落とし穴128堀:朝と次なる夜明け
朝と次なる夜明け
Side:セラリア
「んー!!」
私はそう言いながら、体を伸ばす。
「あー、よく寝たわ」
ベッドから降りて、カーテンを開けて外を見る。
そこはいつもの旅館の中庭とは違って……。
ザザーン、ザザーン……。
白い砂浜と蒼い海が広がっている。
しかも、ちょうど朝日が昇る直前で、水平線がキラキラと輝いている。
……ん? 朝日が昇る直前?
その事実に気が付いて、私はおもむろに時計へ目を向けると、ただいま朝5時10分といったところだった。
「……あら? 昨日は久々の休みで、みんなで飲んで1時ぐらいに寝たはずなんだけど、なんでこんなに早く、しかもさわやかに目覚めているのかしら?」
いつもなら、クアルかキルエが起こしに来るまで寝ているのだけれど。
「私も、休みってことで浮かれているのかしらね?」
そう結論付けて、パジャマから着替えて散歩でもしてみようと思った。
せっかく、早起きしたんだし、朝の海っていうのもいいかもしれない。
ザザーン、ザザーン……。
そんな波の音が心地よい砂浜を一人歩いていく。
「んー。気持ちいわね。普段なら夫やみんなと一緒なんだけど。たまにはこういうのもありね」
最近は、というか、昔から王女という立場だったからこんな風に1人で出歩くなんて言語道断だったのよね。
まあ、短時間ではあるが、抜け出したことはあるけどあれはのんびりじゃなかったからノーカウント。
「ほんと、夫と一緒にいると、飽きないわよねー」
そんな言葉が不意に出る。
何度も言った言葉だ。
だけど、これからもきっと口にするのだろう。
こうして、いつも新しい世界を見せてくれるんだから。
私は目の前に広がる、水平線に朝日が昇る姿を目に焼き付けながら、心の底からそう思う。
世界は、こんなにも美しいし、とても厳しい。
その中で私たちは生きている。
そして、その世界をいつも自分のペースで歩いているのよね。
……忙しくはあるけど、主導権は夫が握っているのよねー。大陸間交流の方は。
「忙しいで思いだしたけど、夫たち、夜釣りに出て戻ってきたのを確認してないのよね」
いつもなら夜は私たちと愛し合うんだけど、今日はお客様もいるから、私たちはソエルやカグラたちの歓迎会というか、おもてなしと、雑談会を兼ねた女子会。
男性陣は男性だけで夜釣りでも行こうという話になったのだ。
普段から忙しい夫だから、こういう遊びを咎めるつもりはないのだけれど……心配にはなるのだ。
「……ちょっと、防波堤まで見に行ってみましょう」
夫が溺れるとも、事故に巻き込まれたとも思えないのだけれど、あれだ、きっと私は夫が近くにいないと感じたから寂しかったのだろう。
愛があふれているのよ。愛が。
そういうことで、防波堤のところまで足を延ばしてみると……。
「……テントが立っているわね」
なぜか、黄色いテントが防波堤の上にポツンと存在していた。
……テントってことは昨日は帰っていない?
夫がそういうことをするのは珍しいわね。
基本的に私たち奥さんや子供が一番大事って人なんだけれど?
もしかして、何かあったから、テントを立てて一晩過ごした?
「……考えても仕方ないわね。とりあえず、覗いてみましょう」
私はそう決断して、防波堤にあるテントのところまで行ってみると……。
「ん? おお、セラリア。おはよう」
そこには釣り竿を垂らしているユキがいた。
「夜、戻らなかったの?」
「ああ、夜釣りの最中に飲んでな。ここで休んだ方がいいだろうってな」
「珍しいわね。あなたが飲むなんて」
ユキは基本的にお酒は付き合い以外では飲まない。
というより、酔えないたちなのだ。
しかも、二日酔いなどのお酒の悪い部分は影響がでるので、飲まないのだ。
そうは言っても飲めないというわけじゃない。
量でいうなら、ミリーやナールジアさんには及ばないけど、私と付き合うぐらいには飲める。
その程度では、悪酔いはしない。
飲んでも酔えないからつまらないという話だ。
「俺はさほど飲んでないんだけどな。タイゾウさんたちが飲んでな」
「ああ、なるほど」
ユキが率先して飲んだというわけではなく、タイゾウとソウタね。
そう思っていると、ひょこっと、防波堤の下からタイキが顔を出す。
「あれ? セラリアさんじゃないですか、どうしたんですか?」
「ちょっと朝の散歩をしていただけよ。というか、タイキあなたもいたの? ソエルたちを放っておいていいわけ?」
なぜか、タイキまでこの場に残っていた。
てっきりソエルのこととかあるから、先に戻っているものばかりだと思っていたわ。
「いや、昨日楽しくなっちゃって、ほら、見てくださいよ」
「なに?」
そう言って差し出されたバケツの中には魚が沢山いた。
「随分と釣れたみたいね」
「そうそう、サハギンが差し入れしてくれた後は入れ食いでな」
「サハギン? ああ、海の警備担当ね」
一瞬、誰のことかわからなかったわ。
部下は多いし、魔物の管轄は主にユキやアスリンだもの。
私が直接係わりがあるのは、スティーブ、スラきちさん、ジョン、ミノちゃんぐらいなのよね。
しかも、サハギンたち水生の魔物は基本的に軍事力としてではなく、主にこの海水浴場やプール、温泉などの警備といった、どちらかというと治安維持の担当になるから、トーリたち警察の管轄なのよねー。
「で、差し入れ?」
「そうなんですよ。まだ残ってるんですけど、これです」
そう言って見せてくれたのは、サザエに牡蠣と言った美味しい海の幸が沢山入ったバケツだ。
ウィードの市場で買ったら高い物ばかり。
この世界で海の幸は魔物の関係で、非常に希少価値が高い。
なので、この海水浴場で自生しはじめた、天然物の魚介類はとてもいい値段で取引されているのだ。
お寿司とか、ウィードでやっちゃったから、人気がうなぎ上りなのよね。
クアルとか週一で回転寿司に通っているし。
それで馬鹿共が真似て、川魚とかを刺身とか寿司にして食べるもんだから、寄生虫でやられているのが多いのよね。
あれは、基本的に川魚は寄生虫の危険があるから焼くという行為をしているのだし、海の魚だって比較的、寄生虫が少ないというだけで、日本というか地球における食品衛生法や冷凍技術があるから安全が保たれているのだ。
おかげで、ウィードの政府からとして生魚の食べ方なる注意喚起を行うこととなった。
勿論、注意喚起の代表者はルルア。彼女以上に医療に関して信頼がおかれている人物もいないからね。
しかし、そのような食の冒険者が出てきたおかげで、川魚の中にも意外と生で食べると美味しい魚が判明してきて、川魚は川魚でブームが起こっている。
と、そこはどうでもいいわね。
「これはまた、贅沢ね」
「だろ? しかもとれたて、まあこれを網で壷醤油焼きなんてしたもんだから……」
「それは、お酒を飲みたくなるわね。で、飲んでお休み中というわけね」
「そうそう。しかし、もう朝か。とりあえず、タイゾウさんたちを起こして、撤収するか」
そう言って、水平線に昇りかけている朝日を見つめる夫の姿はカッコよかった……。
「そうですね」
「セラリアはどうする? まだ海を散歩するか?」
「……」
「セラリア?」
「ん? ああ、ごめんなさい。私は先に戻るわ。他の皆や子供たちにあなたは無事だって伝えないと大騒ぎになりからね」
「そうだなー。頼む。戻ったらこの海鮮類で朝ごはんつくるからさ」
「ええ。楽しみにしているわ。じゃ、後でね」
おほほほ。夫のカッコいい横顔は見れたし、今日の朝ごはんは美味しい海の幸になった。
これってあれよね? 早起きは三文の徳って奴よね。
ということで、私はウキウキ気分のままコテージへと戻ると……。
「お、お、お兄ちゃんがいないよー!?」
「誘拐なのです!! また、召喚誘拐なのです!!」
「……ユキ、ユキ、ユキ」
「3人とも落ち着いてください。あっ、ラビリス、包丁を持たない!! 昨日は、男性陣で集まって夜釣りに行くっていってたじゃないですか!!」
と、アスリンたちが錯乱していた。
いつもいるはずのユキがいないからね。
まあ、シェーラの言う通りで、私が会ってきたと説明すると、落ち着いてくれて、直ぐにユキも戻ってきたので事なきを得た。
「おにいぢゃん!!」
「あにざまー!!」
「ユキ、ユキ」
「すまんすまん。片付けを優先して、連絡に出なかったのがいけなかったな」
なるほど、一概にアスリンたちの早とちりというわけでもないのね。
連絡が付かなかったら、あれだけ慌ててたのね。
「でも、普通にMAP上の反応はあるけどね」
私がそういうと、3人は固まる。
「……そ、それはちょっと、忘れていたのです」
「兄様なら、いつもはすぐに連絡をくれたのです」
「そうよ。私たちが悪いわけじゃないわ」
「……すいません。私もすっかり失念していました」
どうやら、シェーラもMAPで確認することを忘れていたようだ。
「まあ、MAPの方は俺は非常時にはジャミングかけるしな」
「そういうことは言わないの。というか、朝ご飯作るんでしょう?」
「あ、そうだった。アスリンたち、今日は釣ってきた魚で料理するから手伝ってくれるか?」
「「「はい」」」
ということで、ユキたちはさっそく朝食作りへと向かう。
それを見送った私は、その間に、お風呂でも入って、寝汗と散歩で出た汗を流しましょう。
「ここにも備え付けの露天風呂もあるのよねー」
贅沢よねー。
普通ならこうして温泉を狙って作ることはできないのだけれど、ダンジョンマスターの陣地作成能力で作れるのはいいわよねー。
そんなことを考えながら露天風呂に入ると、ソエルとアイリが入っていた。
「あら。二人とも早いのね」
「いえ、なぜか目がさえてしまいまして」
「それで、アイリ様にお願いして、朝の海を見てまいりました」
「なんだ、私と一緒じゃない。でも会わなかったわね?」
「そうなんですか?」
「私たちは海岸の砂浜を歩いていたのですが、セラリア様はどちらに?」
「あー、そういえば夫たちが釣りをしている防波堤まで行ったのよ。それで会わなかったのかもね」
私はそう答えながら体を洗い始める。
しかし、ソエルは商人の娘だけあって、すぐにこのコテージや海に順応してくれた。
もちろんウィードの町にもだ。こういうところはすごいわよね。
私たちなんて3、4日は別の世界にいるのかと思ってたんだけどねぇ。
「ああ、そういえばタイキ様はいませんでしたね」
「私たちに気を使ってくれたのかと思っていたのですが、釣りですか?」
「不思議そうね。別にただ遊んでたわけじゃないのよ。夫やタイゾウ、ソウタといった日本人の面々と会談も兼ねていたのよ」
「まあ、そんな大事なことが」
「そうだったのですか」
感心する二人。
……いや、本当は、ただの夜釣りだったんでしょうけど。
こうでも言っておかないと、あとでタイキは針のむしろでしょうからね。
「それに、釣果も見てきたけどすごかったわよ。今日の朝ご飯は楽しみにね。あとはウィードの町で買い物かしら?」
「はい。存分にウィードの商品と商売。参考にさせていただきますわ」
そんな感じで、私たちの別大陸からの観光案内は上手くいき、次なる世界への足掛かりとなるのであった。
まあ、私たちも十分に楽しませてもらったけどね。
長くなりましたが、こうして、ユキとタイキの夏休み休暇は過ぎて行くのでありました。
まあ、ゲーム大会とかはいつか話せるといいですね。




