第779堀:国家の動きは?
国家の動きは?
Side:ソロ
「……そうですか。ウィードからのその情報はありがたいですね。今のところは安心といったところでしょうか」
そう言って、姫様はカグラ先輩から受け取った報告書を机に置く。
渡した書類とはもちろん、ハイデンの国境に現れたシーサイフォ王国の復興支援軍のことだ。
「ユキ殿たちはなんと?」
「報告書の通りです。今のところ敵対するような意思は認められないので、問題はないと」
「敵対する意思はですね。心の内なんて判りようもないでしょうに。ですが、それを咎めることもできないわけですか。妙な武器を持ってやってきていることで咎めることができればいいのですが」
「……それは難しいかと。異国の軍が遠方より、復興支援に来た。その道中の安全を図る武器の所持を認めないというのは無理が……」
カグラ先輩が姫様の独白に言いにくそうにユキ先生が言った当然の理由を説明します。
「……わかっています。全く、シーサイフォ王国は何のために、ここまで動きが速いのかさっぱりわかりません。当初はただの復興支援だといっていたのにこれです。まさか、1万も動員してくると誰が思いますか。これほど、大掛かりな派遣をするなら、事前に話を通しておくのが筋というもの。ですが、それがない。何か別な目的を考えているのではと思うのは当然でしょう?」
「「「……」」」
3人そろって何も言うことが出来ず、ただ頷く。
今、お姫様の機嫌は悪い。
シーサイフォ王国の復興支援軍のことで随分とご立腹のようだ。
「おかげで、王宮ではシーサイフォ王国の復興支援を受け入れたことに対する疑惑が上がっています。対応した私たちが何かを企んでいるのか、わざと軍を引き込んだのではないかといわれる始末です」
「そんなっ!?」
「ありえないですよ!?」
「そうです!! 私たちはなにも……!!」
まさか、そんなことになっているなんて!?
私たちがシーサイフォ王国軍を引き込んだ? そんなことをしても私たちには何の得もありません!!
「ええ。わかっています。それは馬鹿どもも知っているのです。わざわざあの時は録画をしたんですから、交渉の内容に後ろ暗いところは何もありません。ですが、その時にどういう規模で来るのかは聞いていません。そこを突いてきているのです。あの時は多ければ多いほどいいとは思いましたが、まさかあれほど連れてくるとは思いませんでした」
姫様は苛立たしそうに窓の外を眺めて……。
「そもそも、シーサイフォ王国の復興支援がスコップを使うことで得られるのであれば喜んで受け入れましょうと言った者たちの中には、そのバカ共もいるのです。まったく節操のない。そもそも、あの時は大陸間交流同盟が成るか不透明な状況でもありました。ユキ様から、スコップの件で探った方がいいとは言われたというのもありますが、本音としては、ウィードを信用できない者たちを安心させるためのモノでもあったのです」
姫様が憤る理由は痛いほどわかる。
ハイデンの頑固な人たちは言いたい放題だ。
私たちが頑張っていることを完全に無視して、文句を言うだけ。
「よほど、私たちが大陸間交流を成功させたことが妬ましいようですね。あの時は本当にウィードや他の大国があるなんて信じていない様子でしたからね。あれだけ無礼な態度をとっておいて、返り咲けるわけがないのに。というか、返り咲くために、私たちの落ち度を突いてくるのでしょう」
「……姫様。お気持ちはわかりますが、問題はシーサイフォ王国の復興支援軍を王都まで迎え入れることです。使者はそのように動いているのでしょうか?」
「ええ。既に使者はシーサイフォ王国の復興支援軍の元へ向かっています。その間に、こちらも何とか陣容を整えている最中なのは知っていますね?」
そう聞かれて頷く私たち。
「確か、シーサイフォ王国の復興支援軍の意図を確認するために、王都に呼ぶとか……」
「はい。あれだけ大規模な軍です。何か意図があるはずなのは明確。国の長、陛下に面会できる機会があれば、その意図がはっきりするかもしれないということもあります」
なるほど。ただ、意味も何の考えもなく1万もの軍を迎え入れるわけがないですもんね。
「……でも、何かあった場合、危険じゃ」
つい、口がそう開いてしまった。
「あっ。すみません」
「いえ。ソロの心配も分かります。1万もの軍を王都の近郊に招くということは、それだけ何かがあった時に問題が大きくなるということです」
「近郊に招くですか? でも、先ほど姫様は王都に招くと……」
「流石に1万もの軍勢を全て王都内に入れることは国防の観点から不可能です。王都の近郊で陣を張ってもらうことになります。まあ、観光として王都を見に来る兵士も多々いるでしょうが、シーサイフォ王国の復興支援軍の待機場所はそういうところになるでしょう」
なるほど。王都の中にシーサイフォ王国の復興支援軍を全部招くわけじゃないんだ。
「無論、復興支援軍を率いてきた代表や将軍などは登城してもらい、話を聞くことになるでしょう」
「不満は出ないでしょうか?」
「復興支援に来ておいて食べ物や寝床を要求するような、手間のかかる復興支援ならばいりません。それは向こうもよくわかっているでしょう。国の恥になります」
確かに、そんな迷惑な人たちは支援にきたわけじゃなくて、邪魔をしに来たとしか思えない。
「まあ、それはいいのです。陛下やユキ様たちと話した予定通りですから。問題は、到着したシーサイフォ王国の復興支援軍への対応のことです。代表たちとの打ち合わせ、軍の駐留地への誘導などは私たちに全て任せるといっているのです」
その言葉を聞いて私たちは首を傾げるしかありませんでした。
全て任せるというのはどういう意味だろう?
そう思っていると、カグラ先輩が直ぐに質問します。
「どういう意味でしょうか? 復興支援軍の対応といっても何から何までありますが。全て任せるというのはいったい……」
「文字通り全部です。私たちが外交官として対応したのだから、一から十まで面倒を見ろといっているのです」
「当然のことの様に聞こえますが?」
カグラ先輩の言う通り、外交官なのだからそういうことはして当たり前だと思うのだけれど、姫様の顔は不満げで……。
「各部署が協力すれば、ですがね。私たちはこれから、復興支援軍の為にあちこちに協力を要請することになりますが……」
そこまで言えば、私にもわかった。
「協力してくれないかもしれないってことですか?」
「その通りです。ソロもだいぶ分かってきましたね。ここで私たちが失態を演じて、それをフォローすれば、私たちの立場を奪うこともできると考えている連中がいるでしょう」
「そのためだけに、シーサイフォ王国を巻き込むんですか?」
理解が及ばない。
そんな人が世の中に存在するのが理解できない。
「シーサイフォ王国を巻き込むからこそ、私たちの失態が大きくなるわけです。よほど、ウィードの外交官が羨ましいと見えますね」
「しかしながら姫様。ウィードを軽視していたり、私たちに手を回そうとしていた連中は、既に排除されているのでは?」
「それとはまた別口です。まあ、欲望に果てはないということですね。そして、この配置でシーサイフォ王国が何か企んでいた場合、誰が一番最初に犠牲になると思いますか?」
「「「……」」」
姫様の言葉に3人とも黙ってしまう。
嫌な質問だ。
分かりきっている。
「そう。私たちです。シーサイフォ王国が何かを企んでいれば私たちが最初に犠牲になるでしょう。そして、生還したとしてもシーサイフォ王国を敵対させたとでも難癖をつけるのでしょうね」
「え、えーと、でも陛下が姫様や私たちを罷免するとは思えないんですけど……。それに味方がゼロというわけではないのでは?」
ミコス先輩のいうことも尤もだ。
私たちはそれなりに成果を上げているし、陛下たちとも良好な関係だ。
「確かにその通りです。味方がいないわけではありません。ですが、あることをカグラたちは忘れているようですね」
「忘れている、ですか?」
「ええ。まあ、それだけ当然のことになっているのは流石と言うべき手腕ですね、ユキ様は」
「ユキ先生がなにか関係あるんですか? 味方のいるいないに?」
「ミコスもですか。……ソロ。貴女はわかりますか? 味方が少ない理由を?」
そして、私は最後に質問を振られて、思ったことを口にする。
「……私たちが女だからでしょうか」
「「あ」」
カグラ先輩も、ミコス先輩も今思い出したような声を出す。
でも、私が生まれ育ったこの国というか、この大陸は……。
「そうです。男尊女卑の意識があるのです。フィンダール帝国との開戦から始まる問題を解決してきたのは、主に私たちです。それが気に入らないという男どもは多いのです。とはいえ、あの時は彼らに任せたところで解決できる問題でもありませんでしたが、今回はハイデンの協力が必要不可欠です。そこで面子を保とうとするでしょう」
「「「……」」」
まったく、男っていうのは。
いや、この大陸の習慣が悪いのかな?
「協力を求めることはしますが、見返りをかなり要求してくるはずです。ユキ様のおかげで、身を求められることはそうそうないでしょうが、今後の外交などで一枚かませろ、交易品を優先しろなどは当然のように言ってくるでしょうね」
「それは、受け入れるべきなのですか?」
「まさか。私たちは国の、陛下のために働いているのです。その意思に背くことなどありえません。まあ、協力してくれるのであれば、陛下にしっかりと報告するというだけですね。本来、手伝って当たり前のことですから。逆に手伝わないというバカ者共は録画をして陛下に渡せばいいでしょう」
「「「なるほど」」」
なんだ、協力を求めるのには全然問題ないのか。
よかったー。と思っていたんだけど……。
「とはいえ、私たちは、シーサイフォの復興支援軍の相手もしなければいけませんし、後ろにいる身内にも注意を払わなければいけません。全く面倒なことです」
「「「……」」」
そっか、やるべきことは沢山あるんだ。
「というわけで、正確に今の状況はわかりましたね? 無茶な要求は突っぱねること、記録を取ること、復興支援軍の情報を集めて、ユキ様たちに協力を仰ぐこと。そして、フィンダール、ハイレにも協力を仰ぐように」
「え? 2国とですか?」
「そうです。2国の代表、外交官でもいいです。ハイデンの復興支援に来るのなら、挨拶に来たとでもいえばいいわ。ハイデンの復興はフィンダール、ハイレ教にとっても良いことでもあるし、私たち3か国が手を取り合っているという証明にもなります」
なるほど。シーサイフォ王国に私たちは仲がいいから、攻め込むと全部を相手にすることになるよって伝えるわけか。
「あと、一番望ましいのは、ウィードの存在を含めて、大陸間交流同盟を認識させることですが……」
「姫様、流石にそれは難しいのでは……」
姫様のいうことにカグラ先輩が言いにくそうに口を開く。
「カグラの言う通り、非現実的ですわね。それを信じさせる方法が無い。信じさせるにしても、それだけの用意や、相手との交友関係も必要になりますから。とはいえ、シーサイフォ王国にウィードや大陸間交流同盟の存在を知らせるためにも、ユキ様たちの協力は仰ぎたいところですわね。護衛というのは失礼かもしれませんが、ユキ様がいれば、カグラたちが危険に陥ることはないでしょうから」
確かに、ユキ先生たちが一緒なら、基本的にどんな相手だろうが怖くない。
きっと、守ってくれるという安心感がある。
そこは先輩たちも異論はないようで口を挟むことはない。
というか、先輩たちはユキ先生が大好きだから、反対する理由が無いものね。
「では、方針を伝えます。まずはカグラとミコスはフィンダールとハイレ教に現状を説明して、代表をこちらに寄越してもらうように手配してください。恐らくは、ウィード繋がりということで、スタシアお姉さま、エノラ司教がくるとは思いますが、別人の可能性もありますので、しっかりエスコートしてくるように」
「「はっ!!」」
「ソロは、ユキ様と連絡をとり、シーサイフォ王国への牽制や私たちの護衛のことを正直に頼んでください」
「わかりました!!」
「私は、シーサイフォの復興支援軍を迎え入れる準備の為、各方面と交渉をしてきます。さてさて、どんな条件を出してくるのやら、楽しみですわ」
そう笑って真っ先に出て行った姫様に、ちょっと背筋が凍るのでした。
と、私もさっそく仕事を始めないと!!
キャリー姫は迷わず、シーサイフォに対しては、ウィード、フィンダール、ハイレと一緒に当たると判断。
しかしながら、敵は身内にあり。
男尊女卑が厳しい世界はとことん厳しい。




