第703堀:悪いがシリアスは……
悪いがシリアスは……
Side:ユキ
ハイデンでの会議を終えて、俺たちはウィードに戻ってきていた。
その理由は、仕事が終わったからではなく、ハイデンの選別会議でハイデン王、キャリー姫さんから、大陸間交流、外務省設立会議への参加の意志を受けて、フィンダールにも参加の有無を聞くことになったからだ。
既にキャサリンがフィンダール帝都への早馬を出してはいるが、時間がかかりすぎるということで、スタシア殿下に案内を頼もうということになったんだが……。
「ということで、フィンダールまでの案内を頼みたいんだが……」
「お任せください」
受けてくれるか? というセリフを最後まで言うことはかなわなかった。
脊髄反射の如く、スタシア殿下は返事をしてくれた。
「もとより、陛下からはユキ様たちを帝都へ招ければと言われておりましたので、今回の大陸間交流会議のことも含めていい機会かと思います」
まあ、納得の返事ではある。
「それに、ウィードはハイデンとはなし崩し的に、今まで関係を持っておりますが、ハイデンだけでは不公平でしょう。これを機会にフィンダールとも良き関係をお願いしたいです」
これも当然の話だ。
今のハイデンとウィードの関係を考えると、些か異様だ。
元々、ハイデンはウィードの王配を攫って、さらに戦場に投入するという未曽有の失態を演じているのだ。
他国の王族を攫って、戦力として扱う。
これは、敵対国の王族なら作戦上有効だろうが、関係のない第3国の王族に対してはありえない。
どう考えても、その第3国が敵になるのだろう。
わざわざ敵を増やす理由はないのだ。どう考えてもじり貧にしかならない。
まあ、今回は不可抗力だったというのもある。当時バイデで防衛戦をしていたキャリー姫さんとカグラには召喚という手段しか残されておらず、異世界から呼び寄せた人が、母国と連絡をとり、援軍を呼べるとは思わないだろう。
そのあとは、ウィード一強による、強制停戦。
そして、ウィードの新大陸での立場確保のために、占領したバイデの穏便な譲渡などや、500年にわたり友好国だったハイデンとフィンダールとの間で戦端が開かれたことへの調査などで、原因があると思われるハイデン国内での活動が主になっていたのだ。
一応、フィンダールにも逐次報告はしており、ないがしろにしてはいないとはいえ、ハイデンとフィンダールどちらに比重を置いているかと言われると、どうみてもハイデンだった。
まあ、様々な理由はあるのだが、傍から見れば、喧嘩を売られた相手に喧嘩を買ったが、報復もせずに仲良くしているのだ。
同じように喧嘩を売られたフィンダールは放置に近い状態で。
地球でいうなら、穏便な、寛大な処置をしたと評価を上げられるが、こと、この中世ヨーロッパ程度の文明レベルでは、この処置は明らかに生ぬるいのだ。
迷惑をかけた相手への賠償は、バイデという巨大な湖を背にした交易都市のみ。
圧倒的国力差がある相手に、このような生ぬるい結果はあり得ない。
完全な蹂躙が求められる。敵国は滅ぼすべし。滅ぼさないとしても、国の面子を保つために圧倒的な戦果を求められる。そうでもしないと、国全体が舐められるからだ。
だが、ウィードはそんなお古いことは無視して、徹底的に現実的に効率を重視した。
その結果、ハイデンに対する賠償が傍からみて最小限になっていしまい。敵の敵は味方のはずのフィンダールは今までないがしろになってしまったわけだ。
「申し訳ない。そちらへも早めに訪問するべきでしたね」
俺はそう言って謝る。
いかなる事情があるとはいえ、フィンダールの立場は今の所ハイデンよりも下だと周りからは思われている。
それは、国益から考えると大問題だ。
元々はハイレ教が仕掛けたこととはいえ、ハイデンのバカ共がフィンダールや他の国の連中を煽ったというのが、ハイデンVSフィンダールの真実だ。
フィンダールは他の国々から、ハイデンが起こした問題、魔術学院に留学して戻ってこない学生や、圧力的な外交にたいしての解決を求められて、あの戦いをおこしたのだが、未だにまともな成果を得られてはいない。
それは、フィンダール情けなし。と言われるには十分だ。
「いえ、ハイデン内部で何があったかは承知しておりますし、仕方のないことだとわかっています。ですが、これからは……」
「ええ。フィンダールとの交流にも力を注ぎましょう」
「ありがとうございます。で、今回の訪問で少しお願いがあるのですが……」
「何でしょうか?」
「アージュを連れて帰ってやりたいのです」
「「「……」」」
そのスタシア殿下のお願いに、すぐに答えを返せないでいた。
スタシア殿下の妹、アージュ殿下。
既に故人であり、狂神信者によって、アンデッドとして復活させられている。
しかし、自我があり、本人の意思としてウィードで、混乱を防ぐために大人しくしている。
いや、大陸間交流の為に尽力してくれている。
個人的には帰してもいいと思うのだが、新大陸では死者がよみがえることなどありえないのだ。
ましてや、ハイデン、フィンダール、ハイレ教を混乱に陥れた狂神信者が更なる混乱を狙って復活させた?のがアージュだ。
その事情を知っていて、大人しくフィンダールに戻れるわけがないのだ。
下手すれば、国から切り捨てられる可能性すらある。
逆に、両手でよろこんで迎えられる可能性もあるが、ハッピーエンドを心配する必要はないので、バッドを想定して動くのが当然だ。
だが、スタシア殿下も、この懸念はわかっているのか、すぐに言葉を続ける。
「ああ、アージュを正式に迎えるわけではないのです。そんなことをすれば荒れることは目に見えています。死者復活を衆目にさらすことになりますし」
そう、政治的な理由に加え、スタシア殿下が言ったようにアンデッドとはいえ死者が復活できるということを目にした人々は何を思うのか?
大事な人の蘇生を望むのは人として当然だろう。
それが、完全な復活とは言えないとしてもだ。
まあ、それを理解しているようなので、俺からは特に何も言うことはない。
「そうですか。お忍びということですね」
「はい。せめて、陛下、父上や母上、そしてジョージにもう一度顔を見せてあげたいのです」
「ならば、あとは本人の希望次第ですね」
そう。俺からは特に何もいうことはないが、アージュ本人が戻りたいと言うかはまた別の話だ。
ということで、さっそくスタシアと共に、アージュにフィンダール訪問を伝えると……。
「……むー。嬉しい申し出ですが、お断りさせていただきます」
と、そういってきた。
「な、なぜだ、アージュ? なにか不満なことでも?」
「いえ、不満はありま……。ウィードのようにフィンダールも住みやすくなってますか?」
「……いや、それは……」
スタシアはアージュにそう聞かれて口を噤む。
いや、アージュ。それは無理があるだろう。
ウィードは現代地球の日本を見本に技術を惜しみなく使っている。
フィンダールは中世ヨーロッパ程度の技術。
雲泥の差だ。
「では、そういう理由ということで、お父様やお母様、そしてお兄様にはそうお伝えください」
「帰りたくないのか?」
「……帰りたいです」
「なら」
「でも、いけません。私は死んだ身なのです。しかも邪教によってその手先として蘇った」
「そんなのは、もう終わったことだ!!」
「そんな理屈が通用するわけがないのは、お姉様ならわかりますよね? 私の存在はフィンダールに混乱をもたらします。それは、私の望みではありません」
「……わかる、分かるが、そんな難しい理屈を並べたてなくていいんだ。子供は家族に会いたいと言っていいんだ。別に正式に行くというわけでもない。ですよね、ユキ様、カグラ殿」
いや、そこで振られてもな。
俺もカグラも少し困り顔だ。
どっちの気持ちもわかる。
スタシアは家族を会わせたい。アージュは国の為に戻るわけにはいかない。
とはいえ、このまま何も言わなければ、ずっと平行線なのは目に見えている。
「どちらの気持ちもわかります。なので、折衷案と行きましょう」
「折衷案ですか?」
「どういう案でしょうか?」
「問題点はアージュ殿下が、フィンダールに行くことにあります。国内の不安定につながるのを恐れている。間違いないですね?」
「はい。死んだ私のことで、フィンダールを乱れさせるわけにはいきません」
「だが、家族と会うぐらいは……」
「はい。スタシア殿下のお気持ちもよくわかります。しかし、何かトラブルがあり、フィンダールに二度と訪問できないとなれば、アージュ殿下とご家族はもう二度と会うことはできなくなる可能性もあるでしょう。そうなれば、アージュ殿下とご家族が会うのは、この一度切り。そうなるのは、あまりにも酷でしょう。そういうことをスタシア殿下はお望みではないかと思います」
「……それは、そうだが、言葉のあやで、一度きりなど……」
「お姉様。そういう甘いお考えは捨てるべきかと。それに、この一回が最後になるなんて嫌です」
まあ、言葉のあやで一度切りといったのはわかるが、ありえない話でもない。
そうなったとしても、こっそり会うことは可能かもしれないが、そんなことをしなくても堂々と会う方法があれば、そっちの方がいいに決まっている。
「……ユキ様、続きをお願いします」
その可能性はスタシアも考えたのか、俺に続きを促す。
「はい。問題点はアージュ殿下が殿下としてフィンダール国内に入り、人々と会うことでアージュ殿下を知る者たちを中心に不安定になることです。なので、フィンダールで会わなければいいのです」
「「は?」」
「つまり、単純にウィードで会えばだれも文句は言わないわけです。アージュ殿下を知っている人がいても、ウィードにいた他人の空似とすれば言い訳は通りますし、スタシア殿下やご家族が今は亡きアージュ殿下に似ている娘に是非会いたいというのも理解できることでしょう。フィンダール内部にいなければ何かの火種に使うこともできないでしょう」
「「……」」
2人は目を点にして固まっている。
だが、その代わりに喝采を上げるドレッサとヒイロ。
「そうよ!! アージュはウィードにずっといればいいの!!」
「無理に会いに行く必要ない。お兄のいう通り!! それまで、お手伝い頑張る!!」
「……あなたたちは」
「いえ、事実でしょう。アージュが抜けるのは死活問題よ? とくに私が」
ヴィリアは2人の言い分に頭を抱えるが、エノラが冷静に答えを出す。
まあ、カグラとミコス、ソロが現在抜けている今、大陸間交流の雑務全般はヴィリアたちとアージュ殿下にエノラが担っているので、これ以上の人員抜けによる負担増はキツイだろう。
しかも新大陸に関する資料作りは新大陸組が行うことになっているので、アージュが抜けるとエノラに負担が一気に来るわけだ。
「……お姉様。冷静になりましょう。なにも今回無理に会う必要はありません。既に7年。あと数年またされても何も気にしません」
「そうだな。私も焦っていたようだ。だが、数年もまたせはしない。2か月後に迫った大陸間交流での場で会おう。家族みんなでだ」
そうはっきりと返事を返すスタシアは、今までの残念姉ではなく、きりっとした美人さんだった。
それを見たアージュは……。
「はい。その日をお待ちしております。お姉様」
と、笑顔で答えた。
「じゃ。アージュは私と一緒にウィードに残って仕事ね。いやー、助かるわ。ハイデン、フィンダール、そしてハイレ教も会議参加となると、私たちの仕事はさらに膨大になるからね」
「……ちょっとまって、お姉様。やっぱり……」
「アージュ。一応、人の上に立つものとしていうが、仕事をさぼる理由に家族に会うというのはダメだぞ」
「ぐっ!? カグラ!! ミコス、ソロ!! 誰か私と……」
「あー、申し訳ない。私はキャリー姫様直々に命じられたし、ハイデンの代表としてフィンダールへの挨拶がありまして……」
「ミコスちゃんも、カグラの補佐だし……ね?」
「あ、え、えーっと、私じゃ代わりにならないかと……」
世の中、綺麗にまとまらないものだな。
「十分綺麗でしょう。笑い話で終わるなら」
「そうかね?」
「そうよ。笑うってね。大事なのよ」
そういって、セラリアと一緒に醜い仕事の押し付け合いを見ながら苦笑いするのであった。
シリアスはシリアルとなって食べられたとさ。
まあ、あれだ。落ち着けって話だ。
これで、アージュの方も決着に近い。
あとは、フィンダール帝都での会議。




