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 静寂の後、ぽつりぽつりとアレイスターが語り出した。


「お父様は、すごいのです。強くて、賢くて、なんでもできて」

「なんでも、じゃないけどね」

「でも、ぼくはお父様を目標にしてきました。本を読んで魔術を学び、お母様にも教えを乞いました。自分でもそれなりに強くなったつもりでした。実際、お母様には勝てました。けど、お父様には勝てませんでした。それも、これ以上ないくらい実力差を見せつけられて」


 アレイスターは目に大粒の涙を浮かべ、嗚咽をこらえている。


「お父様は、ぼくよりももっともっと先を行っています。ぼくはお父様の息子に相応しくないのではないかと思ってしまうのです」


 言葉はだんだんすぼんでいったが、言いたいことはわかった。アレイスターは見捨てられてしまうのではないかと不安になっているのだろう。

 アレイスターは昔のぼくとよく似ている。

 ぼくには今はもう滅んだ王家の血が流れている。だが、母は側室であり、正妻の子は多かった。しかも、母はぼくを生むとすぐに死んでしまった。それなりの身分と待遇だったが、宮中でぼくは厄介者として扱われていた。唯一の肉親である父もぼくのことは血を残しておくための保険としてしか見ていなかった。

 だからだろうか、現実から逃げるように魔術に傾倒していったのは。

 今のアレイスターもそうだ。自分のことを見てもらうために努力をしてそれが報われなかったときの悲壮感。そういったものが伺える。


「……アレイスター。怖がらなくていい。泣かなくていい。大丈夫、見捨てることなんてしないから」


 気づけば口が勝手に動き出していた。


「お父様……。でも、ぼくは……」

「何も言わなくていい」


 アレイスターはぼくの言葉に頷くと静かに泣いた。先ほどの不安や恐怖による涙ではない。安心と喜びによる涙であった。

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