第691堀:物語の終わりの続き
物語の終わりの続き
Side:ユキ
「もしもし? あ、今大丈夫か? いや、大丈夫だよな。緊急事態が起こったから、こっちに来てくれ。仕事がある? 最優先事項だから、詳しくは後で話すから、ハイエルフの国へ大至急来てくれ。着いたら連絡を、迎えを行かせる。見返りはハイエルフとの国交樹立だ。嬉しい限りだろう? ルースも横にいるんだろう? ということで頼む」
『は、はい!? いや、ちょっ、ルース!? お前、最近どっちの味方だよ!? って、まっ……』
よし、これで、新しい矛先は用意した。
あとは、どうやって時間を稼ぐかだ。
「え? え? 一体なにが? え?」
未だに、エルフたちの豹変に追いつかないカグラ。
まあ、カグラにとっては精霊の子孫ともいわれるエルフたちから傅かれるのは、理解の外にあるモノだろう。
だが、俺は、俺たちは先ほどのやり取りで、事態を察した。
このハイエルフの国は……。
「あきらかに日本人が関わっていますね」
「ですね」
「……どうするの、ユキ?」
「おにいちゃん。秘密にする?」
「兄様に従うのです」
「でもでも、情報は欲しいから、ばらすって言うのも手だと思うけど?」
「リーアの言う通り、情報が得られる可能性はありますが、更なる問題に首を突っ込むことになりかねません」
円陣を組んで相談する嫁さんたち。
カグラが矢面に立ってくれたおかげで、今の所、俺の黒髪には誰もノータッチだが、これからしっかり話をするとなると、どう考えても言及されるよな。「貴方も、日本人なのか?」と、その場合はどう答えるべきか悩ましい。
だが、何の意図があって、こんな街づくりをしているのかさっぱりわからん。
いや、日本人を見つけるためのって言うのはわかるが、なぜ日本人を見つける必要があるのかってところだ。
真っ先に思いつくのは保護、あとは政治、軍事利用、保護と言っても良し悪しとあるし、判断が現状じゃまったくつかない。
「……とりあえず、矛先をそらすための人員は用意した」
「誰よ?」
「勇者様」
「私ですか?」
「ああ、なるほど。リーア、違うわよ。日本人の勇者様」
「「「ああ」」」
エリスの言葉に皆納得した。
そう、俺が呼んだのは、ランクスを救ったことで、この大陸全土に名をとどろかせている、伝説の勇者タイキ!!
見事な弾除けだろ?
「ということで、タイキ君が来るまで時間稼ぎに徹する。俺が日本人だということがばれると芋づる式に、俺の立場がばれかねん。そうなると厄介だからな」
俺がそういうと、嫁さんたちは頷く。
「あとは、カグラたち!!」
「え? な、なに!?」
余りの事に呆然としていたカグラたちを呼び寄せて、現状推測できること、これからの方針を伝える。
「ご、ごめんなさい。つい……」
「いや、そこは気にするな。こっちもその可能性を失念してた」
カグラが悪いわけではないのはよくわかっている。
そこを責めるつもりはない。
「いいか、カグラの方はあくまでも日本人が祖先にいることだけを伝えろ。何も嘘じゃないからな。そして、俺たちの裏事情は秘密だ。いいな?」
「「「はい」」」
「何度も言うが、相手の目的がよくわからんから、迂闊なことは言うな。最悪拘束されかねん。そうなれば、ハイエルフの国との関係は最悪になる。俺は、カグラたちを万が一にでも差し出す気はないからな。ぶっ飛ばして逃げることになる」
「ユキ……」
「ユキ先生……」
ハイデンからお預かりしている外交官を拉致されたとか、大失態もいいところだ。
「エオイドとアマンダもいいな?」
「了解です」
「まっかせて下さい。友達を売るような真似はしませんよ」
……頼もしい発言だが、一応ランサー魔術学院の切り札である竜騎士さんがそういう情に流される発言はいかがなものかなーと思ったりした。
まあ、エオイドとアマンダでコンビの主役だし、どうにかなるだろう。
そんな感じで、口裏を合わせているうちに、通りの先から、仰々しい団体様が到着した。
「おお、宰相様!!」
俺たちと一緒にいた警備隊長のイケメンがそういうと、真ん中の老エルフが前に進み出てきた。
「報告は聞いた。こちらの方々かね?」
「はっ!! ウィードの王族であられる、ユキ様と、日本語を理解した同行者のカグラ様であります」
俺の嫁さん、元リテアの聖女はすっ飛ばして、カグラ押しで説明するイケメン。
まあ、隠してるけど、わからないものかね?
「ふむ。見たところ、元リテアの聖女様も御同道されているようですね。なるほど、それだけ信頼が厚いというわけですね。ああ、ご挨拶が遅れました、私、この国で宰相を任せられております、ノトブクと申します。ウィード、及びリテアの皆さまをお迎えできたこと心よりうれしく思います」
そういって、ノトブクさんは深々と頭を下げる。
「ご丁寧な挨拶痛み入ります。私はウィードの王配でユキと申します」
「お久しぶりです。ノトブク宰相。今ではユキ様の妻ですので、リテアはあまり関係ありませんわ」
「そうですか。よきご縁があったようで何よりです。と、ここで長話もなんですので、こちらへ」
ということで、俺たちは、エルフさんたちに囲まれて、ハイエルフの王宮へと足を運ぶこととなった。
「えーっと、ここは……」
「お話があることは伺っております。我が女王陛下が直々にお話を聞かせて頂きます」
いきなり謁見の間に通されて、急な展開に俺も慌てている。
最初は、宰相さんに話してあとは勝手に話し合って終わりかと思ってたが、わざわざ女王が動いたか。
いや、一応、小国とは言え王配がわざわざ出向いたんだから、間違ってもいないんだが、カグラの件もあるから、あまり喜べない。
なんとか先延ばしできないモノか……。
「お気持ちはありがたいですが、私たちは長旅をしてきたばかりで、謁見できるような服装ではありません。もう少々お時間を頂ければ……」
「よい。そちらが旅をしていることは先刻承知の上じゃ」
その声は、宰相からではなく、玉座の方から聞こえてきて、宰相や兵士一同礼をとる。
もう来たのかよ。待ったなしだな。
仕方なく、俺たちもその場で膝をつき礼をとる。
「面を上げよ。ウィードの王配が家臣のように畏まる必要はない。従者の者も構わぬ」
「そう言われるのであれば」
そういって、俺が顔を上げると、そこにはまだ若い年頃のエルフの女性が玉座に座っていた。
大体エリスといい同じぐらい? いや、少し年上か?
「妾がハイエルフの国を治める女王。ミヤビ・ヤシロという」
ヤシロ?
どこかで……。
俺がそう引っかかりを覚えていると、横にいたルルアが代わりに聞いてくれた。
「伝説の勇者。ト、トウヤ・ヤシロ様のご子孫様でしょうか?」
ああ、なんかそんな記録を見た気がする。ルルアから聞いたんだっけか?
ま、どうでもいい。リリアーナのラスト国の関係で出てきたような話だ。
「ほう。妾の名前を聞いて、その名を思い出すとは、流石はリテアの聖女様じゃな」
「今では、元とつきますが」
「ああ、今の聖女はアルシュテール様じゃったか。ま、以前よりは随分とよい治世であるようじゃから、良いことなのかな?」
「はい」
「元聖女がそういうのであればそうなのじゃろう。と、いかんな。ウィードの王配殿。いきなり謁見となった理由は先ほどの会話でお分かりいただけたかな?」
「私が日本人を連れてきたからでしょうか?」
「うむ。そうじゃ。ああ、ルルア殿の誤解を正しておくが、トウヤ・ヤシロは妾の夫じゃ。まあ、人の時間から見れば遥か彼方なのじゃろうが。ハイエルフというのも難儀じゃな」
「ということはハイエルフは種族として存在するのですね?」
「ああ。だが、それも妾の代で終わりじゃ。ハイエルフになる条件が厳しいのでな。同族殺しをやれる世界でもない。あの、魔王との戦いで魔族になった同族とやりあう機会でもなければな」
なるほど。
鑑定では確かに種族がハイエルフと出ているが、条件は同族殺しか。
そりゃ、出るわけがないか。生半可な数じゃないだろう。
「まあ、昔話は今はよい。大事なのは、今この場に、夫と同じ国から来た者がおるということよ。そちらの娘じゃな。その綺麗な黒髪。……じゃが顔立ちをみると、子孫と言ったところかのう?」
「は、はい。カグラ・カミシロと申します。拝謁の栄誉を賜り感謝いたします。女王陛下のおっしゃる通り、15代前が日本人であります」
「ふむ。15代か。となると、無事にカグラの祖先である日本人はこの世界に、根を下ろしたということじゃな」
「はい。我がハイデンでは、3英雄と呼ばれて今でも語り継がれております。そして、その栄誉と誇りを受け継いだカミシロ家は王家の信任を受け今代まで公爵の位をいただいております」
カグラのその言葉に、ミヤビ女王は嬉しそうに笑い、そして悲しそうな顔になる。
「そうか。どこの国でも、日本人は皆、活躍するのう。だが優しすぎる。中には戦いを良しとせず使いつぶされることもある。そういう、日本人を匿うのがこのハイエルフの国じゃ。それが、魔王を見逃し、勇者から反逆者とせわしなく呼び名を変えられた夫の願いじゃ」
「つまり、各国のエルフの村は……」
「うむ。妾の、いや、夫の願いでな。どこかで逃げ出した日本人がいれば保護するようにと言うのが、隠れた目的じゃ。怪しいと思えばここに送るようにと言ってな。無論、エルフの繁栄を願ってというのもある。我が国は、反逆した夫、勇者トウヤの件があって、堂々と外交するわけにもいかぬからな」
確かに、魔王を逃がした男が関わっているとバレれば多数の国家から攻められるだろう。
だから、こんなに厳重にしているわけか。
「今回は、普通の出会いでよかった。ちゃんと大事にされているようで、妾が口を出すこともないじゃろう。しかし、何かあれば頼るとよい。カグラ殿」
「は、はい。その時はよろしくお願いいたします」
「だが、ハイデンという国はついぞ、覚えがないのじゃが、どこかの新興国かの?」
と、そうだ。俺がこの場に来たのは、日本人保護計画を聞くためじゃない。
大陸間交流の説明をしに来たのだ。
「ミヤビ女王陛下。知らないのは当然でございます。カグラが所属しているハイデンという国は、この大陸にはございまいません」
「ほう?」
そこからは、普通に説明タイム。
俺が日本人だということは、今の所秘密にして、大陸間交流の説明をしていく。
「噂話程度には聞いておったが、まさか本当に、海の向こう側からの客人とはな。トウヤの言った通りじゃったな。いつか、人は分かり合えると。気が付けば、魔王とも和解しておるし、それどころかイフ大陸に、新大陸か。長かったのか? それとも短かったのか? 今となってはわからんが、トウヤが目指した世界は既に来ておったとはな……」
「その、トウヤ様は?」
「普通に生きて、普通に死んだ。悲しくはあったが後悔はない。トウヤと生きたことは何も間違っていなかったからな。ま、本人は、妾や匿った魔族たちをここに押し込めることになって申し訳ないとは言っていたがな。こっちが感謝するべきなのにな」
「ま、魔族がこの国にいるのですか!?」
「うむ。まあ、随分と血は薄れているがのう。そういう意味でも、簡単に他国の者を迎えるわけにはいかなかったわけじゃ」
そりゃそうだろう。
人類の敵と言われる魔族との共存は今はともかく、ちょっと昔なら宣戦布告されて滅ぼされる話だ。
「くくく……。本当に良い時代になったものだ。夫の、トウヤの和解案を蹴って、反逆者扱いしたのは、当時の大国の聖女様だったんじゃがのう。今のリテアの聖女様は驚くだけで敵意などまるでない」
「それはもちろん。現在の魔族の王であるリリアーナ女王陛下とは仲良くさせてもらっていますから」
「そうか、もう魔王とすら呼ばないのじゃな。そういえば、魔王で思い出したが、確か、ランクスに日本人の勇者がいると聞いたが……。ユキ殿たちは何か知らぬか? 本当ならば、一度会って話をしてみたいのじゃが……」
「あ、そろそろ来ると思います」
「は?」
呼んだんで。
矛先ずらしで。
『もしもーし。ユキさん、着いたんですけど……』
「おう。迎えをやるから。ちょっと待ってろ。来たみたいです」
「はい?」
ということで、勇者様追加!! 追加です!!
しかしさ、トウヤ・ヤシロの話は深く聞くべきか?
いや、でも仕事あるしなー。
懐かしき、伝説の勇者、ここにようやく登場。
しかし既に故人。




