第726堀:よくあるはなし
よくあるはなし
Side:ミコス
いやー、今日はいい日だと思った。
用事があってウィードに来たんだけど、偶然ユキ先生と会って、なんと、噂のケーキバイキングに連れて行ってもらえたんだ。
流石、ウィードの王配様。こういうところにも顔が利くんだねー。と、思っていたら、実はアージュ殿下とスタシア殿下の仲直りのために用意したみたい。
うん。こういう心遣いもちゃんとできるっていいよね。
おかげで、私たちもおこぼれにあずかれたんだから、ラッキーだけど私たちを出汁に使うとか、こういうところは相変わらず策士だよね。
とまあ、そんな感じでケーキバイキングを満喫したあと仕事に戻ろうとしたら、なにか変な雰囲気でユキ先生たちは教会の方へといってしまい。
心配したカグラが追いかけて、私たちもそのカグラに続くように教会へと向うことになった。
あ、因みに、寄り道の連絡はエノラがバイデの方にしてくれたので、この前みたいに行方不明騒動にはならないから大丈夫。
それにユキ先生がいるからね。
これは、大事なユキ先生のお手伝い。そう、接待?とかいうやつ。
というか、バイデの方は連日会議とかいいつつ、みんなで集まって、毎夜毎夜、ウィードから仕入れた食事とお酒を楽しんでいるだけだしね。
真面目に働いているのは日中ぐらい。
ミコスちゃんたち下っ端は、連日書記や書類整理とか、物資の手配とか忙しいんだけどねー。
まあ、そのお食事会でも色々な駆け引きがあるんだろうけど、ミコスちゃんとしては不満。
だから、このさぼりは正当なさぼり。
そんなことを考えつつ、あとを追っていると、なぜかユキ先生たちは教会の中へは入らず、塀の陰へと身を隠していた。
「あれ? ユキ先生どうしたんですか? 中に入らないんですか?」
「ん? あ、ミコスたちもついてきちゃったか。何も言わずにすまんな。ちょっと、知りたいことがあってな」
「知りたいことですか?」
ユキ先生の言葉にソロが首をかしげる。
私たちも疑問だ。ユキ先生が知りたいことってなんだろう?
というか、なんでこそこそしてるんだろう?
ユキ先生の立場なら、こんな風に隠れずに堂々と聞きに行けばいいのに。
そんなことを思っていると、不意に塀の向こうの教会から、声が聞こえてくる。
「あらあらー。今日も来ちゃったのねー」
こののんびりとした声は、リリーシュ様だ。あ、いやウィードではただのリリシュ司祭様だった。
このロガリ大陸最大宗教である、リテア聖教があがめる神様その人だ。
ユキ先生と付き合っていると、神様とか普通に沢山知り合うから、刺激的だよね……。
挙句、私たちの大陸のハイレ教の女神ハイレン様もこのウィードにいるし。
「こらー、ガキどもー。毎度毎度どこから入ってきてるのよー」
「はいはーい。ハイレンちゃん、落ち着いてねー」
ぶっ!?
なんか、ハイレン様まで一緒にいる!?
なにしてんの!?
「リリーシュ姉さん。甘やかしたらよくないわよ? 新人のシスターも怒ってたじゃない」
「あなたはー、そのシスターよりも新人なんだけどねー。もう少しおしとやかにしてねー」
「赤髪のお姉ちゃん。怒られてるー」
「駄目なねえちゃんだなー」
「うがー!! うっさいわよ。シスターなんてしたことないのよー!!」
「きゃー、お姉ちゃんがおこったー!!」
「にげろー」
「あらあら、鬼ごっこの始まりねー」
「誰がおにかー!! ガキども、さっさととっつかまえて、ほうりだしてやるー!!」
「「「きゃははは……」」」
なんか、塀の向こうは楽しそうだ。
「……えーと、ユキ。いったいどうしてここにきたの? 向こう側は普通にリリーシュ様やハイレン様が子供たちの相手をしているだけだと思うけど?」
うん。カグラの言う通り、穏やかなウィードにふさわしい光景だと思う。
だけど、ユキさんたちの表情はなぜか硬い。
「……あの、ユキ先生?」
「ん? ああ、すまない。どうやら、シェーラから聞いた話は本当だったようだなってな」
「ですねー」
「しかし、どうしたものでしょうか?」
ソロがそう声をかけてくると、ユキ先生の硬い表情が崩れて、いつもの温和な顔になった。
でも、シェーラって? ああ、精霊の巫女様……じゃなくて、ロガリ大陸の大国の一つガルツ王国のお姫様だっけ?
そして、ユキ先生の奥さんでもあり、基本的にバイデに勤務していて、私たちの新大陸との交流のための準備をしている物凄い人だ。
そして、補佐としてアスリンちゃん、フィーリアちゃん、ラビリスちゃんがいるんだけど、この3人も物凄いんだよね。
私よりも年下なのに、書類整理とか計算とか物凄く速いんだよねー。
と、そこはいいとして、何を悩んでいるんだろう?
深く聞くべきか、それとも私たちは去った方がいいのか。そんな風に悩んでいるとエノラが口を開く。
「ユキ殿。とりあえずこれからどうするの? このまま悩むのか、中に入るのか、それとも離れるの?」
ああ、そうか。
これからどうするのかを聞いた方がいいよね。
そして、ユキ先生はエノラの言葉に答える。
「そうだな。一応、現状は確認したし。この場を離れよう。別に子供たちは楽しそうだしな」
「そうですねー。喫茶店にでも行って、とりあえずカグラさんたちに事情を説明しましょう」
「ええ。カグラさんたちが望めばですが、またお仕事の話になりますけどね」
「だな。この前ルナの関係で面倒に巻き込まれたばかりだが、どうする?」
ユキ先生にそう聞かれて、断る理由はないので、そのまま喫茶店へとついていく。
これもお仕事だからね。
「さて、どう話したもんかな」
喫茶店に来てくつろいでいるのはいいが、肝心の話についてはなぜかユキ先生は悩んでいて、話してくれない。
いや、どう話せばいいのかわからない様子だ。
「ユキ先生。それなら、とりあえず、私から質問していいですか?」
「そうだな。ミコスたちの質問に答えて行けばいいか」
「じゃあ、まずはなんであの子供たちのことを気にしているんですか? アージュ殿下とスタシア殿下の方は放っておいていいんですか?」
「あー、アージュ殿下のほうはいい。色々姉妹で楽しんでいるってセラリアから報告が来た」
「「「ほっ」」」
その言葉を聞いて、とりあえず安心した。
これで、おいていったことでアージュ殿下に嫌われることはなさそうだ。
いやー、すっかり忘れていたからね。
でも……なんか、まだ何か忘れてる気がするんだよなー。まあ、思い出せないなら大したことじゃないのかな?
こんな感じでとりあえず、疑問は横において、ユキ先生の話を聞く。
「安心してもらったところで、子供を気にしている件だが。単刀直入に言えば、リリーシュたちと遊んでいたと思われる子供たちは、学校をさぼってあそこに来ているらしい」
「はい? 学校をさぼって? 何考えてるの?」
その言葉にカグラはとても不思議そうな顔をするが、私は何となく事情を察した。
でも、こういうのはなんて言えばいいのかわからない。
特にカグラみたいな、優秀で、学校に行くこと自体に疑問がなかったタイプにはね。
しかし、意外にもソロが動き出した。
いや、ソロなら当然かな。だって……。
「……カグラ先輩」
「どうしたの、ソロ?」
「多分ですけど。私みたいに行き辛い理由があるんじゃないかと……」
「ソロみたいにって……まさかいじめ!? そんなのやめさせないと!! 事情を聞いて……」
カグラはソロの言葉から事態を察したのか、席から立ち上がり、おそらく教会に戻ろうとしたんだけど……。
「駄目です!!」
ソロがそう言って、カグラを押さえた。
「なんで? なんで、ソロが止めるの? いじめられている子がいるかもしれないのよ? ユキだって、ラッツさんも、ジェシカさんも、なんで動かないんですか? エノラもミコスも、なんで?」
「「「……」」」
そのカグラの問いに私たちは答えられなかった。
これはただ言うだけじゃ解決しない。
「駄目なんですよ。カグラ先輩たちには私はとても感謝していますけど、私はきっととても運がよかった。だって、ずっと先輩やユキ先生たちに守られてきたから。でも、あの子供たちはそうもいかないです。たとえばその時注意して、いじめがなくなればいいですけど、逆に悪化することもあります。先輩だって、学院でいろいろ悪意にさらされたことはあるでしょう?」
「……それは、あるけど」
「それでしつこくなったこともあると思います」
「……あるわ。でも、そういうのはガツンと言い返して、見返して……」
「それができるなら、いじめられてないですよ……」
「……」
「そして、わざわざ誰かに迷惑をかけたいとも思わないです。カグラ先輩だってありますよね? だって、ユキ先生を召喚したんだから」
「……」
そうなんだよね。
カグラは強い、生まれも、立場も、実力もある。
だけど、ほかの人はそうもいかない。
私だって、カグラやユキ先生がいなければ、今頃死んでいた可能性が高いし。
生き残っていたとしても、領地に戻って地味な一生だったろうし。
どうせ木っ端の男爵家だからねー。生まれもよくなければ、立場もないし、実力だってない。
ないない尽くしだから、強者に逆らうことは極力避ける。だって、逆らったら何をされるかわからないから。
今はカグラやユキ先生を筆頭に、いろいろな人とつながりがあるから、それを後ろ盾にできるけど、でもそれは虎の威を借りる狐って感じだし。私自身も、私のことでみんなに迷惑をかけたくない。
そして、ソロの言う通り、カグラだって仲間を頼らず、ユキ先生を召喚するという、自分ひとりで解決する道を選んだ。
まあ、勝ち目は薄いけど、最後まで私たちを信じて戦ってもよかったんだ。
「……まあ、ソロの言う通りだな。俺たちが今回出しゃばったところで解決するとは限らない。だから、どう接するべきかと悩んでいるんだ」
「……わかったわ。ごめんね、ソロ」
「いいえ。カグラ先輩の行動も間違いじゃないんです。学校の中にカグラ先輩みたいな人がいれば絶対にいじめは少なくなります。でも、一回限りの手だしで解決しなければひどくなるだけなんです」
「そこなんだよな。俺たちがずっと付き添うわけにはいかないし、その子だけじゃない。これからこの問題はずーっと続いていくからな。はぁ……」
ユキ先生はそう言ってため息を吐く。
そっか、ユキ先生は、先生やってるから、こういうことはよく遭遇するんだよね。
「まあ、今回は本当に教会に来ている人が分かっただけでもいいんじゃないですか」
「ですね。あそこなら、リリーシュ様やハイレン様がいるから、いじめなんてことはならないでしょう」
「そこがせめてもの救いだな。しかし、今ソロの話を聞いて思った。現場に、いや、現役の学生たちの方がああいう問題は探りやすいかもな。よければ、この問題の解決に協力してくれないか? 俺たちも忙しいから、ずっと学校の問題にかかわるわけにはいかなくてな……。いや、新大陸の外交官にこんなこと頼むのはだめか……」
「いいわよ。私だって見逃せないわ。姫様だって認めてくれるはずよ」
「うん。ユキ先生。私たちに任せてよ。まあ、力になるかわからないけどね」
「はい。これぐらいは任せてください」
「私は力になれるかわからないけど、修道院であったいじめと似たようなものよね。まかせて」
そういうことで、私たちは協力を申し出て、キャリー姫に許可をもらいに行ったのだが……。
「事情は理解しました。大陸会議のほうは抜けて構いません。ユキ様の手助けをすることの方が今後の立場を考えると重要です」
「「「ほっ」」」
無事に許可がもらえて安心した。
もしかしたらという思いもあったから。
「私も同じように、旧王家派という意味で邪険にされましたからね。そんな思いをすることがないよう守りたいというのはよくわかります。ユキ様の助けもできるのなら文句なしですね」
「姫様。ありが……」
そうカグラが言いかけた時、さらにキャリー姫が言った言葉で……。
「で、噂のケーキバイキングで私のために取ってきたケーキはどこですか?」
「「「え?」」」
「え?」
そして、ケーキの恨み言を聞かされ、なんとしてもケーキを手に入れてくることを命じられた。
忘れていたのは、アージュ殿下だけじゃなかった!?
そういえば、キャリー姫もケーキを美味しくいただいていたよ!?
ユキ先生、へるぷー!!
いいかい。いじめ問題はいいとして、美味しものを食べたと自慢するのはやめましょう。
恨みを買います。
食い物の恨みは深いのだ。




