第773堀:軽い運動
軽い運動
Side:キルエ
肌を叩くように吹きぬける風。
それは、ウィードで感じる風とは違い荒々しさを感じるのですが、それと同時に心地よい緑の香りを運んできます。
「んんー!! やっぱり外は外でいいですねー!!」
そう言って、草原で背伸びをしているのは、サマンサ様の侍女であるサーサリだ。
彼女も今回は私と同様、旦那様についてきている。
「あまりはしゃぎすぎないようにしてください。私たちの目的はあくまでも旦那様たちの護衛兼、仕事の手伝いをすることです」
「わかってますよー。でも、キルエ先輩だって、こうして草原に出てきたってことは、久々のお外が楽しいんでしょう?」
「……」
サーサリに痛いところを突かれて思わず黙ってしまいます。
確かに、このバイデから少し離れた草原にやってきたのは、体を自然にならすためという建前の元、外を楽しみたいというのもあった。
「別に恥ずかしがることじゃないですよ。というか、旦那様も行ってこいって言ってたじゃないですか」
「まあ、そうですね」
私たちがこの新大陸のバイデにいるのは、ようやく第1回大陸間交流会議やその後のお祭り、そして後の予定もほとんど組めたので、旦那様が私たちの約束を果たしてくれたというわけです。
久々の本当の自然の中ということで、ここまで足を伸ばしてしまったということです。
この頃はウィードのダンジョンの中での人工的に調整された環境ばかりでしたからね。
多少体がなまっていたのでしょう。
訓練用の過酷な環境の階層で慣らしておくべきだったかと、少し悩むところです。
「でも、旦那様たちも大変ですよねー。急遽面会の連絡が入るんですから」
「仕方ありません。第1回大陸間交流会議は終わりましたが、むしろ、それで全て終わったわけではありません。始まりなのです。そしてゲート機能を使って大陸をつないでいるウィードの主であるセラリア様や旦那様は各国の交流、交易をするにあたっての最重要人物。本来であれば、新大陸だけの問題に首を突っ込むなどありえないのです」
そう、本来であれば、各大陸の大国たちと肩を並べるウィードの主が、このようなところへ顔を出す事がおかしいのです。
「本来であればですけどね。今回は事情が事情ですし、仕方ないですよ」
「わかっています。アクエノキは動きを見せていませんが、旦那様たちの懸念となっているのは、シーサイフォ王国です」
「スコップを復興用にと支援してきた国ですよねー」
「サーサリ。もともと戦争の支援としてスコップを用意しているタイミングでした。ただ言い換えただけです。そこから予測できるのは……」
「スコップを戦場で使えってことですよね。そこから、旦那様たちは地球の兵器の存在を感じ取った」
それこそ、旦那様たちがわざわざ新大陸に顔をだす理由です。
地球の兵器の存在が予測される以上、旦那様たちが傍観するわけにはいきません。
私も理解できます。地球の進んだ兵器がこの新大陸で使われることがあれば、被害は魔物が出てくる以上のものになるでしょう。
アクエノキなんて木っ端邪神など気にならない程に。
それを保有しているかもしれないシーサイフォ王国を警戒するのはごく当然のことでしょう。
「気になるのはわかりますけど、よく各国はこちらに対応を任せてくれましたね。私は、自分たちも混ぜろとか言い出すかと思ってましたよ」
「サーサリは忘れているかもしれませんが、新大陸も言葉が違うのです。通訳の用意も必要ですし、細々とした問題は山ほどあります。それよりも、今は大陸間交流を進めて、小国などの説得を進めて内部固めをしたほうがいいです。無駄な投資はできないということですね」
「話はわかりますけど、新大陸の方には援軍は出すって約束はしたじゃないですか?」
「援軍を要請されれば、報酬が約束されますし、サポートもあるでしょう。しかし、最初から私たちに同行すれば、そこは自分たちでやってくれということになります。兵士たちの食料も給金も自国で手配しなければいけません。元が取り返せるかわからないのにです」
戦争と言うものは人材や物資の消費が非常に激しいモノです。
それを国防でもなく、他国の支援のために自発的に提供することなどないでしょう。
特に、新大陸はイフ大陸にとっても飛び地。そんな管理しづらい土地を対価としてもらっても仕方がないという思いもあるのでしょう。
「あー、だから援軍は出すって言ってるんですね」
「はい。それにウィードへの義理立てというのもあります。イフ大陸は以前、旦那様から有利な条件を引き出そうとして逆に交易を無しでいいなと返されて、焦りましたからね」
「そんなことありましたねー。別にこっちはイフ大陸を今すぐどうしてもってことじゃなかったですからね」
「将来的には必要でしたが、慌てて向こうの条件を飲んでまでやる必要はありませんでしたからね。それに、旦那様たちが誘拐されたという事態も起きたのです。それを理由に、戦乱など起こってしまえば大陸間交流は流れてしまうでしょう」
「無理に参加させる必要性はなかったですからね。というか、むしろ参加が遅れてくれた方がよかったのかなー?」
「さあ、そればかりは旦那様の考えることで何とも言えないのですが、忙しさは3大陸まとめての方が上なのは事実でしょうね」
「ああ、確かに。まあ、でも結局いつかはやらないとって考えると、早いか遅いかって感じですかね?」
「そうなります。さて、そろそろ雑談は終わりとして、構えなさい」
私はそう言って、ナイフを構えます。
この草原にでてきたのは雑談をするためではありません。
建前とはいえ、体を慣らすといって出てきたので、訓練しなくては意味がありません。
「本当にやるんですかー?」
「当然です。ついでに、あの時負けた雪辱戦と行きましょう」
「うぇっ!? あの時のことをまだ根に持ってるんですか!?」
あの時というのは、旦那様やシェーラ様達が攫われて、リーア様と私がちょっとだけ極端な思考に陥った時に、デリーユ様とサーサリが私たちを正気に戻してくれたのです。
まあ、その方法は勝負でしたので、負けたことには変わり有りません。
「ああ、勘違いしないでください。根に持っているのは、あの時止められたことに対してではありませんよ。あの時の行いはサーサリたちが間違いなく正しかった。でも、サーサリに負けたということは、ちょっとアレなので、リベンジということですね」
「結局、根に持ってるじゃないですかー!? あの時初めて勝てたんだから、後輩が成長したことを喜びましょうよ!? というか、キルエ先輩はメイドですよね!? 私、元騎士なんですから、私が勝ってもなにも不思議じゃないでしょ?」
「では、いつまでも負けたままでいることを覆すために頑張りましょう」
「まった!? まったー!?」
「問答無用」
私が身をかがめて突っ込むと、即座にサーサリは片手剣と盾を構える。
なにが、待ったですか。
即座に反応して、迎撃する気満々のくせに。
さあ、旦那様にさぼりと言われないためにも、1つしっかり運動をいたしましょう。
もちろん、地形が変わらない程度にはちゃんと手加減しますが。
「……い。おーい。キルエ、サーサリ」
「キルエー!! 何をやっているんですかー!!」
そんな声が聞こえてきます。
この声は聴き間違えようもありません。
旦那様とシェーラ様やほかの奥様たちです。
私は即座に動きを止めて、皆様を確認しようとしましたが、夕日を背にしていたので、影しか見えません。
ですが、あの背格好、そしてシェーラ様の兎耳は間違えようがありません。
「し、しぬかと、お、おも……った」
バタリと、対峙していたサーサリが倒れます。
「サーサリさん!?」
倒れたサーサリを見たルルア様がすぐさま駆け寄って、サーサリの怪我の具合をみますが、別に致命傷などはありませんので、擦り傷や切り傷、打撲程度なので大したことはないはずです。
それを証明するように、サーサリの主であるサマンサ様は特に慌てた様子なく、介抱されているサーサリに近寄り……。
「お嬢様……。見ていたなら助けてくださいよー……」
「元気そうですわね。ルルアさん。放っておいていいですわよ」
「え? でも……」
「ひっど!? 私、頑張ってこんなにボロボロになっているのに、仕打ちがひどいですー」
「そんな軽口が叩けるなら心配はいりませんわ。というより、流石に鈍り過ぎではないですか? キルエがいくら強いとはいえ、ここまで一方的にボロボロにされるとは。ステータスの高さを頼りにしてはいけませんわよ?」
「……ここ最近、ずっとお屋敷でお仕事ですよー。そんな暇ないです。だからここで運動なんですよー。というか、あそこまで動けるキルエ先輩がおかしいんですよ」
私はおかしくありません、失礼な。
と、そんな事よりも、主に迎えに来ていただくとはとんだ失態です。
「旦那様、シェーラ様、訓練とはいえ時間を忘れてしまい申し訳ございませんでした」
「まあ、何事もなくてよかったよ」
そう言ってくれるのは旦那様。
しかしながら、シェーラ様は怒った様子で。
「草原の方からドカンドカン音が聞こえると、随分バイデへ向かう旅人が心配していました。キルエ、運動をしたいというのは分かりますが、もうちょっと周りに配慮してください」
「はっ。申し訳ありませんでした」
それなりに離れているとはいえ、私たちが戦いをすれば街道にいる旅人などには聞こえてしまうでしょう。
シェーラ様が怒るのはごもっともです。
「まあまあ、シェーラ。そこまでで許してやれ。久々の外、そして訓練だったしな。それに、キルエももう同じミスをすることはないだろう?」
「……そうですね。ですが、私は一応、バイデの領主キャサリン殿たちと一緒にバイデを治める立場にいるのです。そこは考慮してください。部下の素行不良は私の能力を疑われます」
「はい。以後気を付けます」
ちょっとやり過ぎましたね。
ついやる気が出てしまい、地形がちょっとだけ変わってしまっています。
あとで穴は埋めておきましょう。
そう思っていると、今度は旦那様が声をかけてきます。
「で、どうだ。2人とも、久々の自然の中は」
「はい。十分満喫させていただきました」
「いやー、満喫したのは先輩だけだと思うんですけど……。まあ、楽しかったですが」
サーサリはいつの間にか横に立っていて、文句を言いながらも楽しんだことを認めます。
実際楽しかったですから。サーサリはボロ負けしたとサマンサ様は言っていますが、実はそうでもありません。
鋭い剣捌きと、堅牢な盾の使い方で、かなり序盤は私も苦労しました。
以前私に勝てたのはまぐれではなく、今まで研鑽を積んでいた騎士としての実力は確かです。何度か危ないのを貰いそうになり、寸止めを受けました。
まあ、それでヒートアップしたのですが、仕方ないでしょう。
「そっか、それならよかった。明日から、新大陸での活動内容の説明と、仕事を開始する予定だけど、大丈夫か? 休みぐらい一日入れるか?」
「はーい!! おやす……。げほっ!?」
サーサリは即座にサマンサ様から脇腹に一撃を貰い蹲ります。
……愚かな。もちろん、旦那様に休みが欲しいといえばくれるはずですが、そこまで足を引っ張るつもりもありません。
「問題ありません。明日から行けます。今日1日お休みをいただいているのですから。子供たちのお世話してくださっている、カヤ様たちに長期にわたって負担をかけるわけにもいきません」
子供たちの面倒は、一通り仕事を終えたカヤ様、トーリ様、リエル様が産休中ということで、家事と一緒に引き受けてくれているのです。
とはいえ、それに甘えていいわけではありません。
「いや、カヤたちは、キルエたちにゆっくりしてほしいって意図や希望もあったと思うがな」
「では、さっさと事件を片付けて家族一緒にお休みいたしましょう。私はそれが一番の希望でございます」
「あ、それは私も同意見です。こーんな怪しい国が絡むことはさっさと片付けて、皆でのんびりお出かけでもしましょう」
私とサーサリがそう言うと、旦那様は納得したのか頷いて……。
「そうだな。これが終わったらのんびり皆でお出かけでもするか。よし、そのためにも頑張ろう」
「「「はい」」」
私たちは返事をして、明日から始まるお仕事に備えるのでした。
「あ、帰る前に2人とも地面は直しておけよ。誰かが偶然見たら驚くからな」
「え? やったのはせんぱ……い!?」
「文句を言わずにさっさとやりますよ。私が悪かったのは認めます、手伝ってください」
「本当に、旦那様の前では素直ですよねー。先輩は」
「当然です」
そんな話をしながら私たちは戦闘訓練で陥没した地面を戻していくのでした。
ラッツたちに代わり、代打キルエとサーサリのメイドさんズ。
休暇?の希望でダンジョンの外へ。
2人のメイドはこの新大陸の地でどう動いていくのか?
そして、シーサイフォ王国の動向は?
あと「DMMゲームズ 必勝ダンジョン運営方法」の事前登録開始!!
嘘じゃないんですよ。
よろしければ物語の復習ということで、イラストと声優付きの必勝ダンジョンをお楽しみください。




