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“ホンモノの料理をしよう作戦”は、さっそく決行された。学校が終わると、ハルトとガイアは一目散に公園に行き、秘密基地へと走った。そこでレイと落ち合うと、三人でハルトのマンションに向かう。
お洒落で立派な門構えの建物を、ガイアとレイは見上げた。入り口のオートロックを、ハルトは首から下げた鍵で開ける。そして、自動ドアの向こうにあらわれた、これまたきらきらと明るくて、ソファや観葉植物なんかが置いてある豪華なロビーに、平気で入っていった。
「ドラマに出てくる家みたい……」
ガイアはぽつりとつぶやいて、気遅れしながら驚きの目をきょろきょろとさせていた。
「玄関にランドセル置いて待っといてよ」
自分の家に友達を招き入れ、ハルトは言った。そして自分も玄関にランドセルを放りなげながら、リビングダイニングに行った。テーブルの上にはいつもの置き手紙と千円札。その千円と、自分の部屋にある貯金箱から、今までのおつりの一部を取り出して、ズボンのポケットにつっこんだ。
三人で近くのスーパーまで走り、そのままの勢いで同時に掴んだ買い物かごを取り合いながら、店内にかけこんだ。
「ねえ、なにつくるの?」
とレイはガイアに聞いた。それにガイアはしまったという顔で「なんも考えてねぇや」と答える。
「テレビで料理番組は見たことあるけど……結局、なに買えば何になるんだ?」
「ええ! コックさんになりたいって言ってたのに、そのレベル⁉︎」
ハルトが思わずと、話にわりこんだ。
「だって、やったことねぇもん!」
ガイアはむくれながら言い返す。三人は野菜売り場で立ち往生して、うーんと頭をひねった。
「やっぱりまずは、カレーじゃない? 絵本で、カレーをつくる話、小さいころ読んだことあるよ」
「じゃあ、そうしようぜ! カレーならオレもわかる気がする!」
メニューはカレーに決まって、ハルトとガイアは、カレーの材料をカゴに入れていった。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、お肉、カレールー。お肉は一番安い鶏にした。あと、テレビコマーシャルでリンゴとはちみつって言ってたっけ?
ああでもない、こうでもないと言い合いながら、買うものを決めていくのは、とてもおもしろかった。レイはたまに言葉をはさむ程度で、終始ニコニコと後ろをついてきた。
買い物を終えて、はやる気持ちで小走りにマンションへと戻る。けれどいざ帰り着くと、さあ、すぐに調理開始とはいかなかった。
リビングダイニングに足を踏み入れたガイアの目に、一番に飛びこんできたものは、テレビにつながったゲーム機だ。
「わあ! これ、最新のやつ?」
「うん、そうだよ。やる?」
「やるやる! 絶対やる!」
買い物袋を放り出してゲームをやっていると、時間はあっという間に過ぎていく。ガイアにとっては初めて触れるゲーム機だったし、ハルトは誰かと一緒にゲームで遊ぶのは初めてだ。夢中になるのも無理はなかった。
ハルトの家に来た当初の目的を、すっかり忘れて遊びに熱中していると、ほとんど鑑賞にまわっていたレイが、ハルトの肩をツンツンとたたく。
「時間、だいじょうぶ?」
「え?」
ハルトは窓の外の真っ暗な空と、壁掛け時計を交互に見たあと、がばっと立ち上がった。
「もうこんな時間! はやくカレーつくろう!」
三人で台所に立つと、また、ああでもないこうでもないと言い合いながら、ガイアを中心にカレーを作っていった。
ガイアは包丁をドキドキと手にしてみるも、使うのはもちろん初めてで、野菜の切り方なんてさっぱり知らない。まずは玉ねぎの茶色い皮をとって、ジャガイモは土がついていたのでよく洗って、にんじんやりんごも皮のまま。記憶にあるカレーの具の形に、不器用な手つきで切っていく。玉ねぎは目にしみるし、ほかの野菜はかたすぎるし、とり肉はぶよぶよして切りにくいし、見ているほうはとてもヒヤヒヤした。
大きめの鍋に水をひたひたと入れて、そこに切った具材やはちみつ、カレールーを全部入れると、鍋の中はいっぱいいっぱいで、水がこぼれそうなほどだった。
ガイアが鍋の担当をしている間、ハルトはご飯を炊く係をした。お母さんがやっていたのを思い出しながら、これくらいかな? と、自動計量の米びつから、釜にザザっとお米をいれる。
次はお米を水で洗ってみたけれど、これが思っていたよりも難しい。特に真っ白になった水を捨てるときだ。ハルトの小さな手を簡単にすり抜けて、お米はかなりの量がシンクに流されていった。なんとかやり終えて炊飯器に釜をセット、スイッチを入れる。
鍋を置いたIHコンロのスイッチも入れて、しばらくすると、鍋はぐつぐつと中の具材を揺らし、なんだかとても“それっぽく”なってきた。けれど、いい感じだなと思ったのは沸騰し始めだけで、その後、ひたひただった鍋の中身は盛大に吹きこぼれた。三人で慌てて、こぼれたカレーを火傷しそうになりながら、タオルでふくはめになった。
慣れない手つきで何時間もかけて出来上がったカレーは、お世辞にもいい出来とはいえなかった。おかゆみたいにべちゃりとしたご飯と、スープのようにサラサラのカレーを、ガイアがお皿に盛り付ける。盛り付けだけは、いつも給食当番でやっているからお手のものだ。
「なーんか、ちがうよね」
「見た目は良くないけど、おいしいかも?」
ガイアとレイがそんなことを言いながらお皿をテーブルに運び、ハルトはスプーンやコップを用意した。
「いただきます!」
三人で、せーのでスプーンを口に運んだ。
「……味うすい。うすいのにすごく甘い」
「ジャガイモ、まだ固いよ」
「リンゴって、こんなゴロっとした形で入ってるものだっけ?」
口々にそんな感想を言い合いながら、最後にはこの大失敗を三人で大笑いした。
「でも、食べれないってことはないな!」
ガイアがちょっと強がりながら、もう一口、二口とべしゃべしゃカレーを食べる。
「それにすごく楽しかった!」
「うん! またやりたいね!」
おいしいのは当然、秘密基地のごはんだけれど、ホンモノ料理のワクワクには叶わない。今度こそ成功させようと固く誓い合い、次のメニューはカレーリベンジに決まる。そしてまた来週やろうと、失敗カレーを無理に飲み込みながら、計画と作戦も立てた。




