091 取立人
「ガルシアさん。なんとか逃げ切れたみたいですねえ」
サンチョが遠くに見える光の柱を見ながら呟いた。
「もう、カラトバは終わりだ。早くセーフハウスに逃げ込まねえとなあ、サンチョ」
魔道砲陣地にアナトリア王国の決死隊が現れた時に、ガルシアは天性のカンでカラトバ軍から脱走することを決めた。
盗賊団仲間だけで構成されるガルシア隊を率いて東に脱出し、廃棄された村までたどり着いた。
まだ、アナトリア王国内だが、この村にはガルシア盗賊団のセーフハウスがある。
「ほとぼりが冷めたら盗賊稼業を再開だ」
「そんなこと、出来る訳ないだろう?」
すぐ傍から声を掛けられた。
声の主を見ると、それは若い男だった。
黒髪に黒い瞳の若い男。
「て、てめえ、聖皇国が指名手配している『国家反逆罪を犯した重罪人』だな!?」
「ハ~イ! 『国家反逆罪を犯した重罪人』で~す!」
男が元気よく右手を上げた。
「その『国家反逆罪を犯した重罪人』様が俺達になんの用だ?」
ガルシアは男を値踏みしながら尋ねた。
「こいつ、行くところが無いから、俺達の仲間になりに来たんですぜ」
サンチョが男を指差しながら言った。
(聖皇国に追われた者に行き場など無いのだろう。)
そう考えたガルシアは男に尋ねた。
「仲間になりたいのか?」
「『仲間になりたい』って言ったら入れてくれるのかい?」
男はニコニコと笑っている。
「ああ、おまえくらいの凶悪犯なら大歓迎だ」
「社長面接は合格ってことか」
男が妙な事を呟いた。
そしてガルシアを見て言った。
相変わらずニコニコと笑いながら。
「でもね。今回は仲間になりに来た訳じゃないんだよ」
「『仲間になりに来た』んじゃなければ何しに来た?」
「俺は取り立てに来たんだよ」
「『取り立て』だぁ?」
「うんうん」
憶えの無い『取り立て』要求。
それまでニコニコと笑っていた男が笑顔を消して言う。
「コナカ村でおまえ達が奪った命の代償を払って貰いにね」
それを聞いたガルシア隊が気色ばんで男を取り囲む。
「てめえええ、どういうつもりだ!」
ガルシアの怒鳴り声を皮切りにガルシアの仲間が吠える。
「ふざけたことをぬかしてやがるとぶっ殺すぞ!」
「殺っちまいましょうよ、小隊長!」
「この若造、拷問してやりしょうぜ!」
「亜人をどう扱おうが俺達の勝手だろうが!」
ガルシアの仲間の非難や脅しを黙って聞いていた男がポツリと呟いた。
「豚が人間の言葉をしゃべるなよ。胸糞悪くなる」
典型的な挑発の言葉にガルシアが激高する。
「俺達が豚だって言いたいのか!!!?」
「それ以外の意味を俺は知らないんだけど?」
男の隙を伺っていたガルシアの仲間の魔道魔道士が男の背後から、
「へっ! ダークエルフみたいに殺してやるよ! 死ねっ!」
そう叫んで、男に[ファイアジャベリン]を投擲する。
[ファイアジャベリン]は男を刺し貫――――――かなかった。
ノールックで[ファイアジャベリン]を掴んで止めた男がそのままそれを握り潰した。
次の瞬間、[ファイアジャベリン]を投擲した魔道士の下から現れた炎の業火が魔道士を焼き尽くす。悲鳴を上げる間もなく魔道士は灰になった。
「あ、しまった。全員生け捕りにするつもりだったのに一人殺しちゃった」
「てめええええっ! 仲間をっ!」
タタタ!
ガルシアが男に向かってM78軽魔道機関銃を3点バーストで撃った。
が、男は生身の身体で弾を全て弾き返した。
「毎度思うんだけど、絶対防御があってもやっぱり物理攻撃は痛いもんだな」
「この化け物め!」
タタタタタタタタタタタタ!
今度は連射。
今度は両掌で全て弾をキャッチした。
パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ
銃撃が止むと、男の掌が開き、そこから無数の弾が地面に落ちる。
「俺にはそんなものは効かないよ」
それを目の当たりにしたガルシアが吠える。
「なんなんだっ! おまえはいったいなんなんだっ!」
「取立人だよ」
男は冷酷な笑いを浮かべると無感情な声で言った。
「おまえ達はこれから豚のように屠殺場に行く。そこで豚のように殺される。もっとも、おまえ達の肉は豚のむれ肉以下だからそのまま廃棄だろうがな。パラライズ」
カルシア達の身体が麻痺して動かなくなった。
「あががが、うぐぐぐぐ」
ガルシアが何か言おうとしているが、口も喉も痺れて言葉にならない。
「どうせ呻くならブヒブヒ言えよ。その方がおまえ達らしい」
男はガルシアを始めとする盗賊団全てを亜空間に生きたまま放り込む。
男以外誰もいなくなった廃村で男が呟く。
「賢者にスイッチ!」
どこからともなく電子音声がした。
『勇者・大賢者をアンインストールします』
5分後、
『勇者・大賢者のアンインストールに成功しました。引き続き、英雄・賢者のインストールを開始します』
30秒後、
『英雄・賢者のインストールに成功しました』
男が身に着けているものが、純白の大賢者外装から群青色のものに変わった。
手にする賢者の杖の柄もゴールドクロームからスターリングシルバーに変わる。
続けて、男が呟く。
「容姿変換」
男の黒髪と黒い瞳が、銀髪碧眼に変わる。
「じゃあ、戻るとするか。転移」
男がそう呟くと同時に姿を消す。
今度こそ、廃村には誰もいなくなった。




