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18.目と目で通じる


 外壁の門をくぐってギルセアの街に入ってみると、そこは広場になっていた。とは言っても、住民の憩いの場とかではなく、木箱に入った荷物やら、何らかの鉱石を運び出す荷馬車でごった返している。街を出る馬車の順番か、それとも到着した馬車が詰まっているのか。

 四頭立ての大きな馬車もいるな。商人や運び屋の大声が飛び交い、なかなかの活気だ。

 ここはまだ、岩山の外側。つまりギルセアの街の中では比較的新しい区画という事になる。

 リッツも言っていたが、目指す冒険者ギルドのギルセア支部は、街の外からも見えた岩山をくりぬいて作られた区画にある。


「ここの連中は気が短いんで、さっさと移動しちまいましょう」


 混雑する広場の中を、御者台のタバルは巧みな手綱さばきですり抜けていく。小さいとはいえ、二頭立ての馬車をどこにもぶつけずに進んでいく。大した腕前だ。

 そして、馬車はギルセアの大通りを進んで岩山の区画へ進んでいく。通りには今日の仕事を終えたらしい職人たちや買い物客たちが大勢歩いている。


「リッツ、冒険者ギルドの場所は分かっているのか?」

「大丈夫っす。行ったこともあるっすよ。あ、タバルさん、この大通りまっすぐ進んでください」

「商業ギルドのあるところの近くだろ? だいたい分からぁ」


 タバルも土地勘はあるらしいな。任せておいて良さそうだ。


「エヴァン、このままギルドに行くの?」


 レイチェル姉上が尋ねてくる。


「そうです。冒険者ギルドがゴルド山地に調査団を派遣しようとしているはずですから、調査の日程を聞き出さなければいけません」


 丁寧に説明するが、レイチェル姉上はあまり興味がなさそうだ。ふーん、と返事をしながら言いながら街の見物をしている。その視線は、大通りに出ている屋台の串焼き肉に注がれている。お腹がすいたのだろうか。

 空腹のところ申し訳ないが、冒険者ギルドには今日中に行っておかないとな。グランドがマリクリアから伝通鳥で我々の到着を予告しているはずだが、釘は早めに刺しておきたい。

 馬車は岩山がくりぬかれた区画に入った。するとほどなくリッツが三階建ての建物を指差す。


「あ、その左側に見える建物がギルセアの冒険者ギルドっす」


 馬車が建物に横付けして止まる。


「ありがとう、タバル。先に宿に行っててくれ」

「分かりました。宿の場所はリッツの旦那が知ってますんで」


 我々四人が馬車から降りると、タバルは来た道を引き返していく。このギルセアにも馴染の宿があるらしい。つくづく旅慣れたタバルが付いてきてくれて良かった。


「じゃあ、入るっすよ。基本的に自分が話しますんで、適当に相槌打ってください。レイチェル様、お願いしますね」

「わかってるわよ。早く入りましょ」


 レイチェル姉上は初めてきたギルドに興味津々のようだ。大丈夫かな。なんか馬車に乗ってばかりだったから力が有り余っているように見える。

 私のそこはかとない心配をよそに、リッツはギルドの中に入っていく。リッツがいつもより堂々としている。

 中に入ると、もちろん冒険者だらけだ。もう夕方なので、今日の仕事の成果を、つまり魔石やモンスターの素材を換金しようとする者たちであふれている。

 馬車でリッツに聞いたところによると、山の中や付近の森だけではなく、鉱山の中にもモンスターがいるそうだ。坑夫たちと一緒に冒険者が鉱山に入っていくのが、ギルセアでは当たり前の光景らしい。


「ギルド長を呼んでください。マリクリア支部のリッツが来たと言えばわかるはずです」


 普段とは違う余所行きの態度でリッツが受付の隅で暇そうにしていた男に声をかけた。やはり受付は美人が人気があるらしい。

 男は怪訝な様子だったが、リッツが冒険者票を見せると少し驚いた様子で、「少々お待ちを……」と階段を上がっていった。


「あの様子だと、自分たちが来ることを聞かされてなかったみたいっすね」

「まあ二日で来るとは思わんだろうからな」


 貴族の嫡子を連れてくるという話は伝わっているはずだ。

 しかし普通、貴族が他領に行くとなったら、どんなに早くとも十日はかかるだろうところを二日できたからな。

 もっとも、今回は貴族としての身分を隠して来ているから、あまりベリア伯爵家には知られたくないところだ。


「お待たせしました。二階へどうぞ。ギルド長が応対します」


 さっきの受付の男に代わって階段から降りてきた金髪の女性が我々にそう言った。

 長い髪を後ろで一つに束ねており、服装は紺色で統一した上着とスカート。何だったか、最近帝都で流行している衣装だ。こういうのはリッツが詳しいはずだが、今聞くわけにもいかんな。


「申し遅れました。わたくしは冒険者ギルド、ギルセア支部の事務長を仰せつかっております、カリナと申します」

「お久しぶりです、カリナさん。こちらの方々はギルド長に会ってご紹介します」


 顔見知りのようだが、リッツは態度を崩さない。素を出せる相手ではないということか。

 階段を上がりながら、リッツがちらりと私に視線を送ってきた。

 にこやかな表情を崩していないが、目は笑っていない。油断するな、とでも言いたげだ。

 言われるまでもなく油断する気などないが、ギルド長に我々にどういう印象を持つか、だな。上手く話を誘導できればいいが。


「こちらの部屋です」


 カリナ女史が二階の一番奥のドアの前で立ち止まる。

 おもむろにノックして、お見えになりました、と声をかけ、返事を待たずにドアを開けた。

 リッツが最初に部屋に入り、その後に私とレイチェル姉上が続く。

 部屋の中には、大きな机があり、少し豪華な椅子に座る男性がいた。

 白髪に口髭、シャツにジャケットという冒険者らしからぬ服装だ。

 ギルド長というより貴族の紳士という雰囲気だな。傭兵の親玉みたいなグラントとはずいぶん違う。


「ようこそ、ギルセア支部へ。リッツ副長」

「お久しぶりです、バルコ殿。お元気そうで何よりです」


 硬い挨拶を交わすリッツと髭の紳士。

 それにしてもギルド長、椅子に座ったままだな。貴族が来るのは分かっていただろうに、立ちもしないのは普通なら無礼と言われる行為だ。

 それを感じ取ったか、リッツがギルド長バルコに我々を紹介する。


「バルコ殿、伝通鳥で既にご存知でしょうが、こちらがマルシェル子爵家の嫡男エヴァン様と令嬢レイチェル様です」


 リッツが嫡男である私を先に紹介する。正しい作法なのだが、これをやると必ず、


「わたしの方がお姉さんなのに……」


 と言う人がいる。

 今は黙ってて下さい姉上、ほんとに。


「いやぁギルド長、突然押しかけて申し訳ないな」


 わざと明るく能天気な感じで挨拶をし、ようやく立ち上がったギルド長バルコと握手などしてみる。


「こんな山の中までよくおいで下さいました。山しかありませんが、どうぞゆっくりして行って下さい。観光でしたら工房巡りもいいですが、温泉なんかもありますよ」


 んん? なんだか嫌味が聞こえてきたぞ。これはつまり素人は引っ込んでいろ的なやつかな?

 反射的に会話を続けてしまいそうになるから、ここはリッツに任せよう。


「バルコ殿、我々は物見遊山に来たわけではありません。例の、アレです」

「ああ、正体不明のモンスターのことですな。まあ、十中八九、ワイバーンでしょうな」


 何でもない事のように言うが、たとえワイバーンでも大変な事だと思うぞ。空から攻撃されたら普通の兵や冒険者では太刀打ちできないからな。弓矢もなかなか通らないだろうし。空飛ぶトカゲなんて呼ばれることもあるが、それはドラゴンと比べれば、の話だ。


「ワイバーンかもしれませんが、ドラゴンかもしれないでしょう? こちらのエヴァン様とレイチェル様はドラゴンにとても興味をお持ちでして」


 バルコの表情がわずかに、しかし分かりやすく歪む。『そら来たぞ』と思っているだろう。


「ギルセア支部から正体不明のモンスター出現の報を出したという事は、調査の手が必要なのでしょう? こちらのレイチェル・マルシェル様は、武勇名高く、しかも冒険者登録までされております。しかも三等級。ぜひ調査隊に加わっていただいては?」

「ほう、マリクリアで三等級冒険者が出たとは聞いていましたが、まさか子爵様の御令嬢だったとは。グラント支部長も思い切った采配をなさいますな」


 当り障りのない言葉を選んでいるように聞こえるが、つまりバルコは『多少は腕に覚えがあるようだが、こんな小娘を三等級にするなんてグラントは何を考えているんだ』と言っている。

 マリクリアの冒険者ギルドは貴族に懐柔されているとか考えてそうだな。

 あのグラントがそう簡単に懐柔されるようなら誰も苦労はしない。その辺は冒険者ギルド本部が良く知っているだろう。

 ちなみに褒められたと思ったのか、レイチェル姉上は胸を張って得意気だ。

 違いますよ姉上、皮肉です。


「それだけレイチェル様の強さが抜きんでているという事です。そして、こちらのエヴァン様も登録したての八等級ですが、優秀な魔術師なんですよ」

「ああ、子爵家の名に恥じない程度の腕はあるぞ、ギルド長。調査隊の足手まといにはならないつもりだ」

「それはそれは、ご立派ですな。しかし、今回の調査は危険を伴いますので、エヴァン様に万が一のことがあっては大変です。二次調査隊の編成も検討しております。どうしてもと仰るのであれば、そちらにご参加されては?」


 訳すると『遊びでやってんじゃないんだ。野次馬で調査の邪魔されちゃたまらんから引っ込んでろ』ってところか。

 私はちらりとリッツを見た。すると、リッツもこちらを見て小さく頷く。このまま押すか。


「二次調査隊か。しかしそれではドラゴンが追い払われてしまうかもしれんなあ」


 とぼけた演技をしてみる。


「それはダメよ! ドラゴンは私が退治するのよ!」


 すると、当然レイチェル姉上がこういう反応をする。もちろんこっちは演技じゃない。本気でそう思っている。


「これは困りましたな。かといってギルセア支部としましては、危険な調査にマルシェル家の方をお連れするわけにも参りません」

「ギルド長、今の我々は一介の冒険者のつもりなのだがな」

「だとしますと、ギルド長として尚のこと許可できませんな。レイチェル様は腕が立っても山には不慣れでしょうし、エヴァン様はまあ、何といいますか」

「八等級では力不足と言いたいのか?」

「今回の調査に関しては、恐れながら」


 ギルド長は言葉を濁すが、『当たり前だろ』と言わんばかりの表情だ。


「リッツ、どういう事だ。これではドラゴンが見れんではないか」

「え、ダメなの!? それはダメよ、リッツ!」


 ここで私からリッツに話の主導権を渡す。

 あと姉上、もう少し貴族らしく振舞ってください。語彙が幼児並みです。


「エヴァン様、レイチェル様、落ち着いてください」


 リッツが私をなだめる演技をする。姉上については本当に落ち着かせようとしている。


「バルコ殿、こうしてはいかがですか? エヴァン様とレイチェル様は、マリクリア支部副長の私が責任をもって引率致しますので、遊撃隊としてモンスター調査に参加するという事で」


 リッツの提案に、バルコは意外そうに応える。


「それはつまり、リッツ殿とマリクリア支部がすべて責任を負うという事ですかな?」

「そういう事になりますね」

「なるほど、それは落としどころですな」


 乗ってきた。

 私は内心でほくそ笑む。

 ここだ。話をここに着地させたかった。


多忙につき更新が遅れていますが書き続けてはいるのです、はい。

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