第705堀:騎士の未来
騎士の未来
Side:スタシア・フィンダール フィンダール帝国第一皇女
「ウィードのお客人方はどうだ?」
「はい。既にお部屋でくつろいでおられます」
「うむ。何かあってはいかん。部屋で休んでいただいているとはいえ警護を怠るな」
「はっ。より一層警戒を強めます」
そういって、王宮警護を任せている隊長が退出する。
その退出を確認して、陛下、いや、父上が私たちに視線を向ける。
「まずは、改めてジョージ、スタシア、ジョージンよくやってくれた」
「「「はっ」」」
「此度のウィードからの客人、それも王配であるユキ殿を我が国に招き入れられたことは、大きな成果である。それも、ハイデンとの不可解な戦争を止め、リラ王国の真相、ハイレ教の裏に潜む狂神信者の発見、そして解決。並みの国では出来ぬことをやってのけた。かの国との友好は我がフィンダール、そしてハイデン、ハイレ教がこの先、生き残るためには必要不可欠だ」
父上はそう言って、一息つく。
「しかし、話には聞いていたが、あのような若者がウィードという大国の王配とはな。しかも、こちらの大陸での管理を任されているとは驚きだ。だが、話してみてわかったが、やはりというか、中身と外見が一致しておらんな。まだ、食事時の雑談でしか話してないのではっきりはいえないが、ジョージンと同じような印象を受けた。何を言うかと思うかもしれないが、老獪で抜け目がない。そう感じた。どうだ。3人ともわしが受けた印象は間違っていないか?」
そう聞かれて、まずはジョージが返事をする。
「はい、父上。ユキ様はその判断力、指揮能力、政治的手腕、どれをとっても破格の能力を持っておられます」
その通り。ユキ様の上に立つ者としての能力は、文句の付けようもないものを持っている。
だが、問題がないわけでもない。
そして次にジョージンが……。
「まあ、とはいえ、考え方が進みすぎていて、理解できない面も多いですな。私も説明されてやっとでしたからな。バイデの占領だけで済ませるというのは、当初は驚きでしたからな。そして、威厳がちょっと足りないとは思いますが、あれは罠でしょうな。敵味方を見極めるための。いや、馬鹿か否かを、ですな」
そう、私も当初はバイデだけの占領で終わるとは思っていなかった。
なにせ、王族ではなく、現王配の誘拐だ。
戦争開戦には十分な理由。大義はウィードにある。
だが、遥か先を見て、侵略戦争をしなかった。
そして、威厳が足りないように見えるが、それが罠だというのは私も同意だ。それを利用する機転や度量もある。
だが、何より大事なのは……。
「父上、一番留意する点は、その考えを実行できるだけの力を持っていることです。どれだけ素晴らしい才能を持っていようが、実行できる力が無くては意味がありません」
「うむ。スタシアの言う通りだ。事実、バイデに籠っていたハイデンの兵、そして攻め寄せた我がフィンダール兵が、一瞬にして敗北した。ウィードの力、侮ることはできん」
父上がそういうと、皆頷く。
ウィードの力を侮れば、あっという間に潰される。
例え、神であってもだ。
それを私は知っている。
この度の事件、いや、500年前から続く因縁の戦いは、既に決しているのだ。
狂神アクエノス……じゃなくてアクエノキは、ユキ様の、ルナ様の前にあっけなく敗れ去った。
女神ハイレン様を蘇らせたうえでだ。完勝と言っていい。
「しかし、幸い、ユキ殿からは野心は見られない。前々からわかっていたことだが、本人を見てようやく安心できた。あれは苦労もしている」
「ですな。我が国やハイデン王国だけでなく、ロガリ大陸、イフ大陸でもご活躍中のようですし」
「うむ。そして、今回の件。ハイデン王からの手紙を見て、急なこととは思ったが、納得もできる。これを機に、我がフィンダール、そしてハイデン、ハイレ教の結束を強めることが大事だ」
そこで、私は疑問に思った。
「父上。大陸間交流会議に前向きなのはいいことですが、やはり周りの状況はよくないのですか?」
「そうか、スタシアはウィードにずっといてフィンダールの現状はあまり知らぬな。明日の会議の為にも覚えておけ。だが、いうほど状況が悪いというわけではない」
「そうなのですか? 各国の要請を受けて、バイデに攻めたというのに、何も成果を上げられず、実質ウィードに敗北したのですよ?」
「だが、その敗北はウィードのユキ殿の配慮により、和解になった。多少はハイデンの方に掛かり切りで、フィンダールがないがしろにされているように見えるが、ウィードが絡んでからこの半年で、一気にことが動いている。ハイデンへと留学した学生の帰還、外交圧迫もマシになったという連絡が各国から届いている。当初の目的は達成したと言っていい。そもそも、バイデに攻め寄せたのも、話し合いを求めてのことだ。各国からの評価は決して悪くはない。ここ数年何もできていなかったことに比べれば、凄い成果だ」
確かに、この半年での動きはすさまじいものがある。
私はフィンダールが負けたということを気にし過ぎていたのか。
「そうなのですか。意外でした。不甲斐なしと言われているかと……」
「甚大な被害を受ければそうだったかもしれんが、被害はないとは言わんが、国が傾くほどでもない。下手をするとハイデンとずっと戦っていくことを考えると軽微だ。この結果を手繰り寄せた、ジョージ、スタシアの評価は国内や我が国に助けを求めた国々からは評判が高い」
「では、今後の大国としての発言力は……」
「いや、流石に低下は免れない。狂神信者に踊らされてリラ王国を滅ぼしたというところをついて文句を言う国はいるだろう。特に他の大国はな。その抑えの為にハイデン、ハイレ教としっかり話し合いをして同盟を強固なものとする必要がある。今すぐに何か起こるとは思っていないが、10年、いや早ければ2、3年のうちに何か起こるはずだ。そのためにも、ウィードが取り持つ、大陸間交流会議には何としても参加しなくてはいけない。無論、あのウィードの技術を取り込めればとも思う」
なるほど。基本的な考えはキャリーやハイデン王と同じか。
「そういうことで、スタシアやジョージを罰する理由もなければ、ウィードと事を構える理由もない。何より、パフェは美味しかったからな。なあ、アナ?」
「ええ。あなた。パフェはとても美味しかったです。パフェを今後ともいただくためにも、ウィードとは良き関係でいたいですわ」
父上や母上もユキ様やウィードに対し悪い印象はないようで良かった。
戦うなどと言われたら、なんとしても止めなくてはと思っていたから。
「さて、我がフィンダールの方針や状況は把握してもらえたと思う。次は、スタシア。お前がウィードでアージュと一緒に手掛けてきた、大陸間交流について説明してもらおう。ユキ殿に貰ったこの資料は明日の会議の為にも全て頭に叩き込んでおきたいからな」
「はい。お任せください。その資料の翻訳もアージュやエノラ司教代理、そしてカグラ殿と一緒に手掛けたものです。中身は全て頭に入っております」
ということで、それからはアージュより、ここは絶対に教えて、覚えておけと言われた点を踏まえて、父上たちに、今回の大陸間交流、外務省設立会議について詳しく説明することになる。
既に夜の帳は降りて、一般人は既に寝ている時間となっているが、私は明日の会議の為に、いまだ眠らずに、説明をしていた。
「……というのが、今回のロガリ、イフ大陸の大陸間交流会議の内容になります」
幸い、ユキ様が提供してくださった、魔道ランプのおかげで部屋は明るく照らされているので、資料を読むことに何も苦労はない。
そして、ようやく私の説明が終わったところだ。
「ふむ。明日の会議の内容は、外務省なるものを設立するための会議の説明というわけか」
「はい。資料でご覧になった通り、統一のルールを作り、外交管理の手間を減らそうということです」
「既に、我がフィンダールやハイデン、ハイレ教に配慮したルールの記載があるが、これは……」
「はい。アージュやエノラ司教代理、カグラ殿たちがまとめてくれたものです」
「なるほど。そこまで考えて動いてくれていたのか。ありがたい話だ。ハイデンやハイレ教と一から話し合う必要もないだろう」
「主に、精霊の巫女や、魔物に関することですが、我が大陸にとってはかなりの大問題ですから」
「うむ。ジョージンやジョージから話を聞いているが、魔物が普通に闊歩しているそうだな」
「はい。それに、ゴブリンやオークが向こうの大陸では魔物と認識されていることもかなり注意を払わなければいけないかと」
「そうだな。その関係はしっかり話を詰めないといけぬな」
「その前に、この会議を行うためにも安全な移動手段を確保するゲートの敷設の話ですが……」
「その場所もすでに用意している」
思った以上に父上は準備を整えているようで、明日の話し合いに特に問題はなさそうだ。
「では、早急に話すべきことは以上です。他に何かありますでしょうか?」
「いや、今日はこれで十分だ。皆、明日のウィードとの会議よろしく頼むぞ」
「「「はっ」」」
そうして、解散することになったのだが……。
「まて、スタシア。お前に話がある。残れ」
「はい」
私だけ、父上に呼び止められてその場に残った。
「父上。一体、何でしょうか? 何か資料で不可解な点でもございましたか?」
「そうではない。資料に関しては、まだわからぬ点は確かにあるが、それはユキ殿に聞けばいいことだ。問題は我がフィンダールの外交官が決まっておらぬこと」
「ああ、そういえば」
父上の言う通りだ。
今の所、私やジョージン、ジョージが代わる代わるウィードの方々との外交を担ってはいるが、正式に外交官を立てたわけではない。
「そろそろ正式に外交官を派遣するということですか?」
「うむ。しかし、アージュの事もあるので、迂闊な者を外交官に付けるわけにもいかないというのはわかるな?」
「はい」
「そして、他国の外交官は、ハイデンは御三家の一つであるカミシロ家の次女で英雄と名高いカグラ嬢。そして、精霊の巫女であり、ハイレ教初代大司教の血縁であるエノラ司教代理。生半可なものでは、外交で後れを取るだろう」
「確かにその通りです。しかも彼女たちは、見た目に寄らず、修羅場を幾度も潜り抜けております。家名や名声だけでなく、個人の才能は驚くべきものです」
何せ、カグラ殿は我がフィンダールの軍勢を消耗戦とは言え一週間退け、エノラ殿はあの地獄の拷問を耐えて生き残った。
「その通りだ。決して若輩者と侮れぬ。そして、彼女たちは、アージュと共に今までの戦いを潜り抜けてきた。その中に新しく人を送り込んでも足を引っ張りかねん。そうなればフィンダールの立場が悪くなる。わかるな?」
「はい」
「ということは、アージュのことを黙っておける忠臣であり、カグラ嬢、エノラ司教代理を侮らず、足を引っ張らず、友好を築け、立場でひるむようなことがない人物ということなる」
ここまで言われれば、父上の言いたいことはわかる。
「……私は将軍をクビですか」
「クビではない。だが、栄転だと言ってもお前は納得するまい」
どう見ても、女将軍の私を降ろすのにはいい機会だ。
まあ、アージュやカグラ殿たちとの折り合いと言うのはわからないでもないが、一番の理由は女である私が将軍であることだ。
しかも、今まで鉄面をかぶって色々迷惑をかけたという経緯もある。
「……このような、戦ばかりをしてきた上に、顔に傷のついた女は邪魔でしょうからね」
「そういう理由もないとは言わん。だが、わしは、スタシアがウィードに行った方が活躍できると思ったのだ。今日、ユキ殿を見て確信した。ウィードなら、お前が女であっても見くびったり侮られることはないとな。つまり、お前が、今後の大陸間会議で、フィンダールの全騎士の代表となるのだ」
「え?」
言っていることが分からなかった。
「お前の頑張りを知らぬものなどこの国にはおらぬ。だが、この大陸では決して正しく評価することはできなかった。しかし、ウィードや他の大陸ではどうだ? 女性騎士は認められているではないか。ならば、やることは一つだ。女性騎士は決して劣るものではないと、大陸間交流会議を通して、我が大陸にその名を轟かせよ。スタシア。お前に、この大陸の女性騎士の未来を託す」
「はっ!! お任せください!!」
ここまで言われて引き下がることなどできない。
今日この日、私は新たなる決意を胸に、ウィードへの外交官を拝命した。
「ま、向こうに行けば、嫁の貰い手もあるかなーと」
「父上……」
そうですよね。行き遅れですもんね。
それはわかってますよ……。
良くも悪くも、こうして送り出され、追い出されたスタシアであった。
さて、彼女の未来に待つものは?
まあ、そんなのはノープランなので、その場の行き当たりばったりですけどね。
という感じで、フィンダールはウィードに随分協力的。




