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もう一度あの空の下で




「コラーーーー!!危ねえだろ!いきなり立ち上がるな大声出すな!そしてびっくりしたのはこっちだよ!心臓飛び出るかと思ったわ!あと…」




その小さい塊は、尻もちを着いた時についたであろう汚れをパンパンと払いながら指を差し俺に説教をたれてくる




「あと!!具合悪いのか?そんなとこで蹲って。大丈夫か?」




呆気に取られてる俺を他所に、小さい塊もとい小柄な男性は俺の顔を覗き込んでくる。何だ何だ何だ。顔が近い顔が近い圧がすごいよ圧が…。というかすごい格好なんですけどこの人。半裸じゃないけどワイシャツにパンツなんだが?公道でコレは大分アウトっしょ。これもう公然わいせつ罪で捕まるよ大丈夫かはこっちのセリフ…




「いや…えっと窓から蹲ってるお前見えてさ」




言葉にせずとも俺の顔と行動に全てが表れていたんだろう。怪訝な顔をしてしまったであろう俺に彼はハッと我に返りバツの悪そうな顔ですぐそこの家を指さしながら言ってきた。


え、というと何?着替えている最中にふと窓の外を見たら蹲っている俺を見つけて体調が悪いのかと慌てて飛び出してきたと?とんだお人好しというか、こんな優しい人今の世に存在してるのか!




「あ、いや、自転車が」




深刻そうな顔して俺の顔を窺ってくるものだから、ただの自転車の故障という恥ずかしい理由、失敗した前髪、今までの度重なる不運を思い出して項垂れるのと同時に彼のどこをみればいいのか分からない格好、凶悪すぎるこの目付きで見てしまっては怖がらせてしまうという感情から目を逸らし顔を伏せてポツリと呟いた。




「え?自転車?うーわチェーン外れちゃってるじゃん!それを早く言いなよ〜、良かった死にそうなのかと思った」




気まずそうな俺を察してかは知らないが、ケラケラを笑いながらお人好しの彼は俺の背中をポンと叩いた。




「待ってろ、すぐ直してやる」




そう言い残しバタバタと家の中に消えていった。え?なおす?直すって言ったよねあのヒト。待て待て待て待て。俺は彼の流れるような行動の速さに呆気に取られたままその場に立ちすくんでいた。


え何あの人めっちゃ親切じゃん良い人じゃん神さま仏さまじゃん、天に見放されたかと思ったのに。


家の中から何やらガチャガチャと音がする。時々どこやっただのうわーだの声とともにどえらい音が響いてきた。



だ、大丈夫なんだろうか…

ポツンと佇み、大きな音の鳴る家にただ意味も無く手を伸ばすが、もちろんその手は空を切るだけである。


ふと表札をみる。

“香坂”

こうさか?かおりざか?

それとももっと特別な読み方があるのだろうか。道端に蹲っていたとはいえ、普通こんなに他人に親切に出来る人はこの世の中どれくらいいるのだろうか。絶滅危惧種かもしれない。物言いはぶっきらぼうだったが、本気で心配している顔と声色、何より行動が彼の親切さ全てを物語っていた。


色々と考えながら家の中から聞こえてくる様々な音に少しあわあわと玄関前で右往左往していると、ベランダからさっきと全く同じ格好のままの彼が顔を出した。




「わり、ちょっと道具見つかんねえわ。その制服東高だろ?始業時間とか大丈夫か?俺のチャリ使っていいからとりあえずまず学校行きな」




そこにあるから、と顎で指した方向には俺の激安セールで購入した愛車とはケタが1つほど違うであろう自転車がある。


いやいやいやいや無理無理無理無理、つか親切にもほどあるくね?直しとくからってあなたも仕事があるでしょう!その上この高級チャリ借りていいって?もしかしてバイヤーな額の報酬ふんだくられるのではないだろうか。それとも臓器でも売れと言われるのではないだろうか…


あまりにも親切すぎて、失礼にも程がある疑いをかけてしまう。




「え、あ、いや、大丈夫ですすみません、ほんとありがとうございますもう押していくので大丈夫ですすみません...」




消え入りそうな声で何度も謝り倒してしまう。走りゃまだ余裕の時間に着くが確かに始業時刻は迫ってきている。

ただ、じゃああとは頼んだよろしく!と登校できるほど神経図太けりゃこんな人生は送っていない。




「いやいいって。学校終わるまでにはバッチリ直しておくから行けって」




言うことを聞かずに玄関前から動かない俺にしびれを切らしてか、彼は家から出てきて言った。ワイシャツの胸ポケットからタバコを取り出して火をつけ、すーっと息を吸い煙を吐く。ほら、これとタバコの裏から出てきたのは名刺だった。



“株式会社A 人事部 香坂 幸貴”



名刺なんて初めて貰った。オトナって感じ。Aってすぐそこのクソでけえ会社か。すっげー。あ、ふりがなふってある。こうさかって言うんだ


初めて貰った名刺にテンションがあがり食い入るように見つめていた俺を見て、これで怪しくねえだろと彼、もとい香坂幸貴さんはいたずらっぽく笑いながら手をヒラヒラと振った。


まあ疑ってる訳では決して無いのだけどものっっっっっっそい親切すぎて本当に気圧される。



ここまで言われて遠慮するような理由もないので腹を括りお言葉に甘えることにした。ただしその高級そうなチャリは借りる勇気は出ないので走って行くことにする。




「す、すみませんじゃあお言葉に甘えて放課後学校終わったらお邪魔します、よろしくお願いします....」


「おう、頑張れよ青少年!」




爽やかに笑い送り出してくれた香坂さん。なんて優しい人なんだ


パッと時計に目をやると時計の針は始業10分前を告げていた。やっべ!いつの間にか結構な時間が経過していたようだった。このままじゃ間違いなく遅刻するヤバいどうしよう初日から遅刻とか笑えないんだけど高校生活確実に終わるんだけどどうしよう




「あの、すみません!本当にありがとうございます!もう行きます!」


「おー!行ってらっしゃい!」




その声を背中に学校への道を急ぎハッとして止まり振り返る。玄関前から手を振る香坂さんが見えた。


そういや俺名乗ってなくね?怪しいの俺の方じゃね?そう思い、さっきやったように腹に思いっきり力を込めて息を吸った




「あの!俺みよしって言います!東高1年のみよしあきひとですっっ!」




刹那、どっと大きな笑い声が聞こえ頭の上で大きな円をつくる香坂さんが見えた。やばい、普通にクソ恥ずかしいアホみたいなことをしてしまった。はっずいがでもこれでお互いの身分を明かしたからフェアだろう。フェア…だよな?もう分からん!


朝っぱらから散々な目に遭いすぎて頭がパンクしているまま、とにかく始業には間に合わないといけない、その思いだけで全力で学校への道を急いだ。







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