第717堀:おてがみとどきました
おてがみとどきました
Side:ユキ
「なんというか、拍子抜けね」
「それでよかったよ」
俺は、リテアからの手紙の内容をセラリアに伝えていた。
馬鹿共はそのまま宴会に入ったので、一応払いは俺持ちにしたが、上限金額はつけておいた。
特にタッパで持ち帰ろうとしたら追い出せと言っておいた。
ノーブルはともかく、ノゴーシュはタッパで持ち帰ろうとしてトラブル起こしたからな。
まあ、ファイデ宛の手紙の内容を聞きだすことになったから、そのお詫びだけどな。
2人にも協力してもらったし。
と、そこはいいとして、手紙の内容は特に問題ないというか……。
「内容に至っては、リリーシュ様とファイデ様の夫婦喧嘩を終わりにできそうな内容だから大発見よね」
「リテア聖国が食糧難だった時に協力しなかったとかで、リリーシュが文句いってたからな。だけどその実、父親はこっそり娘を助けていたわけだ」
「不器用よねー。素直に助けてあげるって言えばよかったのに」
「方針の違いだったからな。そこは別にファイデを責める理由にはならんだろう?」
「まあね。でも、これで仲直りね。夫婦は一緒じゃなきゃ」
俺もそうだといいなーとは思うが、世の中、破局で終わる夫婦なんざ、山ほどいるからなー。
まあ、そんな不穏なことを口に出すこともないか。
セラリアだっていい大人だから分かっていないということもないだろう。
「あとは、リリーシュへ無事に手紙が届いて読んでくれるといいんだけどな」
そんなことを話していると、コールで連絡が届く。
『お兄ちゃん、リリーシュお姉ちゃんにお手紙届けたよー』
『無事にお届けしたのです』
『直ぐに、ノノアとヒフィーがフォローに入ったわ。少しすればどちらにしろ連絡がくるでしょう』
「そうか。4人ともありがとう。だけど、まだちゃんと読んでくれたか、内容を把握できたかもわからないから、近場で待機していてくれ」
俺がそう言ったところで終わりかと思ったが……。
『あの、ユキ様。少し相談したいことが……』
「ん? シェーラどうした? 手紙を渡す時何かトラブルがあったか?」
『あ、いえ、トラブルはあるにはあったのですが、特に問題のあるトラブルではなかったのですが、お手紙とは別の問題が分かりました』
「別の問題?」
『あー、そうだー。お兄ちゃん。なんかねー。学校をさぼって教会で遊んでる子がいるんだってー』
『さぼりは駄目なのです』
『教会に行ったときにね。シスターに怒られたのよ。また来たの?ってね』
はぁ、学校のさぼりか。
「うーん。問題なのは間違いないが、今すぐどうこうできる話じゃないな……」
『なぜですか? 叱って連れ戻せば……』
「叱るって言ってもな。ああ、シェーラは勉強をすることに疑問はなかったタイプか」
『どういう意味でしょうか?』
やっぱりか。
まあ、シェーラはザ・お嬢様って感じだったからな。
考えたくないが、いじめという可能性もあるから……。
シェーラは普通に兄弟に愛されているし、恵まれていたんだろうな。
「そうねー。私も勉強は嫌いだったし、抜け出して剣の稽古をしてたことはよくあったわね」
隣の女王は、もうちょっとおしとやかに育たなかったのかと思う。
「まあ、なんというか、シェーラの言う通り、ルール違反を犯していることは間違いないんだが、何か不満があって、学校を抜け出しているわけだ。ただ叱るだけじゃ、その不満が解消されるわけじゃない」
『……不満を取り除くことが大事だと? こんなに良くしてもらっているのにですか?』
「それが、ただの我がままなら、叱ればいいが、そうじゃなければ、歪むからな。子供って不満を素直に……、違うな大人だって不満を素直に言える人は少ない。その上、子供は大人のように不満をうまく発散する術をもたないから、たまって爆発する」
『我がままをいう、する、原因となった深刻な問題があるかもしれないということですか?』
「そう。それがそもそも、子供たちが悪いのではなく周りの責任であって、それを子供が我慢しているとなれば、叱って終わる問題じゃない」
『……なるほど。確かに。子供たちに責任がないことを叱っても、解決にはなりませんね』
「ま、話は分かった。こっちからいろいろと調べてみるから、シェーラには悪いけど、叱るとかはまだ待ってくれないか?」
『はい。理由は納得しました。私も学校に行ったときはよく見てみます』
と、そんな学校の問題を話し合っていると、ヒフィーから連絡が来る。
『失礼します。って、あれ? アスリンちゃんたちとも会話中でしたか。今大丈夫ですか?』
「問題ない。このタイミングで、連絡をくれたってことは、手紙の件で進展があったんだろう? アスリン達も聞く必要がある」
『そうですね。では、まず、手紙の件ですが、問題なく読んでくれました』
「そうか、それはよかった」
『それで、内容ですが、驚愕の事実が明らかになってしまいまして……』
「内容も教えてくれたのか?」
『はい。その内容で随分と怒っていまして……』
怒っている? あのファイデがこっそり支援していた件か?
支援しないって言っておいて、こっそり支援したってことを怒っているのか?
「で、まずいのか? リテアをまとめ上げて、大陸間交流をぶっ壊す感じか?」
『いえ。それほどではないです。私たちには怒りながらもいつものリリーシュでしたから』
それを聞いてほっとした。
これで大陸間交流に影響はなさそうだな。
と、思っていたのだが……。
『それで、怒る中でファイデに文句を言うと腕をまくりながら、出ていこうとしたんです』
おう。それは勘弁してくれ。
いや、リリーシュの実戦での戦闘力がどれぐらいかはわからんが、そこら辺の人が暴れるのとは比較にならんのはわかる。
「それは取り押さえたんだな?」
『はい。今はノノアが押さえていまして、とりあえず、どうすべきかを……。というか、ファイデの方は?』
「ファイデの方は、すでに手紙を渡して内容も把握している」
『そうだったんですか。内容は……』
「ファイデがこっそり娘のリテアに支援していた件で、間違いないか?」
『はい。その内容で間違いありません。それで、最初から堂々と手助けをしてくれていればといって、怒っているんですよ』
「……リリーシュの気持ちはわからんでもないが、神様のファイデが堂々と人助けをするというのに抵抗があるのもまたわかるがな……」
『ええ。私とて、神の力だけで人を救っても仕方ないとは思います。とはいえ、私もやっていることはリリーシュと変わらないんですが……。実際、私の手で一掃しようと思っていましたし』
なんというか、ヒフィーにとっても色々考えさせられる内容で、コール画面越しに微妙な顔をしている。
まあ、全部が全部同じとは言わないが、ヒフィーも似たような行動はとっているのは間違いないからな。
「リリーシュはそれが納得いかないわけだ」
『はい。そんなくだらない矜持で、目の前の命を救うのをためらうな、と。ファイデが堂々と手助けをしていれば、救われた命はたくさんあると……』
「食糧難だったらしいからな、当時は」
『だからこそ、ファイデがうらでこっそり手伝っていたことを知って腹を立てているのだと思います』
「……うーん。どっちがどっちとは言えないな。確かに救えた命はあっただろうが、それからファイデはどうなる? って話になるからな」
『……難しいですね。と、それはいいとして、ファイデも手紙を読んでいるのなら、こっちの状況を伝えてもらえませんか? 話し合うにしても、逃げるにしても、リリーシュは長くは押さえられませんから』
「わかった」
ちっ、ファイデの方は上手くいったが、リリーシュの方は火に油だったか。
仕方がない、宴会しているところ悪いが、撤退連絡をいれるか、と思っていると、その話を聞いていたアスリンたちが……。
『ねえ。ヒフィーお姉ちゃん。私たちもてつだおうかー?』
『そうなのです。リリーシュ姉様をみんなで押さえるのです』
『そうねー。私たちの方が案外ってこともあるかもね』
『リリーシュ様が、子供に手を上げるようなことはないので、大丈夫かと』
そう言ってくれた。
リリーシュを止めるにはこれ以上ないぐらいの手札だろう。
「俺はいいと思う。ヒフィーはどうだ?」
『はい。協力してもらえるならうれしいです』
「じゃ、アスリンたちはリリーシュをなだめておいてくれ。その間に、俺はファイデと話してくる」
『わかったよー』
『任せるのです』
『ファイデはどうするのかしらね?』
『わかりませんが、不意に合わせるよりはましでしょう。ユキさんお願いします』
「ああ、任せてくれ」
これで、リリーシュの方は足止めができるだろう。
「……上手くいかないモノね。夫が手伝っていたとわかっても怒るのね。いえ、気持ちはわかるけど」
セラリアはそうつぶやく。
まあ、政治とか、信念の話になるからな。
「ということで、俺はファイデのところに行ってくる」
「ええ。まさかウィードで周りの迷惑を顧みずに戦闘するとは思えないけど、そうなれば被害がでるわ。それだけは避けて頂戴。そうなれば、神様といえどしょっ引くことになるから、もう、リテアとどうなるかわからないわよ?」
「アルシュテールとかが怒りそうだよな。いや、頭を抱えるか? 神様の夫婦喧嘩が原因で、他国に被害を及ぼしたりしたらな」
「悪夢ね。と、アルシュテールで思い出したわ。それなら、うちの聖女様もリリーシュ様のところに送っておきましょう」
「ルルアか。……そうだな。忙しくないようなら、送っておいてくれ」
「今日は、オフのはずだから大丈夫よ。病院はスタッフだけでやってるはず」
そういうことで、追加の増援にルルアを送ることにして、俺は再びスーパー銭湯へと戻ることになる。
「おー、ユキじゃないか? 飲むか?」
「……すまない」
「どうした?」
「気にするなといいたいが……」
俺は出来上がっている、ノゴーシュに向けて、お冷をコップに注ぎぶっかける。
「ぶはっ!? つめたっ!? いったい何を!!」
「落ち着けノゴーシュ。手紙の件だ」
俺がそういうと、ノゴーシュだけでなく、ノーブル、ファイデも真剣な顔つきになる。
「向こうにも届いたのか」
「ああ」
「どうなった?」
「それが……」
俺がどう説明したものかと、言い淀んでいると、ファイデが口を開く。
「その様子だと、リリーシュが怒ったようだな。まあ、あいつならそうだろうな」
落ち着いている。
まあ、奥さんのことだからな、そういうのはわかるんだろう。
下手な言い回しをしなくてよくなったと思うか。
「ああ、お前に文句言ってやると、腕まくりしてて、いまヒフィーとノノア、アスリンたちで押さえているところだ」
「はぁ、リリーシュが、いや、俺たちの問題に巻き込んで済まない。手紙を渡すのも随分悩んだだろう?」
「……嘘を言ってもしかたないか。ああ、なやんだ。だが、渡すことにした。トラの知り合いのミヤビ女王陛下がウィードに来てるからな」
「それで慌てて渡したか。本当にすまないなー」
ファイデは申し訳なさそうにそういう。
「まあ、夫婦間の問題だしな。俺たちが口出すのはお門違いだってのはわかるが、ファイデはともかく、リリーシュがな……」
「リテアのことがあるからな。いろいろな意味で面倒だな。はぁ、だから、うかつに人にかかわるなといってきたのに……。望む望まざるにかかわらず、いろいろ問題がでるのに」
「「……」」
その言葉に、神の身でありながら、王様になっている二人は気まずそうに眼をそらす。
「いや、ノゴーシュにノーブルは違うよ。お前たちは神としての力ではなく、人の力で国を治めているからな。だけど、リリーシュはその神の力を振るうのに手加減なしだからなー。今は落ち着いているが、当時はリテアの補助とかいって、戦争で負傷した幾人もの重傷者を一瞬で癒し、また戦場に送って、リテアの隣にあった国と戦っていたからな……。当時はリテアは弱小だったから仕方ないといえば仕方ないが」
「「うわぁ……」」
超回復魔術による超ごり押し戦法か。
そりゃー、どうかと思うな。
「とりあえず。迷惑のかからないところで、一度リリーシュと話し合う必要があるな」
「いいのか?」
「いつか、話す必要があるとは思っていたからな。幸い、ユキ殿やノゴーシュ、ノーブル、ほかの神々もいるから、そうひどいことにはならんだろう」
そういうことで、元夫婦の喧嘩はラストバトルへと……、なってほしくないなー。
場所はどこがいいんだ? 荒野の訓練場所か?
物語はラストバトルへと……。
あ、ファイデとリリーシュの物語ね。
ユキはいつも傍観者というか、第三者だから。
あと、食べ放題でタッパで持ち帰りたい気持ちはわかるけど、それを許すと際限なくなるからね。
まあ、制限を付けて、持ち帰り良しとしているところもあるけどさ。
個人的には、その場で楽しめよ。と思ってしまうところである。




