31.とある表現の自由戦士の顛末
またなんか目に余るのが閾値越えてきたので書いてみました。
2026.8.14
江田 尚希
俺の名前は江田尚希。41歳。年齢=彼女いない歴だが、なんか文句あるか?
神国日本の成立は大歓迎した。女が男より下になって、民主主義国家でも無くなったから基本的人権も護られなくなって、自分より身分が下の女達を好きに出来たりして童貞から卒業できたしな!
エロコンテンツからモザイクが消えたのもすっきりした。ただ、性交可能年齢にJSが含まれなかったのははっきり不満だったし、JCとか未成年は婚約者相手じゃないと性交できないし、同年齢帯じゃないと婚約者に選ばれないとかってのは年齢差別だと憤慨した。当局に抗議してもとりあってもらえなかったけどさ。
俺も神国日本になるまではびびりだった。エロは創作物とかAVで楽しむくらいで、ツイフェミ達をこきおろしても、自分で痴漢とかをする度胸は無かった。創作物と現実を混同するなよ、てのはいつもの決まり文句だったし。
でもま、中学時代からの友人の野々村雄一は、妻子持ちでそれなりな収入もあるんだけど、電車とかで楽しんでるクチだった。JCやJKの制服に精液かけたりとか、下着の中に手を入れて好きにしたりとか、武勇伝を何度も聞かせてもらったり、戦果の写真を見せてもらったりもした。
オタク趣味にも理解がある奴で、おすすめのエロコンテンツを紹介したり貸したりとかしたけど、それがきっかけで痴漢したなんて証明できないし、当人が「あれを参考にしてやってみたよ、良かったぜ!また別の紹介してくれな!」なんて言ってきたとしても、そのコンテンツだけが原因でやったなんて誰にも証明できないしな。
で、野々村と俺は、神国日本になってから、特に準組員以下の女性を狙い撃ちした。最高だったね!痴漢の現行犯でも警察がまともにとりあわなかったりするんだから!この世の天国をもたらした忠臣組には感謝しかなかった。ただ、自分より身分の高い女性を中心にした報復組織みたいのも結成されたとか噂は聞いてたので、その手合いには手を出さないよう注意はしたけど、フェミの類が発言力を喪失したような世の中は本当に快適だった!
だけど、神国日本が倭国になって、全てがひっくり返った。三人の国のトップのうちの一人の女性が女王になって、新たに定められた憲法もまた少し変えられてしまった。いや大事な部分が根底から無断で変えられてしまった。
いわく、忠臣組組員の同階級の間であれば、女男間の格差は無く平等で、意見が対立した場合は基本的に女性側の意見が優先されると変更されてしまった。
許せない裏切りだった。
性的行為も、女性側の同意が無ければ出来ないなんて、男性差別だろうが!
さらに、ほとんど好き放題出来た女性の奴隷達も、女王即位の恩赦とかで、彼女らが望めば準組員になれて、一般組員になるだけの金額を納められればいきなり一般組員にさえなれるようにされてしまい、この機会に女性奴隷の大半が奴隷身分から解放される事になってしまった。
話はそれだけで終わらなかった。
一度でも痴漢で捕まった事のある奴の額には、『私は痴漢です』と強制的に刺青をされて、刺青を隠したり消そうとすれば奴隷身分に落とされる事になってしまった。
さらに暴行や埒換監禁などの性犯罪を実刑をくらった事のある連中は性器を切除され、痴漢犯などと一緒に外せない首輪(GPS付きで位置情報が一般公開されてしまう!)を付けられる事にもなった。酷い人権侵害だ!絶対許せない!
当然、ネット上でもリアルでも、男性側から強い拒否反応が起こったけれど、弾圧された。野々村なんて過去に何度も痴漢した複数の女性から訴えられて刺青や性器切除だけでなく、片手の指を全部落とされてしまった。
その巻き添えを食らって、俺まで訴えられて額に刺青を入れられてしまった。会社は当然の様にクビになった。どうして他人の人生をそこまで台無しに出来るんだ!息を吹き返したフェミ達が俺達を庇ってくれる事は当然無かった。期待するだけ無駄なのは知ってたけどさ。
私は痴漢です、という刺青を入れられ性犯罪者GPSを付けられてからというもの、俺は完全にマークされてしまった。卵とか白濁液とか汚水みたいな良く分からない不快な何かをぶっかけられる事もあった。
「何しやがるんだ!どうしてそんな事が出来るんだよ!?」
と怒鳴りつけてみても、
「楽しいから」
「復讐だから」
「お前らが楽しいからって、復讐だからって、何やってもいいと思ってんのかよ!?」
「あら、そう思ってたから、何だって好きな事をやってきたんでしょうに、今更何言ってるの?」
「命の危険は無いでしょ?肉体を傷つけてもいないし」
話の通じる相手じゃなかった。下手に手を出せば今度こそ俺の息子ともおさらばなのは確定してたから、耐えるしかなかった。
生きる為には、どうにか働かないといけなかった。男性に同情的な職場を何とか見つけてバイトで生活してたけど、外に出てる時に家に入りこまれて、俺のお宝エロコンテンツをばらばらにされてアパートの扉とか外窓とかに貼り付けられてたりといった嫌がらせは続いた。
交番に被害を申し出ても、
「基本的人権が無くなったのに何を勘違いしているんだ?」
と取り合ってもらえなかった。
「でも、個人のプライバシーの侵害だろ!犯罪じゃないか!俺だって忠臣組の一般組員なんだぞ!」
「痴漢犯認定されて、実態は降格観察処分中だけどな。知ってるぞ。男女の優位扱いが逆だった時は好き放題してたって。その報いを受けてるんだと諦めな」
交番の下っ端じゃ相手にならないと、最寄りの忠臣組の地方事務所に訴え出たけど、もっと辛辣だった。痴漢犯相手だと、必ず女性事務員が対応する事もあって、男性事務員に対応希望しても受け入れてもらえなかった。
「あなたは女性側が低い身分に置かれていた時、一度でも抗議した事がありましたか?」
「・・・無いけど、でもっ、だからって男性差別するのはおかしいじゃないか!」
「なぜ?あなたは男女平等なんて信じていなかったでしょうに」
「なんでそんな事がわかるんだよ!」
「個人情報保護なんて、特に犯罪者に対しては認められてないからですよ。あなたのネット上での言動も全て監視対象になっています。神国日本成立以前の記録も含めて。繰り返して訊きますよ。あなたが女性達を庇おうとした事が一度でもありますか?」
「俺は、でも、神国日本成立するまでは、創作物と現実の区別は付けて、実際の犯罪行為はしてなかったし、手を出したのは神国日本になってからで、出した相手も自分より身分の低い相手だけで、法律は犯してなかっただろう!?」
「その法律も国としての在り方も変わったのですよ」
「変わる前の行為までその変わった方で裁こうとするなんておかしいだろ!」
「残念ですね。あなたがそんな抗議を申し立てる権利は認められていません。まぁ不可能ではないですが、命を賭してまで訴え出た男性達が毎日ぶち殺されていってるのはあなたも知っているでしょう?止めませんよ?」
その女性事務員は、スタイルが良かった。可能な限りそちらは見ないようにしてたのに、シャツのボタンを上から、一つ、二つと外し始めたので、俺は急いで視線を逸らした。どんな言いがかりと余罪をふっかけられるかわからなかったからだ。
憎たらしい女性事務員は、くすくすと笑いながら言った。
「まだ何か言いたい事が残ってます?」
俺は頭の中だけど、覚えてろよ!と相手をののしって事務所を後にした。
絶対、このままじゃ終わらない。終われない。俺はあの見栄えだけは良かった女性事務員を、将来復讐してめちゃくちゃにしてやる脳内リストに加えたのだった。
むしゃくしゃしてたから飲み屋をはしごしてから帰宅途中のスマホで見たSNSのタイムラインでは、フォローしてたお気に入りのエロ漫画家の神作品が発行/流布/販売禁止処分になったとニュースになっていて、俺はさらにこの世の中に対する絶望を深めた。
その漫画家は青末豊。表現の自由を守る戦士の旗頭的存在だった。神国日本になった後でも発行とかが禁じられてなかったので安心してたのに、これも全て女王なんてのが即位したのが悪いのか!?
SNSのニュースではこんな風に報じてた。
「痴漢などの性犯罪者の所有物、スマホの電子書籍なども含めた閲覧コンテンツ履歴などから、特に共通して視聴されていた作品について、有害作品認定ポイントが付与されるようになった。
プライバシーが保護されていた時代にはその影響が証明不可とされてきたが、定量的調査からその影響が推察証明可能として、一人の犯罪者につき1ポイントが加算され、10ポイントで作者と販売主体に注意処分がなされ、50ポイントで発行掲載販売流布などが禁止される事になった。100ポイントを越えた作品に関しては所持そのものも違法とされる。
痴漢などの性犯罪履歴がある観察対象者が違法とされたコンテンツを所持していた場合、処罰が厳格化される事があるとされている為、要注意」
俺はそこまで記事を読んでから慌てた。最寄り駅まで電車が着くまでにも焦り続けたし、自宅までは走り続けた。
久々に走ったからか脇腹は痛かったし呼吸もぜいぜいと苦しかった。それだけ努力したのに、遅かった。間に合わなかったらしい。
自分の部屋のドアが開けられていた。ドアにはもちろん"有害"とされたコンテンツが貼り付けられて、ご丁寧に赤丸で囲われていた。
部屋の中には、ついさっき顔を遭わせたばかりの女性事務員がいた。その足下には、いくつもの、忠臣組に"有害"とされたのであろうマンガだの薄い同人誌やらが散らばっていた。
「おい、勝手にあがりこんで、俺の私物に何してくれてんだよ!?」
「おや、あなたの過去の発言によれば、あがり込まれた方が悪いのでは?」
女性事務員が手にしていたタブレットには、確かに俺が過去にSNSで発言した内容が表示されていた。
「さっけんなよ!そんなの発言の自由が認められてた頃の物だから無罪に決まってんだろ!」
「その頃はそうだったかも知れませんね。でも今はもう違います。あなたは額に『私は痴漢です』と刺青を入れられてからも、世の中の風向きが変わっても、あなたの宝物を手放そうとはしなかった。つまり心根は変わらなかったということです」
「俺を支えてくれたのは、お前らリアル女性じゃないんだよ!創作物の中の女性達だけなんだよ!なんだって彼女達まで俺らから取り上げようとするんだよ!俺はお前に何もしてないじゃん!」
女性事務員の雰囲気というか視線が一段と冷えた。
「あなた、さっき帰り際に私のことすごい目でにらみつけて来たの自覚してないでしょう?それに、あなたが私に何もしてないのは、たまたま私がその対象になっていなかっただけ。あなたは何人にも害を及ぼしてきた。こういった創作物を糧にしながらね」
ぐしゃりと踏みつぶされたお宝の姿に激しい怒りがわき上がった。
「俺がそういった物を愛してたからって、そういった物が俺に犯罪を犯させたって証明できるのかよ!?できないだろうが!」
「はぁ、本当に救いようが無いバカね。逆に考えてみなさいよ。影響してなかったと証明できるの?」
「ふざけんなよ。世の中にどれだけコンテンツが溢れてると思うんだよ!ハリウッド映画とかだって殺人やらセックスやら流すことあるだろ!それで犯罪増えてるって証明できるのかよ!?」
「ええ、ああいえばこういうでどっちもどっちで影響なんてわからない、って結論に持ち込めれば現状維持されるというのがあなた達の戦法よね。でも残念ながら、もうそれは通用しないの。
知ってる?現行犯で捕まえた痴漢でも、特定のコンテンツに影響されただけで俺は悪くない!て言い訳なんてしないの。今のあなたと同じ様にね。だから、性犯罪者達に共有されてるコンテンツで有害度を認定するようにしたの。その手口の類似性で影響度を測定することも出来たしね。こういったことは以前の日本だと不可能だっただろうから、こういう面だけはある意味の救いね」
「ふざけるなよ。俺がどんなコンテンツに触れようが見ようが所持しようが俺の自由だろうが!それが人権ってもんじゃねえのかよ!?」
「そうだったのかもね。でも、あなたはエロに自由に接する権利だけを表現の自由として守ろうとした。自由がそもそも何を守る為に必要とされてたなんて考えもしなかったでしょうに」
「なんでそんなことがわかるんだよ!?」
「あなたのSNSアカウントの過去発言ログ。基本的人権を無くしたり、公務員による拷問を禁じる条項を削除した新憲法案に賛同したりその政党を支持し続けてたでしょう?エロの為の表現の自由は守ってくれるような発言してる議員がいたからって。バカよね」
「どんな理由でどんな政党や議員支持したって、それが自由で基本的人権てもんじゃないのかよ!?」
「救いようが無いわね、本当に。その自由は基本的人権を守る為にあるのに、その基本的人権を侵害したり損ねる憲法案やその政党を支持してるのに、あなたの人権や自由を守る理由が存在するのかしら?」
「誰だって、自分の人権は守れって訴えるだろうが!」
「そう。それくらいのことをどうしてあなた以外の誰かにも当てはめようとしなかったのかしらね。自由は表現の自由だけじゃないし、自由は基本的人権を守る為に存在していた。今はもう無いけれどね。
さて、同じ繰り言はもうお腹いっぱい。あなたは性犯罪者。そして有害コンテンツを性犯罪者として社会的に認知された後も手放そうとしていなかった。その危険性をさらに二段階引き上げて、非組員の要監視対象の身分に即刻引き下げます」
俺は、切れた。ぷつんて音は脳内にしなかったかもだけど、目の前の女に掴みかかっていた。
押し倒して、ぐちゃぐちゃにして、後はどうなろうと知ったことじゃなかった。
だけど、女の両肩を掴む前に腹に何かを突きつけられて、ばちばちばちっと音がして、体中にたぶん電流が駆け抜けて、俺はその場に倒れた。
痙攣してる内にも何度かスタンガンで撃たれて、気を失うまでの間に、男性としては実質的に死刑宣告された。
「性犯罪者の要観察処分中に、有害コンテンツの継続保持を確認。その上で、忠臣組の女性公僕に襲いかかろうとした。あなたは残りの一生を奴隷として過ごしなさい。男性としての性器は切除された上でね。今後、女性と触れ合う機会は生まれないでしょう。
さようなら。というより、ざまあみろ」
俺は、意識を失う間際に頭を強く蹴られて、そのまま意識を失った。その後の人生を考えれば、そのまま意識を失ってままでいた方が、惨めさは感じずに済んでいたかも知れなかった。
当たり前だけど、この物語はフィクションです。
本文中には割愛しましたが(どこかで挿入するかもですが)、特級辺りの男性組員からの、実際には無かった性犯罪被害を申告した女性組員/非組員/奴隷などもいました。特級組員の所在もその腕輪で記録取られてますので冤罪は簡単に判明し、冤罪被せようとした人達は性別に関わらず降格等の厳しい処分を受けました。
この物語は、劇中の社会が理想だ!というつもりはまるでなくて、基本的人権が保証されない、民主制政治が失われた世の中になったら何が起こるのか?、を書いているものです。




