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084 コナカ村大量虐殺事件

クレハさんにメインブリッジの説明を受けていると、通信員が艦長に報告を上げた。


「ミスラ要塞が完全に陥ちたようです。今、サイトイーグル1号機からの映像出します。」


メインブリッジ前方上に広がるモニターに映像が映った。

要塞だったと思しき瓦礫が煙を上げている。

要塞左右の防壁も無残に破壊されてあちこちに穴が開いていた。

散発的に訊こえる攻撃魔法の着弾音がやがて訊こえなくなった。


「カラトバの主力は?」

「先頭は既にアナトリア王国領内120kmの地点に到達しています」

「アナトリア側は?」

「要塞守備隊の主力は全滅。別動隊が遅滞戦闘に移っています」


艦長と通信員との会話が続く。


「王都からの主力がカラトバと会敵するのは2日後か」

「それまでは――――」

「ジェノサイドが繰り広げられるんだな」


俺はモニターを指差してクレハさんに尋ねる。


「あれはリアルな映像なんですか?」

「ええ、これはミスラ要塞上空からの映像です」

「どうやって――――」

「偵察用ドローンからの映像ですよ。ご存じですよね? ドローン」

「これもクレハさんの?」

「ええ、昨年実用化しました」


通信員が画像を切り替えた。


「サイトイーグル2号機からの映像出します。国境から100kmのコナカ村の今の状況です」


それを見た俺は猛烈な嫌悪感が沸き上がるのを感じたのだった。



◆ ◆ ◆


その1時間前。

避難が間に合わなかったコナカ村の住民がカラトバの掃討部隊に襲われていた。

コナカ村はダークエルフを主体とする村民680名の集落だ。


カラトバの掃討部隊がコナカ村を包囲する。

彼等はまず抵抗する自警団から血祭りに上げていった。

自警団の魔導士が張る防御結界の中から別の魔導士が攻撃魔法を放つ。

が、カラトバの魔道兵の防御結界は撃ち抜けない。

当たり前だ。

村の自警団には高ランク冒険者などいない。

素人に毛が生えたような魔導士や剣士しかいないのだから。


カラトバの魔道兵が強力な[ファイアガトリング]を放つ。


「「「「「「ぎゃああああああ!!!」」」」」」


自警団の防御結界が破られ、自警団の魔導士達が火だるまになる。


「そのまま制圧しろ!」


軍曹の階級章を左肩に付けたガラの悪そうな男、掃討部隊の指揮官エミリオ・ガルシアが命令する。


「させん!」


指揮官の横から自警団の抜刀隊が襲い掛かる。

が、


タタタタタタタタタタタッ!


指揮官を守る歩兵が軽火器で即応する。

彼等が持つのはM78軽魔道機関銃。

これも『M&Eヘビーインダストリー』社製の魔道兵器。

聖皇国歴978年に供給が開始されたもので、ミスリル合金鋼製の銃身からアダマンタイト合金鋼製の12.7mm弾を発射する。12.7mmという大口径は強力な打撃力を誇り、銃床にセットされた魔石から放出される魔力を纏った銃弾は堅固な結界すら撃ち抜く貫通力をも有する。魔力は銃床にセットされた魔石に依存するので魔力を持たない一般兵にも気軽に扱える軽火器だ。


タタタタタタタタタタタッ!


自警団の抜刀隊は、機銃弾を浴びて次々と倒れていった。


10分足らずでコナカ村の自警団を掃討したカラトバ兵が村内に踏み込んでいく。


家の中に隠れる村人を選別する。

ダークエルフと人族を。


ダークエルフの末路は凄惨だった。

老人はその場で首を刎ね、子供は刺し殺す。

妊婦の腹を裂き、若い女は家族の前で凌辱した挙句に撃ち殺す。

抵抗する者は逆さ吊りにして、目を抉り、耳を削ぎ、舌を抜き、腹を裂き、両腕を斬り落として失血死するまで放置する。或いは見せしめに火炙りにする。


やがて、ダークエルフの男達が村の広場に集められた。

その近くで、部隊の兵が村から搔き集めた金目の品を物色している。


「ガルシアさん。この村、相当持ってたみたいですぜ」

「サンチョ! 『分隊長と呼べ』と何度言ったらわかるんだ!」


痩せて眼つきの悪い男の報告にガルシアが怒鳴る。


「おい、サンチョ! そういうのは後にしろ! おまえらもだ!」


ガルシアが兵達に戦利品の物色を止めるように命じる。

ガルシアの部隊は、元々は盗賊団である。

今回、勝ち馬に乗るべく軍に志願したならず者達だ。


ガルシアはギロリとダークエルフの男達を見据えると言った。


「お前達。生き延びたかったら、あそこに見える村の入口まで走れ。俺が10数えるまでにそこまで辿り着けた者は見逃してやる」


「分隊長、いいんですかい?」


サンチョ・チャクラが訊いた。


「おまえらばっかり新兵器ぶっ放しやがって。俺だってこのM78の威力を試したいんだよ。わかるだろ?」

「へえ…………」

「ちなみに、こいつは連射だけじゃなく単発や3点バーストもいけるんだよな?」

「ええ、試したことはありませんがね。引き金を軽く引けば単発、更に引けば3点バースト、最後まで引けば連射になるみたいですぜ。まあ、オレは思いっ切り引き金を引くからいつでも連射ですがね」

「まあ、試せばわかるさ。誰か単発で合図しろ!」


端に立つ背の高い無表情の男が首肯した。


「さあ、ダークエルフども! 銃声がしたら走れ! 生き延びたいならな!」


パーン!


その音を合図に20名近いダークエルフの男達が村の入口目指して必死に走っていく。

西部劇でならず者に弄り者にされるメキシコ人農夫達のように。


「い~ち、に~、さ~ん」


必死に逃げるダークエルフ達。


「…………は~ち、きゅ~」


一人だけ、入り口に辿り着けそうだった。


「10!」


次の瞬間。


タタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!


M78軽魔道機関銃の機銃掃射を浴びて15人のダークエルフが倒れる。


「お? 深く握り過ぎたか。連射になっちまった」


タタタ! タタタ! タタタ!

3点バーストが3人のダークエルフの頭を撃ち抜く。


「まだ、引きが深いようだな」


パーン!


入口に辿り着く一歩手前で中年のダークエルフが絶命した。


「引きはこのくらいか」


パーン!


入口を通過したダークエルフの若者の足が撃ち抜かれる。

バッタリ倒れたダークエルフの若者は両手と片足で這いながら尚も逃げようとしていた。

そこにガルシアが近づいていく。


「話が違う!」


ダークエルフの若者が痛みに耐えながら抗議した。


「あ~ん? 何が話が違うって?」

「ここに辿り着いたら見逃すと言ったじゃないか!」


それを訊いたガルシアが醜悪な笑みを浮かべて、


「約束ってのはな。人間とするものなんだよ」


そう言うと、ダークエルフの若者の頭に当てたM78の引き金を引いた。


パーン!


ダークエルフの潰れたトマトのような頭を見下ろしながら、ガルシアが周囲に命令する。


「教会に集めた人間達を本国に後送する。急げ!」




教会には50名程の人間の男女が集められていた。

彼等はこれからカラトバ本国に後送され、洗脳教育を受ける。

人間至上主義に忠実な国民になる為に。


「連中、相当疲弊しているようだな。これから徒歩で本国に送らねばならんが、途中で力尽きられたら足手纏いになる。誰か! やつらに水を与えろ!」


兵達が捕虜に水の入ったカップを渡していく。

ガルシアも喉が渇いたので、カップに注がれた水を飲もうとした。



「何をしているのかしらぁ?」


ガルシアの後ろから、間延びした女の声が訊こえた。

ガルシアが振り向く。

肩まで伸びるオレンジの髪と銀の瞳を持ち右目に片眼鏡を掛けた妖艶な美女。

纏うのは錬金術師の衣装。


「これはこれは、エンデ様」


ガルシアは低姿勢。

当然だ。

この女が騎士王陛下の客人だということはガルシアでも知っていた。

いや、客人だから知っていたんじゃない。

凶悪な所業に手を染めることでアンダーグラウンド界隈でも有名だったからである。


「人間以外は全て殺すんじゃなかったかしらぁ?」

「ダークエルフは全部処刑しました。ここにいる人間達は本国に送るつもりです」


それを訊いたヒルデガルドが人差指を下唇に沿えて、ニヤリと笑うと言った。


「人間? 人間なんてどこにいるというのかしらぁ?」

「ですから、ここに――――」


その時、捕虜の人間達が苦しみだした。


「「「「ううう、ぐああああああああああああああああああああああ!」」」」

「「「「ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」」」」

「「「「あがあああああああああああああああああああああああああ!」」」」


その身体中からボコボコと肉腫が盛り上がり、異形へと姿を変えていく。

膨れ上がった身体は3mを越えた。


「なっ!!」

「水に混ぜた薬の効果が出て来たみたいねぇ」

「エンデ様、何を――――」

「あと少し遅かったら、ガルシアちゃんもああなっていたのよぉ」


ガルシアがとっさに手にしていたカップを投げ捨てる。


「人間以外は全て殺すのでしょう?」


捕虜の横にいた兵が異形に殴られて教会の壁に吹っ飛ばされて壁の染みになった。


「早くしないと取り返しのつかないことになるわよぉ」


ガルシアが檄を飛ばす。


「異形になった者達を掃討しろっ! 直ちにだ!!」


掃討部隊のM78の機銃掃射が異形達にバラ撒かれる。

数発でダークエルフを殺したアダマンタイト弾を数10発ぶち込んでもなかなか倒れない異形の者達。


異形に対処しながらガルシアは思う。


(狂ってる! この女、間違いなく狂ってやがる!)


後世に語り継がれる〖コナカ村大量虐殺事件〗。

その罪により、戦後、ガルシア隊は軍事法廷で死刑を言い渡され全員が公開処刑される。

最も惨い処刑方法である石打ちの刑により。



必死に異形を倒そうとするガルシア隊を観察しながら、ヒルデガルドは他人事のように呟くのだった。


「普通の人間に投与してこの有様なら、武蔵坊弁慶に投与したら、一体どんな素晴らしい異形に化けるのかしら。楽しみだわぁ」











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