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066 王命依頼

今日は8月15日。

シルスキーさんと約束した日。


その日の午後、俺は警備詰所の隊長室で隊長さんと向かい合っていた。


「封緘命令書です。開封期限は今日」


テーブルに封書を置く。


「おまえ、預かっていたなら、なんでもっと早く渡してくれなかったんだ?」

「だって、渡したらすぐに開封しちゃうでしょ?」

「当り前だ。封書があったら開封するのが当たり得だろ?」

「封緘命令書ですよ。開封期限前に開けたら駄目なヤツじゃないですか」

「そんなもん、誰も見ちゃいねぇよ」


俺は溜息をつくと、


「それが解ってたから、開封期限前に渡さなかったんですよ。シルスキーさんからも『開封期限前には絶対に渡すな』って言付かってましたし」

「伯爵め、余計な入れ知恵しやがって」


隊長さんが封緘命令書を手に取って封を開ける。

中の書類を見た途端、隊長さんの表情が険しくなる。

へえ、そんな顔もできるんだ。

だらしないおっさんだと思っていたが、初めて軍人らしいところを見たよ。


「じゃあ、確かに渡しましたよ。では、俺はこれで」


席を立って隊長室を出る。


「おい! ちょっと待てっ!」


隊長さんが引き留めようとしたが、聞こえないふりをして警備詰所を後にする。

厄介事の臭いがする。

逃げるが吉だ。



家に帰るとロダンが居間で暇そうにしていた。


「お茶を入れるけど、飲むかい?」

「ご相伴させて頂こう」


俺はお茶を2人分入れるとクッキーを載せたお皿と共に居間に戻る。

暫しロダンと午後ティーだ。

穏やかな午後のひととき。

やっぱ、平和に限るよ。



「優雅な午後のひとときとは、いいご身分じゃねえか?」


声のした方を見たら、アインズ支部長が腕を組んで立っていた。


「何でアインズ支部長?」

「妾が連れて来た。イツキに緊急の用事があると言うのでな」


アインズ支部長の横には白亜。


「何で勝手に連れて来るんだよ」

「白亜を責めるな。俺が頼んで連れて来て貰ったんだ」


そうして、アインズ支部長は俺の前のソファにどっかり座ると、


「イツキ。王命依頼だ」


王命依頼とは、国王からの指名依頼。

ギルドの指名依頼同様、拒否権を行使できない依頼。

ギルドの指名依頼と違うのは、拒否した場合に待っているのは極刑だというところ。

それだけ難易度の高い依頼。

その一方で、王命依頼を命じられた冒険者にはあらゆる便宜が図られる。

公的機関の全面協力。軍の指揮権。制限の一切無い自由裁量権。殺人許可等々。


俺は国王と面識が無い。

にも拘らず、俺宛の王命依頼。

誰が国王に俺を売った?

例の第一王女殿下とやらか?

その第一王女殿下に注進したヤツは誰だ?

せっかくスローライフを満喫していたのに、面倒事に巻き込みやがって。


「拒否権は…………無いんでしょうね」


俺はこれ見よがしに大きな溜息をつくと、


「伺いましょう」


諦めてアインズ支部長の話を訊く事にした。



アインズ支部長の語った内容を要約すると以下だ。



近日、魔族領から和平派五公主が正式な平和条約締結の為にアナトリア王国を訪れる。

五公主の名はシルキーネ・ガヤルド。女魔公爵で外務卿を務めている。

ちなみに、ガヤルド家は新興魔族。ベルゼビュートやアスタロトのような神代から生き続ける家名の無い旧魔族と異なり、人のような寿命がある新興魔族には家名がある。


その外務卿の使節団を辺境警備隊長と共に緩衝地帯で出迎え、王都まで護衛する。

それが今回のお仕事。


使節団には中隊規模の魔族軍の護衛が随行するし、迎える側も護衛の部隊を差し向ければ済みそうなものだが、そう簡単な話では無いらしい。

外務卿は新興魔族の出らしく(新興魔族と言っても2000年くらいの歴史はある)、守旧派が多い主戦派魔族から狙われている存在。その外務卿が人間の国で暗殺でもされれば、その責任は人間族に被せられ、即人魔戦争に発展するだろう。

軍にも魔族に快からぬ感情を抱く者も多い。護衛に差し向けた部隊が刃傷沙汰を起こさないとも限らない。魔族軍側だってそうだ。両軍が一触即発の中、護衛任務が務まるとは到底思えない。そういった意味でも王国側は軍を派遣できない。せいぜい代表者派遣のみだ。

そこで駆り出されたのが、王国最強冒険者パーティー、白銀の翼(シルバーウイング)

他の冒険者パーティーと異なり、魔族にも融和的だし、大抵の襲撃も撃退できる。



いずれにしても責任重大だ。

胃が痛くなってきた。


「ってことで、オマルのヤツと協力して使節団を迎えに行って欲しい。」


なるほど。

隊長さんが封緘命令書を読んで険しい表情になったのはこのことだったのか。

護衛中に和平派五公主に死なれでもしたら人魔大戦だ。

そりゃあ、険しくもなるよな。


「で、出立はいつですか?」

「明日だ」

「そりゃまた、急な話だ。トンズラする余裕もない」

「イツキ!」

「わかってますよ。逃げませんよ。依頼、確かに(うけたまわ)りました」

「明日は見送ってやる」


そう言って、村に行ってしまった。

今夜はここに泊まるのかな。

ありゃあ、隊長さんと飲みに行くと見たね。


ていうか、俺達が出発した後、どうやってホバートに戻るつもりなんだろう。



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