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092 翡翠色の瞳から曇りが晴れて

俺が王都の陸軍司令部に転移すると、陸軍司令部内からわらわらと人が飛び出して来た。

警備兵だけでなく、高級士官や将軍みたいな人までいる。

みんな、整列すると直立不動姿勢になった。


その中の一人が俺に最敬礼してきた。


「勇者斎賀五月(サイガイツキ)様でございますね? お初にお目に掛かります。私は王国侯爵ドナルド・モートンと申します。陸軍参謀総長を拝命しております」


[容姿変換]しているのに、よく俺が勇者だって解ったな?


「えっと、斎賀五月(サイガイツキ)です。一般人相手にご丁寧な挨拶どうも。モートン参謀総長閣下」


俺も不慣れながらも愛想笑いで敬礼を返す。

俺の挨拶にモートン侯爵が怪訝な顔をした。

あれ?

俺、なんか失礼な事言った?


まあ、いいや。

用件を早く済ませてしまおう。


俺は[無限収納]から捕縛した連中を取り出す。

陸軍司令部前に次々と出していく。

何人いたっけ?


最終的には30人出た。

どいつもこいつも[パラライズ]で痺れたまま。

恐怖を体験した者共通の表情筋が引き()った青い顔をしていた。

こいつら、異空間で何を見たんだろう?

[無限収納]の中に生身の人間を入れたのは初めてだったが、精神にダメージを与えるようなら今後は控えなくてはならない。

いや、逆か。

悪党は[無限収納]に入れればいいんだよ。


「この者達は?」

「コナカ村大量虐殺事件の犯人達ですよ」


周りの人達から感じる空気が変わった。


「この者達を地下留置場に連行しろ!」


モートン侯爵が部下に命令すると、1個中隊の警備兵が飛んできて、犯罪者どもを連行していった。


「騎士王とカラトバ軍100万を殲滅するだけでなく、コナカ村大量虐殺事件の犯人まで捕らえてくるとは、まさに勇者様!」


あ、これ、面倒になるやつだ。


「あの、俺、まだ用事があるんで――――」

「お待ち下さい!」


待たない!

直ちに[転移]を発動してこの場を脱した。





迎賓館広間に[転移]する。

広間には誰もいなかった。


やがて、シャルトリューズさんに手を引かれたリーファが現れた。

トトトトトっと俺に駆け寄って来たリーファが俺を見上げて来た。

俺はリーファを抱き上げて、左腕に座らせると優しく語り掛ける。


「ただいま、リーファ。いい子にしてたかい?」


シャルトリューズさんを見る。

彼女は黙って首を縦に振った。


リーファが相変わらず虚ろな目で俺をじっと見ている。


「敵は討ったよ。騎士王もカラトバ兵も全部地獄に落としてやった。リーファの村を滅茶苦茶にした連中も全員余さず捕えた。やつらには相応の代償を支払わせる」


全員余さずではないけど。一人殺っちゃったけど。


それを訊いたリーファの翡翠色の瞳から曇りが晴れていく。

まさに上質な翡翠そのものだ。

こんなに綺麗な瞳をしていたのか。


その瞳から涙が溢れてきた。


「えっ? えっ? リーファ?」


突然のことに俺は慌ててしまう。

シャルトリューズさんに視線で助けを求める。


「これまでずっと我慢していたのでしょう。でも、これでようやく安心できたと思います」


めったに感情を表に表さないシャルトリューズさんがリーファに優しい笑みを向ける。


その間もリーファは声を押し殺して泣いている。

声を上げて泣くこともできない極限状態で身を潜めていたのだ。

これも仕方が無いことなんだろう。



俺はリーファの頭を撫でながら語り掛ける。


「ねえ、リーファ。俺と一緒に暮らさないか?」


リーファが透き通る翡翠の瞳で俺を見た。


「俺は強いから誰にも負けない。リーファをひとりぼっちには絶対にしない。だから、俺と一緒に来ないか?」


リーファの瞳が(またた)いたように感じた。


「…………うん。」


小さな声が聞こえた。


「じゃあ、これからキミはうちの子だ。もう何も遠慮することはないんだよ」


そう告げると、リーファは俺の胸に顔を埋めると、


「うううううう、うわあああああああああああああああああ」


声を上げて泣き始めたのだった。




「ああっ! イツキが幼女を泣かせてる!」

「どういうことなんだい? 事情を訊かせて貰おうじゃないか?」

「その娘は誰じゃ!? どこでかどわかしてきたのじゃ!?」


広間の入口にセリアとシルクと白亜とロダンが立っていた。


「イツキ殿も罪なお人じゃのう。イツキ殿の大好きな『ろりこん』というヤツか?」


ロダン、キミは黙ろうな。

風評被害が広まってしまうじゃないか。


「俺はロリコンじゃないよ」

「でも嬢ちゃんのことは愛でておるだろう?」

「おい、糞魔族! 妾をガキ扱いしたな? 上等だ! 表に出ろ!」


やめてくれ!

リーファの教育によろしくない。


俺はみんなに逃亡してからのことを話した。

但し、クレハさん達のことは伏せて、だ。


「そうだったんだね。ボクはてっきりイツキ君が隠し子を連れて来たんだと思ったよ」


シルク、君は俺をそんな風に見てたのね。

師匠と同類だと。

よ~く覚えておくよ。



「わたしはてっきり新しい嫁候補を連れて来たんだと思ったわよ。ほら、あれ。源氏物語の若紫みたいな?」

「おい!」

「ほら、前世でもエルフの少女を懐かせてたじゃない? 今も白亜を手元に置いてるし」


セリア!

おまえもか!?

おまえもなのか!?

おまえもロダン同様、俺をロリコンだと!?

『伴侶も羨むような親友』とか言っておいて本心では俺をそんな風に思ってたんだな!?いいだろう。

おまえの今の発言も俺の閻魔帳に刻んでおくことにするよ。



「イツキがこの娘を養女にするのなら、妾と家族になるのじゃな?」

「そうだな」

「リーファと申したか? 妾はイツキの義理の妹の白亜じゃ。まあ、いずれはイツキの妻のなる女子(おなご)じゃ。ちょっと早いが妾のことをお母様と呼んでも良いのじゃぞ」


なに言ってるのこの()


「ちょっとなにフライングかましてんのよ!」


セリアが文句を言った。

リ-ファは俺の胸から顔を上げると、無表情で白亜を見て言った。


「白亜おばさん」


それを訊いた白亜がこれまで以上に真っ白になったような気がした。


「おばさん…………妾、6~7くらいしか違わないのに…………おばさん…………」

「その歳でおばさんか! こいつはいい! アハハハハ、最高だよ!」

「くうううううううううううううううううっ!」


白亜の傷心にシルクが追い打ちを掛ける。


「確かにイツキの妹なら叔母さんだよね」

「じゃが…………」


白亜は納得がいかない様子だ。


「ボクも自己紹介しなくてはね。シルキーネ・ガヤルドだよ♡ ボクのことはシルクお姉ちゃんでいい」

「シルクお姉ちゃん…………」

「うふふふふふ」

「妾がおばさんなのに、妾より年上のシルキーネがお姉ちゃん・だ・と!?」


シルクの後ろで白亜が両掌を見ながら震えている。


シルクは嬉しそうだ。

さすが人誑し。


「人誑しってどういう意味かな? イツキ君?」


人の心を読むなよ。

ついでに、笑顔で人を脅すな。

リーファが怯える――――あれ? 怯えてない?

無表情なのは変わらないが、シルクに心を許したように思えるのは気のせいだろうか?

やっぱり――――


「イツキく~ん?」


思いっきり脇腹を抓られた。



「我はロダンじゃ。我のことはお爺ちゃんで良いぞ」

「お爺ちゃん…………うん。」


リーファが明確に首を縦に振った。

ロダンは早速、リーファの心を掴んだようだ。

年の功ってやつか?


「他に白夜もおるが…………イツキ殿、白夜を呼び出して貰っても良いか?」

「ああ」


俺は白夜を呼び出す。

俺の足元にフェンリルだけどが顕現する。


リーファが興味を示したので、リーファを床に降ろす。

リーファが白夜に近づいて行って、その首にそっと抱き着いた。


「白夜…………よろしく」

「クゥ~ン」




「最後は真打ち登場よね」


セリアが前に進み出る。


「わたしはエーデルフェルトを統べる女神セレスティアよ!」


あまり大きくない胸の前に左手を置いて宣言した。

あれ?

セリアが俺を睨んでいる。


「あまり大きくない?」


なんのことでしょう?


だが、リーファの反応は違った。

リーファが俺の背後に隠れた。

怯えているようだ。


それを見たシルクと白亜が真剣な表情をした。


「これは…………」

「そうじゃな」

「えっ? なに? なんなの? 説明して! なんでこの子はわたしに怯えてるの?」


セリアには状況が呑み込めていないようだ。


間違いない。

人間至上主義の聖皇国が崇める女神も人間至上主義だと思われているんだ。


俺がそのことを説明すると、セリアはショックを受けたらしく、


「そんな風に思われていたのね…………」


しゃがみ込んで伏せた顔を両手で覆ってしまった。


仕方ないなあ。


俺は背後に隠れたリーファの前にしゃがみ込んで目線を合わせて語り掛ける。


「リーファ。セレスティアは人間至上主義じゃないよ。人間も魔族も亜人も余すことなく平等に慈しむ神だよ。そのことは俺が保証する。それじゃ、ダメかい?」


俺をじっと見たリーファは黙って頷くと、ゆっくりとセリアに歩み寄り、顔を伏せたセリアの頭を撫でて言った。


「ごめんなさい、セレスティア様。悲しまないで」


セリアがゆっくり顔を上げてリーファを見た。

(まなじり)に涙が見える。


「ごめんなさいね。わたしが至らないせいであなたをこんな境遇に貶めてしまって」


リーファがゆっくり首を横に振って、


「でも、そのおかげで暖かい人達に出会えた…………」


それを訊いたセリアがリーファを抱き上げると、


「わたし決めたわ! この子を神界に連れて行く! ご意見無用よ!」


それからみんなでセリアを止めるのは大変だった。

セリアの暴走は、最終的に俺が見様見真似で習得したセリアの固有スキル[光の縄]で彼女を拘束するまで続いたのだった。





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