第729堀:不安なこと
不安なこと
Side:サマンサ
「……という感じで、全体の推移としては……」
そう説明を続けるエナーリア王。
話を聞く限り、聖剣と聖剣使いのお披露目の準備は特に滞りなく進んでいるようですわね。
で、なぜかそれを聞いているクリーナさんは渋い顔をしています。
「……クリーナさん。具合でも悪いのですか? 顔をしかめていますよ?」
「……ん。休みが欲しい。この前みたいな夏休みやり放題バカンス」
「やり放題って……」
「ユキとズコバコ」
「もうちょっと、言葉を選んでもらえませんか? 愛し合っているとか、子供を作るとか」
いえ、無論私も、ソエルさんたちがウィード街の観光に行ってからはユキ様といたしましたが。
というか、全員ですわね。久々の休みなのですから、そこはちゃんとしないといけませんわ。
「まあ、冗談はいいとして、この前の休みとの落差が激しくて働くのが辛い」
「休みすぎですわね。体がなまっているのでは?」
「ん。否定はしない。ああいう自堕落な生活は人が腐る。ほかにやることがないのなら、ああいう生活がいいけど」
「理想ではありますわね。いつかそういう日が来ればいいのですが」
そうボソボソと話していると、横にいるエージルさんが会話に加わってきます。
「いやー。ユキの立場だと、その自堕落な生活はそうそう送れないだろうねー。というか、うらやましいよ。ソエル嬢とかエオイドたちはウィードでバカンスらしいけど、私はずっとこっちで会議に参加さ。私も休みが欲しいね」
「それなら、エージルも申請すればいい」
「クリーナ。そういうわけにもいかないのさ。僕はエナーリア唯一のウィード外交官だからね。僕の代わりが務まるのもいないから、そしてその上に聖剣使いの話もあるからねー」
「エージルさんが今休みを取るのは、なかなか難しいでしょう。しかし、問題が解決すれば、ウィードに再び駐在になるのですから、その時に親睦会として休んでみてはどうですか?」
「ああ、名目上はお付き合いで、実際は休日ってやつか。それで行くしかないかなー」
「で、休みの方はいいとして、実際エナーリア王が言っていることはどうなのですか?」
雑談はこれまでにして、今、議題に上がっている聖剣お披露目会について聞いてみます。
「特に嘘やなんかはないね。まあ、最も王が知る限りの情報はかなり精査されたものだからね。一部では色々問題があることはある。とはいえ、おおむね話の内容は間違いないさ。会議場に来る前に軽く話しただろう。あんなもんさ」
「というと、別に問題はないわけですか」
「ん。予定通りに進むのはありがたい」
「しかし、そうなると先ほど、無事に終わるといい、というのは、どういうことでしょうか?」
そう、確か、「無事に終わるといいんだけどねー」といいました。
何か不安なことでもない限りそういうことは言わないはずですが……。
「あー、ほら、一部では色々問題があるっていっただろう? 私が一番懸念しているのは、ライト、聖剣使いの彼女がこの土地で上手くやれるかってのがあるんだよねー」
「この土地? どういう意味?」
「ほら、この土地はクリーナというか、ユキたちと聖剣使いのライトがぶつかった場所だよ。しかも体半分になったんだろう? それでトラウマが出ないといいけど。そういえば、その時はクリーナたちはいなかったから、この話はしらないのかな?」
「「ああ……」」
その話を聞いて納得いたしましたわ。
聖剣使いのライトさんは、このイフ大陸で唯一、ウィードの機械化部隊と戦ったのでしたね。
「聞いている。ジルバの戦力的には厳しかったから、ウィードの主力兵器を導入したって聞いている」
「あー、やっぱりそうだったのか。魔剣じゃ、どう考えても出せる破壊力じゃなかったんだよなー。ナールジアさんか、コメットさん、ザーギス殿あたりの兵器だったのかなー」
……ウィードの主力兵器ですか。
残念ながらエージルさんの予想はハズレです。
あの時投入されたのは戦車です。
装甲、走破力、火力、射程距離ともに、現在の魔術技術では再現するのは不可能な兵器です。
しかも主力兵器というわけではなく、試運転を兼ねていただけだとか……。
「ま、ウィードの主力兵器を誰が作ったとかはいいとして、その経験が元でライト君に何か影響がないといいんだけどね。何かあると、この場では聖剣の披露ができないってことになる。でも、それはここに来てみないとわからないことだからねー」
「これが心配だからといって、聖王に報告することはできませんわね」
「そういうこと。些細なことを気にしだしたら仕方がないというのは分かるけどね。今回ばかりはコケるわけにはいかないから」
と、そんなことを話している内に、エナーリア聖王の説明も終わったようです。
内容を要約すれば、準備は万全で当日よろしくお願いするという話です。
「準備は整っているのはわかった。ホースト、ベータンでの聖剣お披露目の準備はどうなっている?」
「はっ。準備はできております。予定通り行えます」
「時間の遅れはなしだな。他の国はどうだ?」
ユキ様がそう言って各国の準備が整っているかを確認します。
「別にジルバは顔を出すだけだからな。何も問題は無い」
「エクスも同じく」
「アグウストも問題は無い」
「ローデイもいいぞ」
「ホワイトフォレストも問題はありませんな」
まあ、顔を出すだけですからね。
しかも顔を出すだけで、エナーリアに恩を売れるという美味しい状況です。
無論、ウィードに良い印象を与えたいというのもあるでしょうし、大陸間交流を早く始めたいという思惑も絡んでいます。
こうして状況を整理して見てみると、ユキ様はこれ以上ないぐらいの手を打たれていますわね。
拒否しようがない交渉術。しかし、相手に不快感を与えず必ず利になることを与え、強欲は身を滅ぼすと教えもする。これで反発するのであれば、ただの阿呆と思われることでしょう。
「よし。なら、予定通り聖剣関連のお披露目は3日後に行う。後は各員、準備を整えてくれ。これからはお披露目会の準備もあるから、3日間は会議場の使用は禁止だ。会議し足りない分は後日にしてくれ。このお披露目が終われば、本格的に大陸間交流の説明にはいるからな。まずはこのお披露目を成功させることに各国協力頼む」
そういうことで、お披露目会は3日後と決まり、各国の王たちはお披露目会の準備の為に一時帰国となりました。
「さーて、ホースト。面倒かもしれんが、お披露目会の準備をするぞ」
「いえ、あの会議の進行役に比べればなんてことはないですぞ。むしろ体を動かすのですから、ありがたいですな」
「そうか。そう言ってくれると助かる。屋台関連はキユが指揮をとるからそっちは心配するな。あと……」
そう言ってユキ様は素早く仕事をこなしていきます。
テキパキと指示を出す姿はいつ見てもかっこいいですわ。
「……そういえば、エージルはエナーリア王について行かなくていいの?」
「3日後再びこちらに来るときに合流だね。向こうでのことはプリズムとかハインの爺様やジョシュアに任せればいいんだよ」
「ハイン将軍は、歴戦の方ですわね。しかし、ジョシュアという名前は聞き覚えが……」
「ん。知らない。誰それ?」
「あはは、まあ、私たち魔剣使いや聖剣使いがいなければ、名をはせたんだろうが。ちなみに、一応ジョシュア、彼はハイン爺様と同じようにブーリス・ウーリー将軍の副官だよ」
「ああ、それなら聞いたことがありますわ。ブーリス将軍はエナーリア軍の中で、軍を扱えば魔剣使いですら倒してしまうという名将でしたわね」
「そうそう。ジョシュアはそのブーリスの副官を務めているんだよ。ハイン爺様もだけど」
なるほど。それだけの名将が護衛についているのなら、わざわざエージルさんが迎えにいくことはありませんわね。
そう思っていると、クリーナさんがうかつにも……。
「でも、そのブーリスって確かスティーブに負けたって……」
「クリーナさん!!」
スティーブ将軍がブーリス将軍を倒した件は極秘扱いになっています。
というか、あの時のスティーブ将軍は野生の強いゴブリンです。
立場上ミノちゃん将軍の配下ということになっています。
このイフ大陸ではいまだにミノちゃん将軍のことは、ウィードとの繋がりは内緒になっているのです。
「ん? あー、まあ、お偉方には言えないだろうけど、ウィードを見ていれば大体察せるよ。裏でつながっていたんだろう? 魔物を兵士として扱っているんだから当然だよね。というか、ミノちゃんやスティーブの上司がユキ殿だろう?」
「その通り。エージルは鋭い」
「クリーナさん……」
ユキ様になんて報告をすればいいのやら……。
「まあまあ、サマンサも気にすることはないさ。イフ大陸の王たちも大体察しているさ。よくよく考えてみてくれ、ベータンの近くに大規模な魔物の群れが住んでいるダンジョンがあるのに何も警戒していないんだよ? ユキに対処を求められても、これは傍から見ればおかしいだろう?」
「ん。確かに」
「ですわね。ということは、知っていながらということですか?」
「だろうね。タイミング的に今話せば、混乱の元だし、教会の連中が何かしら騒ぐ理由になりかねない」
そう言われて、少し嫌な予感がいたしました。
もしや……。
「気のせいだといいのですが、ミノちゃんたちを使った何かしら妨害は考えられないでしょうか?」
「それはないんじゃないか? 教会の連中はウィードの排斥ではなく、王家から国の主導権が欲しいだけだからね。ウィードとは仲良くしたいんだよ。だから、ここで魔物を利用した煽りはどうかな?」
「ん。難しいところだけど、私としてはあり得ないと思う」
「なぜですか、クリーナさん?」
「ユキがわざと放っているのがおかしい。トラブルの種になりうるのはサマンサの言う通りだと思う。だけど、これをユキが気が付かないわけがない。つまり、これは撒き餌か、対処がすでに用意してあると思う」
「確かにね。ダンジョンの魔物がユキの配下だとばれて、あるいは、エナーリア聖王が悪魔と手を結んだと言っても、実際はユキの配下だし、そんなことはするはずがない。騒ぐだけ無駄だよね。今更ウィードの信用が落ちるわけもないし。やるならすでにやっているって話になるよね」
「そうですわね」
「ん。というか、そもそもどの国もミノちゃんたち以前に、ユキに一度膝を屈しているから、戦う選択肢がでるとは思えない」
そうでした。
まず、絶対的な戦力で負けているのに、ユキ様に反旗を翻そうなどという気は起らないでしょう。
そうなったとしても、エクス、ホワイトフォレストはこちら側ですし、どうにでもなりまわすね。
「となると、やはり何か仕掛けられるなら、ライトさんなのでしょうね」
「ん。その可能性は高い。ユキは手だしできないから」
「そこが不安だね。まあ、こっちも配下を使って様子を探るよ。3日もあるからね。何かあれば報告するよ」
そう言って、私たちは別れて、3日後の準備にいそしむのでした。
何もなければ本当にいいのですが……。
さてさて、浮かび上がる問題。
ユキではなく、あの戦車砲に吹き飛ばされたライトに魔の手が伸びているのか。
どうなる、聖剣お披露目会。




