落とし穴127堀:夜釣りと波の音?
夜釣りと波の音?
Side:ユキ
「あはは、まあそれも夏の思い出というやつではないか」
「そうですな」
そう言って、にこやかに笑うこのおじさんたちは、タイゾウさんとソウタさんだ。
俺たちは今、日が沈んだ海に糸を垂らしながら、日中にあった俺たちの話を聞いてにこやかに笑っている。
「でも、びっくりですよ。海水を飲むなんて」
そうそう。カグラたちは海水を飲むという暴挙にでて、いきなり最初から海遊びで躓いたのだ。
それ以前に、なぜかなかなか出てこようとしなかったけどな。
いや、海を知らない人種がいるのは知っていたが、まさか海水を飲んで噴き出すとは。
しかも、見た目が綺麗だからって理由だからな。
本来、見た目が鮮やかなモノってのは、大抵毒物アピールなんだけどな。
「ないことではない。海というものは内陸に住む者たちにとっては珍しい物だからな」
「日本はその点、珍しい立地とはよく聞きますね。まあ、その日本も昔は内陸の人たちにとっては海は珍しい物だったみたいですな」
確かにそういう話は聞いたことがある。
だが、昨今便利な移動手段があれこれ開発されたおかげで、海を知らないという日本人はほとんどいないといっていいだろう。
「さらにびっくりしたのが、二人とも泳げないんですよ。まったく全然」
「水泳って得手不得手ってあるけど、泳ぎ方を知らないってのがなかなか驚いたな」
「というか、泳げるって言ってたソエルでさえ、犬掻きでしたし」
そうそう。
あの生徒会とかあったら生徒会長とかビシッとやっていそうな、ソエルがかっこよくクロールとか、バタフライとかじゃなく、犬掻き。
まあ、それを言ったらカグラたちは泳げもしなかったからな。
「まあ、それも仕方ない。泳法というのは、近代になってからのものだ」
「ああ、それも聞いたことがありますね。本来泳ぐ方法っていうのは、戦いのためのモノだったみたいですし。実際に泳ぐことがあるのは海辺や水辺にすむ人たちだけですからね」
「そうそう。だから、泳げなくてもとうぜ……と、ソウタさん。竿引いていますよ」
「おっと」
そういって、ソウタさんは竿を手にして、糸をまくと、ハゼが付いてきていた。
「いいサイズですな」
「ですね」
「唐揚げかな」
「とりあえず。保留しましょう。ほかに沢山いいのが釣れたらいらないでしょうし」
つられたハゼはそのままバケツに入れられる。
ほかに沢山釣れれば逃がすことになるか?
お前の運命はこれからの俺たちの釣果にかかっているということだな。
「しかし、いいですねー。こうしてのんびり釣りができるとは。新大陸は今では川辺や湖も大人しくなったようですが、私やエノル、ハイレンが現役だったころは、人食い魚がいてとてもとても、水遊びを楽しめるものではなかったですからね」
「そういうところも、この世界の人たちが泳げないということに関係しているのかもしれませんな」
そりゃ、絶対関係してるだろうな。
人食い魚がいるようなところで水泳とか俺だって正気を疑うわ。
しかし、人食いサメがいるところで平然と泳ぐ奴は地球でもいるし、この世界にだって……。
「それでも海で漁をしてますけどね。この世界の人たちは。ほら、ドレッサとか海と隣り合わせの国だしな」
「ですねー。ドレッサは海で泳ぐの無茶苦茶早いですからね。あれでお姫様とは驚きですよ」
ドレッサは城を抜け出しては、遊び回ってたらしいからな。
「生きる糧を得るためにというやつだな」
「ええ。人はどこでも逞しく生きていくのでしょう。と、今度はタイゾウさんのが引いていませんか?」
「おおっと」
今度は、タイゾウさんの竿に当たりが来る。
引き上げるとこっちは……。
「アジだな。これでヒラメでも狙うか?」
「いけますかね?」
「まあ、夜だし、狙えないこともないでしょう」
「というか、俺とタイキ君はいまだにぼうずだな。今回は特に晩御飯を確保するって話でもないから、問題ないんだが……」
「あたりがないのは嫌ですね」
「確かに、釣りに来て、魚が釣れないのはつまらないな」
そう話していると、ソウタさんが海を見たまま口を開く。
「まあまあ、まだ釣りを始めてそれほど時間も経っていないことですし、気が早いのでは? 私たちはのんびり、話をするために集まったという意味合いもありますからね。私は、うれしいですよ。こうして、歳は違えど、同じ日本人の男性がならんで竿を垂らしながら、話ができるのはね」
「ですな」
「異世界に来てしまってこうやって日本人と話ができるとは思ってませんでしたからね」
「そうだなー」
カッカし始めた俺たちを落ち着けてくれるソウタさん。
今回は釣れなくても別にいいやという気持ちになってくる。
そもそも、ルナに連れてこられたこの世界で日本人と会えるとは思ってなかったからな。
何か妨害があると思ってたから。
ああ、そういう意味では、ルナは妨害していないな。
いずれも、俺が来る以前からいた人たちだ。
俺の後には新たな犠牲者はいないから、そこはいいことなのかもな。
ザザーン、ザザーン……。
そのあとはしばらく黙ったまま、みんなで海の音を聞いていた。
海は暗くてよく見えないけど、耳に聞こえる波の音がとても心地いい。
ザザーン、ザザーン……。 ズルッズルッ……。
ん?
なんか変な音が混じっていた気がしたぞ?
もう一度耳を澄ませて聞いてみよう。
ザザーン、ザザーン。 ズルッ、ベチャ……。
「ん? 何か濡れた物を引きずっているような音がするな?」
俺が何か言う前に、タイゾウさんがそう言って防波堤の道を振り返りライトで照らし、俺たちも一緒にその方向を見るが、特に何もない。
「みんなは聞こえたか?」
「ええ。私にも何か濡れたような音が聞こえましたね」
「防波堤に何かビニール袋でも引っかかったんじゃないですか?」
「あー、それはあるかもな」
俺は特に理屈も考えず、そんなこともあるだろうと思って同意したのだが、タイゾウさんは即座にそれを否定する。
「防波堤の下にあるビニールが波に揺られてぶつかる。まあ、そうだと思えるかもしれないが、この波の音の中でそんな音がはっきりと聞こえるとは思えない。それを証拠に……」
タイゾウさんは手元にあった撒き餌を真下へと落とす。
ぽちゃん。
普通に音がする。
「音は確かにするが、真下にはビニールらしきものは何もないんだ。反対側もだ。となると、距離があるということになるが……」
今度は撒き餌を遠くに投げるが、波の音に混じって小さな音がわずかに聞こえるだけだ。
「ここまで距離が開くとかなり聞こえにくくなる。しかし、さっきの音はやたらと近くに聞こえなかったか?」
「そういえば、はっきりと聞こえましたね。タイキさんはどうですか?」
「え? いや、自分もしっかり聞こえましたけど、なんか怪談染みてきてません? ねえ、ユキさん?」
「まあ、海の夜釣りの怪談は定番だよな。時期的にもお盆だし」
そう自分自身で言ってはなんだが、今更このウィードで幽霊、妖怪騒ぎ起きてもなーと思うし、それ以前に我らが、ライフセイバーであるサハギンたちが海の安全を守っているので、水難事故での死者はこのダンジョンでは存在しないのだ。
まあ、墓は存在するが、この時期にお盆という死者に対する行事すら、そもそもロシュール地方には無いのだ。
というか、わざわざくそ暑い時期に戻ってくる死者もいないだろう。
よって、海辺の怪談話は事実無根の話なのだ。
元より、そんな噂も無いけどな。
そんなことを考えていると、タイキ君が俺の言葉に反応を示す。
「あれ? お盆と釣りって何か関係あるんですか?」
「いや、釣りというか、水辺に近づくのは基本的にお盆の時期にやってはいけない行為になるんだよ。ですよね、タイゾウさん、ソウタさん」
「ああ。お盆というのは死者が黄泉の国から戻ってくる時期で、あの世が近いとされる地の底つまり、地面よりも下である、水辺、特に海はお盆に近寄るのは忌諱されている」
「地獄の釜が開いているという表現もありますね。ほら灯篭流しとかあるだろう? それは、死者と水というのが繋がっているからだよ。川に流して海へ、あの世に戻るという一連の流れなんだ」
「へー。そういえば、ばあちゃんがそんなこと言ってたような気がするな」
「で、水辺に近寄ると、死者と一緒に黄泉の国へ連れていかれるって話だな」
「はぁー」
タイキ君は感心したような声を出す。
まったくこういったことは知らなかったみたいだな。
おばあさんに聞いたといっていたが、ほぼ忘れていたんだろう。
まあ、行事の由来なんてそんなものだよな。
と、思っていると……。
ザザーン、ザザーン……。ズルッ、ズルッ、ベチャ……。
またあの音が聞こえる。
波に揺られてという感じの音ではない。
独立した波とは関係ない音に聞こえる。
「「「……」」」
どうやら、俺だけが聞こえたわけではないようで、全員で顔を見合わせる。
怪談の時期にぴったりではあるが、相手が悪すぎたな。
4人ともこの程度でひるむわけがない。
「……で、この音は何なんですかね?」
「さあ、わからんな。音源は周りを見ても見当たらない。となると、怪談関連が有力とみるべきだが、専門のソウタ殿はどうですかな?」
「いやー。霊能といっても、この世界に来て発現したようなものですからな。地球にいたころは幽霊なんてさっぱり信じていませんでしたし、今も何も感じませんねー」
「となると、お化けという線は低くそうですね」
「ま、何も感じないなら、調べてみますか」
「うむ。害意があるのならすでに何かしら仕掛けているだろうからな。こういう謎は放っておけない性分でな」
「ですね。こういう好奇心は満たしたいですね」
「じゃ、いったん釣りはやめて、謎の音の調査と行きますか」
何が原因なのかは知らないが、この4人にはただの面白いネタにしかならないようだ。
ま、本当に心霊関係が否定されていることもあるけどな。
ということで、俺たちはさっそく妙な音の解明に乗り出す。
「さて、問題の音だが、どこから聞こえたかだ。まずはしっかり場所を絞ろう。場所がわかれば何かわかるかもしれない。私はそうだな、竿を下ろしている反対側の防波堤の下あたりだったと思うが……」
「あ、私もそのあたりですね」
「俺もですけど、何もないですよ?」
タイキ君の言う通り、反対側の防波堤の下にはただ海が広がっているだけだ。
何か、引きずるような音が出る原因は見当たらない。
と、思っていると、いきなり海面に何か人影が浮かび上がる。
「あれ? 俺たちの影ですかね?」
「いやいや、私たちの手からライトを当てているから、あんな所にはできない。だからあれは間違いなく、海の中の人影だな」
「ほほう。ということは、海の中に人ですか。んー、でも何も感じないんですけどねー。恐怖の方も」
それもそのはず、その人影に俺は見覚えがあった。
そして、その人影はどんどん水面に近づいてきて……。
ちゃぽん。
と、顔をだした。
「水面にライト当ててどうしました? イカはまだ時期が早いですよ?」
ライフセイバーのサハギンだった。
「「「……」」」
つまらないモノを見たという顔になる、3人。
まあ、そうだよな。
わくわくしていたのに見つけたものは、幽霊の正体見たり枯れ尾花。だからな。
「あれ? なんかすごくつまらなそうに見られているんですが、何か、私がミスしましたか?」
「いや、気にするな。ただ、怪談かと思っただけだ」
「かいだん? ああ、ゴーストとかゾンビですか。でも、あいつらって、基本的に海の中にいると、ほかの魔物とか魚に食われますよ? 魔力の塊か腐肉ですし。幽霊船とかはありますけど、ここはウィードのダンジョン内ですからねー」
嫌な事実を知った。
でも、そりゃそうか。
異世界の海では、ゴーストとゾンビはほかの生き物の餌となる運命らしい。
「あ、それはそうと。はい。どうぞ」
いきなりサハギンは網を差し出す。
「なんだこれ?」
「サザエとか、牡蠣ですよ。とれたてで美味しいですよ。ここで釣りしてるって聞いて集めてたんですよ。ああ、たいした手間ってわけじゃないですよ。30分も経ってないですから、遠慮しないで、夜のつまみにでもしてください。何か大物が釣れるといいですね。じゃ、私は魚が逃げるといけないので、帰りますね」
「「「ありがとう」」」
そんな、イケメンのサハギンの粋な計らいに俺たちは美味しく夜釣りを楽しんだのであった。
夜釣りは楽しいよね。
でも、お盆の水辺は怪談がつきものだから、注意してね。
あと、不意に思ったけど、ブログとか始めたら楽しいのかね?
ほら、前に行ったゲームを作ろうとかお絵かきとかはどうも、ブログの方がいいかなーと思い始めている。
クラウドなんちゃらとかも思惑があったりなかったり。




