朝の来訪者
「朝だぞー。おっきろー」
耳元に突然鳴り響いた騒音が僕を夢の世界から現実へと引き戻す。
勢いよく起き上がり、音の出所へ顔を向けると笑顔の海里の姿があった。
「おはよう、一帆」
「おはよう……。ところでなんでいるの?」
昨日は寝る前に部屋の鍵は閉めたはずだ。だから海里が入れるはずがない。
だが、海里はそれにえへへとはにかむと、ポケットから鍵を取り出し僕の前に突き出してきた。
「えっ、どうしてそれを?」
それは僕の部屋の鍵だ。その証拠に、鍵につけられたプラスチック製のアクセサリーには二○三と書かれている。しかしそれは変な話だ。なぜなら僕は昨日寝る前に鍵を机に置いたし、いまも机には鍵が置かれている。ということは、
「ゆかりさんにもらったんだ。これで一帆を起こしてきてねって」
予備キーか。
でもなんで、よりによってこんな朝っぱらから起こされなければならないんだ。目をこすりながら布団の横に置いた目覚ましを確認すると九時。別にそんな早くはないけど、おかしい。別段用事だってないはずなのに。
「ゆかりさんがね、掃除を始めるからさっさと来いって」
僕の疑問に答えるように海里が言伝を述べた。
そういえば、昨日の夜、大家さんがそんなことを言っていた。
「でも朝ご飯もまだなんだけど」
「それも用意してあるよ。ちなみ早く来ないと一帆の分も食べちゃうってゆかりさんが言ってたよ。早く行かなきゃ」
僕は大家さんの戦略に感心した。朝ごはんで釣るとは流石である。当然のことではあるが、うちに朝ごはんになりそうなものはない。しかし買いに行く気もなかなか起きない。だから、朝ごはんを用意していると言われたら僕はそこに食いついてしまうのだ。
とはいえ、別に朝ごはんの一食くらいなら抜いても大したことはないため、僕はこの提案を拒否することもできる。しかし、下手にここで籠城戦を行ったとして、これまでみたいに夕食を作ってもらえなくなったら僕にとって死活問題である。毎日カップ麺と外食。その行き着く先は生活習慣病だ。そう考えると、始めから選択肢なんてないのだ。なんてぬかりないんだろう。まるで僕の心を見透かしているみたいだ。さすが大家さん。
「着替えてすぐに行くって伝えといてくれ」
「任せなさい」
海里は親指を立てると、そそくさと部屋をあとにした。相変わらずテンションが高いやつである。
それはそうとして。着替えながら僕はふと思う。海里はなんだか当たり前のように予備キーで僕の部屋に入ってきたけど、よくよく考えると大家さんと先輩以外では初めての女の子の来訪だ。ただ、全く感慨はない。そもそも、今回のケースは来訪というより侵入だ。しかも、不法侵入。今度から夜は施錠だけじゃなくてチェーンもする方がいいかなと部屋の扉を見て思うのであった。




