ロティの過去(母親視点)
ロティは昔からよく笑う子だった。それこそ赤ん坊の頃から夜泣きも人見知りもせずにこにこと天使のような笑顔を浮かべていた。
容姿や身分の隔てなく接する優しい子。子供に恵まれなかった私達の元に訪れてくれた我が家の宝物。
ロティが5歳の頃、お義兄様が亡くなってしまった。そのため急に弟である夫が伯爵家を継ぐことになる。伯爵夫人としての人脈を作るための社交や、お義父様の下での後継者教育のために私も夫も家を空けてばかりで、ロティには寂しい思いをさせてしまった。
私たちがいない間ロティの面倒を見てくれていたのは家庭教師の青年だった。伯爵家の三男であり王立学園で教鞭を取れるほど優秀な彼だったが、容姿を理由に学園内で冤罪を着せられ職を失ったところを夫に雇われた。
ぎょろりとした目に尖った鼻、醜いというより悍ましい容姿だったけれど心根は優しく、ロティはよく懐いていた。
そう、それであの事件を起こしたのかもしれない。容姿を理由に煙たがられ恐れられ排斥されてきた人間がロティのように絶世の美しさを持った子供から全幅の信頼と尊敬を向けられたら?
青年は狂ってしまった。ロティを神の使いと思い込むようになった。自分だけに遣わされた贈り物だと。
ロティの笑顔が減ったのはこの事件の後からだろうか。新しい先生に対しても前のようになつくことはなくなった。
それでもロティは多くの人を惹きつける。性格が、声が、何よりその美しさが。
年齢を重ねるごとに美しさは増し、やがてそれは親の欲目を抜いても国を傾けられるほどになった。
「烟るような長いまつ毛の下に煌めく翡翠が真っ直ぐにこちらを見つめる視線に、透き通る肌と桃色の唇から覗いた舌の赤さに私はすっかり我を忘れてしまったのです」
「どうしてあの美しさに抗えましょうか。あの美しい翡翠を私の内に収めなければと衝動に駆られて手を伸ばしてしまいました」
法律の一線を超えてロティに近づき捕えられた人々は、弁明よりも先に恍惚とした表情でロディの美しさを語った。
10歳の誕生日に起きた事件については記さないでおこう。あの時からロティはすっかり塞ぎ込んでしまった。
虫が明かりに吸い寄せられるかのようにロティに近づこうとする人間は増えていき、私たちは彼らからロティを守り切ることができなかった。
「ごめんなさい、ロティ」
あの子には辛い選択をさせてしまった。私に似た蜂蜜色の髪を男性のようにばっさり切り、ドレスを脱いで醜く自分を偽りながらも、あの子は私たちに心配をかけまいとして笑って見せた。私たちが不甲斐ないばかりに。
せめてシャルルとしては、自由に生きられるように今度こそあの子を守らなくては。




