028 十字星を置いて来てよかった
ここは、40階層。
ダンジョンの床に穴を開けて、一気にここまで来た。
「アンチグラビティ(1/5)」
俺の重力魔法[グラビティ]や反重力魔法[アンチグラビティ]は他の術者のものとは違い、強度調整できる。いや、強度調整しないと、とんでもないことになってしまう。
例えば、[アンチグラビティ]。
この反重力魔法は係数が大きければ大きいほど重力と反発し反重力効果が高まり、逆に係数が小さければ小さいほど反重力効果は弱まる。空中に物があった場合、係数が『1』を超えるとその値が大きいほど上昇速度は速くなる。係数『1』なら重力とバランスして空中静止する。係数が『1』未満ならその値が小さいほど落下速度が速まる。係数を調整することで反重力魔法の強さが調整できるのだ。
ちなみに係数調整無しに反重力魔法を発動すると係数無限大で発動するから、もし、何らかの対象に向けて発動した場合、対象はこの惑星の大気圏外に弾き飛ばされてしまう。それ以前に極超音速で打ち出されるから、大気との摩擦で燃え熔けてしまうか、粉々になるかだ。万が一無事だったとしても、遮る物が無ければ行き着く先は宇宙の果てだ。
この原理を元に、俺自身の落下速度を係数調整した反重力魔法で減速して緩やかに着地。その後、同じく係数調整した反重力魔法で白亜の落下を減速させて受け止める。
「さて、ここの階層構造は、と。マッピング。ディスティネーション。索敵」
[マッピング]により、空間に40階層の地図が表示される。
[ディスティネーション]により青い丸、すなわち俺達なんだが、が地図上に表示される。
青い丸はこの階層のど真ん中、即ち俺達も40階層のど真ん中にいる、ということだ。
同時に[索敵]により、赤い丸、敵(この場合は魔物)が地図上に表示される。
結構いるなあ、魔物が。
地図の右端には39階層に繋がる階段。
左端がボス部屋で部屋の奥に41階層に繋がる扉のある階段。
いちいち歩き廻って地図を作成する必要が無いのは楽だね。
とりあえず、ボス部屋以外の通路や小部屋にいる魔物を倒して行こう。
1匹も残さず駆除だ。
早速、近い敵のところに向かう。そこには、金色毛皮の牙狼が5匹いた。スペシャルな牙狼だが、サクサク行こう。
「グラビティ(1000)」
一瞬で5匹のスペシャルな牙狼はダンジョンの床のシミになった。
それぞれのシミの真ん中に魔石が転がっていた。
へえ、魔石は砕けなかったんだ。
[エクストラクション]で魔石を集めて[無限収納]に回収。
ハイ、おしまい。
「妾の出番は無さそうじゃのう」
白亜が呆れている。
「《S》ランク以上の未踏破階層が20階層分もあるんだ。普通にやってたらいつ終わるかもわからん。アインズ支部長もいつスタンピードが起きるか戦々恐々だったしね。脅威は早く取り除いた方がいい。一般人に被害が出る前に対処できれば、それが一番だろう? 第一、一撃で終わる方が楽でいい」
「いろいろ言っておるようじゃが、兄者の本音は最後の一言に尽きるのじゃろ?」
やれやれ、全部お見通しのようだ。
とりあえず、40階層の他の魔物を順次殲滅していく。
牙狼の群れ×3、オークロード×7、ミノタウロス×5。
どれも実体があるので[グラビティ(1000)]だけで対処。
全て残さず床のシミ。魔石もザクザク。
そして、残すは40階層のボスだけになった。
次はボス戦だ。
■
40階層のボス部屋に入る。
背後の扉が閉まり、周辺の松明に火が灯る。
ボス部屋は巨大な空間だ。ドーム球場何個分だろうか。これまでの通路や小部屋に比べて明らかに天井が高い。空間拡張が施されているのかもしれない。でなければ、10階層分くらいの吹き抜けにはならない。
辺りを見回すが、ボスがいないぞ。
と、突然、頭上から攻撃を受けた。
「兄者!!」
勇者の加護[絶対防御]が発動したので、無傷。
だが、二重に掛けたはずの[結界]障壁の一角に穴が・・・
見上げると、異形の嘴が穴を広げようとしていた。
鷹の頭、胴より翼を生やし、四肢はネコ科の猛獣のそれ。
《SS》ランクに近い《S》ランクの魔物グリフォン。
そのグリフォンが急降下で襲ってきたのだ。
高地や山岳地帯に生息するグリフォンが何で地下にいるんだよ。
まあ、常識は通用しないか。
なんせ、ダンジョンだし。
白亜が五月雨でグリフォンに切りつけるが、素早く空中に逃げられる。
天井近い位置に滞空して俺達を見下ろす、それ。
距離が遠すぎて一般的な攻撃魔法は届かないし、天井近い位置に滞空しているから上空からのクラウドバースト系の魔法も行使できない。重力系の魔法も射程外だ。遠隔射撃系も飛翔力の高い相手では容易に避けられてしまう。強力な範囲攻撃魔法なら倒せそうだが、こちらも巻き込まれてしまうから使えない。最悪、ボス部屋が崩れて生き埋めだ。
グリフォンは繰り返しヒットエンドラン攻撃を繰り返す。こっちは俺の[結界]障壁で守り、白亜の剣戟による攻撃でダメージを与えようとするが、有効的なダメージが与えられない。
十字星を置いて来てよかった。《S》ランク冒険者など、アッと言う間にグリフォンに蹂躙されていただろう。
ナイス判断、俺。
さて、どうする。
そこで、俺は白亜に、
「白亜! 目を瞑れ!」
そして、
「バーニングライト!」
上級光属性範囲攻撃魔法[バーニングライト]の旋光がボス部屋全体に広がる。
グリフォンが目を焼かれ、空中をのた打ち回る。
滅茶苦茶な飛翔。
そして、ボス部屋の天井に激しく激突して、地に落ちた。
さあ、チャンスだ。
「グラビティ(1000)!」
重力魔法で圧死させようとするが、グリフォンは耐えている。飛び立とうと足搔くが、飛び立つことはできないようだ。
「グラビティ(2000)!」
ボス部屋の床がミシミスと音を立てる。
さっきより更に地に押し付けられたが、まだ耐えている。
これ以上は床が崩落する。
「ファイアバレット!」
「ファイアカッター!」
「アイシクルブリッド!」
「ビームバレット!」
「ストーンバレット!」
次々に攻撃魔法を繰り出すが、全て弾き返される。
グリフィンが重力魔法に逆らって最後の力を振り絞って飛び立とうとする。
飛び立たせたら面倒なことになる。
俺はグリフォンを地に縫い留めるために、上級闇属性攻撃魔法[ハンドオブダークネス]を行使する。
「ハンドオブダークネス!」
地から黒い手が次々に現れ、グリフィンの四肢や胴や首を掴む。
俺は更に翼を奪う為に、特級闇属性範囲攻撃魔法[マイクロブラックホール]を発動した。
「マイクロブラックホール(2連)!」
小さなブラックホールが2つ現れ、グリフォンの両の翼を消滅させていく。
これで、もう飛び立てない。
「パラライズ!」
特級闇属性状態異常魔法[パラライズ]で、グリフォンを麻痺させて動きを止める。
そして、
「ポイズン!」
特級闇属性状態異常魔法[ポイズン]で毒を浸透させるが、グリフォンは死なない。
なぜ?
俺は[鑑定]を行使する。
ほとんどダメージを負っていない。
HPが高すぎるんだ。
なら、HPを奪ってしまえばいい。
「エナジードレイン!」
HPを吸引減失させる特級闇属性状態異常魔法[エナジードレイン]。
グリフォンのHPはあっという間に残量1になった。
「ポイズン!」
再度、毒を浸透させる。
グリフォンはあっけなく息絶えた。
40階層のボスをようやく倒せた。
「なんともはや、兄者には驚く事ばかりじゃ」
呆れる白亜に、
「結構、てこずったけどね」
見ると、部屋の奥の41階層に繋がる扉の前に宝箱がある。
「宝箱だ。初めて見るよ。スゲ~~~」
宝箱に駆け寄り、蓋を開ける。
「待つのじゃ! もしかするとそれは――――」
白亜が慌てて制止したが、時すでに遅し。
俺は、蓋と本体それぞれに鋭い歯が生えた宝箱に上半身を銜え込まれていた。
「宝箱じゃなくて、ミミックだったようじゃな」
「ミミックなんて知らないよ」
「冒険者ギルドでアイシャが説明しておったじゃろ?」
「そうだっけ?」
「『そうだっけ?』じゃないのじゃ。聞いてなかった兄者が悪い。自業自得じゃの」
「そんなこと言ってないで助けてよ。体が抜けないんだよ。真っ暗なんだよ。ベトベトで気持ち悪いんだよ」
「まあ待つのじゃ。兄者はミミックに噛み殺される心配はないじゃろ。それよりもじゃ。兄者は憶えておるかのぉ、盗賊団を倒した後のことを」
白亜が急に話を変える。
「それ、今する話じゃないよね?」
「い~や、今すべき話じゃよ。妾は普段から借りたものはキッチリ返す事を性分としておる。そして、あの時も妾は兄者に借りを作ってしまったのじゃ。それを今返そうと思う」
何の事だ?
「そんなのは後でいいから、早くここから出してよ」
「い~や、今じゃ」
白亜が近づいてくる気配を感じた。
「のお、兄者。この間はよくも擽り倒してくれたのう」
そんなことあったっけ?
…………………………………………あったよ。
「だから、今、兄者を擽り倒すことにするのじゃ」
ミミックにかぶりつかれて身動き取れない今?
「ちょっ! 待てっ! 止めいっ! ギャハハハハハハハ! ウェッ、ギャハハハハハハハ! ミミックの唾液が口に…………ギャハハハハ! 生臭いっ! 気持ち悪いっ! ギャハハハハ! 助けて! 勘弁して…………ギャーハハハハ! お願いっ! 勘弁して下さいっ、白亜さま~~~っ!」
グッタリして頭がグルグルし始めた頃、ようやく白亜の擽りの刑の執行が終了した。
「反省したかの?」
「海より高く山より深く反省しました」
「ふざけておるのか? 余裕じゃのぉ」
「つい、混乱の極みで! 無茶苦茶反省しているから助けて下さい」
「仕方ないのお。じっとしておれ」
ザクッという音と共に俺の顔の前に五月雨の刃。
勇者の加護[絶対防御]があるから、ミミックの歯に砕かれることもなく、五月雨に顔を削がれることも無いとはわかっているんだが、目前に日本刀の刃は心臓に悪い。
ミミックの口が開いて解放された俺はミミックの唾液でベトベト。
自分の体をきれいにする生活魔法[クリーン]と服の汚れを落とす洗浄魔法[クロースウォッシュ]でミミックの唾液を落とす。
「えらい目に遭った」
白亜は大いに満足そうだ。
「憶えてなはれ」
「何か言ったかのぉ?」
「空耳じゃない? それとも聞き違いかな?」
俺は口笛を吹いて白亜の視線を逃れる。
白亜に倒されたミミックがシューッという音をたてながら消滅していく。
後に残されたのは、ミミックに喰われた人(?)の骨。
「これは……………………オーガ族の骨じゃな」
白亜が骨を見て言った。
「オーガ族?」
「うむ。ほれ、頭の骨の額から1本角が生えておるじゃろ?」
白亜の指摘どおりに1本角が額の真ん中から生えている。
「確かに人間の骨じゃなさそうだな。ちなみにオーガ族は亜人なのか?」
「いや。魔族じゃ」
魔族?
ということはこのダンジョンは元々は魔属領にあったもので、何等かの要因でここに転移してきたってことになる。
ギルドへの報告が必要だろう。
俺はオーガ族の頭の骨を[無限収納]に放り込んだ。
グリフォンを苦労して倒した報酬はミミックだった。
『はずれ』ってことね。
まあいい。宝箱は次に期待だ。
「さあ、次に行こう。次」
さて、39階層に戻るか、41階層に進むか。




