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隠れ家レストラン  作者: 冲田いつき


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7/11

7

 “ホンモノの料理をしよう作戦”は、さっそく決行された。学校が終わると、ハルトとガイアは一目散(いちもくさん)に公園に行き、秘密基地へと走った。そこでレイと落ち合うと、三人でハルトのマンションに向かう。

 お洒落で立派(りっぱ)な門構えの建物を、ガイアとレイは見上げた。入り口のオートロックを、ハルトは首から下げた(かぎ)で開ける。そして、自動ドアの向こうにあらわれた、これまたきらきらと明るくて、ソファや観葉植物なんかが置いてある豪華(ごうか)なロビーに、平気で入っていった。


「ドラマに出てくる家みたい……」

 ガイアはぽつりとつぶやいて、気遅(きおく)れしながら(おどろ)きの目をきょろきょろとさせていた。


玄関(げんかん)にランドセル置いて待っといてよ」


 自分の家に友達を招き入れ、ハルトは言った。そして自分も玄関にランドセルを放りなげながら、リビングダイニングに行った。テーブルの上にはいつもの置き手紙と千円札。その千円と、自分の部屋にある貯金箱から、今までのおつりの一部を取り出して、ズボンのポケットにつっこんだ。



 三人で近くのスーパーまで走り、そのままの勢いで同時に(つか)んだ買い物かごを取り合いながら、店内にかけこんだ。


「ねえ、なにつくるの?」


 とレイはガイアに聞いた。それにガイアはしまったという顔で「なんも考えてねぇや」と答える。


「テレビで料理番組は見たことあるけど……結局、なに買えば何になるんだ?」


「ええ! コックさんになりたいって言ってたのに、そのレベル⁉︎」


 ハルトが思わずと、話にわりこんだ。


「だって、やったことねぇもん!」


 ガイアはむくれながら言い返す。三人は野菜売り場で立ち往生して、うーんと頭をひねった。


「やっぱりまずは、カレーじゃない? 絵本で、カレーをつくる話、小さいころ読んだことあるよ」


「じゃあ、そうしようぜ! カレーならオレもわかる気がする!」


 メニューはカレーに決まって、ハルトとガイアは、カレーの材料をカゴに入れていった。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、お肉、カレールー。お肉は一番安い(とり)にした。あと、テレビコマーシャルでリンゴとはちみつって言ってたっけ?

 ああでもない、こうでもないと言い合いながら、買うものを決めていくのは、とてもおもしろかった。レイはたまに言葉をはさむ程度で、終始ニコニコと後ろをついてきた。



 買い物を終えて、はやる気持ちで小走りにマンションへと(もど)る。けれどいざ帰り着くと、さあ、すぐに調理開始とはいかなかった。

 リビングダイニングに足を()み入れたガイアの目に、一番に飛びこんできたものは、テレビにつながったゲーム機だ。


「わあ! これ、最新のやつ?」


「うん、そうだよ。やる?」


「やるやる! 絶対やる!」


 買い物(ぶくろ)を放り出してゲームをやっていると、時間はあっという間に過ぎていく。ガイアにとっては初めて()れるゲーム機だったし、ハルトは誰かと一緒にゲームで遊ぶのは初めてだ。夢中になるのも無理はなかった。

 ハルトの家に来た当初の目的を、すっかり(わす)れて遊びに熱中していると、ほとんど鑑賞(かんしょう)にまわっていたレイが、ハルトの(かた)をツンツンとたたく。


「時間、だいじょうぶ?」


「え?」


 ハルトは(まど)の外の真っ暗な空と、壁掛(かべか)け時計を交互(こうご)に見たあと、がばっと立ち上がった。


「もうこんな時間! はやくカレーつくろう!」



 三人で台所に立つと、また、ああでもないこうでもないと言い合いながら、ガイアを中心にカレーを作っていった。

 ガイアは包丁(ほうちょう)をドキドキと手にしてみるも、使うのはもちろん初めてで、野菜の切り方なんてさっぱり知らない。まずは玉ねぎの茶色い皮をとって、ジャガイモは土がついていたのでよく(あら)って、にんじんやりんごも皮のまま。記憶(きおく)にあるカレーの具の形に、不器用な手つきで切っていく。玉ねぎは目にしみるし、ほかの野菜はかたすぎるし、とり肉はぶよぶよして切りにくいし、見ているほうはとてもヒヤヒヤした。

 大きめの(なべ)に水をひたひたと入れて、そこに切った具材やはちみつ、カレールーを全部入れると、鍋の中はいっぱいいっぱいで、水がこぼれそうなほどだった。


 ガイアが鍋の担当(たんとう)をしている間、ハルトはご飯を()く係をした。お母さんがやっていたのを思い出しながら、これくらいかな? と、自動計量の米びつから、(かま)にザザっとお米をいれる。

 次はお米を水で洗ってみたけれど、これが思っていたよりも(むずか)しい。特に真っ白になった水を()てるときだ。ハルトの小さな手を簡単(かんたん)にすり()けて、お米はかなりの量がシンクに流されていった。なんとかやり終えて炊飯(すいはん)器に釜をセット、スイッチを入れる。


 鍋を置いたIHコンロのスイッチも入れて、しばらくすると、鍋はぐつぐつと中の具材を()らし、なんだかとても“それっぽく”なってきた。けれど、いい感じだなと思ったのは沸騰(ふっとう)し始めだけで、その後、ひたひただった鍋の中身は盛大(せいだい)()きこぼれた。三人で(あわ)てて、こぼれたカレーを火傷(やけど)しそうになりながら、タオルでふく()()になった。



 慣れない手つきで何時間もかけて出来上がったカレーは、お世辞にもいい出来とはいえなかった。おかゆみたいにべちゃりとしたご飯と、スープのようにサラサラのカレーを、ガイアがお皿に()()ける。盛り付けだけは、いつも給食当番でやっているからお手のものだ。


「なーんか、ちがうよね」

「見た目は良くないけど、おいしいかも?」


 ガイアとレイがそんなことを言いながらお皿をテーブルに運び、ハルトはスプーンやコップを用意した。


「いただきます!」


 三人で、せーのでスプーンを口に運んだ。


「……味うすい。うすいのにすごく(あま)い」

「ジャガイモ、まだ固いよ」

「リンゴって、こんなゴロっとした形で入ってるものだっけ?」


 口々にそんな感想を言い合いながら、最後にはこの大失敗を三人で大笑いした。


「でも、食べれないってことはないな!」

 ガイアがちょっと強がりながら、もう一口、二口とべしゃべしゃカレーを食べる。


「それにすごく楽しかった!」

「うん! またやりたいね!」


 おいしいのは当然、秘密基地のごはんだけれど、ホンモノ料理のワクワクには(かな)わない。今度こそ成功させようと固く(ちか)い合い、次のメニューはカレーリベンジに決まる。そしてまた来週やろうと、失敗カレーを無理に()()みながら、計画と作戦も立てた。

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