第812堀:田舎発展物語 急
田舎発展物語 急
Side:デリーユ
「……」
一瞬で変貌を遂げた目の前の光景に唖然としているジャーナ男爵。
それも無理はない。
いきなり目の前に建造物群が出来たのじゃからな。
というか……。
「ユキ。何を出した?」
妾はユキの腕をしっかと握りしめ、逃げられないようにしてから質問をする。
「何をって、拠点だぞ。ほれ、いくつかの公共施設と、軍の関連施設も完璧だ」
確かに、そこには、直前までの岩と草原の風景はなく、ウィードよりも寂しくはあるが、それなりに立派な建物群が建っている。だが、それは問題ではない。
「あの金網フェンスの向こうは、飛行場ではないか?」
「ん? そうだぞ」
「何をしれっと答えておる。なんのために空母を用意したと思っておるんじゃ!?」
「何のためって、空母はあくまで海上での航空基地で、こっちは陸上の航空基地だ。これが無ければ空母が万一沈んだ時、艦載機はどこに着陸すればいいんだよ?」
「む」
確かにその通りじゃ。
普通の戦争なら空母が沈んだ場合、ボートで海に逃げるという案もないことはないが、海中の魔物との闘いを想定している以上、空母が落とされた時はボートなら無事だという可能性は低い。
その際には、艦載機で逃げることになるじゃろうから、飛ばすからには着陸する場所がいるというのはよくわかる。
「とは言っても簡易な物だから単にアスファルトで固めただけだ。滑走路が3本と小さい管制室があるだけで格納庫もなし。本当にここを使うときは非常時だよ。まあ、機体はアイテムボックスに入るからな」
「なるほどのう」
シーサイフォ王国に空母を出す以上はハイデンにもこういう設備は必要か。
「というか、そもそも、今後の開墾の手伝いとかもあるからな。こうしてこちらの技術力を見せつけるのは必要だろう? 下手に反発とかされても面倒だしな」
「確かにな」
下手に相手のレベルにあわせると、相手がこちらのことを勘違いするからのう。
謙遜も度が過ぎれば相手に誤解を与えるということじゃ。
「とはいえ、刺激が強すぎて、ジャーナ男爵はすっかり固まってしまったようじゃな」
「ま、仕方ないだろう」
こうして妾がユキと喋っている間も固まったままで、回復してこないでおる。
まあそれだけ、たった今起こったことがあまりに信じられないということじゃな。
さて、どう正気に戻したものかと考えていると、ミコスがジャーナ男爵に近寄って……。
「とーちゃん。とーちゃん。いつまでぼーっとしているんだよ。ミコスちゃんが恥かくなるでしょう!!」
そう言って、軽く蹴った。
じゃが……。
「ごふっ!?」
「へっ?」
その衝撃で、ジャーナ男爵は宙に浮かんだかと思うと、数メートルほど後ろまで弾き飛ばされてばったりと倒れた。
ミコスは自分がどれだけ強くなっているか理解も実感も伴っておらんようじゃな!!
いや、そこの説明を忘れておった妾たちのミスか!
「バカ者が!! ユキ!! すぐに治療を!!」
「おう」
「と、とーちゃん!?」
「お前はこっちじゃ!!」
妾は慌ててジャーナ男爵に近寄ろうとするミコスを強引に引っ張って止める。
こっちに顔を向かせたミコスは、ボロボロと涙を流していて……。
「デリーユさん。と、とーちゃんが、私が、私が蹴ったせいで……」
「落ち着け。別に死んでおらん。たとえどんなケガをしていてもユキが治す。お主は、というかカグラたちも一度集合せい。説明をしておらんかった」
ということで、妾は至急ミコスたちに自分の強さを正確に把握してもらうこととなり、その説明を終えたころには、治療が終わったジャーナ男爵がこっちにやってきた。
「とーちゃん! ごめん!!」
「いや、まあ、人を蹴るのは悪いことだが、今回に限っては私も悪いからな。お互い様だ。というか、いい加減お父様と呼べ」
ふう。
ミコスの父親が器の大きい人物で助かった。
傍から見れば大の大人を軽々と蹴り飛ばす少女、という図だからな。
普通なら大いに怖がられるか、警戒される。
こっちとしても、魔物に対応できるように、いささか訓練を急いだのがあだになったのう。
いや、ハイレ教会の総本山で戦いになるとわかった時から、コツコツと鍛えておったからな。
まさか、無意識のうちに身体強化を入れて蹴るとは思わなかった。
ジャーナ男爵もとっさに身体強化をいれていたが、それを軽々と上回っておったからな。
あれが一般人じゃったら死んでおったわ。
そんなことを考えているうちに、ジャーナ男爵とミコスの話は進んでいく。
「しかし、ミコスがここまで強くなっているとはな」
「あはは……。デリーユさんとかユキ先生に鍛えてもらってたから。というか、とーちゃんを蹴り飛ばせるとはさすがに思ってなかったよ」
「……なるほどな。一瞬でできたこの建物といい、ミコスの強さといい。本当に本当の事だったんだな」
「そうだよ。とーちゃん。私たちはこの国の為に最前線で戦ったんだよ。まあ、主にユキ先生がだけど……」
「それでもいい。お前が無事に戻ってきたんだからな」
そう言って、ミコスの頭をポンと叩いてから、傍らで二人の会話を聞いていたユキへと話しかける。
「いや、助かりました、改めてお礼を申し上げます」
「いえ。こちらもミコスに力のコントロールを教えるのを忘れていて申し訳ない。そして、この施設も驚かせて申し訳ない」
「いえいえ。もともと話は聞いていたことですからね。ようやく納得がいきましたよ。なるほど、姫様たちが慌てて動くわけですね。そして先ほどお聞きしたトラブルが今この国では起こっているのですね。姫様」
「はい。ユキ様のおかげで、アクエノキの野望は阻止されましたが、シーサイフォ王国が海棲の魔物によって甚大な被害を受けています。この要請を受けなければ……」
「最悪、シーサイフォ王国は海という領土から得られる恵みを捨てて、新しい収入源を得るために内陸へと攻め入る可能性がある」
「はい」
そう、ただ単純に魔物に襲われて困っています。という話ではないのじゃ。
下手をすれば、シーサイフォ王国は、海を捨て陸で生きる道を探らなければいけなくなる。
そうなれば、混乱は必至。
おそらくは戦争になる。
そういうことも含めてユキは協力を申し出ておるわけじゃ。
魔力枯渇、ハイデンの為、どちらの目的のためにもシーサイフォ王国の問題は解決する必要があるわけじゃな。
そのための支援基地がこのジャーナ領の施設群と簡易飛行場ということになろう。
「さて、ここで立ち話でもなんですし、新しくできた建物のお話でもいかがですか?」
「そうですね。と、言いたいところですが、今は遠慮しておきます」
ほう? この状況で、説明を受けるのを拒否するとはな。
何か問題でもあったのじゃろうか? と思っているとすかさずミコスが口を挟む。
「とーちゃん!? ユキ先生の提案を蹴るとか馬鹿なの!?」
「落ち着け、今はだ、まずは村の人々や家族にこの場所の話をしないと大騒ぎになるからな」
「「「あ」」」
その言葉に、ミコスだけではなく、カグラたちも同じように今初めて気が付いたというような声を上げる。
確かに会議よりも、まずはジャーナ領の領民に説明するのが先じゃのう。
「ユキ様、よろしいでしょうか?」
「ええ。まずは住人に知ってもらうことが大事ですね。そうだな、ついでにご挨拶の品を持参してもいいでしょうか?」
「挨拶ですか?」
「ええ。同じジャーナ領に住むとは違いますが、顔を合わせることになりますからね。もちろんジャーナ男爵さえよければですが。あと、村人が何人いるのかも教えていただければ」
「そこまでしていただかなくても……」
「いえいえ。こういうのは最初が大事ですからね。今後の開墾の手伝いもあるでしょうし、よければ村人を集めてご挨拶させて頂ける時間をもらえればいいのですが。ほら、こんな感じで、私たちはちょっとこちらの人たちには刺激が強いようですし」
そう言って、ユキは後方に広がるウィードの簡易版の建物たちに視線を送る。
どうせ、ついでにいろいろ手懐けてしまおうという魂胆じゃろうな。
まあ、別に悪い意味ではないのじゃが、なぜかユキがこういうことを言うと裏を考えてしまうのは、妻としての自覚が出来てきたのか、それとも夫を疑うようになった駄目な妻なのか判断に迷うところじゃのう。
と、そんなことを考えているうちに、話は進んでいき……。
「なるほど。確かに、領民への説明は必要ですね。少々準備にお時間を頂いてもいいでしょうか?」
「はい。まずは男爵がいつも領民の皆さんと話し合いをしている場所で我々の紹介をして頂いて、その後こちらに来ていただくということでいかがですか?」
「はい。それがいいでしょう。ですが、それには少々時間がかかりますがよろしいでしょうか? この後告知をして明日となりそうですが……」
「ええ。私たちもそのほうがこちらの準備ができて都合がいいです」
ということで、明日ジャーナ領民にウィードの紹介を兼ねて、挨拶をすることにきまった。
そうなると、妾たちは当然……。
「さーて、モノを運び込むぞーといっても、先ずは屋内点検だな。みんな手伝ってくれ」
「はぁ、この人数で会場の準備が出来るものか。田舎とはいえ100人以上はおるぞ? どうするつもりじゃ?」
「まあ、そういう祭りをする会場は既に整えてあるさ。それに人手は、ジョン、ブリット」
「「ういーす」」
そんな声がして振り返ると施設の中からオークとゴブリンたちがわらわらと出てくる。
そうか……。
「なるほど。すでに旦那様はジョン将軍たちを呼んでおられたのですね」
「それなら、人手には困らないですねー」
「そういうことだ。あとは会場の用意や料理に関しては、キルエとサーサリに一任する。何か足りなければ言ってくれ、俺も手伝う」
「はい。ありがとうございます。しかし、明確な数がわかることが大事ですね。ミコス様。ジャーナ領の領民はどれだけいるかお分かりになりますか?」
「ああ、それならブリット」
「はい。ジャーナ領の人口はおよそ500ですね。まあ、ご老人とかもいるので、この度の呼びかけに集まってくるのは若い層が中心でしょうから450人ぐらいですかね」
ふむ。思ったよりも多いのう。
もう少し多ければ町と名乗ってもおかしくない数じゃが……。
ああ、こっちには魔物がおらんから、その分生存率が高いわけか。
だからこそ、この程度の人数は普通というわけか。うらやましい限りじゃ。
いや、じゃがその分魔物の脅威に対しての力がないのか。
うむ。平和すぎるのも問題があるのじゃな。
と、そんなことを考えていると、すでに皆動き出しており……。
「デリーユはどうする?」
「キルエたちがおらぬ時は妾がユキの守りじゃ。リーアにきつく言われておるからな」
絶対にユキのそばから離れるなと。
目を離したすきに召喚された実績もあるからのう。
「ま、そうだよな。じゃ、軍の施設はブリットたちに任せるとして、俺たちは用意している通常設備の確認をしていくか。しかし、デリーユがいてくれて助かったよ」
「どういう意味じゃ?」
「そりゃ、一応土地を貸してもらうし、ブリットたち駐留部隊はもちろん、地元のジャーナ領の人たちと仲良くできるように、スーパー銭湯を用意したからだよ」
「なに!?」
ものすごく嫌な話が聞こえたぞ!?
「デリーユは風呂掃除から、ボイラーの調整まで、スーパー銭湯の仕事は一通りやっただろう?」
「ま、まさか……」
「今から、設備の点検だな」
「や、やらんぞ!! あの仕事はつらいんじゃ!!」
本当に生半可ではない。
風呂掃除はもちろん、使用済みのタオルの洗濯とか、やらねばならぬ仕事は山ほどあるからのう!
「まあまあ、ジャーナ領の人たちと仲良くなるためだよ。それに、カグラたちに情けない姿を見せていいのか?」
「ぬぐっ」
確かに、任された仕事から逃げるようでは、今後のカグラたちが戦闘指導に不満を持つ可能性がある……。
じゃが……、あの膨大な作業を……。
「大丈夫だ。今回は、ちゃんと目の前に手伝いがいるだろう」
「む。おおっ!!」
そうか、妾にはカグラたちがおったな。
それにブリットたちも!!
「「「?」」」
「総員退避!! さっさと軍事施設に向け駆け足!!」
カグラたちはわかっておらんようだが、ブリットのやつはさっさと逃げだすことを選択しおったな!!
「主ら、魔王からは逃げられんぞ!!」
ということで、妾は部下を引き連れ準備に取り掛かるのであった。
「というか、なんか実家にスーパー銭湯できたよ。すげー!!」
「うらやましいわね」
「ですね」
何かミコスたちがそんなのんきなことを言っておるが、維持するのは大変じゃぞ?
と、作業をしながら思うのであった。
魔王からは逃げられないが、ゴブリンたちは迷うことなく逃亡することがまずおかしいと思う俺は間違っているだろうか?
ま、こんなかんじで、片田舎に大型ショッピングモールが出来て町興しにつながるってやつだね!!




