第719堀:一難去って……
第719堀:一難去って……
Side:ユキ
「おわったー」
俺はそう言って、机に突っ伏す。
あれ? これ前もやってなかったか?
「お疲れさま。これで一応、リリーシュ様とファイデ様のことは終わりかしら?」
俺をねぎらいながらそう話しかけてくるのは、セラリアだ。
あの戦いの後、直ぐに家に戻ってくたばっている。
今日は散々だ。
「一応な。まあ、どっちもこちらに被害、迷惑をかけるつもりはなかったみたいだしな」
「どこかの意地を張った王2人は泥だらけになってたけどね」
「あれは本当にじゃれ合いレベルだろう。お互いあの程度で本気になるような器じゃないさ」
挑発全開のリリーシュに多少乗せられていたが、まあ、あれもその場のノリというやつでいいだろう。
あのまま、真面目に対応していたらガチバトルに発展していた可能性もあるからな。
あの2人がギャグ要員をしていてくれたおかげで、多少和んだというのもある。
「そうね。でも、なかなか上手くはいかないものね。リリーシュ様は子供を守りたくて、ファイデ様は子供を信じていたからこそ、ああなったわけよね」
「まあ、それだけじゃないだろうけど、そこが一番の喧嘩の原因ではあるよな」
子供を信じて離れて見守るのか、それとも傍に寄り添い守るのか。
どちらとも、子供を大事に思っていたのは間違いない。
そのスタンス、あり方が違って喧嘩になっている。
「私たちもサクラたちのことで喧嘩するときが来るのかしら?」
「そうだなー。色々あるから、意見の違いってのは出てくると思うぞ。でも、俺たちは最初から色々言い合ってきた間柄だからな。ファイデやリリーシュとはまた違うだろう」
「そうね。最初はホントどうなるかと思ったけど、今では散々話し合っているし、私たちは子供のことで別れたりはしないわよね……」
「心配するなって、リリーシュとファイデの子供の事情は特殊だ。国を作りたいって言って、手助けするかどうかの話だしな。そうそう起こることじゃない」
「あー、そうねー。聖女リテアの話は事が大きすぎるわよね」
そう、リテアが望んだことが大きすぎて、その手助けでファイデとリリーシュが揉めたわけだ。
見知らぬ国か住み慣れた村か? そんな二択を迫って、良い悪いなんて判断できないだろう。
「……でもサクラが国を作るって言って、手助けを求められたらどうするの?」
「別に手助けはしていいぞ。こっちが傾くようなことにならない限りは。だけど、リテアが求めたことは、ファイデやリリーシュの生活を壊す内容だったからな。状況によりけりとしか言えないな」
「当然の話ね。……はぁ、話し合って答えが出るモノじゃないわね。ごめんなさい。今は落ち着いているってことで良しとしましょう」
「それがいい」
この話には答えなんてないからな。
「でも、サクラたちが、国とかを運営しようと思うかは疑問だよねー」
「……リーア、言いたいことは分かりますが、サクラはウィードの次期女王なのです。そういうことを言っては……」
「とはいえ、サクラは、あまり勉強は好きではないようですわね」
「ん。木剣を振るって、公園によく遊びに行っているって、スラきちさんから報告がある」
横では護衛メンバーがそんなことを話している。
最近、サクラたち、年長組は外で遊ぶことを覚えたばかりなので、お勉強よりも遊ぶことの方が優先となっている。
「ま、リーアたちもそこまで心配しなくていいさ。子供は遊ぶのが仕事だ。その過程で色々覚えるんだよ。あ、でも、サクラに限っては、誰かさんに似ているのかもな」
「別に剣を振るうことは悪いことではないわよ? 体を鍛えるという意味では素晴らしいわね」
「そうだな。でも、親父さんやアーリア姉さんは随分頭を痛めていたみたいだな」
「おほほほ。さ、今はこれからの話よね」
露骨に話をそらしたな。
まあ、サクラがセラリアと同じようなバトルジャンキーになるとは思っていないしな。
環境が違いすぎる。むしろ、引き籠りになる可能性を心配しないといけないがな……。
そんなことを考えていると、リエルが口を開く。
「えーと、これからの話って言うと、リリーシュ様の件が終わって、あと何があるんだっけ?」
「確か、あと早急に対応するべきなのは、ミヤビ様のことと、イフ大陸の聖剣と聖剣使いのお披露目会じゃないかな?」
トーリの指摘で思い出したが、ミヤビは獣神の国のことも含めてだから、面倒じゃなければいいんだがな……。
イフ大陸の方もそろそろだよな。ホーストに連絡を取ってみるか。
「……あとは、新大陸の会議の状況を一度聞いた方がいい。連絡がないから問題は起こってないとは思うけど」
カヤに言われて、そう言えば新大陸の方もなんか連絡来ないよなー。
まあ、便りが無いのは元気の証というが、一度顔を出す必要はあるか。
それで終わればよかったのだが、ミリーがあることを思い出した。
「あ、そういえば、新大陸で思い出したけど、セラリアはスタシア殿下の妹相談、アージュ殿下のことは受けてあげたの?」
「あ、忘れてた。というか、向こうからの面談要請ないんだけど?」
「普通は向こうから連絡がくるのを待つもんだが、アージュのことがあって死んでるのかもな」
「「「……」」」
俺がそう冗談を言うと、なぜか全員黙る。
「いや、流石に妹に邪険にされたからって、死ぬことはないだろう?」
「……まあ死ぬことはないとは思うけど、げっそりしてる可能性はあるわね。とりあえず、カグラに連絡をしてみましょう」
意外にもセラリアが自ら動く姿勢を見せた。
「そんな大げさな。ほったらかしにしたといっても精々2週間しか経ってないぞ?」
「人が死ぬには十分な時間よね?」
「そういわれると、そうだけどさ……」
「ユキだって、アスリンたちに嫌いとか言われたら、胸に来るでしょう?」
「まあ、わかるけど……。アスリンたちから嫌いって言われるのは全く想像できないからなー」
俺がそう言って4人をみるとすぐに同意して返してくれる。
「嫌いになるわけないよー」
「兄様を嫌いになるというのはよくわからないのです」
「前提条件が難しすぎるわね」
「ユキさんがクズになればあるいは……、ですが、そんなことになる前に私たちが元の道に戻します」
だよなー。
俺が道を外れても、何としても戻してくれるよな。
「たとえが悪かったわね。じゃあ、サクラたちに嫌いって言われたら?」
「いや、状況によりけりだし、そうなっても頑張るのが人だろう?」
「……あなたはどんな状況でもあきらめないタイプだったわね。まあ、スタシアはあなたと違ってそう言う人種だと思えばいいわよ。嫌でしょう? バイデでフィンダールの姫君自死。一体何が原因か? ウィードによる陰謀か!?」
「よし、それはよろしくない。さっそく連絡を取ろう」
どこかの週刊誌トップ一面間違いなしの記事になるわ。
評判ダダ下がりどころじゃねえ。
「ええ。ついでにフィンダールの姫としての会談も兼ねましょう。スタシア殿下と連絡をお願い」
「おう」
俺は直ぐにスタシア殿下にコールで連絡を入れると、直ぐに繋がった。
なんだ、無事じゃんと安堵しつつ、セラリアとの謁見の話をと思っていると……。
『よかった!! セラリア陛下との謁見はできそうなのですか!?』
「え、ええ……。遅くなってすみません」
物凄い食いつきようだ。
そう言えば、俺から謁見ができるように取り計らうって言ってたから、これは俺から連絡しないとまずかったか?
いや、それでも女王陛下への謁見で王配経由とかないよな?
普通は正式に申し込んで、謁見まで待機ってのが基本だよな?
俺が口利きをしているからといって、優先的に謁見できるって話じゃないか?
……いや、深くは考えないようにしよう。
特に文句を言ってきているわけでもないし、この罪悪感は勘違いという方向で。
「明日の朝、正式に謁見を申し込んでいただければ、直ぐに謁見できると思います」
『ありがとうございます!! これでやっと、アージュとの仲直りできます』
かれこれ二週間近く経っているがまだ邪険にされているのか。
『最近はアージュと仲直りどころではなく、我が大陸の会議ばかりで、忙しいのです』
「ああ、そういうことですか。なら、謁見と相談、そして仲直りができるといいですね」
『はい。では、明日ウィードの方に伺いますので、よろしくお願いいたします』
「はい。お待ちしております。ですが、あいにく私は仕事で外していますので、ウィードではエリスかラッツ、バイデならシェーラに頼めば手続きをしてくれるはずです」
『わかりました』
「しかし、会議というと、あれからすぐにという感じですか?」
『はい。報告が届いているとは思いますが、バイデを会議開催場所として、連日我がフィンダール、ハイデン、ハイレ教で会議を重ねています』
「それは役に立ったようでよかったです。何か問題などはありませんか?」
『いえ、今のところは。ですが、他の大陸と交渉するのにあたって何が交渉材料になりうるのかという悩みはあるようです』
「そこは、実際こちらの国々と会ってからということになりますからね」
『はい。なので、問題になるようなことはないですね。あとは、外務省の建設についての予算などで揉めていますね』
「あー、そちらは大陸間交流参加国が少ないですから、その分各国の負担も大きいですからね」
『あはは、そう言う揉め方ならまだよかったんですが、どこが一番負担をするかでもめているんです』
「ああ……そっちですか」
一応、大陸間交流で作る予定の外務省は各々で大陸自身が予算や資源を使って作ることになっている。
まあ、足りない場合は支援する予定ではあるが、この外務省設立は各大陸、各国の威信、名声がかかっている面もあり、ここで資金、資源をいかに多く出すかで、他の国とは違うんだと見せつける場面でもあるのだ。
というか、今後、大陸間交流に参加する国は、外務省設立をする際には、フィンダール、ハイデン、ハイレに外務省の設立を手伝っても貰うことになる。
その際、必要な物資は売り込むことになる。つまり、外貨を得ることにもなる。
まあ、自国で揃えられるならそれが一番だろうが、調度品などある程度共通化する物や特産物はそうもいかないから、ここがフィンダール、ハイデン、ハイレ教の頑張りどころなのだ。
他にも頑張りどころはあるのだが、まずは、今後各大陸、各国の外交官が集うことになる外務省に力を入れようということなのだろう。
『ええ。まあ、そんな感じで穏やかではあります。今の所、問題というなら、泳がせているアクエノス……じゃなくてキは動きを見せていませんし、各国への狂神信者の件でのはっきりとした動きもありません。まだ確認をとっている最中なのでしょう』
「そっちの方は、ちゃんと確認をとります。こちらとしても大事なことなので」
『ありがとうございます』
アクエノキに関しては、確かにフィンダール、ハイデン、ハイレ教と因縁深い相手だが、俺たちに……、いやルナにとって面倒な部下なので、こちらとしても放っておくわけにはいかない。
無論、新大陸の大陸間交流参加国が面倒に巻き込まれるのは、俺にとっても問題があるので、そう言う意味でも厄介ごとは潰す。
というか、あれ撒き餌だしな。あれに厄介が集まってくれれば、まとめて潰せて、あら、お得。
「と、すいません。長々と話し込んでしまいましたね。今日はこの辺で、続きはまた会った時にでも」
『はい。夜分にわざわざありがとうございました』
と、ちょっと長話になったがスタシアとの謁見の話は済んだ。
「無事に生きてたな」
「そうね。忙しいことがかえってよかったのね」
「さて、俺たちもそろそろ休むか」
「ええ」
既に時計は夜の10時を回ったところ、子供たちはすでに寝ていて、俺たちもあと2、3時間後には夢の中だ。
普通ならすでにお酒でも飲んでのんびりしている時間帯なんだがなー。
リリーシュの件で随分だったな。
そんなことを考えていると、スティーブからコール連絡が届く。
嫌な予感はするが取らないわけにもいかない。
「……どうした?」
『あ、リリーシュさんとファイデさんの件はひとまず落ち着いたようで何よりっす』
「なんだ、確認しに来ただけか?」
『いやいや、リリーシュさんが、ミヤビ女王と鉢合わせしてですねー。ほら、喧嘩で気が高ぶってたのか、神様であることがばれちゃったみたいで、今ミヤビ女王をリリーシュさん、ヒフィー、ノノアで拘束していまして……』
「ばっかやろう!! 今すぐ行く!!」
くそー!!
眠れない夜はいらないよ!!
事件は、会議室で起こってるんじゃない!! スーパー銭湯で起こってるんだ!!
さて、問題です。
スーパー銭湯にはさらにまだほかに厄介な人たちが汗を流しにいっています。
どうなるでしょう?




