第二話 化石としての目覚め
目を閉じていたのは、ほんの一瞬だったのに。
ボスへと続いていた扉は消え、少し眩しいが穏やかな日差しに包まれている感じがする。
目が慣れ、うっすらと瞼を開いた瞬間、空が近すぎると思った。
慌てて手で顔に触れる。
身につけていたヘッドセットはどこにもない。
視界に映るものは、あまりに鮮明だった。
胸の鼓動が苦しい。
なるべく心を落ち着けながら周りを見渡すと、明かりの正体は空じゃない。
天井だ。
恐るおそる手を伸ばすとうっすらとした何かに触れる。
私を囲むよう透明に張られた膜の向こうで、知らない色の光が揺れている。
青でも白でもない、言葉にできない色。
身体が、重い。
病院の診察台のような硬めのベッドだろうか、いつからかそこで眠っていたらしい。
身を起こそうと身体をよじり、台に手をつける。
改めて自分の両手があることに少しだけ安堵した。
「——反応を確認」
声が聞こえた。
機械音声のような、少し硬い発音。
でも、意味はわかる。
驚いて声のした方は首を動かすと、膜の外に三つの影が見えた。
「ひっ!」
思わず上擦った声で喉が震えた。
彼らは人の形をしている。
けれど、人間にはありえない特徴がある。
見た目はヒトに近いが、頭部には存在するはずのない角を持つもの。
トカゲのような貌で全身が鱗に覆われるもの。
陶器のように美しく白い姿ではあるが、しかしとろどころで透ける皮膚。
——異種族。
ゲームの中で、何度も対峙した姿。
なのに。
「……覚醒段階、安定しています」
その言葉が、日本語だった。
喉が、勝手に震えた。
こんな場所で、こんな存在から、聞くはずのない言葉。
異種族は、言葉を交わす存在ではなかった。
ただプレイヤーの命を奪う敵だったはずなのに。
耳慣れた日本語と、相反する姿。
胸の奥に溜まっていた何かが、一気に崩れる。
涙が出た。
恐怖や、不安、そういう感情より先に。
——言葉がわかる。
何故かとても安堵した。
「……通じますか?」
白衣を身につけた角を持つ存在の口から紡がれた、ゆっくりとした穏やかな発音。
質問だとわかる。
私は、うなずこうとして、それすら上手くできなかった。
「確認された異種族と思われる個体は……三」
別の声が、淡々と告げる。
三。
そのささやかすぎる数が、何を意味するのか、考えなくてもわかった。
あまりに少なすぎる数字に脳が思考を放棄する。
さっきまで会場にいた人たち。
楽しそうな笑い声。
人が溢れる世界。
——私たちに何が起きたのか。
顔色を失った私にかれらは言葉を続ける。
「安心してください」
研究者らしき異種族ーー先ほどとは別のトカゲの頭をしたモノがそう言った。
続けて「あなたたちは、この惑星の最後の文化標本です」と。
標本。
その言葉は、優しくも、残酷だった。
私は、自分が「生きている」のか、それとも「残存している」だけなのか、まだ判断できなかった。
「こちらも無事覚醒を確認」
戸惑う私をよそに、嬉しそうな声が響く。
膜の向こう、別の台に狼狽える人の姿がみえた。
「市橋さん! 横山さん!!」
私は思わず声を上げた。




