第706堀:新大陸のこれから
新大陸のこれから
Side:ユキ
「……ということで、私が正式にウィードへの外交官と相成りました」
そういって、びしっと敬礼するのは、このフィンダール帝国の第一皇女であるスタシア殿下。
まあ、予想通りというか、意外というか……。
「しかし、フィンダール皇帝。そうなると、将軍がいなくなるのでは?」
「それは、ちゃんと後任がいるから問題はない。今はウィードや他の大陸の大国との繋がりが最優先だ。そして、これが女性騎士進出の足掛かりとも思っている」
「……ああ、なるほど」
男尊女卑の意識が強いこの新大陸において、スタシア殿下、女性騎士という存在は異質だ。
それが皇女という立場を持って将軍となってはいるものの、それでも反発はあるのだろう。
スタシア殿下がバイデで挨拶した時も露骨にイライラしてたやつがいたからな。
てっきり、厄介払いかと思っていたが。
そっちの意味を看板にしてきたか。いや、厄介払いの意味も何割かはあるだろうが、このまま新大陸にいてもスタシアはちゃんとした評価は受けられないからな。
そういう意味ではいい案だ。
「話は分かりました。では、今後、外交関連のことはスタシア殿下に一任ということでよろしいのでしょうか?」
「うむ。これからよろしくお願いする」
「こちらも、知った相手で楽ですので助かります。しかし、それでは今後外交官が変われば混乱するということ……」
「わかっている。そのための外務省設立、そしてルールの統一。スタシアから昨日の夜、簡単ではあるが話は聞いている」
「では、話が早いですね。スタシア殿下の挨拶も終わりましたので、改めて、今度の大陸間交流、外務省設立会議についてご説明させていただいても?」
「頼む」
そういうことで、さっそく次回行われる、世界初、3大陸合同、大陸間交流、外務省設立会議についての説明を始める。
まあ、資料は事前に渡しておいたし、主な議題内容は決まっているので、検討してくださいというだけだがな。
既に何度もした話で、新大陸用に多少違いはあるが、それもハイデンで説明を行うために調整したので特に詰まることなく説明を終わる。
「以上で、外務省設立会議の説明を終わります。何か質問はありませんか?」
「ふむ。外務省設立については、各大陸で資金や資材を用意して、こちらの設計図通りに建てるとあるが、こちらの大陸では、この会議に参加しているのは、フィンダールとハイデン、そしてハイレ教のみだが、そこはどう思うのか?」
「その点に関しては、二か国とハイレ教でやっていただいて良いかと思います。他の国に先んじてというのも狙いにあるのでしょうし、この外務省設立の件は、大陸間交流に他の国より先んじていると示すのには、ちょうどいいのでは? まあ、足りない資金や物資などがあれば、援助はいたしますよ。無論、今後加入するであろう国にも。そちらの許可があればですが」
他の国々に対して主導権ぐらい握らないと、初期投資した意味がないもんな。
大陸間交流に関する権限を握らないと、この同盟に意味はない。
そして、俺たちウィードも、ハイデン、フィンダール、ハイレ教に倒れてもらっては困る。
これらの事情を配慮した上で、先に参加したこの3つは大陸間交流に関しては、この新大陸の他の国に比べて優遇というわけだ。
「なるほど。我々が、この大陸における今後の大陸間交流参加の可否が判断できるわけか」
「最初に色々苦労して、初めてのことで資金や物資も大量に消費するのです。後から加入する者たちと一緒では、割りに合わないでしょう。ですが、ほどほどにお願いいたします。戦争にでもなれば、交易がとまりかねませんから」
「うむ。そこはちゃんと注意を払う」
まあ、言わなくてもわかるよな。
優遇しているとはいえ、あからさまにやりすぎると反発を招き、戦争になる。
そうなれば、俺たちが今後この地で活動するのに支障がでてくるし、ハイデン、フィンダール、ハイレ教にしても、更なる戦乱を望んでいないだろうから、無茶は言わないとは思う。
「では、次に、私たちの他に呼び掛けて、数か国を大陸間交流に参加させることを勧めるというのは?」
「こちらは、余計な僻みを生まないためですね。呼びかけておかないと、他の大国は文句を言うでしょう。とはいえ、こんな胡散臭い話を信じるのもいませんし、信じさせる理由もない。まあ、どちらかと言うと、戦争抑止のための話ですね」
「なるほど。大国以外の国を取り込んでおけという話だな?」
「はい。そうでもしなければ、無駄に争いの火種になるでしょう。その前に、ちゃんと交渉はしていたという事実は残すべきです。そして、味方も増やして大国が動いてこないようにしておくべきですね」
「当然の話だな。しかし、大国も参加させていいのでは?」
「そこら辺の判断は、新大陸の皆様にお任せします。この話は、先ほど話したハイデン、フィンダール、ハイレ教が新大陸における大陸間交流において、優位を保つ為のモノであって、足かせではありません」
この取り込みは作戦は、俺が判断することではない。
なにせ、この新大陸の情勢は全く知らないのだ。
提案するだけで、あとはお任せだ。
とはいえ、ハイデン、フィンダール、ハイレ教だけが恩恵を受けているとなると文句を言うやつが出てくるのは当然だし、仲間を増やしておくのは今後の展開には必要なことだとは思う。
フィンダール皇帝が言うように、必要な事を説明をしてほかの大国を加入させることもできる。
こっちは色々問題がありそうだが、どっちもどっちなんで、なんとも言えない。
「我々の腕の見せ所というわけか」
「はい。よき関係を望みます」
「このために、ハイデンやハイレ教としっかり会議をして、関係を強くという狙いもあるのか」
「ちょうどいいかと。口だけの同盟になるより、遥かにマシでしょう。ゲートを上手く使ってもらうという理由にもなります。安全性の確認のためにもですね」
「そこで、ゲート敷設の話に繋がるか」
「ええ、場所の方は既に確保してあるとのことですが、どうされますか? すぐに敷設するか、それとも今一度皆様で話し合う時間を設けますか?」
スタシアの話からは、ゲート設置に賛成のようだが、ちゃんとフィンダール帝王の許可がいるし、今回の説明会で考えが変わることもあり得るからな。
しかし、ゲート設置を今回ためらうのなら、時間的に第一回大陸間交流には不参加ということになる。
「すぐにで頼む。それと、わしたちもゲート設置の様子を見てもいいだろうか? ウィードの技術をこの目で見てみたいのだ。大魔術を行使する所を」
特に隠す必要もないし、ウィードの技術力を見せるいい機会でもあるので、俺は見学を快諾し、建設予定地へと赴いた。
「こちらが、ゲートの設置の予定地となります」
ということで、フィンダール帝王の許可も出て、晴れて俺たちはフィンダール帝都にゲートを設置することになったのだが……。
「ここって……帝都の中央広場じゃ?」
「はい。カグラ殿のおっしゃる通り、帝都が誇る、噴水広場でございます。この噴水は水汲み水車を使ってわざわざ水を汲み上げて作っています。設計は、カグラ殿の祖先である、ソウタ様ですね。フィンダールへの感謝と友好を込めて贈ってくれたものです」
そう、ここは帝都の噴水広場だ。
水が通る高架橋をデザインにとりこんだ噴水広場だ。
ローマ水道のように遠方に水源があるのだろうが、ここまで引っ張ってきているとか、物凄い労力がかかるなと最初は呆れていたが、ある事実を思い出した。
「水龍と魔術か」
手作業ならバカみたいな労力がかかるが、ソウタさんなら水龍の手助けで水源の位置の確認、魔術で工事の短縮という離れ業が出来る。
「はい。ユキ様御明察です。私も造られた時の話を聞いた時は驚きましたが、ユキ様やソウタ様とお会いして、可能だということに気が付きました。そして、この水道は今でも我がフィンダールを支えるものとなっています」
「いや、凄いのはわかったが、ここにゲートを? 本当にいいのか?」
「はい。そのはずですが。陛下、お間違えはないですか?」
「ない。この噴水広場の地下にゲートを設置してほしい。ここにゲートを設置することにより、フィンダールに訪れた客人たちは、まずこの帝都の顔ともいうべき噴水広場を見ることになるのだ。これ以上にふさわしい場所はない」
なるほど。
集客も考えてか。
いや、俺たちの実力を見る為っていうのも本当だろうな。
この噴水広場を壊すことなく、作ることが出来るかって。
「では、作業を開始させてもらいます」
場所には確かに驚いたが、ちゃんと指定通りの出入り口は確保しているし、噴水には地下構造はあるが精々2m前後らしいので、問題ない。
ちゃちゃっと、魔術で地下に空洞を作り、強化をかけた後、こっそりダンジョンコアを配置して、地下の補強をしたあと、わざわざ作業っぽく見せるために、ゲートの部品を持ってきて、それを設置する。
あら簡単とまでは行かないが、見学に来ていたフィンダール皇帝はともかく、部下の人たちはまったく信じていなかったのか目の前で行われる作業に口を開けて驚いていた。
「……戦いにならんわけだ」
いや、皇帝の方も驚愕はしていたが、顔に出していなかっただけのようだ。
ま、そこはいいとして、ゲートの起動をしなければいけない。
「では、ゲートの設置は終わりましたので、次はゲートの起動を行います。危険性はありませんが、一応下がってください」
俺の警告に見学者たちが下がるのを確認して、ゲートを起動して、ただの枠だけの門に、光の幕が下りる。
「ゲートの起動成功。ゲートの起動確認を開始。リーア」
「はい。ボール。行きます」
初めて、ウィードとバイデをつないだ時にやった起動確認試験だ。
時間と場所を記入したボールを投げて、門の向こう側からも同じように返してもらい、ゲートがちゃんとつながっているかを確認する。
もちろん既にバイデにはフィンダール用のゲートを設置しているので、いつでも起動実験が出来るようにしていた。待機時間が長くなるから、コールでこっそり連絡は取っていたけどな。
「ボール。返ってきました。バイデの記載あり、時刻のズレありません」
「よし。ジェシカ。人体実験を開始。向こうに行って、待機している人たちを連れてきてくれ」
「はっ」
そういって、ジェシカがためらうことなく、ゲートへ身を投じ、さほど時間を置かずに、客人を連れて戻ってくる。
「ユキ様。バイデ領主キャサリン様、及びハイデン王都ハイレ教会司教代理エノラ様をお連れしました」
「お疲れ様。2人ともこちらの方がフィンダール帝国皇帝だ」
「お初にお目にかかります。バイデ領主、キャサリンと申します」
「同じく、お初にお目にかかります。ハイレ教会司教代理エノラと申します。かつての盟友であるフィンダールの末裔である皇帝とお会いできたこと、心より嬉しく思います」
「う、うむ。確かに、ゲートは繋がっているようだな。そして、ようこそ。キャサリン殿、そしてエノラ殿。この度の訪問心より歓迎する」
ということで、ここにゲートが開通し、ハイデン、フィンダール、ハイレ教の同盟が動き始めたのだった。
そしてフィンダールにもゲートが開通し、新大陸も大陸間交流への参加条件が整った。
さて、こらから大きく世界が動き出すのか!?
というか、そろそろ他の問題とかも出てきそうなんだけど、俺があまり覚えていない。




