」
あの日別れる前に「しばらく頑張ってみるから頻繁に会えなくなるかも」って言っておけばよかった。いや、本当は言おうかなってちょっと思ってたんだ。でもちゃんと頑張れたって胸張って言えるようになってから報告したかった。
「明日は絶対…絶対絶対絶対っ!街に!行く!」
ベッドから跳ね起きる。
明日の午後はお母様によるマナー講座があったのだけれど、お母様が友達に会う予定が入ったとかで無しになっていたのだ。私はそれを聞いた時すぐにその時間を自由時間として確保した。午後はまるまる部屋に籠って休むと伝えてあるので外出がばれることはないはず。
さて、出かけるためにはもう一つやっておかなくてはいけないことがある。語学と政治の先生からそれぞれ科された課題だ。
新しくきてもらった先生はどの先生もかなり厳しくて容赦がない。問題を間違えると貴族的にオブラートに包んだ皮肉が飛んでくるし、授業の内容も前世の下地がなかったら理解が難しかったと思う。
それでも諦めるわけにはいかない。なんというか、プライドが許さないのである。王子様系イケショタの私であるからには完璧超人を目指していきたい。
半ば挑むかのような気持ちで毎日の課題に立ち向かっていた。
「ええと…王国歴368年にルミエール王国がルーリック帝国と結んだ防魔協定は当時の…」
政治の課題は特に難しくて時間がかかるが今日ばかりは早く終わらせたい。早く終わらせて、早く寝て、万全の状態で街に行こう。